135 地下七十階
休養日が終わり、再びダンジョンへ潜る日となった。
「おはよう」
「おはよう、ルカ」
「おはようございます」
ミハエルがきたところで朝食をとり、ダンジョン管理所へと移動した。
転移柱へ移動してるとミハエルから声がかかった。。
「そういや、また依頼あったんだって?」
ミハエルの質問に俺は頷く。
「ああ。あからさまな依頼だったな。どう考えても俺たちでなくてもいい依頼をしてきてたよ。繋がりを作りたがっているのが丸わかりだから断っておいたけどな。素材集めで忙しいって」
「そっか。今んとこは断れる貴族ばっかでいいが、大物きたらめんどくせぇな」
「そうだな。大物がこないことを願うよ」
Aランクになってからというもの、そう数は多くはないが、男爵や子爵あたりの貴族からあからさまな繋がり目的の依頼がきている。
隣町までの護衛だの、剣術の指南依頼だの、パーティ中の護衛だのと、どう考えても俺たちである必要がない依頼ばかりだ。
エアハルトさんには基本的に貴族からの依頼なんてものは断っておかないとしつこさが増すというのを聞いていたので、余程でない限り断ることにしている。
そもそも彼らはダメ元で依頼をしてくるそうなので、断られても気にしないそうだ。
ただ、伯爵以上からの依頼は断らない方がいいとのことだった。
やはりそこまでいくと仮に相手が伯爵でAランクが同等の位だと言っても、本物と、同等、では違うものだからだ。
とはいえ、Aランクに依頼を頼める位の爵位になるとプライドや周囲の目というものがあるので下級貴族のように繋がり目的のあからさまな依頼はできないらしい。
もちろん中にはダメな貴族もいるので稀に命令をしてくる貴族もいるそうだが、そういうのは他の同等の貴族に報告すればなんとかなりはする。
――当然ながら、その報告した貴族に借りができてしまうというのはあるのだが。
それに基本的には他国に移住されても困るので、無理難題もふっかけないそうだ。
Aランクというのはそれだけの脅威となりえるということだな。
冒険者を戦争に駆り出さないのはどの国でも同じだが、もし高ランクの冒険者を敵に回してしまえば、自主的に戦争に出てくる場合もある。
そうなれば苦労するのはその冒険者を敵に回した国となる。
だからこそ無理難題は言われないし、敵に回そうとはしない。
そして、だからこそ、幼少期に強い魔法を使える子供を国預かりにするのだろうな。
幼いころから国の為と教え込まれればそれがその子にとっての常識となるからな。
親と引き離すのもそういうことだろう。
七十階に飛んだ俺たちはまずは様子見をすることにした。
ここからはSランク相当とされているので、敵はかなり強くなるだろう。
苦労するようであればしばらくはこの階層で訓練が必要となる。
「いたぞ。さて、どんなモンスターだ?」
しばらく歩いたあと、見つけたモンスターグループを調べる。
数は六匹、二匹は熊のような体型をしているが、顔が猛禽類の鳥のようなモンスターだ。
名前はイーグルベアー、そのままだな。
攻撃方法は近接攻撃、強力な拳による攻撃と、爪による切り裂き、そして爪には麻痺効果があるそうだ。
毛皮は硬く丈夫で、物理攻撃や、多少の魔法攻撃も効きにくいらしい。
初級の魔法だけが効かないのか、バレットも無理なのかは不明だ。
とりあえずジャベリンであれば効きはするだろう。
物理攻撃はどこまでが効かないのか、まさかアダマンタイトの剣が通らないということはないだろうが。
そして残りの四匹が、なんといえばいいのか。
ぱっと見は頭のないタコか? 全身に苔が生えたような見た目だ。
見たまま説明すると、丸っこい体に吸盤のないたこっぽい手足が四本、口元と思われる場所から二本の触手のような少し細い手があり、その口元付近にタコのような目が二つと、口部分と思われるところにはなんだろう、蝶の口のような管のようなものがある。
そして、丸っこい体や手足の表側には苔のようなものが生えている。
基本的には浮遊生物のようだが移動はたこっぽい手足の先で地面をちょこちょこ触って動いているようだ。
名前はクラーケバタフライらしい。
クラーケはわかるが、バタフライって口部分だけじゃないのか……。
それはさておき、攻撃方法は、触手による巻き付き、毒の噴霧、毒針による遠距離攻撃らしい。
やはり高ランクになると毒系や麻痺の攻撃が増えてくるんだな。
とはいえ、多頭よりはマシかもしれない。
毒も麻痺も耐性魔法はあるし、ダメージ軽減魔法によってもさらに軽減される。
実質ほぼ効かない状態だ。
――それでも前衛としてはちょっと痺れた、程度でも戦闘に支障はでるので麻痺に関しては攻撃に当たらないのは前提となる。
「ミハエル交互にいくか?」
「おう、んじゃ俺が最初二匹の方な」
「わかった。なら初撃は俺がいれる」
「頼んだ」
まずは俺がクラーケバタフライの相手で、ミハエルはイーグルベアーだ。
とりあえずまずはタゲをとるためにサンダーをクラーケバタフライに撃ち込む。
どれも痺れずに俺に向かってくる。
そもそも効いてない感じだな。
ならバレットはどうか。
ミスリルの剣を振ってサンダーバレットを数発撃ちだす。
触手部分に当たったサンダーバレットは当たった部分を貫通したが、あの丸っこい体には当たっても効いていなかった。
やはりバレットはもうだめか。
触手をバレットで撃ち抜かれたクラーケバタフライが触手を振り回して暴れている。
その間にサンダージャベリンを他のに撃ち込むが、動きが遅そうなくせに触手を素早く動かしてサンダージャベリンに巻き付かせ止めた。
ジャベリンは止められてしまったが、サンダージャベリンに巻き付かせた触手は焼け焦げ、そのうえ数秒麻痺したようだ。
数が多い今は多少でも麻痺して動きが止まってくれるほうがありがたい。
鞭のようにしならせた触手を切り払いながら避けつつ、クラーケのあの独特な口から発射される毒針をヴァールシールドで防ぎながら魔法を撃ち込む。
ふと気づけば、バレットで撃ちぬいたのや、焼け焦げていたやつがいたはずなのに、どいつも触手に傷がない。
なるほど、こいつもポイズンプラントと同じで再生ありか。
再度ジャベリンを同時に撃てる最大数の三本を撃ちだす。
二本は止められてしまったが、一本は丸っこい体に刺さった。
刺さった途端ぶしゅっと音がして緑色の液体が撒き散らされ、地面に落ちるとジュウジュウと音を立てそれは緑色の煙へと変化した。
多分これは毒だろう。
そうなるとあまりこの丸っこい体を狙うのもよろしくないということになる。
毒を気にせずやるならそれもありではあるが、倒すのに時間がかかりそうなので弱点を探すべきだろう。
一番ありえるのはやはり頭部位置だろうか。
とはいえ、あそこを攻撃するのは中々に大変な気もする。
グラビティヴァイトを使っていくか。
グラビティを使うと後衛が攻撃しにくくなるので微妙だが、まぁとりあえずだ。
ミハエルがまだこちらにいないのを確認して、ふよふよ浮いてるクラーケバタフライたちにグラビティヴァイトをかける。
ふよふよと浮いていたクラーケバタフライたちのうち範囲にいた二匹が地面に落ち、丸っこい体のあちこちから緑色の液体を噴き出した。
なるほど、これだとグラビティはさらに微妙だな。
とりあえず今はもう落としてしまったのだから頭部を狙ってみるか。
地面に張り付いてグネグネと動くクラーケバタフライの眉間へとジャベリンを撃ち込む。
見事に突き刺さり、クラーケバタフライ二匹は煙となって姿を消した。
やっぱり頭部か。
残り二匹はグラビティで落とさずにやるしかない。
まぁ、剣の訓練と思えばいい話だ。
俺はミスリルの剣を握りなおし、残り二匹に躍りかかった。
もちろん剣の訓練といえど魔法を使わないわけではない。
邪魔な触手の手足にバレットを撃ち込み、眉間を狙う。
クラーケバタフライは体が大きいので、俺が懐に潜り込んでしまえば一対一の状況に持ち込める。
触手が厄介ではあるが、それこそバレットを撃ちまくればいい話だし、無理に魔法でばかりで対処しようとしたのが間違いだった。
さらにいえば、接近すると毒針攻撃をしてこなくなる。
ポイズンプラントと同じように考えて魔法で対処しようとした俺の判断ミスだな。
接近戦に弱く、魔法戦に強い相手に対して俺は無意味に魔法で挑んでいたわけだ。
だめだな、自身がミハエルほどの剣技がないからと魔法でばかりやろうとしてしまっていたのを反省しなくてはならない。
しばらくして二匹とも倒すことができた。
ミハエルはすでに倒し終えていたが、手は出さずに見ていたようだ。
「お疲れ。あれは接近戦のが楽そうだったな」
ミハエルの言葉に苦笑しながら頷く。
「ああ、図体がでかい分、触手さえ潰せれば接近戦のが逆に楽だったわ」
「イーグルベアーの方は逆に接近戦につえーな。めちゃくちゃ機敏な動きしやがるし、皮がかてぇ。んでもエルナのバレットはあっさり刺さってたぜ」
どうやらイーグルベアーは魔法に弱いようだ。
「アダマンタイトの剣でもか?」
「おう、傷はつけれるんだけどな、とにかくあの毛皮がかてぇな」
「なら、俺がイーグルベアーで、ミハエルがクラーケバタフライでいいかもな」
「だな。次からはそうするか。でも別に訓練として交互でもいいぜ?」
「あーどうするかな。その方がいいかな。俺も訓練になるし」
「私たちもそれでいいわよ。私たちも訓練になるし」
「ですです」
フィーネたちの声に俺は頷く。
「そうか、ありがとう。それじゃ交互でやろうか」
「おう」
「ええ」
「頑張ります!」
結局そのあとも交互で相手を変えながら進んだ。
ドロップ率は高くないが、ちゃんとオリハルコンの鉱石が出たので取り置きすることにした。
今度はミハエルの分だけ、とかではなく二人分集めてから製作依頼にいくことになる。
集めきるには結構な時間がかかりそうではあるが、どちらにしろしばらくは七十階で訓練が必要だろう。
今の状態で階下を目指すのはちょっと危険だしな。
七十階で余裕の狩りができるようになったら階下を目指すとしよう。
「ま、しばらくは七十階で訓練狩りだな」
「そーだな。俺ももう少しうまくやれねぇか試してぇし」
「私もイーグルベアーにもっとうまく魔法を当てたいです」
「そうね、私もクラーケバタフライの眉間にきっちり当てれるようにしたいわ。まだ精度が完璧じゃないわ」
全員一致でしばらくは七十階での訓練となった。
どんな敵であっても集団戦の方が色々と磨かれるはずだしな。
こうして夕方まで狩りを続け、その日はダンジョンを出た。
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