104 別れと出発
翌日、俺たちは首都ホルシュタインの南門で『シュラハト』のメンバーと別れの挨拶をしていた。
「俺もシュルプ帰りてぇのに……」
そんな風に呟くレオンにエアハルトさんが苦笑しつつ言った。
「お前がキール子爵のパーティ参加のためにメルドルフ伯爵に借りを作ったからだろう」
そうなのだ、レオンは俺たちの試験パーティに参加するためにメルドルフ伯爵という人物に口を利いてもらったらしい。
このメルドルフ伯爵は中々に豪快で良い人物のようではあるのだが、それはそれ、これはこれで、口利きをする代わりに、少し用事を頼まれたのだそうだ。
Aランクが伯爵相当の身分を持っていたとしても、正式な貴族ではないのでこうしたパーティや催しにはやはり同じ貴族に口利きをしてもらう方がスムーズにいくのだとエアハルトさんが言っていた。
とはいえ、自分より格の低い貴族に頼むのは問題があるらしく、同等かそれ以上に頼むしかないらしい。
それでもSランクにまでなると侯爵相当の身分になるのだが、実際は国王と同等と言われている。
というのも、Sランクはもう化け物と言われる世界なのだ。
もちろん、単独のSランクとパーティでのSランクは強さが違うのではあるが、どちらにしろSランクはドラゴンを倒せるということになる。
――Sランクへの試験がドラゴンの体内で作られるという手のひらサイズの玉をとってくるというものらしいからだ。
――その玉も、子供のドラゴンにはなく、成熟した大人のドラゴンにしかないものらしい。
この世界のドラゴンを倒すのにドラゴンの種類にもよるが、Aランクであれば最低でも十から二十パーティは必要になる。
それも死者なしで、と言われると少し疑問符がついてしまう。
だがSランクは一人、もしくは一パーティでそれを死者なく倒せるということになるわけだ。
仮に、ドラゴンが一匹襲撃してきたとして、その場にAランクが最低十、もしくはSランクがいなければこの都市などあっという間に滅び去る。
ドラゴンとはそれだけの強さがある。
――シュタルクドラッヘも竜系統ではあるのだが、あれでも弱い部類なのだそうだ。
そんなSランクパーティをもし怒らせてしまえばどうなるか。
下手をすれば国が滅びる。
そして、そんなSランクと信頼関係を築ければ?
その国は他国から攻められにくくなる。
結果、Sランクは国王と同等と言われるほどの権力を持つことになる。
だから国は他国に出ていかれないように、自国に留まってもらえるように、細心の注意を払っていくことになるわけだ。
とはいえ、この世界の長い歴史の中でバカな国王や貴族も当然いて、Sランクを怒らせて直接、間接問わず滅びた国もある。
俺が、というかエアハルトさんに聞いた話ではあるが、この世界では今のところそんなSランクは個人ではいないが、パーティでは四つだけが存在しているらしい。
そのSランクパーティの四つのうちの一つは、それなりにいい歳をしているらしく、あと数年もすれば引退するという話だった。
そして、この国、リンデン王国にはSランクは存在はしていない。
だけど、ギルド内や国の上層部ではレオンがSランク相当というのは周知の事実ではあるらしい。
まぁいずれ『シュラハト』はSランクになるし、俺たち『イストワール』もSランクになるつもりだ。
そんなことを考えていると、不満そうな表情を隠しもしないレオンが溜め息をついて言った。
「わかっちゃいるんだがよー。こんなにこいつらと絡めるなんて思いもしなかったんだよ」
そんなレオンにエアハルトさんは苦笑している。
「諦めろ、レオン。それよりもルカ君、今回は君たちと仲を深めれて本当に良かったよ。私たちはしばらく首都で仕事があるけど、そのうちオリハルコン集めでまたシュルプに向かうから、そのときはよろしく頼むよ」
「ええ、また会えるのを楽しみにしています」
「そっち戻ったらまたやろうぜ、ルカ、ミハエル!」
レオンが笑いながらそう言うので、俺もミハエルも即座に返事をした。
「やだよ、それにシュルプには闘技場みたいなのないからな。諦めてくれレオン」
「俺は別にいいぜー? 今度こそお前をぶち倒す」
俺はしんどいし疲れるし、そもそも闘技場のように人から見られない場所もないしでお断りをした。
だけどミハエルはやっぱり楽しかったのと、悔しいのがあるのだろう、断りはしなかった。
俺の返事を聞いたレオンが眉を顰めて言う。
「お前ら首都に住めよ。それかギルマス、シュルプにも闘技場作ってくれよ」
そんなレオンの無茶な発言にギルドマスターが嫌な顔をして答える。
「バカ言うなお前。お前らのためだけにそんなもん作れるわけないだろが。というか自分で金だして作れ」
レオンはその手が! みたいな顔をしていたのでエアハルトさん他メンバーに頭をはたかれていた。
エアハルトさんが苦笑しながらギルドマスターに苦情を言った。
「やめてくださいよ、ギルドマスター。レオンが本気にするでしょう」
「ははは。悪い悪い、おいレオン、どっちにしろ簡単に作れるもんじゃねぇから諦めろ」
そう言われてレオンはとてもガッカリしていた。
ほっておいたら本当にやってたかもしれないな、恐ろしいやつだ。
しばらく門前で談笑したあと、俺たちは別れることになった。
「それじゃあね、ルカ君、ミハエル君たちも」
「はい、エアハルトさんたちも。またシュルプで会いましょう」
「うん」
俺たちは『シュラハト』のメンバーと握手を交わしてから馬車に乗り、出発した。
首都、ホルシュタインの南門を出て馬車を進ませる。
俺は当然のごとく御者席で、隣にはミハエルが座っている。
御者席と馬車内との仕切りの布は開かれ、そこからはフィーネやエルナの顔も見える。
「楽しかったな。レオンは困ったやつだが、いい人たちばかりだった」
「そうね、私もとてもいい刺激になったわ。ねぇルカ」
「ん?」
「あの弓、私にも作ってくれないかしら?」
あの弓というのは彼に作ったカーボンと金属製の弓のことだろう。
だがあれはかなり硬く、男性向けに作ったものだ。
フィーネには弦を引くこともできないだろう。
「あれは彼用に、というか男性用に作ったものだから、同じのは無理だけど、フィーネ用にも作るよ。ただ、かなりの練習は必要になるかもしれない」
あれは普通の弓とは違う。
簡単に扱えるものではないが、フィーネには弓術操作がある。
「ええ、私も貴方たちの隣に立ち続けたいから、頑張るわ」
そう言ってふわりと微笑むフィーネに俺の心臓は大きく跳ねる。
「そ、そうか。あとで作っておくよ」
「ええ、ありがとう。ルカ」
なんだかミハエルがニヤついてる気がするので話題を変える。
「あ、ああそうだ。エルナ」
「はい、なんでしょう?」
「君にもあとでミスリルの杖を渡すよ。エアハルトさんのよりはもう少し短くするけどね」
「わぁ! ありがとうございます!」
エルナもフィーネも新しい武器について二人でわいわい話ている。
そんな二人を横目にミハエルが言った。
「ルカは作らねぇのか?」
「俺も杖は作るよ」
「剣は?」
「ああ、そっちはほら、ミハエルのアダマンタイト剣作るのを見てて思ったんだけど、俺に合ったのを父さんに作ってもらおうと思ってる」
「そっか、んじゃミスリル集めにいくか?」
「そうだな。確かエアハルトさんに聞いた話では、ドロップ率は悪いけど六十階からミスリルの塊が出るらしくてな、六十五階に向かいつつ集めればいいかなと思ってる」
「ほお。そうか。んじゃ今度はルカの武器作りでミスリル集めだな」
ちなみにだが、以前ミハエルに『ルカがインゴット作れば早くねぇか?』と言われたのだが、一度それも鉄インゴットではあるが、試してはいるのだ。
ウードに頼んで試してもらったところ、俺の作ったインゴットは形は崩れはするのだが、完全に溶けることがなかった。
魔力で作り上げたものだからかは分からないが、そういう結果になったので多分他のものも同じではあろう。
味噌やコンソメなんかはお湯に溶かせば完全に溶けるというのに、全くもって謎である。
食材とその他では違うのだろうか。
どちらにしろ職人に作ってもらいたい物は地道に集めればいいだけである。
ついでに狩りをしてお金も稼げるから一石二鳥というものだ。
そんな益体もないことを考えつつも手綱を握る。
シュルプへ帰るのに二週間とちょっとだ。
急ぐ旅でもないので俺たちはのんびりと馬車を進める。
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