106 地下六十階の危険なもふもふ
周囲が茜色に染まり始めたころ、馬車の操作をしていたミハエルが声をあげた。
「お、シュルプが見えてきたぞ」
「ああ、本当だな。帰ってきたな」
「おう」
あれから二週間と少し、道中一度ゴブリンが出た程度で問題なくシュルプへと帰ってくることができた。
シュルプについた俺たちはギルドへと向かう。
ギルドに入ると、受付の近くで俺たちはギルドマスターに促されて冒険者タグを渡した。
「よし、そんじゃちょっと待ってろ」
ギルドマスターがそう言うと、俺たちの冒険者タグを持って奥へと向かった。
しばらくして、ギルドマスターが戻ってきて、俺たちの前に立つをニヤリと笑ってから声をあげた。
「おめでとう『イストワール』の諸君! 君たちはこれからBランクだ! これからの君たちの活躍にギルドは期待している!」
ギルドマスターの宣言に、周囲にいた冒険者がザワリとざわめく。
「え? あの子たちがBランク?」
「まじかよ、あんなガキが?」
「すげぇな……『イストワール』か」
「けっ どうせなんか貴族のガキとかじゃねぇの」
「『イストワール』ね……」
そんな声が周りから聞こえてくる。
目立ちたくないのだが、ギルドマスターがわざわざ声を張って俺たちのパーティ名で宣言したのだから何かしら理由があるのだろう。
「ほれ、受け取れ」
今度は普通にギルドマスターが俺たちにタグを渡してきた。
これまで持っていたのは金のタグだったが、Bランクだとミスリルになるらしい。
青緑色のプレートが淡く輝き、そこには俺の名前がしっかりと刻まれている。
なんとも感慨深いものだ。
はじめは鉛色のタグだったのに、今ではミスリルなのだ。
俺たちはギルドを出ると常駐にしている宿屋へと戻った。
一ヶ月以上宿を空けるので支払いをどうしようかと思ったが、帰ってきたときに部屋が埋まってるのも嫌なので先に支払いをすまてあるのだ。
ただまぁありがたいことにその話を女将さんにしたところ、一ヶ月分だけなら、その半分で押さえておいてあげると言われ、俺たちはありがたくその言葉に甘えることにしたので、さほどかかってはいない。
――この宿は一ヶ月で大体大銀貨一枚と銀貨五枚程度なので、その半分なのだから安いものである。
一ヶ月分が半月分ですんだのではあるが、ついでなのでさらにもう一ヶ月分も支払い済みだ。
時刻は夕方、ちょうどいいので晩御飯を食べてしまうことにした。
宿屋へ入るとちょうど女将さんが受付にいた。
俺たちを見た女将さんは笑みを浮かべて言った。
「おかえり!」
「ただいま戻りました」
「元気そうでよかったよ! 部屋は掃除はしてるけど、何もいじってないからね、安心おし」
「ありがとうございます」
「先にご飯にするかい?」
「ええ、そうします」
「あいよ!」
俺たちはギーレンの宿屋のおいしい夕食を食べたあと、俺は一旦実家に顔を出しに向かい、帰還報告とBランクになったことを伝えてから宿屋へ戻り、懐かしい部屋へと帰った。
いつもなら明日と明後日くらいは休みにするのだが、さすがに一ヶ月も稼ぎなしなので資金に余裕があるとはいえ、明日からはまたダンジョンに潜ることに決めた。
翌朝、起きた俺たちは朝食をとったあと、ダンジョン管理所へと向かった。
受付で入場タグを渡しつつ奥の扉を開いて中へ入る。
「さて、今日はどうする? 軽く狩りをするか、六十五階へ向けて潜るか」
俺の声にそれぞれが声を返す。
「俺はどっちでもいいぜ」
「私もエルナもどちらでもいいわ」
エルナもコクコクと頷いている。
「ふむ、ま、それじゃ帰ってきて早々宿屋を空けるのもなんだし、六十階で狩りにしようか」
「おう」
「そうね、そういえば六十階からは確かAランク相当になるのよね」
「そうらしいな。そうなるとドロップ品もきっと大幅に変わるだろうから少し楽しみだな」
「ええ」
転移柱のある部屋についた俺たちは転移柱に触れると六十階へと飛んだ。
六十階に飛んだ俺はさっそくミニマップを確認するが、やはりというか人はいないようだ。
モンスターは四体で一つのパーティとして行動しているらしい。
まだ何がでるか確認はしていないが、さてはて、どんなモンスターが出てくるやら。
とりあえずは黒いアイツとか飛び跳ねるアイツ系統でなければいい。
同じ多足動物でも蜘蛛やムカデなんか平気なんだけどなぁ。
どうしてあいつ等はあんなに気持ち悪いのだろうか……。
そんなことを考えながら歩いていると最初のモンスターたちに出会った。
これはこれは……。
現れたのはケルベロス、俺もよく知る三つ首の犬だ。
毛皮は真っ黒でふさふさしていて、ビロードのような美しい毛並みをしている。
多分これは毛皮もドロップするだろうな。
三つ首の口からは火がチロチロと出ているのでもしかしたら火を吐くのかもしれない。
正直モンスターでなければ実にもふもふしたい毛皮である。
これまで犬系のモンスターはそれなりに出てきたが、このケルベロスは別格でもふりたい感じだ。
ただ、実に恐ろしい顔をしているので触ろうとした瞬間ガブリとかじられそうだ。
ケルベロスの攻撃方法は基本的に口から炎のブレスを吐くのと、ファイアボールを撃ってくる二つのパターンのようだ。
もちろん足には立派な爪があるし、口には牙も生えているので通常の物理攻撃もしてくるだろうけども。
「四匹か、ま、いつも通りとりあえず一匹もらうわ」
「ああ」
いつもどおりに戦闘を開始する。
フィーネが古い方の弓を撃ち込み、ケルベロス三体に矢が当たった。
三体がこちらへきたところで俺はルーツをかける。
そこまでしたところでフィーネは新しい弓をとりだした。
さすがにいきなり実戦に新しい弓を使うのは控えたようだ。
とはいえ帰ってくるまでの二週間、野営のときは必ず訓練していたので、今も俺からすればブレることもなく真っ直ぐ矢を撃ちだせている。
ケルベロスにはサイレンスをかけてあるので俺は攻撃はせず、エルナとフィーネに任せている。
フィーネは弓の訓練で、エルナはジャベリンの精度あげをしているところだ。
ミハエルはどうかと視線を移すと、驚いたことにすでに倒し終わっていた。
戻ってきたミハエルに俺は声をかける。
「もう終わったのか?」
「んー、なんか自分でも驚くんだが、戦いながら相手の動きが分かるっつーか……」
そう言いながら嫌そうな顔をする。
多分レオンのおかげというのが嫌なのだろう。
俺は苦笑しつつ言った。
「ま、効果が出てるんだろうな。俺も随分変わったしな」
「はぁ。気に食わねぇがそうだろうな。それでもまだあいつに勝てねぇのが分かるから余計に腹が立つぜ」
「いいじゃないか、レオンから全てを奪って叩き伏せればさ」
「そうなんだが、それもやっぱ悔しいんだよな。ほんとやなやつだぜ、レオンは」
そんなミハエルに俺は苦笑を浮かべるしかない。
でもきっとまた試合をすればミハエルはレオンと同じ笑みを浮かべるのだろう。
「しかしどうする? 俺の分のケルベロス回そうか?」
「あー貰っていいか? 一匹じゃ足りねぇ」
「別にいいぞ」
この階層からはAランク相当のはずなのだが、レオンと試合する前のダンジョンより正直楽に感じる。
レオン効果は恐ろしくあるようだ。
そんな会話をしているとフィーネたちも残りのケルベロス三匹を倒し終えてドロップ品を拾っていた。
ケルベロスの爪を受け取りつつ、次のモンスターを求めて移動をはじめる。
その後は慣れ始めたあたりでまた以前もやった方法で狩りをはじめた。
俺とミハエルは一人でケルベロスパーティの相手をして、フィーネとエルナはペアでケルベロスパーティの相手をする、という方法だ。
それを交代で行う。
これは実際仲間がどう動いているか、こういうときはどう動くのかを再確認ができるので実にいいのだ。
――まぁ、俺に関しては普段はしない近接魔法戦闘なので何も参考にはならないけども。
フィーネは今回からは近接戦闘もすることにしたようだ。
エルナはそんな動き回るフィーネに魔法攻撃が当たらないように気を張っている。
時折フィーネがケルベロスを避けながらエルナに視線を送っているので、これはエルナへの訓練でもあるようだ。
ただ、もちろんそれだけじゃなく、フィーネ自身の訓練もある。
弓刃でケルベロスを切り、相手がひるんだところで弓を撃ち込み、次に接近してきたケルベロスの相手をする。
ただ、決して複数に囲まれないようにずっと動き回って立ち回っている。
これはミハエルの動きに近いので、参考にしているのだろう。
俺もミハエルの動きは参考にしているのでよくわかる。
そのまま俺たちは夕方まで狩りを続けた。
今回でドロップは、ケルベロスの爪にケルベロスの頭部つき毛皮、大きな魔石と待望のミスリルの塊が一つだけでた。
インゴットの半分くらいの大きさというところだろうか。
インゴット二つ分は欲しいので塊があと三つ必要になる。
ただまぁ、やはりドロップ率はかなり低いと言える。
とはいえ、このAランク相当の階層からのドロップ品はすべて高値で売れるらしいので適当に狩りしつつ集めればいいだろう。
転移柱のある部屋へ移動しつつ会話する。
「やっぱり明日から潜ろうか?」
「そうね、新しい弓の扱いにももうかなり慣れたし、ミハエルが物足りなさそうだしね」
「仕方ないだろ、苦情はレオンに言ってくれ。あいつのせいだからな」
「クスクス」
「ははは。レオン効果はすさまじかったな。それじゃ、明日からは潜るということでよろしく」
「はいです」
「おう」
「了解よ」
結局すぐにダンジョンに潜ることになるが、物足りないのは事実なので仕方ないだろう。
こうして俺たちはダンジョンを出て清算をしたあと宿屋へと帰った。
明日からまたしばらくダンジョン生活だ。
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