117 ギルド
キストラーさん親子の護衛をしつつ進むこと一週間、ゾルタウの街へとついた。
キストラーさんにぜひと請われ、今は彼の家へと来ている。
屋敷というほど大きくはないが、家というには大きい、そんな家だ。
俺たちは応接室へと通され、紅茶をだされた。
「いや、本当にありがとう、みなさん。私が無事こうして家族と再会できたのも、娘が傷つかずに済んだのも、彼らと、君たちのおかげだ」
「いえ、俺たちはたまたま通っただけですから、あの人数を押さえていたフリッツさんたちが本当に優秀だったのです」
「ああ、そうだな。もちろんだ。だけど、君たちが来なければ彼らも命を落としていたし、私も死んでいただろう。何より、娘がどうなっていたか……。考えるだけでおぞましい」
「ご無事で何よりでした」
「ああ、本当に。改めてお礼をさせて頂きたい。本当にありがとう」
キストラーさんは深く俺たちに頭を下げる。
頭を下げられるのは慣れないが、ここは受けるしかないだろう。
キストラーさんが頭を上げ、再び話始めた。
「それで、今回馬車の購入という余計な出費もなかったことだし、改めて謝礼をさせてもらえないだろうか」
「いえ、本当に困ったときはお互い様ですし」
「しかし……。まぁしつこくしてもなんだな。それならばいつか君たちが困ったときに私は必ず君たちを支援すると約束しよう。それなら受けてくれるだろうか?」
「そう、ですね。はい。俺たちが困ったときはよろしくお願いします」
「うむ、任せたまえ。貴族にも伝手はある。必ずなんとかしよう」
キストラーさんとの話し合いも終わり、家をあとにしようとしたところでお嬢さんがもう少しだけフィーネたちと話をしたいと言ったので、俺たちは急ぐ旅でもなかったので了承した。
キストラーさんの配慮でこの街での宿屋を用意してもらえたのでそこに泊ることになる。
こうして夕方までお嬢さんとフィーネたちは楽しそうに会話をし、キストラーさんの家を出た。
適当な飯屋に入り食事をとったあと、宿屋へ向かったが、裏庭は狭く訓練できそうな余裕もないので諦めて眠りにつく。
翌朝、再び馬車へと乗りゾルタウの街を出発した。
昼までは俺とミハエルで、昼からエルナが御者席にいくので俺と交代になる。
問題なくゾルタウの街を出て、順調な旅が続いた。
道中一度モンスターが出たが、ただのゴブリンだったので実質何も問題はなかったといえる。
クレンベルの街までの二週間、フィーネもエルナも御者を頑張り、人のいない道であれば魔法なしでも馬車の操作ができるようになった。
――とはいえ、さすがに細かい操作までは難しいようではある。
クレンベルの街に入るときに警備兵にいい宿屋を教えてもらったのでそこへとまず向かう。
時刻はもう夕方近いのでクレンベルの冒険者ギルドへ向かうのは明日だ。
「ここも裏庭は狭いな」
ミハエルの不満声に俺も頷く。
「そうだな。まぁ軽い訓練程度か」
「ま、我慢するしかねぇか」
打ち合いは諦め軽く剣を振ってから風呂に入りベッドに潜り込んだ。
明日は冒険者ギルドに行くが、ギルドマスターがいるとは限らない。
もしいなければせっかくだからダンジョンを見にいくのも悪くないかもしれないな。
そんなことを考えつつ眠りについた。
翌朝、宿屋で朝食をとり宿をでた。
「ここの料理もイマイチだったな」
「そうだな。他の宿屋でいいとこがないか探してみるか。ダンジョンの街だしあるだろう」
「そうね」
宿屋で聞いた冒険者ギルドのあるところへ向けて歩く。
クレンベルはシュルプより少し小さい程度の街だが、素材ダンジョンだけあって色々な革製品が多い。
他にも錬金素材も豊富なようで、錬金アイテムの販売もそこそこある。
鉱山ダンジョンのある街と素材ダンジョンでは本当に売っている物が随分と違うものだ。
冒険者ギルドまでの道のりの最中にある店をなんとなく覗きつつ歩く。
しばらくして冒険者ギルドが見えてきた。
冒険者ギルドはシュルプの街とそう変わらない見た目だった。
ギルドの扉を開き中へと入る。
まだ朝なせいかそこそこ冒険者がいた。
彼らの視線が俺たちに遠慮なしに突き刺さる。
中にはやはりあまり良くない視線もあるが、然程強そうな人もいないので問題はないだろう。
受付へと真っ直ぐに進み、受付嬢さんに声をかける。
「おはようございます」
「はい、おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「こちらをクレンベルのギルドマスターに渡してほしいのですが」
シュルプのギルドマスターに書いてもらった手紙を取り出し、渡した。
受付嬢さんが少し怪訝な顔をしているが、手紙のあとに首に下げていた冒険者タグをはずして彼女へ提示する。
俺の冒険者タグをみた受付嬢さんはすごく驚いた顔をし、タグを受け取って裏表を何度も見てから俺たちをみた。
「承知致しました。少々お待ちください」
「はい」
受付嬢さんが奥へ向かったのを見てから俺たちは受付カウンターから少し離れて待機する。
「ギルドの作りはシュルプとあまり変わりないのね」
「そーいやそーだな」
「ほとんど同じです」
「ああ、確かにな」
なんとなくその辺を見つつ待っていると酒に酔った男が二人こちらへとやってきた。
これは面倒なことになりそうだ。
「おー、おめぇら、ガキがこんなとこに、なんのようだ? あ?」
「そうそう、ガキはー、ママのおっぱいでも飲んでろよー」
俺たちが無視していると男がイラっとしたのかさらに何かを言ってくる。
「おうおう、いい度胸だな? 無視か? ガキのくせに女はべらせやがってよ」
「おー、よく見たら可愛い顔してんじゃねぇか」
男の一人がエルナに手を伸ばし、エルナの腕を掴もうとした。
その瞬間、ミハエルが男の手首を掴む。
「おい、汚ねぇ手で触ろうとしてんじゃねぇよ」
俺はエルナとフィーネの前に出て、男が近づけないようにする。
「くそっ ガキが離せ!」
男は脂汗を流しながらミハエルが握った手を振りほどこうとしているがミハエルの手をはずせない。
男の手首からはミシミシと音がしている。
「くそが!」
男と男の仲間がミハエルに殴りかかろうとするので、俺は両方にサンダーを軽く流し麻痺させた。
「ぎゃ!」
「ぎっ」
二人とも崩れ落ちたところでミハエルは握りしめていた手を離す。
二人が倒れたところで先ほどの受付嬢さんが慌ててやってきて俺たちに頭を下げる。
「申し訳ありません!」
それを見た他の傍観していた冒険者たちがザワリとなった。
倒れた冒険者ではなく、子供である俺たちに謝罪をして頭を下げているのだからそれもそうだろう。
「いえ、特に何もありませんから」
受付嬢さんは申し訳なさそうなまま、俺たちに言った。
「本当に申し訳ありません。ギルドマスターがお会いになるそうですので、こちらへどうぞ」
さらにまたザワリとなった。
子供である俺たちに謝罪した上にギルドマスターが会う相手なのだからそうもなる。
あまり大袈裟な対応はしてほしくはないのだが仕方ない。
受付嬢さんに案内されて俺たちは二階へと上がった。
「ギルドマスターの部屋へご案内致します」
どうやら直接部屋へ案内されるらしい。
シュルプの街のギルドマスターの部屋と同じような重厚な扉を受付嬢さんがノックする。
「ギルドマスター、イストワールの皆さまをご案内しました」
中から男性の声がした。
「入ってもらってくれ」
受付嬢さんが扉を開け、俺たちを中へ促す。
「失礼します」
そう言って中へ入ると、シュルプのギルドマスターの部屋とは違い、整理整頓された綺麗な部屋が見えた。
執務机から立ちあがった男性は短い茶髪の如何にも弓師といった感じの線が細いが引き締まった筋肉があるのがわかる体型をしていた。
目は開けてるのか開いてないのかよく分からないほど細い目をしていて、銀縁の眼鏡をかけている。
「そこにかけてくれ」
ギルドマスターに促されて俺たちはソファーに腰かけた。
受付嬢さんは先ほどの出来事だろうが、ギルドマスターに話し、頭を下げてから部屋を出ていった。
「なるほど、すまなかったね。馬鹿がいたようだ。君たちの実力も見抜けないとは情けない」
「いえ、特に何もありませんでしたから」
「そうか。では改めて自己紹介をしよう。俺はクレンベルの冒険者ギルド、ギルドマスターのハイン・ヘルフルトだ。よろしく」
そう言って手を差し出してきた。
「初めまして、俺はイストワールのパーティリーダーをしているルカ・ローレンツです」
ハインさんが差し出した手を俺は握り返す。
その後、それぞれ自己紹介をしてハインさんと握手した。
「なるほど、君たちがアーロンが期待の新人と言っているイストワールか。確かに相当な実力があるようだね。アーロンが手紙で随分と自慢してきていたよ」
そう言ってハインさんは笑った。
「そんなこと書いていたんですか、ギルドマスターは……」
「ははは。俺も君たちのような新人がいればアーロンに自慢の手紙を書いているだろうからね」
俺は苦笑するしかできない。
「さて、それはさておき、君たちの目的はAランク相当の皮を加工できる職人の紹介だったか?」
「はい。いい加減装備をちゃんとしたものにしようかと思いまして。ただシュルプにはAランクの皮を加工できる職人がいないので、ギルドマスターに紹介してもらいました」
「なるほど。そうだな、一応心当たりはあるよ。少し気難しいんだが腕はとてもいい職人だ」
「それはありがたいです。教えて頂いてもかまいませんか?」
「ああ、もちろんだ。ただまぁ、先ほども言ったが少し気難しい人なんだ。気に入らない場合は依頼を受けない人だから、もしダメだった場合は別の人を紹介するよ。君たちなら大丈夫だとは思うけどね」
「なるほど、わかりました」
しばらくハインさんと会話したあと、俺たちはギルドを出た。
俺たちが倒した二人はすでに姿はなかったが気にするほどでもないだろう。
「さて、それじゃ皮職人のところへいくか」
「おう」
「ええ」
「はいです」
ハインさんに聞いた皮職人のもとへと俺たちは足を運んだ。
気難しいと聞いたが、さてどんな人なのか。
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