111 俺の武器
翌朝、身だしなみを適当に整えて俺は席につく前に味噌汁を作ることにした。
焚火をおこして水をいれた鍋をセットする。
すぐあとに起きてきたフィーネから声がかかった。
「あら、何を作るの?」
「ああ、味噌汁を作ろうかと思って、フィーネたちもいるか?」
「いいのかしら? それならせっかくだし頂きたいわ」
「良かったらお願いします」
「ああ、いいよ。多分ミハエルもいるだろうから全員分作るよ」
「ありがとう、ルカ」
俺は鍋の水を少し足して四人分の大根の味噌汁を作った。
本当は豆腐とワカメの味噌汁がいいのだが、全部が具現化魔法で作った食材というのも微妙なので大根にしているだけだ。
海が遠いのでワカメも魚もないのだが、魚かー、鮭とか食べたいなぁ。
そんなことを考えつつ味噌汁が完成するころ、ミハエルが起きてきた。
「うーす……」
「おはよう、ミハエル。本当に朝弱いな」
俺は苦笑しながらミハエルに挨拶する。
「おはよう、ミハエル」
「おはようございます」
「おう、おはよう。朝はなー中々起きれねぇ」
「ま、遅れてきたりするわけじゃないし問題はないけどな」
「そーだろそーだろ。てかルカ、俺もみそ汁くれ」
「ああ、ちゃんとミハエルの分もあるよ」
苦笑しつつ俺は全員に味噌汁を配る。
それぞれの礼の言葉を聞きつつ俺も席につく。
朝食を食べながら、俺は昨日の考えを話す。
「――というわけで、今後も前衛として動いていこうかと。とはいえ、ミハエル一人でいい場合は俺は任せるし、そこは臨機応変に、かな」
「いいんじゃね? 俺も近接がいる方がそういう動きの訓練になるしな」
「私も問題はないわ」
「ルカさんがいないのは少し不安ですが、頑張ります!」
全員の許可がでたところで俺は自身の今の時点での欠点も話しておく。
「俺もまだ前衛としては動きがうまいわけじゃない、というか、後衛の位置取りまで気に掛けれるほどの余裕はないから、攻撃が大変かもしれないがそこはしばらく我慢してくれ」
「ふふ。大丈夫よ。そこは私たちのやり方次第だわ。前衛は気にせず動いてくれていいわよ」
「はいです。お姉ちゃんの言う通りなので、私も頑張ります」
今日で多分この階層を抜けて六十五階にはたどりつけるはずなので、エルナには少し神経を使わせるかもしれないが問題はないだろう。
「それじゃ、今日も頑張ろうか」
「ええ、ルカも無理しないで頂戴ね」
「ああ、無理はしないさ」
フィーネの気遣いに感謝をしつつ、俺たちはセーフゾーンを出て六十五階を目指した。
狩りをはじめて数時間、昼食を終えてすぐ、やっと四個目のミスリルの塊がでた。
「お、やっとだな。これで俺のミスリルの剣が作れる」
「ちょうど明日明後日は休みの予定だしいいじゃん」
「ああ、父さんに作ってもらうよ。ついでにいい皮職人がいないかも聞いておく」
「そうね、Aランク相当の階層だから、加工できる職人さんがいるかが問題ね」
「ああ、そうなんだよ。鉱山ダンジョンだから鍛冶師は腕のいい人が多いんだけどな」
そんな会話をしつつ先へと進む。
ウードがAランク相当の皮を加工できる職人を知らない場合は、木工職人のバルドゥルさんや、ギルドマスターあたりにも聞いてみようとは思っている。
何度か休憩を挟みつつも俺たちは順調に狩りを進めることができている。
ヒュドラの鱗皮もまだ一人分の三十枚にはまったく足りないのでしばらくはヒュドラが一番多く出る階層で狩りをすることになるだろう。
そうしてやっと階段へとたどりついた。
俺は首を回しながら声を漏らす。
「あー疲れた。やっと階段か」
俺の声を聞いたミハエルが苦笑しながら俺の肩を叩く。
「おう、お疲れ。俺も最初のころはそんな感じだったからな、わかるぞ」
「はは。サンキュー」
「さんきゅー?」
ミハエルの疑問の声に、ああ、と思う。
「あー前世で他の国の言葉で、ありがとうって意味だ」
「ふーん? なんでありがとうじゃだめなんだ?」
「ダメってわけじゃないんだけどな、言いやすいんだよ。気軽に使える言葉って感じか」
「へぇ。さんきゅーか。いいな。ルカ、教えてくれてさんきゅー」
ミハエルが笑いながらそう言った。
どうやら言葉の響きを気に入ったらしい。
六十五階へ下りたところでミニマップを確認するとモンスターの数が十匹ではなく六匹に減っていた。
ということはこの階層からはモンスターが新しくなるということだ。
「この階層からモンスターが新しくなるみたいだな。となるとヒュドラの皮集めは六十四階ですることになるな」
「まじか。ま、しゃーねぇな」
「頑張ります!」
「そうね、頑張るわ」
エルナは若干疲労しているが、そこまでではないので大丈夫そうだ。
「じゃ、帰ろうか」
俺の声に全員が頷き、転移柱に触れて一階へと戻った。
明日は朝一でウードのところへ行くとしよう。
翌日、朝食をとった俺は宿屋を出てウードがいる鍛冶場へと足を向けた。
他のメンバーも何か手伝おうかと申し出てはくれたが、ただ聞いて回るだけなので自由にしてもらっている。
鍛冶場について中へ入るが店番は誰もしていないようで、俺は中に顔を出した。
以前俺とウードが親子と聞いて驚いていた兄さんが何かを磨いていた。
「おはようございます」
俺がそう声をかけると兄さんがこちらを向き、俺を確認した。
「ああ、坊ちゃんか。親方は奥にいるよ」
「ありがとうございます。中、失礼しますね」
「ああ、気にせずいってくれていいよ」
兄さんの声に礼を言って俺は中へと入っていった。
他の職人さんにも頭を下げつつ、奥へ向かうとウードが何か鎧の確認作業をしていた。
真剣にチェックしているので俺は黙って待つことにした。
数分して、確認作業を終えたウードが一息ついたのを確認して俺は声をかけた。
「父さん、おはよう」
「お? ああ、ルカ。いつからいたんだ?」
「少し前からだけど、仕事中だったから」
「なんだ、気にせず声をかけてくれてよったんだぞ。それで、どうした?」
「うん、素材が集まったから、父さんに依頼にきたんだ」
「なるほど。依頼を聞こう」
「うん。ミスリルの剣の製作をお願いしたいんだ」
「ふむ。ミスリルの剣か。わかった。何か注文はあるか?」
「うん、持ち手もミスリルで作ってほしいんだ」
「なるほど、できはするが、なぜだ?」
「ミスリルは魔力の通りがいいのは父さんも知ってるよね?」
俺の言葉にウードは頷く。
「以前知り合いにミスリルの短剣を借りたんだけど、持ち手が鉄で刃の部分がミスリルだったんだ。ただ、それだと魔力を流したときに、刃はミスリルだから通りがいいんだけど、持ち手部分が鉄だから通りが悪くてね。だからすべてをミスリルで作りたい」
「なるほどな。ということは持ち手と刃の部分も繋がっている方がいいということか」
「うん」
「ふむ……」
ウードは少し考え込むようにアゴに手を当てて黙り込んだ。
俺はウードの考えがかたまるのを待つ。
「一応イメージはできた。ちょっと説明するからルカの理想とする物か聞いてくれ」
「うん」
ウードが説明してくれたものは俺がイメージしていた物だった。
「うん、さすが父さんだね。それは可能?」
「ああ、もちろんだ。難しくはあるが任せておけ」
そう言ってウードはニヤリと笑ってみせた。
怖いです。
でも、なんだかその顔を見た俺は誇らしかった。
俺も自然と笑みを浮かべる。
「さて、それじゃちょっと調整するか。今使ってる剣はあるか?」
あるにはあるが、あれはミハエルの剣のコピーなので俺は首を振った。
「そうか、そうだな……。うん、これあたりか。ルカ、裏庭でこれを振ってみてくれ」
「わかった」
俺はウードに渡された剣をもって裏庭へ向かう。
ウードは俺に渡したのとは別に三つの剣を持ってきている。
多分それぞれ重心の違う剣なのだろう。
剣術強化・大に関してはもうずっとかけっぱなしにしているので、俺は裏庭についたところで演武をはじめる。
とはいっても、ミハエルほどの流麗さはないが。
裏庭に用意されている藁人形や木の人形を相手に切り払い、突き刺す。
しかし鉄の剣なので攻撃自体は軽く切ったり刺しているだけだ。
一通り動いて俺は剣を振るのをやめた。
「大体わかった。次はこの三本のうち一番いいのを選んでくれ」
「うん」
俺は三本振った結果、一番最後の剣を選んだ。
「三本目が一番使いやすいかな」
「なるほど、わかった。あとはそうだな――」
そのあとは持ち手部分についてどれが握りやすいかなど細かく決めていく。
とはいっても俺の剣はあくまでも魔法のサポート武器となる。
それでもあるとないとでは攻撃の幅が変わってくるのと、俺だけのための武器というのがやはり嬉しい。
色々とウードと話し合い、制作には一週間かかるとのことだった。
ちょうど他に防具の依頼もあるというのと、刃から柄まで一体型で作るので鉄で試したりしてから作るので時間が必要らしい。
俺としては急いでるわけでもないのでそのあたりは完全に任せることにした。
「そうだ、父さん」
俺はミスリルの塊を取り出しつつウードに声をかけた。
「なんだ?」
「いい皮職人さんを知らない? Aランク相当のモンスターの皮を加工できそうな人」
「あー……。Aランク相当か……俺の知ってる限りじゃいないな」
「そっか」
「バルドゥルとかなら顔も広いし知ってるかもしれんな」
「じゃあ、バルドゥルさんにも聞いてみるよ」
「ああ」
「じゃあよろしくね、父さん」
「任せておけ」
ウードはそう言うと俺の頭をワシャワシャと撫でた。
俺は苦笑しつつあちこちにはねる髪の毛を手櫛で直しつつ、ウードに別れを告げて鍛冶場をあとにした。
さて、次は久しぶりにバルドゥルさんに会いにいこう。
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