108 ミスリルの矢
六十一階で夜を過ごし、俺たちは六十二階へと足を運んだ。
「お、結構多いぞ。十匹の集団になってるみたいだ。さすがに単独じゃなくて全員でいこうか」
「おー多いな」
「わかったわ」
「はいです!」
今のところインゴットの塊は一つしかでていない。
本当にレアだな。
正直上の階層で鉱石を集めた方が早い気もするが、そうなると人が多いし何よりドロップがおいしくない。
まぁまだ階層はある。六十五階につくころにはあと二つくらい集まるだろう。
ケルベロスが十匹ともなると中々に壮観だ。
ミハエルがケルベロスに群れに躍り込み、フィーネの鋭い弓が連続で飛び、俺のジャベリン、そしてエルナのジャベリンが飛ぶ。
ルーツもサイレンスもかけていないのでミハエルに向けてファイアボールが乱舞して炎のブレスが飛び交う。
しかしどれもミハエルに当たることはない。
ファイアボールはほとんどが切り裂かれ、ブレスは吐く方向を誘導されているらしくミハエルがすでに移動した方向に向けてブレスが吐かれている。
ある意味で曲芸を見ている気分だ。
ミハエルは密集するケルベロスの背を踏み台にして移動を続けている。
ミハエルが動き回っている間にケルベロスの数を減らす。
しかしそろそろフィーネの矢はもう少しいい物が欲しいな。
コーティングなどで強化はしているが、所詮三十六階で出たものなので、今の階層に合っていない。
回収しなくても自動で戻ってくるのは便利ではあるのだが、威力が低いのが問題だ。
一定数ケルベロスを始末したところで残りはミハエルとエルナに任せるとして、俺はフィーネに声をかけた。
「フィーネ、その矢は便利だけどそろそろ威力が厳しくないか?」
弓を撃っていたフィーネは撃つのをやめると俺を見た。
「ええ、正直少し前から何度も撃ち込まなくてはいけなくて。ケルベロスに対して近接攻撃していたのは訓練も兼ねていたけど、矢の威力がないからというのもあったの」
「やはりそうか。矢も新しく作ろうか?自動で戻るっていう便利機能はなくなってしまうが」
「回収するのは大変だけど、威力が上がるならそちらの方が嬉しいわ」
「じゃあ今日の昼食の時に作ってしまうよ」
俺の言葉にフィーネは笑みを浮かべた。
「ありがとう、ルカ」
フィーネの笑顔は本当に魅力的で困る。
彼女の笑顔に胸の動悸を感じつつも再び狩りへと戻った。
六十二階を半分ほど過ぎたあたりでセーフゾーンが近かったので少し早めだが昼食にすることにした。
セーフゾーンに入り、俺たちは食卓についた。
「なーなー、ルカ。昨日の昼に食った紙に包んだやつ、あれもうねぇの?」
「あるぞ」
「金払うからくれよー」
俺はそんなミハエルに苦笑しつつアイテムボックスから照り焼きバーガーを取り出しつつ言った。
「別にいらないぞ。気に入ったのか」
「おう。おーこれこれ」
「フィーネたちはどうする?」
「あ、良ければ欲しいです!」
「ああ、いいよ」
「私は今日はやめておくわ」
「わかった」
フィーネはいらないらしいのでミハエルとエルナだけが照り焼きバーガーを食べることになった。
「さすがに今日はポテトはないから足りない分は自分の食糧で頼む」
「おう」
「はいです。おいしいですー」
「なーうめぇよなー」
俺は普通にサンドイッチを取り出して食べる。
フィーネはホットドッグにするようだ。
ふと俺は、もしかしたらフィーネはコーヒーとか結構好きかもしれないと思った。
紅茶もどちらかというと苦味のある方を好むし。
俺が飲んだことがあるのは某コーヒーショップのコーヒーかインスタントくらいだが、試しに勧めてみよう。
「フィーネ、多分君が好きそうな飲み物があるんだが、試してみないか?」
「あら、本当に? ぜひ飲んでみてみたいわね」
さすがにこの世界ではまだコーヒー豆なんて見たことがないので飲んだことはないと思うのだが。
俺は具現化魔法でコーヒーカップごと作り上げる。
一応、砂糖とミルクも用意しておく。
「結構苦いから、こっちが砂糖でこっちがミルクな。苦い場合はどちらか片方か両方いれてみてくれ」
「まぁ、真っ黒い飲み物なのね? 昨日のこーらと似てるわね」
「はは、確かに色は似ているかもな。でも味はまったく違うよ」
俺は最初はストレート、後半に砂糖やミルクを入れるのが好きなのだ。
フィーネはまず一口そのまま飲んだ。
「ああ、いいわね。いい苦味だわ」
どうやらフィーネはストレートが好きらしい。
「お姉ちゃん、ちょっとだけ頂戴」
「いいわよ。でもきっとエルナは苦手よ? とても苦いもの」
フィーネの言葉にエルナは少し怖気づいたようだが、好奇心の方が勝ったらしく、ちょっとだけ口をつけた。
「わっ にが~い……」
「クスクス。だから言ったじゃない」
そんな二人を見て俺はほっこりした気分になる。
チラリとミハエルを見て言う。
「ミハエルも試してみるか?結構苦いけど」
「俺はあんまにげぇの好きじゃねぇしなー」
「まぁ試してみろよ」
ミハエルは嫌そうにしつつもとりあえず少しだけ口をつけた。
「うぇ、にっげぇ。無理。俺はこれは無理だわ」
「はは。やっぱり無理か。ま、これで許せ」
俺は代わりにコーラを取り出してミハエルに提供した。
それでミハエルの機嫌は良くなったのでよしとしよう。
食後の休憩時間に俺はフィーネの矢を作ることにした。
『シュラハト』の弓使いの彼に作ったのとは違ってミスリル製の矢だ。
さすがにアダマンタイトでは重すぎるので矢が飛ばないだろう。
彼に矢を作ったときはまだミスリルを触っていなかったので作れなかったのと、ミスリルの矢は彼と別れたあとに思いついたので作れなかったのだ。
次に会えたときには彼にもミスリルの矢を渡そう。
「フィーネ、ミスリルの矢はどうだ?多分軽いとは思うんだが」
「ちょっと撃ってみてもいいかしら?」
「ああ、かまわない。感想を聞かせてくれ」
フィーネはミスリルの矢を受け取ると重さを確かめるように手でしばらく持ち、それから弓につがえた。
キリキリと弦を引き絞り、ダンジョンの壁に向かって矢を放った。
ヒュンと音を立ててミスリルの矢が光の帯をたなびかせながら飛んでいく。
ミスリルの矢は洞窟の壁にガスっと音を立てて刺さった。
さすがに木の矢と違って砕けることもないし、威力は高そうだ。
「どうだ?」
「いいわね。軽いのに手応えは重くていい感じよ。これにルカのコーティングと切れ味をかけてもらえればアダマンタイトの矢以上の強さになりそうね」
「なるほど、アダマンタイトと違ってミスリルは親和性が高いからな。アダマンタイトにかけるよりは効果もあがりそうだな」
「ええ。お願いしてもいいかしら?」
「ああ、やるよ。何本くらいミスリルの矢があるといい?」
「そうね……予備と余裕を考えて三十本ほどあるといいかしら」
「わかった。作って魔法付与もしておくよ」
「ありがとう、ルカ。助かるわ」
一度矢を作ったのであとは簡単に残りの矢を作ることができる。
これにあとは魔法付与をしてしまえば完成だ。
ただ一本一本かけないといけないのでそこが少し手間ではある。
少しだけ休憩時間が長くなってしまったが無事に矢はすべて完成した。
フィーネは大事そうに矢筒にミスリルの矢を入れている。
数本魔法の矢も残しているのはタゲを取るとき用だろう。
休憩を終えて再び狩りを再開する。
先ほど同様ミハエルが先行し、俺たちが数を削る。
ある程度数が減ったところでフィーネの様子を見ると、魔法の矢では十数回も撃ち込んでやっと潰していたケルベロスの頭部がミスリルの矢だと目から貫通させれば一本から二本、目が無理でも三から四本撃ち込めばどうやら頭部を殺すことが可能なようだ。
しかもこれまでと違って淡く光っているのでどこに刺さっているのかがよくわかるし、矢の回収もこれなら随分楽になるだろう。
順調に狩りを続け、夜になる頃には階段の近くにあるセーフゾーンへとたどりつけた。
「それじゃ今日はこの辺で終わろうか」
「もうそんな時間か」
セーフゾーンへと移動していく。
「これまでの傾向なら次の階から新しいモンスターになるかもな」
「そうね、あまり厄介な敵じゃなければいいのだけれど」
「そうだな」
明日からは六十三階になる。
どんなモンスターが出てくるか。
Aランク相当の階層なのだ、油断はできないだろう。
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