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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
6/54

今日は色々とあり過ぎた。

「これは……焔の剣(ファイアブレイズ)?!なんでこんなところに異世転の主人公の武器があるんだ……?」


 刀身が燃えているように揺らめいている、赤い片手用直剣。異世転の主人公がこれを握って戦うイラストが、異世転の中で幾度もあった。この剣は、そのイラストと全く同じ見た目をしている。


「……その剣にするの?」

「ああ、この剣を使いたい。いいか?」

「もちろんいいよ。ここの物は全部魔王様の物なんだから」


 まさか、この剣に出会えるとは……この剣は異世転の主人公が色々な方法で強化したり、魔法を付与していたから物凄く強い剣だ。しかも小説はまだ完結してなかったから、俺が知らないような力を秘めているかもしれない。


「最高の剣を見つけた……!」

「そっか。よかったね」

「おう!レスティも何か持ってくか?全部俺の物らしいし、ひとつくらいなら武器持っていってもいいぞ」


 この宝物庫は、バスケコートが2つ入るくらいの広さに、4メートル程の天井で出来ている。中は図書館の本のように色々な武器や宝石などが置かれている。


「師匠、体調悪いの?顔色悪いよ?」

「…………え?あ、大丈夫!私は元気だよ」


 すっかり宝物庫にテンションが上がっていてしまったが、確かに血飲みの者の顔色が悪い。白くなっている?いや、青くなっているって言うのか。とにかく、ただ事では無さそうだ。


「大丈夫じゃないだろ。とりあえず誰か呼んでくるからここで待ってろ」


 血飲みの者の視線がずっとこの剣に向いている。この剣に、何か嫌な思い出があるのかもしれない。

 ……この剣は使わないでここに置いていくことにしよう。

 レスティに焔の剣を預ける。


「本当に大丈夫だから!誰も呼ばないで…………」


 背後で何か言っているのを聞こえないフリして、廊下を走る。……どこにいるんだあいつら。


「おーい!神託の者、どこにいるんだ?!」


 駄目元で名前を叫ぶ。この城がどのくらいの大きさかは知らないが、相当広そうだからまず聞こえないだろうな……


「ここにおります」

「うわっ!?いつの間に背後に?」

「呼ばれましたので馳せ参じました」

「……まぁいい。血飲みの者の様子がおかしいんだ。宝物庫に来てくれ」


 言いながら宝物庫に走って戻る。30秒程度でつく距離なのだが。

 後ろには神託の者が付いてきている。

 少し振り向いたのだが、俺の走りに歩いて付いてきている。若干キモい。


「血飲みの者、神託の者を連れてきたぞ!」

「本当に大丈夫って言ったのに……」


 血飲みの者は、レスティに寄りかかっていた。顔色も悪いし、相当具合が悪いみたいだ。あの剣にいったい何があるんだ……?


「血飲みの者、どうした」

「なんでもないよ。少しめまいがしただけだよ」


 神託の者が壁に立て掛けられた焔の剣を見た。どうやら、レスティは焔の剣を壁に立て掛けて血飲みの者を支えていたらしい。


「……焔の剣か」

「…………。」

「我々が今仕えるべきは水無瀬空太という魔王様だ。そのような剣の持ち主など、忘れろ」


 持ち主?ということは異世転の主人公と血飲みの者の間に何かがあるのか。……気になるけど、剣を見ただけであんなふうになるなら、話を聞くことなんて出来ないな。


「わかってるよ……」

「ならば成すべきことを為せ。それが神の望む事だ」


 うーん……あまり話が理解出来ないな。成すべきことってなんだ?

 ……魔族はどうやら、神の望みを叶えたいようだ。


「わかってるよ……」


 話に付いていけないな……ふと、レスティを見ると俺と同じように話に付いていけてないのか、疑問符が頭の周りに飛び交ってそうな表情をしている。


「(レスティ、話の内容理解してるか?)」

「(全然わかんないよ。あの剣、焔の剣ってなんなの?)」

「(わからん。ただ、とりあえず俺の好きな小説の主人公も焔の剣を使ってた。そっくりだし、おそらくあの剣だ)」

「(それであんなに嬉しそうだったのね……持っていくの?)」

「(いや、血飲みの者が見たくなさそうだから別の何かにする)」

「(……変態なのに優しいんだね?)」

「(喧嘩売ってるのか?)」


 小声でレスティと話し合う。やはりレスティも理解していなかった。というかレスティ、お前の中で俺は変態決定なんだな、やっぱり……。


「とりあえずもう町に戻ろう。血飲みの者もとりあえず家に帰ろう。それでいいか?」

「うん、いいよ」

「じゃあ、町まで……神託の者、俺達を町まで送ることって出来るか?」

「申し訳ございませんが、私には出来ません。ですが、この城には転移用の魔法陣があります。そこからなら、可能かと思います」

「助かる。連れて行ってくれ」

「待って、私がまた送るよ?」

「お前、顔色悪いぞ?今は大人しくしておけ」


 体調不良が原因で上手く魔法が使えなかった、とかになって変な場所に飛ばされても困るからな。


「……ごめんね」

「謝らないでいい」

「師匠は悪く無いよ!」

「……魔王様、こちらへ」

「ああ、案内頼むぞ」


 宝物庫を出ていく神託の者について行く。宝物庫からそれほど離れていない、頑丈な作りの扉の部屋に着く。


「この部屋の中にあります。使い方は、行きたい場所をイメージするだけです」

「助かった。じゃ、入るぞ」


 頑丈に出来ている両開きの扉を引く。重い……筋力50で重く感じるとは。

 開けないほどの重さではなく、ゆっくりとだが開いた。


「おお!魔法陣だ……!」


 冒険家ギルドにあったしょぼい魔法陣ではなく、縦横10メートル程の魔法陣が地面いっぱいに書かれている。あまりに複雑過ぎて、見ながらでも同じ物が描ける気がしない。それほど細かく複雑だ。


「大きい……!」

「ああ、それにめちゃくちゃ細かい!」

「魔王、早く動かして!」

「任せろ!」


 俺とレスティは転移用魔法陣にテンションが上がっている。レスティの横では、血飲みの者が少し笑っていた。

 ーー笑えるくらいには元気になったか。顔色も少しましになってきている。


「よし!場所はアルティアダンジョン近くの町、義賊ルテアノ団のアジトの中!」


 言葉にしながらイメージをする。ええっと、確か部屋は白い壁で、暖炉があって…………



「もう着いてるよ?」

「え?……あ、本当だ」


 既に着いていた。


「いつの間に……」

「声に出した直後かな?」


 そのタイミングで目を瞑ってイメージを始めたんだけどな……もしかして声に出すだけで良かったのか?

 まぁ、ちゃんとここにつけたからいいか。


「とりあえず、血飲みの者はもう寝とけ。レスティもここに住んでるのか?」

「そうだけど、魔王はどうする?」

「俺は町中の宿にでも泊まる事にする。……金が無いな」

「ここに泊まっていっていいんだよ?せっかくだから、一緒に寝る?」

「もちろん!……いや、ほんの冗談だから。レスティ、冗談だからな?」


 レスティの目線が冷たい。エターナルフォースブリザードなの?その目線だけで殺されそうだ。


「魔王には私がお金を渡すから、宿に泊まって?」

「わかった。金は明日から働いて返す」


 明日から冒険者としてアルティアダンジョンに入るからな!


「それでいいよ。はい、色々含めて10銀貨」

「本当に助かる。必ず返す」


 ちなみに通貨の単位だが、10銅貨1銀貨、100銀貨1金貨、100金貨1大金貨だ。異世転に書いてあった。普段使われるのは銅貨と銀貨だ。金貨は結構な高額だからな。


「本当に泊まらないの?寂しいなぁ……」

「うぐっ……いや、これ以上レスティから冷たい目で見られたく無いから、宿に泊まるよ……」


 上目遣い、涙目、美人のコンボは強い。というかもうやばい。抱きしめたい。


「魔王、出口はあっちだから。また明日」

「さんきゅ、また明日!」

「また明日会おうね!」


 三者三様に別れの挨拶をして俺はアジトを出た。




 アジトを出てから、町の大通りに出れるまでに1時間かかった。

 いや、本当にアジト周辺の道は入り組み過ぎだ。

 何はともあれ、大通りの建物の1つに宿屋と書いてある看板を見つけ、入った。


「1人で泊まりたいのですが部屋空いてますか?」

「空いてるよ!貴族様かい?」

「いえ、ただの平民です」

「平民に偽装するなら敬語はやめた方がいいよ!何せ私ら平民は敬語なんて覚えないからね!ハハハハッ!」


 宿屋の入口を入ってすぐの受付のおばさんに声をかける。テンション高いなー。付いていけない。


「いくらで泊まれますか?」

「1泊素泊まりで銀貨1枚。夕食朝食込みで銀貨2枚だよ」

「じゃあ、銀貨2枚で」

「はいよ!部屋は2階の一番奥だよ!」

「ありがとうございま……ありがとう」

「夕食は1時間後だから忘れずに降りてきなよ!これが食事の引換券!」

「ありがとう」


 食事の引換券として木札を渡される。『夕食、朝食』と書いてある。無くしたら食べられなくなるのか……。て、そういえば空腹感が無い。どういうことだろうか?


 ……考えても分からないな。とりあえず、部屋で休もう。今日は色々とあり過ぎた。

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