107 久しぶりの照り焼きバーガー
翌日、いつも通りに宿屋を出てダンジョンへと向かった。
受付で入場タグを渡して内部へと向かい、転移柱に触れて六十階へと飛ぶ。
「とりあえずは肩慣らしで昨日と同じ感じで行こうか」
「分かったわ」
「はいです」
「おう、んじゃ俺からなー」
こうして俺たちは次の転移柱のある六十五階を目指して移動をはじめた。
六十階も洞窟内はかなり広大ではあるが、昨日俺たちがモンスターを狩り尽くす勢いで狩ったのでそれほどモンスターの密集度は高くはない。
これなら昨日よりも早い移動になるだろう。
昨日と同じく交代制で狩りをしていたが、途中でフィーネがソロ、俺とエルナのペアに変えた。
というのも、動き回るフィーネに注意をずっと払い続けていたエルナが少々疲れが見えてきていたので、俺とのペアに変えたのだ。
これからしばらくダンジョン生活なので疲労を溜めすぎるのも良くない。
さすがにまだ完璧とはいいがたいジャベリンを使って常に動き回るフィーネに注意を払いながら撃つというのは神経が磨り減ることだ。
今はエルナにとって精神的には休憩時間ではあるが、どうせなら楽しく休憩する方がいいので、俺と勝負にしている。
倒した数を競うのではなく、俺は例えば、ケルベロスの右の頭部の右目を狙い、エルナは左の頭部を狙ってどちらが早く当てられるかというような競争だ。
俺よりもまだ精度がいいわけじゃないのでこのくらいでちょうどいい戦いになるし、エルナの精度訓練にもなる。
それなりにエルナもジャベリンを撃ってはいるのだが、やはり上級ということか、ジャベリンに籠める魔力量が安定していないせいか、精度が安定しないのだ。
とはいえ、最初の頃に比べると物凄く精度は良くなっているので、こうして訓練を続ければ魔力量も安定して落ち着くだろう。
「あ、当たりました!」
「む、俺はまだだな。負けか。よし、次だ次」
「はいです!」
そう言いながら左の頭部が潰れたケルベロスに俺はジャベリンを撃ち込んで止めを刺し、次のケルベロスを狙う。
「おし! 当たったぞ」
「はうう、はずれてしまいました」
今回の勝負は俺の勝ち越しである。
そうして休憩ついでの訓練遊びを交えつつ進み、六十一階への階段へとたどりついた。
階段を下り、俺はミニマップの確認をする。
しかし残念ながら宝箱はないようだ。
「敵の数が六匹に増えたな。ケルベロスだけだと思うが、一応確認してから考えようか」
「そうだな」
六十階からはAランク相当になっているのならもしかしたら一階層ずつ敵の種類が変わるか、増えるかもしれない。
一応そういった話は聞いてはいないが、注意は必要だ。
階段のある部屋から出て進み、最初のグループをみつけた。
「全部ケルベロスみてーだ」
「そうか、さて、またソロでいくか?」
「俺はそれでかまわねぇぞ」
「私は少し不安ね」
フィーネが少し懸念を示したので、俺がサポートすることにした。
「じゃあ俺が二匹ルーツかけようか?」
「そうね、それでお願いできるかしら?」
「わかった。俺は引き続きエルナとペアで勝負の続きとしよう」
俺がそう言うと、エルナは胸の前で可愛らしく両手で握りこぶしを作って意気込んだ。
「次は負けないです!」
ミハエルがエルナを見て優しい目をしているのを見つけた俺が少しニヤッとしてミハエルを見ると、ミハエルが嫌そうな顔をして言った。
「行こうぜ」
俺はそれ以上は追い詰めずに普通に返事をする。
「そうだな」
六十一階も次の階層への階段へ向かいつつ、交代で狩りを続け、少し昼を過ぎたが、セーフゾーンの近くにきたので昼食にするために声をかけた。
「セーフゾーンの近くにきたし、昼にしようか」
「はいです」
「おう」
「ええ」
セーフゾーンに入ったところで、俺はアイテムボックスから次々にテーブルや椅子をとりだした。
どうせ人はいないので快適に過ごせるようにしたのだ。
「あれだな、どんどん快適なダンジョン生活になるな」
ミハエルが苦笑しながら言う。
「そうね、ありがたいわ。地べたに座るのも慣れたとはいえ、やっぱり椅子に座って食事する方がいいもの」
「私もローブを汚したくないので嬉しいです」
Bランク試験へ向かう道中も、エルナは何かしら布をひいて地面に座らないようにしていたからな。
汚れ防止がついているとはいえ、やっぱりローブを大事にしたいのだろう。
「人がいないからこそできることだけどな」
俺は笑いながらそう言った。
席についた俺たちはそれぞれアイテムボックスに保管していた屋台広場で買ったものや、自分で作った料理を取り出して食事を開始した。
俺の今日の昼ご飯はちょっとお試しで作ったバーガーである。
某有名なバーガー店にある照り焼きバーガーが俺は好きだったので、その再現だ。
バンズをあの形に焼き上げるのが俺には不可能だったので、バンズや、紙も当然ポリエチレンとか存在しないので具現化魔法で作っている。
俺が具現化魔法で作らなかったのはパテと野菜だけかもしれない。
――フィーネやエルナにもすでに俺の前世については話しているので気にすることなく出せるのではあるが。
カサカサと紙の包みを開いてかぶりつく。
「うん、おいしいな」
「お? なんだよそれ」
「ん? ああ、前に話した俺の記憶にある食べ物だよ。いるか?」
「おう、くれ」
まだ何個か作ってあるので、というかきっとミハエルも食べたがるだろうと思い作っておいたのだ。
「フィーネたちも良ければどうだ?」
「あら、いいの? それなら頂きたいわ」
「食べたいです!」
俺は笑みを浮かべてフィーネとエルナにも渡した。
「あとはこれもどうぞ。ケチャップもあるからつけてもいいし、そのまま食べても塩味がついてるから問題はないと思う」
そう言って大きめの皿に盛ったポテトと、ケチャップを取り出した。
当然揚げたてのアツアツポテトだ。
照り焼きバーガーを食べた面々が次々感想を述べた。
「おー。こりゃうめぇな」
「本当ね、とてもおいしいわ」
「タレが甘くて、まよねーずと絡んで、とってもおいしいです!」
みんな大変気に入ってくれたようだ。
「なぁこれじゃが芋なんだよな?」
ミハエルがポテトをかじりながらそう言った。
「そうだな、細く切って高温の油で揚げて塩をかけたものだ」
「うめぇよなー」
ミハエルがしみじみと呟いた。
苦労した甲斐があったというものだ。
フィーネは笑みを浮かべてエルナに話かけている。
「クセになるわよね」
「うん。私はケチャップにつけるのが好き」
エルナはケチャップにつけて食べている。
しかしこうなるとコーラが飲みたくなってしまう。
……作ろう。
俺はその場でコーラを具現化した。
もちろんペットボトル入りだ。
「なんだそれ?」
再びのミハエルの疑問に飲み物であることを伝えた。
ただ、この世界で炭酸といえば俺が知っているのはエールくらいなのだが、あれもそこまで強いものではない。
だから炭酸が苦手な可能性もあるので、その注意をしつつ、全員にコップに注いで渡した。
「わわ。なんだかすごくシュワシュワいってます!」
「うお、きついな。でもうめぇな」
「ん。炭酸がすごいのね。でもゆっくり飲めば大丈夫だわ」
それぞれ感想を述べてコーラを味わっている。
ただやはりフィーネとエルナは強い炭酸が少し苦手なようだ。
それでもゆっくりであれば飲めるし、おいしいと言っていた。
ミハエルは勢いよく飲み過ぎてゲップが出ていたけど。
俺としては久々に食べられて実に満足だ。
この世界でも工夫すればおいしい料理はできるけど、どうしても幅がない。
本当に、前世の世界は食に対するこだわりのある世界であった。
この世界は、気候や食材の違いがあるが、モンスターがいるせいや、車や飛行機がないので流通がスムーズではなく、あまり食の発展はしていない。
――それでも工夫してギーレンの宿屋のように独自においしい味付けを創造している人もいるのではあるが。
「さて、それじゃ一休みし終わったし、狩りに戻ろうか」
「おう。腹ごなしの戦闘だな」
「はは。それじゃミハエルから開始でいいぞ」
昼食を終えた俺たちは再びセーフゾーンから出て戦闘を開始した。
最初はミハエルから開始だ。
相変わらずいい動きをする。
しかしレオンとの戦闘でミハエルの動きには柔らかさが加わり、実に動きが滑らかになった。
これまでだと素早く動いて回避だったのだが、なんというか、言葉にするならぬるりか?
ちょっと言い方としては良くないが、本当につかみどころのない動きをする。
風に舞う木の葉といえばいいか。
ケルベロスが、接近してきたミハエルに噛みつこうとしてはミハエルにそれをふわりと避けられる。
そして、そのたびにケルベロスは首を失っていく。
近すぎるがゆえにケルベロスは炎を吐いても当たらない為こうして噛みついているのだが、少し離れた場所にいるケルベロスはブレスや魔法を撃ちこんできている。
とはいえ、魔法に関してはバレットではないのでその速度は遅い。
しかもファイアボールなので、的も大きく、あれではミハエルにあっさり切り裂かれるだけである。
――ちなみに、ケルベロスは炎耐性がかなり高いようで、味方の炎のブレスや、ファイアボールが当たっても平気なようだ。
ブレスに関しても、今戦っているケルベロスを盾にすればいいだけなので問題はないだろう。
ケルベロス自体、体高が一メートルくらいあるので盾代わりにするのは余裕である。
そうこうしているうちに一匹目が消えた。
ケルベロスは三つ首ではあるのだが、どうも中央の首と、もう一つ左右どちらかの首を落とされた時点で死ぬらしい。
心臓を一突きできれば簡単ではあるが、外側の首が簡単にブレスを浴びせてくるので、手間がかかるらしく、首を二つ落とす方が早いようだ。
もしこれがレオンだとどうするだろうか。
レオンの場合は、実に強引に切り裂いていそうな気がする。
もしくはまとめてあの大剣で首を切り落とすか、だろうか。
ミハエルと違って細やかな動きは苦手そうである。
そんなミハエルの戦闘を眺めつつ、六十一階の攻略を進めていった。
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