114 ミスリルの剣
俺の剣の製作依頼をウードにしてから五日が経った。
ウードからは五日後に一度来てくれと言われていたので今日は昼からダンジョンにいくことにして俺は一人鍛冶場へ向かっている。
鍛冶場について中へ入ったが、受付には人がいないので中へと入る。
若い兄さんは奥でウードの師匠にあたる人に何か指導されていた。
俺は邪魔をしないように、他に作業してるもう一人にペコリと頭を下げつついつもウードのいる場所へと向かった。
「おはよう、父さん」
「ああ、ルカ。おはよう。まだ完成ではないが、できてるぞ。一度振ってみろ」
「うん」
「よし、裏庭へいこうか」
ウードに促されて俺は裏庭へいく。
裏庭についたところでウードが俺に青緑に淡く光る剣を手渡した。
ミスリルの剣は柄から刃まで一つに繋がった一体型にできており、魔力を軽く流すとスムーズに刃先まで魔力が通る。
その状態で藁人形や木の人形相手に剣を振り、突き刺す。
剣は軽く、俺の手に実に馴染む。
剣を振りながら剣から魔法を撃つ。
剣先から放たれた初級魔法の土つぶては狙ったところにちゃんと当たる。
それに手から直接放つのとなんら変わりない速度だ。
むしろ少し速いくらいである。
一度魔力を通すのやめてから再度魔力を通しながら土つぶてを木人形に撃ち込む。
普通に発動はしたが、若干遅い。
なるほど、ミスリルの剣に先に魔力を満たしておく必要があるのか。
さらに新たな発見というか再確認というか。
ミスリルの杖でも同じことが起きているとは思うが、杖が長くないのでそこまで気にしていなかったな。
というか、意図的にミスリルに流した魔力と、排出しようとした魔力は種類が違うのだろうか。
俺は左手の指先から魔力を少しだけ放つ。
指先から出た瞬間、魔力はバチっと音を立てて小さな爆発を起こした。
今度は放つわけではなく魔力を出してみた。
火花が起こることもなく、感覚ではあるが、俺の指先に魔力が留まっているのが分かる。
俺はそのまま魔力の塊を投げてみる。
確かに魔力は俺の指先から離れて飛び、少しして空中で小さな爆発を起こした。
俺から離れすぎたことによる繋がりが切れた爆発だろう。
今度はミスリルの剣先から魔力を解放してみる。
それは、指先で起こしたのとは違い、確かに剣先から出た感覚はあるのだが、霧散して魔力が消えた。
ミスリルを通せば爆発を起こさずに消えるのか?
何かしらの変換がミスリルを通った間に起きているのか?
これを再現出来れば……。
「ルカ」
自身の考えに埋もれていた俺はその声にハッとする。
「あ、ごめん、父さん。少し考え込んでた」
「いや、かまわんがな。あまり思い詰めるなよ」
ウードの言葉に俺は驚く。
そんな俺の頭をウードが優しく撫でた。
「難しい顔をしていたぞ。さっきのは魔力暴走について考えていたんだろ?」
「うん……」
「お前が魔法を創れるのは知っているが、全てに手が届くわけじゃない。なんでもできるわけじゃない。だから思い詰めるな。できなくてもそれは仕方ないことだ。だから、できることをしなさい」
俺は随分と思い詰めていたようだ。
そうだな、今できないことはどうしようもない。
今俺にできることをすればいいんだ。
ヒントは手に入ったのだから、今はそれでよしとしよう。
そしてウードに感謝する。
やめろという否定ではなくできることをしろという肯定の言葉に。
ウードが父さんであることを誇りに思う。
「ありがとう、父さん」
俺の言葉に再度ウードは俺の頭を優しく撫でた。
そのあとはウードと共にミスリルの剣の使い心地などを話、鍛冶場を出た。
時刻は十時過ぎ、一度宿屋へ戻ろう。
それから二日後、剣ができあがっている予定の日、メンバー全員が鍛冶場についてきた。
鍛冶場につくと、今日は受付にあの兄さんがいた。
「やあ坊ちゃん」
「おはようございます」
「ああ、おはよう。親方は奥にいるよ」
「ありがとうございます」
兄さんに礼をしてから中へ入り、一番奥へいくとウードがいた。
ウードが見つめる先にはマットな質感の黒い革の鞘に収まった俺のミスリルの剣があった。
「おはよう父さん」
「ああ、おはよう。みんなも来てたのか、おはよう」
それぞれ挨拶を返し、ウードに促されて裏庭へいくことになった。
黒い革が気になった俺はウードに聞いてみた。
「父さん、その黒い革って何?」
「ああ、これか。モーナットビーストの革だ」
ウードの言葉に俺は驚愕する。
「え、モーナットビーストの? あのぬるっとした質感の灰色の皮だよね?」
「ああ、あのままだと見た目も悪いんだがな、ある加工をすると通気性はなくなるが、この鞘にあるように、黒くて丈夫で硬い革になる。これは俺から息子であるお前へのプレゼントだ」
「え、でもあの皮高いよね……?」
モーナットビーストの皮は確か銀貨三枚するはずだ。
ウードは稼ぎもいいとは思うが……。
「はは、気にするな。この革はかなり丈夫でな、鉄の剣程度なら傷もつかんし、ミスリルですら貫くのは力がいるんだぞ。もちろん内側にミスリルを張っているというのもあるがな」
「それは、すごいね」
「ああ、いざというときは鞘で防御もできるということだ」
「そっか……。ありがとう、父さん」
「うむ」
ウードの愛情を強く感じつつ、裏庭へいった俺は剣を受け取ると振り心地などを確かめた。
木の人形も何一つ抵抗もなく切れるし、魔法の撃ちだしも問題はない。
木の人形を切りながらも剣先から魔法を撃ちだし、それは狙った藁人形にしっかりと当たる。
同時に木の人形も切り裂く。
次に剣を横に振りぬき、刃の全体から複数の魔法を同時に撃ちだす。
これも問題なく撃ちだせた。
ミスリルの剣自体に魔力を溜めているので手から直接魔力を出して魔法を撃つよりも多くの魔法を撃てる。
これはミスリルの杖でも一応分かってはいたことだったが、剣という武器としての攻撃と魔法の媒体としての役割もあるミスリルの剣は俺にとってはかなりいい物だ。
しかし、これが手の延長のように感じるということか。
自身の指先から狙った場所へ魔法を撃っているかのようだ。
しばらく剣を振り、自身で納得できたところで止める。
俺はミスリルの剣を眺め笑みを浮かべた。
俺だけのために作った剣であり、ウードが作ってくれた俺の剣というのがなんだか嬉しい。
とはいえ、レオンやミハエルとやるときは形だけコピーしてアダマンタイトにするか、コーティング魔法をかけないと俺のミスリルの剣の刃がボロボロになってしまうだろう。
それだけは絶対に避けたいことだ。
俺は剣を下ろし振り向いた。
「父さん、ありがとう。何も問題はないよ」
「そうか。ないとは思うが問題が出たら言いにこいよ」
「うん」
そこでウードはミハエルの方を向いた。
「ミハエル君、その後どうだ? 問題はないか?」
「あ、はい。何も問題はないです。すげぇ手に馴染みますし、使いやすいです」
「そうか。君も不具合があったら持ってくるんだぞ」
「はい」
こうして俺たちはウードの鍛冶場をあとにし、時間もまだあったので軽くダンジョンに潜ることにした。
ヒュドラの鱗皮自体は一応一般的な皮で作る分くらいは集められている。
これはウードの知り合いの皮職人さんに確認済みだ。
とはいえ、Aランクの皮なので一般的な皮とは違うかもしれないとは聞いている。
なので多少なりとも多めに皮集めはしておきたいのだ。
ダンジョンに潜り、俺たちは六十五階へと飛んだ。
初めてのミスリルの剣での実践となる。
ミスリルの剣にはすでにコーティング魔法をかけているので、アダマンタイトと切れ味は同じになるはずだ。
すぐに最初のモンスターグループに遭遇した。
これまで通り、ミハエルが右側、俺が左側へと走る。
ミハエルの方にほとんど向かってしまったのでミスリルの剣を振って俺の分のモンスターにバレットを撃ち込む。
バレットの当たったモンスターたちがこちらへと向かってくるのを確認しつつ、手近なケルベロスの首に剣を振りつつ切り落とす直前にジャベリンを剣先から放って首の切り落としとジャベリンで頭を潰すのを同時に行う。
それは見事に嵌り、ケルベロスは一回の戦闘で倒すことができた。
正直素手でジャベリンを撃ち込むよりも楽ではある。
もちろん毎度こうもうまく嵌るわけではないので、これまで通りの戦い方もするが、戦闘の幅が広がったのは疑いようもない。
相変わらず忙しいのは忙しいが、少しだけ余裕を持つこともできている。
当然これまでの狩りで慣れた部分もあるにはあるが、それを踏まえてもやはり余裕はできた。
今回はミハエルより少し早く倒し終えることができた。
ちょっとだけ嬉しくなってしまう。
というか、普通に魔法と剣でやっててミハエルより倒しきるのが遅いのが問題なのではあるが、魔法なしで俺より早く倒すミハエルがきっと異常なのだ。
俺の剣術強化も育ってはいると思うのだが、それ以上にミハエルが育っていくのでまったくもって追いつけない。
まったくもってレオンもミハエルも理不尽な強さだとつくづく思う。
俺だって魔法が創造できるというチートがあるはずなのになぁ。
俺の発想が貧困なのかもしれないけど。
その後も狩りを続け、夕方になったところで切り上げ宿屋へと帰った。
明日からはギルドが所持している馬車を借りられたのでそれで旅をすることになるが、俺たち四人だけでの長旅は初めてとなる。
これまではすべてにギルドマスターが一緒だったのだ。
明日からが少しだけ楽しみである。
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