109 もふもふとにょろにょろ
今日から六十三階だ。
セーフゾーンから出て階段へと向かう。
階段までの途中にケルベロスの集団がいたのでいつも通り倒し先へと進む。
「さて、やっぱりここからはモンスターが変わるみたいだ。六匹になってる。でも数自体は多いな」
「確かにな。ま、慎重にいくか」
「そうね」
「はいです」
そのまま足を進め、最初のモンスターたちに出会った。
ケルベロスが四匹、そして新しいモンスターだがこちらも三つ首のヒュドラで二匹だ。
うねうねと灰色の体をくねらせ、頭は常に持ち上げたままの状態で移動をしている。
「おお、頭だけで数えれば十八匹だな」
「そうだな、近接攻撃なんかだと十八匹からの攻撃になるな。とはいえ、ケルベロスと同じなら一つの頭が魔法を撃っていれば他の頭は魔法が撃てないはずだが、とりあえず鑑定してみるか」
「お願いするわ。危険な攻撃がなければいいけれど」
ヒュドラの攻撃はそれぞれの首でブレスの種類が違うらしい。
どの頭がどのブレスかは決まってはいないらしく、ただ、毒、氷結、麻痺のブレスを撃ってくるようだ。
しかしブレスの吐く方法については記載にない。
あとは近接攻撃で、巻き付き、噛みつきあたりだ。
全長は三メートルほどあり、牙にはかなりの猛毒があるらしく、噛まれたら最後助からないそうだ。
「近接攻撃は問題ないが、ブレスが厄介だな」
「そうだな、しかもどの首がどれかはわからねぇわけだしな」
「無効化魔法かけておくか?」
「いらねぇって言いたいところだが、かけておいた方がいいだろうな。それとルカ」
「ん?」
「さすがに俺一人じゃ対応しきれん、お前も前衛で頼むわ」
「そうか、わかった」
さすがにミハエル一人では新しい敵含む十八個の頭たちへの対応は控えたいようだ。
ケルベロスはともかく、ヒュドラは首が長いからな。少々厄介といえる。
そもそもこれまでずっと一人で対応していたのが凄いのだ。
「エルナ、前衛が二人になるから狙いが難しいかもしれないが、無理しない程度でいいからな。あまり張りつめ過ぎてもあとがもたないから、適度にな」
「はい。頑張ります」
俺の言葉にエルナはそう言ったがやはり少し緊張している。
このままでは長時間持たないのだが、と思っているとミハエルがエルナの頭をぽんぽんと叩いた。
「エルナ、そう気を張んな。そんなに気を張ってたらうまくいくもんもいかねぇぞ。お前なら冷静にやればできる」
ミハエルの言葉に、エルナの張っていた肩が下がり、恥ずかしそうに頬を染めている。
さすがのミハエルさんです!
「はい」
エルナの返事にミハエルは優しい笑みを浮かべ再び頭をぽんぽんしている。
天然イケメンめ。
全員に完全無効化の魔法をかける。
完全無効化魔法は、物理もこういう麻痺や毒なども完全に無効化になる。
どちらにしろ攻撃は当たらないので問題はないだろう。
全員にかけたのは毒ブレスがその場限りなのか、空気に漂うのかがわからないからだ。
まぁ、もし漂う場合はケルベロスも死ぬんじゃないかと思うのだが、もしかしたら一緒にいるということはヒュドラのブレスへの耐性があるのかもしれない。
俺自身にも強化魔法などをかける。
ミハエルほどには剣で動けないが、これで俺も前衛として動ける。
魔法をかけつつ、俺はフィーネに視線を送る。
俺の視線を受けたフィーネは軽く頷いた。
これでフィーネはエルナについて気にかけてくれるだろう。
――きっと俺が頼むまでもなくしてくれたではあろうけども。
肩ひじ張り過ぎていたらフィーネがエルナに声をかけてくれるはずだ。
ミハエルの言葉があったから問題はないと思うが、エルナは時々頑張り過ぎてしまう。
そのあたりは俺たちが気にかけてあげれば問題はない。
「よし、それじゃいくか」
「おう」
俺とミハエルは同時に走り出す。
ミハエルは右側に弧を描くように逸れていき、俺は左側に弧を描くように逸れていく。
真っ直ぐ二人で突っ込むとお互いの戦闘の邪魔になるのと、エルナやフィーネが攻撃をしやすいようにするためだ。
俺は左側へと回り込み、近くにいたケルベロスの首の一つを勢いで刎ねる。
しかし中央の首を刎ねる前に他のケルベロスがこちらへ攻撃を仕掛けてきた。
俺はシールドを張って攻撃を防ぎ、今度はそのケルベロスの首を切りつける。
さすがに角度が悪く切り飛ばすことは無理だったが、半ばほどまでは切れている。
俺の方にはケルベロスが三匹きており、ミハエルにはヒュドラ二匹とケルベロスが一匹いっている。
ただ、ケルベロスの方はすでにフィーネによって頭が一つ潰されているようなので時間の問題だ。
遠目から見た感じではエルナも落ち着いて狙っているように見えたので問題はないだろう。
とりあえず俺は自分にきているケルベロスの始末に集中しよう。
まずはどれでもいいので首を落としていこう。
俺は手近にいた先ほど半ばまで切ったケルベロスの首を狙っていく。
しかし狙っていたケルベロスの左側から別のケルベロスがブレスを吐いてくる。
俺はシールドを二枚張ってブレスを防いだ。
その間にまた切りにくい向きになってしまったので、俺は剣で対応するのを止め、普通に魔法を使っていくことにした。
というかそもそも前衛としての動きをミハエルと同じにしたのが俺の間違いなのだ。
俺は魔法ありきでの前衛として訓練をしてきたのだから、魔法を使うべきなのだ。
案外ミハエルと一緒に前衛をするのが初めてで緊張していたのかもしれない。
思わず俺は自身に苦笑してしまった。
そこからはオーラバーンでケルベロスに距離をあけさせ頭部にジャベリンを撃ち込んで始末していく。
一番楽なのはサンダージャベリンかもしれない。
頭部を一つ潰せるうえにそう長くはないが三秒ほど麻痺するのでやりやすいのだ。
――見た目も派手なので撃っていて少し楽しいというのもあるが。
一匹目を倒し終え、次に視線を移すとちょうどアースジャベリンが突き刺さっていた。
ジャベリンが刺さったことによる痛みでケルベロスが怯んだので俺は続けてそのケルベロスの中央の頭部にサンダージャベリンを撃ち込む。
これで二匹が終わり、俺のところにいるケルベロスは残り一匹だ。
チラリと視線をミハエルに移すと、どうやらすでにヒュドラ一匹とケルベロスも始末し終えているようで、最期のヒュドラに取り掛かっていた。
ミハエルのヒュドラ戦をほぼ見れなかったのでヒュドラの特徴が分からずじまいだ。
あとで確認をしないとならない。
そんなことを考えつつもサンダージャベリンを撃ち込み最後のケルベロスに止めを刺した。
俺が倒したのと同時くらいにミハエルもヒュドラに止めを刺していた。
三つの首全てが切り落とされているので、多分全ての首を落とさないと死なないのだろう。
ケルベロスのドロップ品を拾いつつミハエルのもとへ向かう。
「お疲れ。ミハエル、ヒュドラの特徴をざっと教えてくれ。そっちの戦いを見れなかった」
「おう、まぁブレスはケルベロスと同じでどれかがブレス吐いてると他の首は吐けねぇみたいだな。あと首は一定時間内に全部切るか潰さねぇと復活するみたいだが、完全には把握できてねぇな」
「そうか。まぁ完全に把握せずとも倒せるなら問題ないだろう」
「ああ、ケルベロスもヒュドラもさしてかわんねぇと思う。ただまぁヒュドラのが首がなげぇから頭の自由度でいや、ヒュドラのが可動域がひれぇ。だからヒュドラ六匹とかはきついかもしれねぇな」
「なるほどな」
俺たちが会話してる間にフィーネたちもこちらに来ており、ミハエルの説明を聞いたフィーネが言う。
「それなら、ヒュドラに関しては私たちは手を出さない方がいいかもしれないわね。どうしても一気に三つも頭を潰せないから」
「ああ、そうだな。ヒュドラに関しては俺かミハエルだけでやる方がいいだろうな」
「そーだな。まさか首がまた生えてくるとは思わなかったぜ」
「結構早いか?生えてくるの」
「おう、肉が盛り上がったかと思うとにゅるっと生えてきたぞ。すげぇ再生力だよな」
「確かにな」
ヒュドラへの対応は俺とミハエルがすることになり、ケルベロスはこれまでと変わらずフィーネやエルナも攻撃をすることになる。
ただ、一グループ倒すのにそれなりに時間がかかるのと、階段までが少し遠回りがいるので、六十三階を抜けきるのに一日以上はかかることになるだろう。
だが考えれば『シュラハト』はこの階層も抜けているわけだ。
俺のように無効化魔法を使えるわけでもなく抜けたということになる。
やはり彼らは強い。
レオンが飛びぬけて強くはあるが、それだけではここを突破はできない。
基本的にはレオンのサポートなのだろうが、それでもこの数がいてレオンが倒せるようにサポートするというのは至難の業だ。
対人となるとパッシブ魔法などで明確な差があるかもしれないが、モンスター相手であればただパッシブ魔法が強ければいいというものでもない。
もちろん強いことに越したことはないが、テクニックや知識による動きも大事になる。
何よりも、サポートというのは本当に神経を使うのだ。
彼らはきっとまだまだ強くなる。
俺たちも負けてられないな。
気合いを入れなおし、再び狩りへと戻った。
次のモンスターグループでは俺の方にヒュドラが一匹、ケルベロスが一匹しか来なかったので、ミハエルに体を向けているケルベロス一匹のヘイトをこちらへ向けるためにウインドバレットを数発撃ち込んでおく。
ウインドバレットを撃ち込んだケルベロスがこちらへと振り向いたのを確認し、近くにいるヒュドラの首の一つにサンダージャベリンを撃ち込んでみた。
ヒュドラにサンダージャベリンを撃ち込むとケルベロスよりは短い時間だが少しの間動きが鈍くなった。
どうやら雷耐性はないようでケルベロスと同じく頭部は潰せるようだ。
しかしただ頭を潰しただけだとどうやって首は復活するのだろうか。
そう思った俺はヒュドラをそのままにして、ケルベロスの相手をすることにした。
ケルベロスの相手をしつつヒュドラを観察した。
なるほど、気持ち悪いな。
頭が潰れ、死んだ首を引きずっていたヒュドラだが、首の根本から死んだ首がポロリととれたのだ。
まるでトカゲの尻尾のように。
俺は前世の記憶を基に、すぐにその根本目掛けてファイアボールを撃ち込み焼いてみた。
少し観察したところ、前世の設定にあるヒュドラの首の切り落とした部分を火で焼けば復活しないというのはこのヒュドラには適応しないらしい。
普通に焼けた部分の肉が盛り上がり首が生えた。
それでも肉が盛り上がったあと、首が生えてくるまでに時間はかかっていたので効果はあるのだろう。
――とはいえ、あまり効果は大きいとは言えない。普通に倒してしまうほうがいいだろう。
そうしてしばらく戦闘を続けて全てを倒しきった。
「お」
ミハエルの声に俺がそちらを向くと、ミハエルはその手に蛇の皮を持っていた。
「お」
思わず俺もミハエルと同じ声を出してしまう。
俺たち待望の皮だ。
これが性能が良ければミノタウロスの皮を鎧にしなくてすむ。
鑑定が楽しみだ。
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