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閑話――もったいないオバケが来るぞ――

 深夜の川べりに倒れこむ人影があった。頭を水の中に沈めて四肢を力なく大地に放り出している。

 その姿だけを見れば溺れ死んでいるのではないかと勘違いしてしまうが、よく聞けばゴクリゴクリと喉を鳴らして、息継ぎすらせず一心不乱に水を飲んでいるだけだ。

 その無防備な姿につられてか2頭の狼が音もなく忍び寄って来ていた。大人の人間ほどの大きさの狼が夜目をぎらりと光らせ、耽々と無防備な背中へと狙いをつける。

 その人物は水飲みに夢中なせいで狼の接近に気付く様子もなく、あと一歩のところまで許してしまう。

 狼たちは目配せするように互いを見た後、獲物へと飛びかかった。

 がぶりと、2頭とも器用にそいつの服の裾を咥え、川から引き上げるために空へ放り投げた。

 そして、すぐさま落下地点へとお利口に2頭並んで背中の柔らかな毛並みで見事ふんわりキャッチ。


「げふーっ、大丈夫大丈夫。水一杯飲んだからもう酔いも醒めたよ。ありがと、ゼヴ、ループス」


 襲われことなく、うまいこと背中に乗った彼女は酒臭いゲップとともに2頭の兄弟の狼を乱暴に撫でた。


「月がきれいでー酒がうまいなー飯もうまいなー今日も1日満足だー」

「わーん」

「明日は何を飲もうかなー」

「くぅん?」

「明日は何を食おうかなー」

「くぅん?」

「まんまが欲しけりゃ金稼げーそれ明日もあくせくあくせく」

「わんわんわんわん」

「今日はおやすみー」

「がうがうがう」


 狼の背で寝ころび揺られ、狼と合唱して上機嫌。はたから見ればただの酔っぱらいの人間に見える彼女だがそうではない。酔っぱらいなのは間違いないが、普通の人間とは違うことが明確にひとつ。

 ヒト科の耳がなく、頭頂部にイヌ科のような尖った耳がついていた。

 狼と同じ灰色の髪からのぞくその2つの突起以外、見た目は普通の人間と変わらない。女性にしては少し体格が良いくらいか。

 彼女はいわゆる獣人――人狼族(ウルフブリード)――である。狼たちに危害を加えられず、むしろ仲間として見られているのそのためだ。

 ふと、青いスカーフを巻いたゼヴと呼ばれた狼が歩みを止めた。つられて赤いスカーフのループスも止まる。

 2匹してくんくんしきりに鼻を鳴らし、森の奥を凝視している。


「ん? どした、なんかあるの?」


 普段は狼と同じくらい敏感な彼女だが、酔いで有耶無耶な頭と自らの酒臭さで何も感じ取れないでいる。

 2匹は何かに引き寄せられるかのように歩き出した。


「ちょ、ちょっとー家はそっちじゃないでしょーどこ行くのぉ?」


 抗議をするように言うが、特に抵抗はせずに温かな背の上でだらしなく大の字になって夢うつつになっている。


「もう好きにしろぉ……着いたら起こしてね……ふわぁ……ぐがぁぁー」


 森中に響き渡るほどのいびきに2頭は耳をすくめた。とはいえ、彼女が酔っ払ってこうなるのは日常茶飯事なので仕方なくも騒音の主を背中に乗せたまま、感じた違和感の元へと森を進む。

 ほかの動物達はその異様な音と異様な光景に委縮してしまったようで、木々の影から息をひそめて彼らを恐る恐る見つめている。静かな夜の森に女性ものとは思えない豪快ないびきだけが木霊していた。

 ほどなく行くと、その違和感の源を見つけた。

 森の中、不自然にこんもりと盛られた楕円形の物体の山。しゃがみ込んだ子供ほどの大きさだ。

 2頭は初めて目にするそれに、唸り声をあげて威嚇するも、それから漂う嗅いだことのない匂いになぜかよだれが垂れてしまい、勝手に足が近付いてしまう。

 まずゼヴが警戒しつつそれをひと舐めした。

 瞬間、彼はその味を知ってしまった。

 舌から体を駆け抜けるその味に脳が痺れ、全身が総毛立つ。今までの食べ物を超越した味の体験。

 ひと舐めでは全く足りない。本能が再びその味を求め、大胆に噛り付いた。

 なんとも摩訶不思議な味。甘くてしょっぱい。口の中が幸福感でいっぱいになる。

 一口、また一口とゼヴが口を動かすたびに小気味よい咀嚼音が彼の耳に伝わり、音までおいしく楽しんでいた。

 ループスは黙々と貪る兄の姿を見て、得体の知れないそれに恐れを抱きつつも、彼も同様にそれに惹かれていた。彼の口から涎が音を立てて零れ落ちた。

 兄がこんなに食べているから大丈夫だろう。未知の物への不安に言い訳してループスもひとつ舌ですくい、口に運ぶ。

 途端、頭の中が真っ白になった。何事も考えられず、それを食べることに夢中になった。

 2頭して背にのしかかる重荷を払い落し、それの山に首まで突っ込んで食べ続ける。


「んあ? 家着いた?」


 地に落ちた衝撃で、獣人の女性ズニーカは目を覚ました。


「あへ? ここどこ? 家着いたらって……こらぁ、落ちてるもの食べちゃダメっていつも言ってるでしょーがぁー」


 まだ酔いが醒めておらず呂律があやしい。平衡感覚も馬鹿になっているのか、まともに立つことも出来ず、立とうとしては尻餅をついてを繰り返している。


「おーい、聞いてるのかぁ、ゼヴぅ、ループスぅー」


 立つことは諦め、這いつくばって2頭の気を引こうと2本の尻尾を引っ張るも、全く相手にされず、食事の邪魔だとばかりにボカスカ顔面を足蹴にされてしまう。


「いたっ、いたいいたい、やめっやめ……わかったはなすはなす、はなしたから……もうっ、あんたたち何食べてんの?」


 口に入った土をぺっぺっっと吐き出しつつも、2頭の夢中になっているものに近づく。

 盛られた山からひとつを拾い上げて匂いを嗅ぐと、初めて見たはずそれを躊躇なく口に放り込んだ。

 狼も食べているから大丈夫だという判断なのか、酔って何も警戒していないからなのか。


「んっもぐ、むぐむぐ……!!! うっまいなぁこれ! あんたたちアタシに内緒で……んぐんぐ……食べる気だったのかぁ?」


 狼同様にその味が気に入ったようだ。喋りながらも2頭の負けじと口にかきこんでいく。

 そして、頬をぱんぱんにして嚥下も忘れて詰めこんだ結果。


「ん、んん、んぐぐっ、ぉぐぐぐぐぅ……!!」


 当然、喉を詰まらせた。

 自分の体の異変に気付き、最初はとんとん胸元を叩くだけだったズニーカだが、次第にのどをしごいたり、ゴリラように音を立てて胸を叩いて暴れ出し、顔色は赤から蒼、そして紫へ。

 助けを求めて2頭の見るも、彼らはそんな彼女も意に介さず自らの食欲を満たすことに専念している。

 鉄板で炙られるゲソの如く身を縮こまらせ、動きも緩慢になり、彼女の人生のろうそくも消えるかと思われたが、ゴクンと咽頭が最後の力を振り絞って詰まりを飲み込んだ。


「ングググッッ!! ベェヒェ!! フェッフェッフェッ、フーーーーホヒィホヒィ……」


 なんとか息ができるようになったものの、苦悶の表情のまま両手で喉元を押さえ固まっている。まだまだ頭と体を動かすだけの酸素が足りていない。

 何度も荒い呼吸を繰り返し、やっとのことで心と体を落ち着けたズニーカは恨めしそうに2頭を睨んだ。

 しかし、そんな視線もどこ吹く風、2頭はズニーカが苦しんでいた隙にそれをすべて食べつくし、口の周りに着いた粉をべろべろなめとっていた。


「あんたたち! あたしがどんな思いしたかわかってんの!? こちとら死にかけたんだぞ! それを助けるわけでもなく見ぬふりして、そんで、ぜーんぶ食べたときた! もうあったま来た! こんにゃろぉ!!」


 苦しかった思いがズニーカの怒りをより増幅させ、怒声と共に2頭めがけて飛びかかった。

 右手でループスの首元をむんずと抱え、左手でゼヴの首元をむんずと抱え……ることには失敗。

 そもそも酔っぱらいの動きなので速さも力もたいしてない。ループスが捕まったのはズニーカの言葉に少し負い目を感じたからだ。しかし、ズニーカの全体重がかかると思っていなかったので苦しさに呻きが漏れた。

 弟を身代わりにしてズニーカの腕をかわしたゼヴは、鼻を鳴らして再び歩き出した。


「あっこら、ゼヴ、どこ行くの! まだお仕置き終わってないよ!」


 ズニーカの叱責にも振り返ることなく森の奥へ奥へと消えていく。


「まったく……ほらループスお兄ちゃんのこと追っかけて!」


 ズニーカは言いながらループスの体によじ登る。自分の力で歩く気はないらしい。

 ループスは身勝手な兄と面倒くさい酔っぱらいにため息を漏らしつつも、どちらもほったらかしにはできず、しぶしぶ兄を追いかけ始めた。


「よしよし、ループスはいい子だねぇ」


 乱暴に顔を撫でるズニーカの手をループスは嫌そうに唸って顔を振る。やっぱり森の中にほったらかしにしておけば良かったと後悔した。

 一方、先を行くゼヴは満たされぬ欲に突き動かされ残り香を追っていた。

 ただ行けども行けども、匂いはするものの先ほどのように実物が落ちていない。

 さっきたくさん食べたはずなのに一向に渇望が収まらず、匂いだけ嗅がされ焦らされているようでイライラから唸り声を漏らしている。

 気がつけば彼は歯茎までむき出しになった口で牙をがちがちと鳴らし、糸のように何本もよだれを垂らしていた。4つの足はがくがくと震え、まっすぐ歩くこともままならない。

 そんな明らかにおかしい状態になっても彼は止まることなくむしろ足を速め、突き進む。

 時間が経てば経つほどが強迫的な欲求は強くなり、その欲求に体を支配されていた。

 ゼヴの異変は後ろにいたズニーカとループスからも見て取れた。


「ねぇ……なんかゼヴの様子おかしくない?」


 ズニーカに話しかけられても何も答えないループス。

 実はループスもまた自らの異変と戦っていたのだった。

 普段はズニーカを乗せても疲れなど感じなかったのに、今は以上に息が切れる。それに夜目も利かず目がかすむ。兄と同じように体が震えてくる。


「ちょ、ちょっとループスまでどうしたの……あーだから拾い食いしちゃ駄目言ってたじゃん!」


 そこまで言ってズニーカはもしかして自分もこうなるのではという不安が沸き上がってきた。が今のところ特に異常は感じない。食べた量なのか獣と獣人の差か。

 しかし、食べてしまったものは仕方ない。何か起きた時にまた考えればいいと開き直った。

 2頭についても自業自得だ、欲張った報いを受けろと助けの手を出そうともしない。

 それどころか、ゼヴにループスが追い付き、兄弟が互いに支え合うように、もたれ合うように苦しみながら並走し始めたので、寝床が広くなったと喜んでいた。

 不安に思っていた体調の悪化も待てども待てどもやって来ない。


「あたしの言うこと聞かないからこんなことなるんだよ。どっちも反省したらこれからはちゃんと言うこと聞くこと」


 2頭に罰を与えられたことに満足げで、口笛を吹いてふんぞり返るズニーカ。

 苦痛を耐えることに精いっぱいな兄弟はズニーカの嫌味も耳に入らない。ただただ痕跡を追って歩き続けることしかできなかった。

 ズニーカがうつらうつらし始めた時、一行はぽっかりとひらけた場所に出た。人為的に森を開いた場所だった。

 衰弱しきっていたはずの2頭が急に顔を上げ、ある一点をじっと見つめ続ける。視線の先には、彼らをこんな状態にしたあの楕円形の物体。身を削って探していたもの。

 今までの疲労や苦痛が嘘のように、2頭はこれまでで最も俊敏に同時に駆け出した。


「ぎゃうん!!」


 またも振り落とされ現実に戻されるズニーカ。

 もちろん、ズニーカには目もくれず、それに同時に辿り着いた2頭は同時に咥え、これは自分のものだと奪い合う。両者引いては引かれで譲らない。

 兄弟だろうが関係ない。互いに殺してでも奪い取ろうと考え、互いの首元へかみつこうと咥えていたそれを同時に離した瞬間。


「いっただきー!!」


 あいだに飛び込んできたズニーカかっさらわれた。


「もんぐもんぐ……やっぱうまいなー酒のあてにしたいなーどっかに酒ないかなー」


 ゼヴもループスも起こったことが理解できず茫然としている。


「なぁもっとこれないの? また探してよー」


 命を賭してやっと探し出したそれをこんな酔いどれに奪われてしまった。兄弟はどちらともなく目を合わせ、心に決めた。

 ズニーカ許すまじ。

 さすが兄弟、目的が合致すれば阿吽の呼吸でズニーカ飛びかかった。


「えっ? ちょ、2対1はひきょーだって! いだだだだだっ! ごめんごめん!!」


 旨さの幸福から一転、暴力に晒されたズニーカが悲鳴と謝罪の言葉を叫ぶも兄弟の怒りは全く収まらず、容赦なく牙や前足でボコボコにする。

 数分後、暴れ疲れて息を切らす2頭の下で、土と歯型とよだれにまみれた虫の息のズニーカが出来上がった。


「ごめん……もう横取りしないから……みんなで仲良く分け合お?」


 分け合うという言葉に反応して、2頭はぎろりとズニーカを睨んだ。まだ、自分も食べる気か、と。

 殺気を察知したズニーカは慌てて言葉を訂正する。


「あぁー次見つけたらちゃんと譲るから、ね? で、もし、もし余ったらあたしにもわけてほしいなぁーなんちて」


 あまり反省しているようにも見えないが、食べられなかったストレスを暴力という形である程度発散できていたので2頭は一応許してやることにした。どうせズニーカをいくら蹴飛ばしたところで食べられたものは戻ってはこない。

 ズニーカを相手にするだけ無駄なこと分かった2頭は、ほかにも落ちていないかふらふらと探し出す。

 2頭の責め苦から解放されたズニーカも体を癒すため涅槃像のように横になり、周囲を確かめる。

 土をかぶせて消した焚き火の跡、複数の足跡と馬の蹄跡、それに馬車の轍。


「こんなところでなにしてたんだろ?」


 この辺りは普段、人気のないところだったはずと独り言つが酩酊の眠気に誘われたので、考えるのをやめ、居眠りを始めた。

 その間にも懸命に探していた2頭は実物を見つけることはできなかったものの、木の燃えた匂いや酒の匂い、様々な人や馬の匂い混ざってまだ匂いが続いていることに気が付いた。

 匂いを辿るため人の痕跡追ってやはりゼヴが先立って歩き出した。

 ループスも兄を追って歩き出そうとしたが、ズニーカのことをどうするべきか考えた。

 別に森に置き去りにしたところで、そこいらの獣や化け物に負けるほどやわではないし、実際酔いつぶれたところを外にほったらかしにしたのは今日が初めてではない。いつも気がつけば家に帰ってきていた。

 今日も色々ひどい目に合わされた。仕返しに置き去りにしてやろう。独り寂しく森の中で眠ってればいい。

 ループスはさよならのかわりに安らかに眠り続けるズニーカを見た。

 ちょうど、なんとも都合の良いタイミングで、深く頭を揺らした拍子にズニーカが目を覚ましてしまった。

 ズニーカと目が合ってしまったループスはしまったと思い、素知らぬ顔で振り返って兄を追おうとしたが、時すでに遅し。


「おいてかないでよぉ、ループスゥゥゥ……痛くて動けないよぉ……」


 泣き言が始まってしまった。

 ループスは無視して歩き出すも、一歩進むごとに、助けてだの、寒いだの、死んじゃうだの、一生のお願いだの、心配と罪悪感を煽る言葉をかけてくる。

 嘘ばっかりだ。さっきまで気持ちよさそうに寝ていたじゃないか。

 彼女の自分勝手さに呆れてしまうが、結局ループスはグルルとため息のようにうなると、ズニーカのもとへと引き返し、彼女を乱暴に拾い上げた。

 ゼヴが甘やかすなとばかりに一瞥して、突き放すように歩を速めた。

 ループスも自分が甘いことは分かっている。でも大事な家族じゃないか、と心の中で言い訳して兄の後ろに続いた。

 そんな2頭のやり取りも知らずズニーカは、地べたからふかふかでほかほかのループスの毛皮に包まれて拾われてから3秒で眠りに落ちていた。

 匂いと人の痕跡を追うと、森を抜けて今ではほとんど使われなくなった古い街道に出た。

 街道に馬蹄の跡と馬車の轍がずっと続き、それに沿って匂いだけでなく実物も落ちていた。

 転々と落ちているそれが満月の明かりをきらきらと反射してまるで月が欠片をこぼしたようにも見える。

 しかし、そんな絵画的風景を愛でるものはここにはおらず、花より団子とばかりに先を行っていたゼヴが月の欠片を胃の中へ回収していった。

 念願のそれをやっと食べられて喜んでいるかと思われたゼヴだが何だが不満げな様子でしかめっ面。

 よく見ると落ちているそれはほとんどが食べかすのようなもので完全な楕円形のものはほとんど落ちていなかった。そのような不完全なものを食べても欲求が満たされないので、手の付けられていないものだけを選り好みして食べて行く。

 道に残された食べかすを食べていたループスだが、兄がちゃんとしたものだけを食べていることに気付き、吠えて抗議し、兄を追い抜くために駆け出す。

 探して食べることに執心していたゼヴは弟の動きに気付けず、やっと見つけた丸ごとのそれを横から弟にかっさらわれてしまった。

 互いに恨み節を吠え合いながら次のそれを探して並走する兄弟。

 どちらも先を越そうとどんどんと速度を速め、土を巻き上げ街道を疾駆する。もはや煌めく2つ白い弾丸となっていた。

 双子の兄弟はいつもなら同じ速度なのだが、今のループスには重荷があった。


「ちょ、ちょっとループス速いって、酒飲んでこの速さはきついって……止まって止まって……ウプッ」


 今まで呑気に寝ていたズニーカである。

 酒酔いで馬鹿になった三半規管が激しく揺さぶられたせいでさらにおかしくなり、自律神経も乱れに乱れ……要するに吐き気に襲われていた。

 ループスに止まってほしいためと吐き気の苦しさを耐えるために彼の首に両手で絞めるようにしがみつく。

 さすがのループスも息苦しさにたまらず速度を落とし、ズニーカを振り払おうと暴れ始めた。


「やめっ、やめてって、まじ……うごか、ないで……」


 振り落とされないようズニーカがより強くループスを抱き、それがループスをもっと暴れさせ、逆効果の無限ループ。

 苦しみ合うやつらを尻目にゼヴは勝利を確信した。

 すると、ひときわ匂いが強くなった。まるで勝利を讃えてくれているかのようだ。

 ラストスパートだと全力で4つ足を回す。鼻と足にすべての力を注ぎこみ、ただ匂いを追い求める。

 そこにあるであろうそれを夢見て。

 あと少し、もう少し、もうすぐだ。

 欲求に突き動かされた1匹の狼がそれに飛び込んだ。







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