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133 Aランク

 レオンと再戦してから二ヶ月が経った。


 レオンたちは一ヶ月前にシュルプの街を発っている。

 オリハルコンがレオンの分が集まったそうで、ノームが住む鉱山街へと向かったのだ。

 レオンの武器が完成したら亜竜に挑むかも、とのことだったので、『シュラハト』がSランクになるのもそう遠い話でもないだろうな。


 そして今日は、俺たちが冒険者になって一年と少しが経っており、ギルドマスターから呼び出されている日だ。

 ギルドに入り、受付嬢さんに声をかける。


「おはようございます」


 俺たちを見た受付嬢さんが返事をする。


「おはようございます、『イストワール』の皆さま。お待ちしておりました」


 受付嬢さんに暫く待つように言われたのでその場で待っていると、しばらくして奥からギルドマスターがやってきた。

 もしや、と思ったら、俺と目が合うとニヤリと笑った。

 すぐに顔を戻し、なんとも威厳ある、あまりに見ないギルドマスターへとなった。


「さて、みんな聞いて欲しい!」


 ギルドマスターの声に、周囲で騒いでいたり依頼書を見ていたりした冒険者が口を閉じてギルドマスターを見た。

 ギルドマスターを見るということは自然と俺たちも視界に入る。


「今日、このギルドで、新たなAランクが誕生した! 『イストワール』の諸君だ! 彼らは今日、このときをもってAランクとなる! まだ若いが、彼らにはそれだけの実力がある。彼らの未来に私は期待をしよう! おめでとう、『イストワール』の諸君!」


 そう大きく宣言し、俺たちにアダマンタイトでできた冒険者タグを手渡してきた。

 俺たちは代わりに、ミスリルの冒険者タグを返す。

 これで俺たちは晴れてAランクだ。


 Aランクになるのに試験がないというのは驚きではあったが、そもそも高位冒険者と言われるのがBランクからになる。

 なので、Bランク試験で貴族との付き合い方をまず学ぶ。

 ここで貴族との付き合いをろくに出来そうにないと判断されると試験すら受けさせてもらえないわけだ。

 ここが高位冒険者としての第一関門。


 そして、Aランク。

 ここはすでに関門を抜けているので、今度は実力となる。

 いかにA相当のモンスターを退治するか、という数勝負だ。

 数勝負といっても、B相当ではカウントされない。

 きちんとAランク相当のモンスターを規定数以上倒さねば認められないのだ。


 最後にSランク。

 これは冒険者としての頂点に立つことになる。

 地位としてはそれこそ侯爵以上、国王以下というところだ。

 国王以下とはいっているが、実質は同等とみなされている。

 だからこそ、最高峰の地位に立つならば、それなりのモンスターを倒せなければならない。

 それが、亜竜だ。亜竜が十匹もいれば都市は滅びると言われている。

 普通の街であれば五匹もいれば壊滅するだろう。

 Aランクパーティが五パーティいてやっと亜竜一匹と戦えるとも言われている。

 AとSにはそれだけの開きがあるのだ。

 そして、そんな亜竜を倒せるだけの実力となるとそれは国王と同等とみなされてもおかしくはないというわけだ。

 Sランクになる条件はそんな亜竜の討伐である。

 試験ではないが、これがSランクになるための条件となる。




 ギルドマスターの宣言により、周囲はザワザワと騒ぎ、ギルド職員からは拍手が起こっている。


「おし、お前らもういいぞ。前に言った通り、もうダンジョンも自由にしていい」

「はい」

「ほれ、もういけ。俺は仕事しないとならん」


 先ほどまでの威厳ある姿はどこへやらだ。

 苦笑しつつ、俺たちはギルドマスターに軽く頭を下げてギルドを出た。


「さて、それじゃ、七十階目指そうか。お許しもでたし」

「おう。もう実もいっぱいとれたしな」

「そうね、十分な数があるわね」

「ああ。それじゃ、行こうか」

「はいです」


 俺たちはギルドマスターのお許しがでたので、ずっと六十五階で止まっていたが先へ進むことにした。

 ――とはいえ、ポイズンプラントの実を大量に確保できたのでそれはそれで良かったと言える。


 ダンジョン管理所へとつき、扉の先へと向かう。

 六十五階へと飛んで、見慣れたモンスターを狩りながら先へと進んだ。


「そういや、オリハルコンって何階からだっけ?」


 次のモンスターへ向かって歩いていると、ミハエルがそう声をかけてきた。


「あー確か、ちょうど七十階からだって話だったな」

「確かそうね、エアハルトさんがそう言ってたはずよ」

「そっか。俺らはルカと俺の分だけでいいのか?」

「とりあえずはそうかな。オリハルコンが俺にコピーできるかどうかにはなるが、とりあえずは、だな」

「おう、わかった」


 そんな会話をしつつ、ダンジョンで夜を明かしながらも六十七階へとついた。

 モンスターの数が減ったのでここからはまた新しいモンスターということになる。

 慎重に歩を進め、最初の敵グループへとたどりついた。


 そこにいたのは、重装備の戦士が着ているような鎧の、足だけがない物が青白く光りながら浮いていた。

 手には青白い光を纏った剣と盾を持っている。

 そんなリビングアーマーが六体。

 鎧がこすれ合うガシャガシャという音を立てながらもふわふわと浮きながら動いている。


 攻撃方法は近接攻撃のみだが、弱点が兜の内側にある核らしい。

 リビングアーマーは基本霊体で構成されているらしく、倒すには兜をどうにかしてはがし頭部にある核を潰すか、地道に攻撃を続けて霊体部分を弱らせていくしかないようだ。

 あの青白く光っている部分が鎧を繋ぎとめている霊体らしく、攻撃をすればその部分が弱り、最後は鎧を繋ぎとめることができなくなり、核が露出するらしい。


「これは面倒そうだな」

「兜をひっぺがして核を潰すか、攻撃して霊体を弱らせて核を露呈させるか、ってことか」

「ああ、そうなるな」

「あの鎧はアダマンタイトの剣では抜けないのかしら」

「どうだろうな、やってみるしかねぇな」

「そうだな、俺も色々魔法を撃ち込んでみるか」

プルし(引か)なくていいわよね?」

「おう、いつも通り突っ込んでやってみりゃいいんじゃねぇか」

「ま、そうだな」

「はいです!」


 ターンアンデッドとか創っておいた方がいいのかもしれないな。

 今のところ必ず弱点はあるが、Sランクにまでなると魔法以外では効果がないやつも出てくる可能性もある。

 今度創ってみるか。


「おし、いくぜ」

「ああ」


 ミハエルが走り、俺も走る。

 走りながらサンダージャベリンを撃ち込んでみた。

 リビングアーマーはすぐに盾を構え、ジャベリンを受け止める。

 なんの素材でできているのか、もしくは霊体で受け止めているのか、ジャベリンは盾を貫通することなく受け止められた。


 しかし、受け止めた瞬間、リビングアーマーの青白い光が揺らぎ、その光は僅かに減った気がする。

 なるほど、攻撃すればするほど青白い光が削れていくわけか。


 孤立している一体のリビングアーマーにグラビティをかけてみる。

 孤立していたリビングアーマーはそのまま地面に落ちて縫い付けられた。

 起き上がろうとしてギシギシと音を立てているが、起き上がることはできないようだ。


 そのまま兜に対してジャベリンを撃ち込むが、青白い光がガッシリと絡んでいて兜がはずれることはなかった。

 しかし、盾に攻撃するよりも、兜に対して攻撃した方がより多く青白い光が削れるようだ。

 そこから三度ほどジャベリンを当てるとようやく兜がはがれた。

 兜がはずれたそこには青白い球体があり、それを攻撃すると、鎧全体を包んでいた青白い光が煙となって立ち上り(のぼり)、その後ボフンと煙となって消えた。


 そこからは楽だった。

 基本的には兜を狙って攻撃をすれば多くの青白い光が減るので普通に攻撃するよりは早く倒せる。

 しかし、それでもどうしても時間はかかる。

 移動速度も、攻撃速度もたいして速くはないので苦労はしないのだが、倒すのに手間がかかる。

 この調子であれば、一つの階層を抜けるのに二日ほどかかるかもしれない。


 リビングアーマー戦では、基本的には俺とミハエルがタゲをとり、背後からフィーネとエルナが兜を狙うという攻撃でいけそうだ。

 今のところはそれが一番早い。


「速度は速くねぇけど、倒すのに時間かかんな」

「そうだな。剣はやっぱり無理だったか?」

「おう。鎧自体別にすげぇ何かで出来てるってわけじゃねぇみたいだが、青白い光で防がれるな」

「そうか。となるとやっぱり地道にいくしかないか」

「ああ。兜に隙間でもありゃ差し込むんだけどよ、ねぇからな」

「そうね、私も隙間がないか探したのだけど、なかったわ」

「なら地道にだな。フィーネとエルナに兜を集中してもらうしかないな」

「頑張ります」

「ま、俺らもいけるなら兜狙うか」

「ああ。まぁ急ぐものでもないし、ゆっくりいくか」

「おう」

「そうね」


 そうして俺たちは六十七階を一日半かけて移動した。

 進むにつれて攻撃に慣れ、殲滅速度は上がった。

 とはいえ、ここから先さらにリビングアーマーの数が増えるので時間はかかるだろう。


 六十八階へと下り、狩りをしながら進む。

 ドロップ品を拾うと、なんとも綺麗な石が出た。


「あら、すごく綺麗ね」


 俺の手の平の上三センチくらいの場所でふわふわと浮かび、青白い光を発する菱形の青いクリスタルを見て、フィーネがそう言った。


「ああ、綺麗だな。幽幻石って言うらしい。貴族に人気があるらしいぞ」

「へー、んじゃ高いのか?」

「そうだな。ギルドには金貨一枚で売れるみたいだ」

「ほー」

「四人分でたら一人一個分配にするか?」

「賛成です!」


 エルナが目をキラキラさせてそう言い、フィーネがエルナを見て優しく笑った。


「そうね、私も欲しいから、それでお願いするわ」

「そーだな。んじゃ俺もそれでいいぜ」

「よし、それじゃあそうしようか」

「はいです!」


 やはり女の子はこういう綺麗なものに惹かれるのだろうな。

 そんなことを思いながら、六十八階を進んだ。

 この階層は二体のリビングアーマーが増え、八体になっていたので戦闘に慣れたが、普通に時間がかかる。

 このあたりはもう諦め、普通に時間をかけて倒すしかない。


 ただ倒すのに時間がかかるが、ドロップ品の個数は少ないようで、三つしか落とさない。

 しかし、どのドロップ品も高価で売れる。

 討伐時間はかかってもドロップ品が高いのでおいしい狩場とはいえるだろう。


 六十八階は階段までの距離が長く、三日かけて抜け、その次の階層は階段までが少し遠回りだったので、五日かかって抜けることができた。

 その間に幽幻石は数個ドロップしたので、一人一個は確保はできている。


 エルナはかなり気に入ったようで、セーフゾーンで寝るときも枕の横に浮かべて眺めていたらしい。

 まぁ確かにとても幻想的で綺麗だからな。

 女の子ならきっとみんな見惚れるだろう。


 当然ながら俺も家族用にさらに一つ購入する予定だ。

 高いものではあるが、きっとリリーは喜ぶし、カールやマリーも喜んでくれるだろう。

 まぁ尖っていて危ないので、リリーには触れない場所に置いてもらう必要はあるが。


 こうして七十階の転移柱に触れ、ダンジョンを出た。

 結局十日ほどかけたことになる。

 ここまで来るとこのくらいかかるものなのだろうな。


 七十階からはSランク相当らしいので、どうなっていくのかはわからないが、慎重にいくとしよう。

 Aランク相当の階層になってから急激に敵が強くなったので、きっとSランク相当の階層もそうなるだろうし。


 ギルドで清算したあと、夕食までは時間がまだあるのでとりあえず解散となった。

 俺は部屋で休憩でもしようかと思ったのだが、ミハエルから声がかかった。


「ルカー、ちょっといいか?」

「ん?」

「三日間は休みじゃん」

「ああ、そうだが」

「明日さ、ちょっと俺と試合しね?」

「別にいいが、なんでまた急に」

「ほら、レオンとはやってるけど、そういやルカとやってねぇなと思ってな」

「なるほどな。でも、俺はミハエルに勝てる気がしないんだがな」


 そう言って俺は苦笑する。


「ま、俺も勝てる気しねぇけどな。あのグラビティはやべぇだろ」

「レオンには言うなよ」

「はは。言わねぇよ」


 こうして明日は俺は初めてとなるミハエルとの試合をすることになった。

 正直レオンよりもミハエルの方が勝てる気がしない。

 ずっと一緒だからこそ、細かい俺のクセも魔法の使い方も知られているのだ。

 だが、それはミハエルも同じではある。

 どういうタイミングで動くか、攻撃の仕方も俺はずっと隣にいたから知っている。


 どうなるかはわからないが、これはこれで楽しみだ。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

小説家になろう 勝手にランキング
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