101 レオンとルカの戦い
結局その日の夜、エアハルトさん含め、『シュラハト』のメンバー全員が俺たちを訪ねてきた。
狭くはあるが、俺とミハエルの部屋へと招き入れ、話を聞いた。
エアハルトさんたちが泊っている宿屋へ戻ったところですぐにエアハルトさんはメンバーに声をかけたそうだ。
今回一緒に来なかった三人は、本当は一緒に来たかったのだが、威圧にならないように、俺たちを気遣って一緒にいくのを控えたのだそうで、全員がレオンとエアハルトさんの帰りを宿屋で待機して待っていたらしい。
エアハルトさんは誓約魔法や俺の秘密については話せないので、ミハエルとレオンとの戦いを事細かに伝え、今日の俺とレオンの戦いを見るべきだと伝えた。
三人ともが、ミハエルとレオンの戦いを見れなかったことを悔やみ、そして俺とレオンの試合を見たいと望んだ。
そこでエアハルトさんは見るには命をかけた誓約が必要となることを伝えた。
レオンは命を懸けることだから慎重に考えろと言ったのだが、三人がレオンとエアハルトさんはすでにその誓約をしていると聞いたところ、笑って、なら俺たちも命を懸けようと言ったのだそうだ。
エアハルトさんの時と同じく、レオンは止めたが、結局エアハルトさんと一緒で、自分だけ安全地帯にいるのはごめんだと、全員が誓約を受けることに決めた。
その足で『シュラハト』のメンバーは全員で俺たちの泊る宿屋にきた、というわけだ。
レオンがぶつぶつと文句を言っていたが、全員に誓約魔法について話、全員が受ける選択をした。
そして全員が文句を言うレオンに軽い調子で『わりーな』『そう怒んなよ』と笑いながら言っていたが、その目はレオンを尊敬し、そして隣に並び立ちたいのだという思いがありありと伝わってきていた。
そうして翌日、俺たちは再び闘技場へと向かった。
昨日とは違い、今度は俺だけが扉を通ることになる。
「じゃあなルカ。レオンをぶちのめしてやれよ」
ミハエルはそう言ってニッと笑みを浮かべ、拳を突き出す。
俺も笑みを浮かべ、その拳に拳をぶつけた。
「ああ、ぶちのめしてやるよ」
みんなと別れ、俺は扉を開けて先へ進む。
扉の先は少し薄暗いが、人が二人すれ違うことができるくらいの広さの通路が長く続いており、ある程度の間隔で通路の壁に扉がある。
多分この闘技場で戦う選手の控室なのだろう。
そういえば聞いてなかったが、この闘技場ではどんな大会をするのだろうか。
控室が何個かあるということは、複数での戦いがあるということではあるのだろうけども。
あとで覚えていれば聞いてみるとするか。
そんなことを考えながら通路を進むと、前方にぽっかりと開けた出口がみえた。
長い洞窟を歩いて、明るい出口を見たときのように俺は少し目を細める。
そこから出るとすでに円形の広場にはレオンが待っていた。
楽しみで仕方ないという笑みを浮かべている。
それを見た俺も、知らず笑みを浮かべていた。
「よお、やっと戦えるな、ルカ」
「そうだな。俺はあまり戦いたくないけどな」
「はっ ならなんでそんな笑みを浮かべてんだよ」
「さてな」
俺とレオンが軽口を叩いていると、観客席から声がかかった。
「おい! 今回はここから合図するぞ! そっちでやったら危なそうだからな!」
俺とレオンは声のした方へ視線を向けた。
「なんだよ、危なそうって」
レオンの声にギルドマスターが答える。
「んなもん、ルカの魔法とお前の攻撃が、に決まってるだろうが。俺は所詮Bランクなんだよ。お前らの攻撃を避ける自信はねぇ!」
「そんな堂々と言うことじゃねぇだろ……」
「うるせぇ! プライドより命なんだよ!」
そう言って怒鳴るギルドマスターに俺は苦笑を浮かべる。
「すみません、ギルドマスター。そこからでいいのでよろしくお願いします」
「おう、任せとけ。レオンもルカのそういうとこ見習えよ!」
「うるせーな」
不貞腐れるレオンを無視してギルドマスターが続ける。
「それじゃ、お互い十歩離れろ!」
ギルドマスターの声に俺が下がろうとしたところでレオンが声をかけてきた。
「ルカ、全力だせよ。俺は最初から全力でいくからな」
二ッと笑ってそういうレオンに俺は苦笑しながら返す。
「まじかよ。やめてくれよ。俺はまだ慣れてないんだぞ」
「やなこった。俺はもう楽しみで仕方ねぇんだよ」
「めんどくさいやつだな」
「ははは! 諦めろ、ルカ。俺はお前を殺す気でいくからな!」
「なら、レオンも手足の一本くらいぶっ飛んでも文句言うなよ」
俺の言葉にレオンは獰猛な笑みを浮かべる。
「いいぜ、お前も俺を殺しにこい」
そうしてレオンは俺に背を向け、俺も背を向けて十歩進んだ。
振り返り、アダマンタイトの剣を取り出す。
少し重いが、俺の主体は魔法だ。
殺す気はさらさらないが、殺す勢いでいかないときっと俺は一瞬で負ける。
俺はミハエルほどの身体能力はない、だから魔法で体を作る。
昨日ミハエルにかけていた強化魔法に俺はさらに数個上乗せしている。
正直この状態で戦闘をすれば体がもたないだろう。
だから、始まる前に俺は自身にリジェネをかける。
「いいか!」
お互いに離れたところでギルドマスターの声がかかる。
「はい」
「おう!」
少ししてギルドマスターが試合開始の合図を出した。
「はじめ!」
合図が聞こえた瞬間、俺はレオンに魔法を複数撃ちこむ。
速度の速いウインドバレットを中心に、麻痺を狙ったサンダーバレットを織り交ぜる。
対してレオンは俺に向かおうとしていたのを止め回避に専念する。
野生の勘か、ウインドバレットは大剣で切り裂くくせに、サンダーバレットだけは完全に避けている。
俺は走りながらもアイスジャベリンやフレイムジャベリンも撃ちだす。
だが、これはどちらもあっさりと躱された。
やはりダメか。
ジャベリン系はダメージは大きいが、速度が遅い。
レオンが俺に追い付く。
俺は複数のシールドを張りながらも弾幕のように魔法を撃ちだす。
しかし距離が近すぎるので狙いがうまくいかない。
そうこうしているうちにレオンの大剣が俺に迫る。
だが、俺は複数のシールドを張っていたので、レオンの大剣はシールドを四枚切り裂いて威力を落とした。
その間に俺はオーラバーンを撃ち込む。
これもレオンとの戦闘を考えて作った魔法だ。
無属性ではあるが、近距離指向性爆発をする魔法である。
レオンが何かを感じたのか、咄嗟に大剣で防ぐが、レオンの目の前で爆発が起こる。
俺はそうしてレオンが防御をしている間にまた距離を稼いだ。
正直昨日のミハエルとの戦闘を見ていて、剣を交えての戦いは勝ち目がないと判断した。
だから俺の剣はあくまでも補助と緊急用だ。
俺は最初から剣で戦う気はない。
距離をあけたところでまたウインドバレットを複数撃ちだし、レオンがウインドバレットを切り裂いたところで、今度はイラプションを撃ち込んだ。
これは純粋にただの爆発魔法だ。
ウインドバレットを切り裂いていたレオンが一瞬でその場から大きく跳躍して離れた。
あの野生の勘は厄介だな。
レオンが離れた途端、その場で爆発が起きる。
「うお! あぶねぇ!」
あぶねぇと言いながらもレオンはますます笑みを深めている。
戦闘狂だな。
そう思ってる俺も自覚はしているが、口元の笑みは抑えられない。
「楽しいなぁ!」
「そうだ、な!」
言いながら俺はまたイラプションを撃ち込む。
レオンは楽しそうに笑いながらイラプションを躱す。
ルーツをかければ数秒きっとレオンの動きを止められるだろう。
数秒もあればレオンを倒すこともできる。
試してみたい。
レオンはルーツをかけても逃げ出せるのか?
今まで、こんなに心躍ったことがあっただろうか。
前世で小さい頃にヒーローショーを見たとき、あの時もかなり興奮したが、それ以上に楽しくてたまらない。
この世界で初めて魔法を知ったときの興奮、あれよりも心が躍る。
俺は戦闘狂じゃなかったはずなんだがな。
前世でも暴力は嫌いだった。
今でも暴力は好きじゃない。
だけど、ああ、なんだろうな、楽しいな!
俺が全力を出しても、レオンは避ける。
それどころか俺に迫る。
怖いし、恐ろしい。
だけどそれ以上にこのギリギリが楽しい。
体はギシギシと軋み、内部の筋肉が裂け、そのたびにリジェネによって修復される。
動くたびにどこかの筋肉が避けている。
だけど痛みは感じない。
再びレオンが迫ってくる。
ああ、怖いな。
俺はサンダーバレットを複数個撃ちだす。
さすがのレオンも大きく避けたので、俺と距離があく。
そこへさらにウインドバレットを中心にして、その周囲にサンダーバレットを撒き散らす。
これでレオンは最初のように、中央のウインドバレットを切り裂くはず。
予想通りレオンは中央のウインドバレットを切り裂くことにしたようだ。
レオンが剣をピクリと動かしたその瞬間、俺はレオンの足元にインフェルノを発動させた。
インフェルノは炎の柱で、その効果には持続ダメージがある。
ようはヤケドだ。
レオンの顔が一瞬強張り、次の瞬間、ウインドバレットに突っ込む形で前方に全力で回避した。
当然ウインドバレットに突っ込んでいるので避けたとはいえ、かなりの傷を負っている。
ゴロゴロと転がり避けたレオンの後ろでは炎の柱がゴウゴウと立ち昇っている。
さすがのレオンも後方を一瞬振り返った。
だがすぐに獰猛な笑みを浮かべると、俺に、強烈な圧迫感と恐怖が押し寄せてきた。
まずい。
そうは思うが、すでに俺の体は動かない。
咄嗟に俺はレオンにルーツをかけた。
レオンは急に動けなくなったことで我に返ったのか殺気が霧散する。
俺も詰めていた息を大きく吐き出し、レオンに魔法を撃ちこんでいく。
だが俺が魔法を撃ちだすまでに数秒かかってしまった。
レオンはルーツをどうやったのか、解除してすでに逃げている。
そのすぐあと、イラプションが数個爆発を起こした。
そのとき、爆発の向こう側にいたレオンを目が合った。
ほんの一瞬で、爆発音で声も聞こえないはずなのに、俺はレオンと会話していた。
「やるじゃねぇか」
「おまえもな」
たったそれだけだが、確かに会話していた。
すぐに爆炎でレオンの姿が消えるが、俺は自身にシールドを複数重ねる。
その瞬間、爆発の煙の向こう側からレオンが飛び出し、一瞬で俺に迫ると大剣を振り下ろした。
俺は危険を感じ、シールドの下でアダマンタイト剣を防御のためにかかげた。
パリンパリンと何度もシールドが割れる音のあと、勢いがかなり落ちたとはいえ、レオンの大剣は俺のアダマンタイト剣を打ち据えた。
ほんの少し、鍔迫り合いをして、俺は大剣を逸らして離れた。
すでに俺もレオンもかなり息を荒げている。
「ハァハァ、ああ、楽しいな、ルカ。俺は全力でやれたのは初めてだ」
「そうか。ハァハァハァ……俺も、一人だと初めてだな」
わずかな会話の間も、俺の魔法が飛び、レオンが切り裂き避けている。
「そろそろ、ハァハァ、倒れてくれても、いいんだがな」
「はっ こんな、ハァハァ、楽しいのに、ハァ、倒れてられっか、よ!」
俺の張ったシールドを再びレオンが切り裂く。
だけど今回は届かない。
先ほどの倍のシールドを張ったからだ。
レオンの剣は空中で止まる。
「ああ、厄介だな、それ」
レオンの声を聞きながらも俺は距離を稼ぐためにオーラバーンを撃つ。
レオンが大きく後退し、そこにイラプションを撃ち込む。
すでにイラプションの特徴は抑えられたようで、後退ではなく前進して避けられる。
それだけじゃなくイラプションの爆発の勢いも利用して前に出てくる。
厄介なやつだ。
また距離が詰まった。
俺は再び多重にシールドを張り、近づいてきたレオンにオーラバーンを撃ち込む。
だけど今度はレオンは後退しなかった。
自らオーラバーンに飛び込み、爆発を受けながらも俺へと切りかかってきた。
俺も咄嗟にアダマンタイト剣で防御姿勢をとる。
さっきと同じ量のシールドを張っているのに、俺の頭の中に警笛が鳴った。
瞬間、俺は張れるだけ追加でシールドを張ったがせいぜい二、三枚が限度だった。
レオンは気合いの声を上げながら俺のシールドを次々と切り裂いた。
だけど、最後に俺が張ったシールドのおかげでレオンの大剣の勢いは落ち、なんとか俺でも受け止めきれた。
俺はここでフィーネの剣先を誘導する逸らし方をレオンにかけた。
すでに昨日ミハエルで経験しているのでレオンが動きを止めるのはせいぜい一秒あるかないかだろう。
だがそれだけあればいい。
レオンが切り返しをしようとしたところで剣先があらぬ方にあったことに気づき、だがすぐに修正をした。
だけどそのわずかな隙に俺は自爆に近いイラプションを俺とレオンの間で発動した。
レオンが咄嗟に手を交差して顔を守っているのが爆発の直前に見えた。
直後、俺とレオンの間で大きな爆発が起きた。
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