勇者召喚
「……え?レスティと、ウェンディ?」
召喚によって現れたのは、レスティとウェンディだった。
「勇者様、ようこそおいで下さいました。私はこの国の、ルクセントリア王国で国王をしているヴィドル・ルクセントリアと申します」
俺は勇者召喚をした。すると、レスティとウェンディが出てきた。
確かにウェンディは勇者だからまぁ、召喚出来てもおかしくない。でも、何故レスティが召喚されたんだ?
「魔王、助けに来たよ!」
「ちゃんと割り込めたみたいね。……久しぶりね、空太」
「……割り込めた?どういうことだ?そもそも二人はーー」
「色々聞きたいことがあるのはおたがいに同じよ。でも、その前にそこの人が何か聞いてもいいかしら?」
ウェンディの視線の先には、自己紹介をスルーされた王がいた。
「勇者召喚……魔王が使う魔法では無いわね」
王の紹介から現状の話、全てを一通り話した。異形種の事や原初の三体の内の一体がこの国に近づいていることも。そして、勇者召喚によってレスティとウェンディが召喚されたことも。
「魔王は魔王で大変そうだね……」
「ああ。そういえば、血飲みの者とかパトラッシュとか、どうしてるんだ?」
「アリアちゃんと一緒に深淵に向かったよ。魔王を助けに行くって言ってね」
深淵……覗いたら覗き返してくるっていうあれか。そこに行くと俺が助かるのか?
「……深淵ってなんだ?」
「全ての世界の根源と言われているわ。まぁ、地獄とも言われているけれど」
「物騒だな」
そんな場所に、俺の為に行ったのか……。なんか、楽観的にゆるゆると異世界を楽しんでてごめん。って、それほど楽しんではないか。死にそうになった事もあったし。
……そういえば、あれは何だったんだ?確実に心臓に刺さっていたし、腕も吹き飛ばされたはずだ。あの再生能力は俺の力なのか?
「師匠はまだ来てないの?」
「ああ。でもそうだな、帰れるとしてもこの世界、せめて今回の原初の三体の異形種がこの国に向かっているという事件だけは手を貸したいんだけどいいか?」
出来れば騎士長の手伝いもしたいな。いっそこの世界を救えればいいんだけど、さすがに魔王が世界を救うのは一度だけでいいだろう。
「私は構わないわ。むしろ、勇者として召喚されたならそれくらいはしてあげるべきだと思うわ」
「うん、私も手伝うよ。魔王、なんかあっさり死んじゃいそうで怖いからね」
「レスティ、その言葉はフラグか?俺の死亡フラグか?」
「ふらぐ?」
唐突な死んじゃいそう宣言。「なんか、嫌な予感がする──。」と言うのと同じくらいの死亡フラグだな。
「……空太よ、勇者達と知り合いだとは分かったが、力を貸してもらうことは出来ないものか?」
「いや、だから今回は俺も含めて力を貸すって」
「その後だ。勇者ならばこの国で出来る最上のもてなしを約束する。我々を異形種から守ってはくれないだろうか?」
あれ、俺はスルーか?まぁ、確かに勇者じゃ無いけどさ。
「私は、空太が帰る時に一緒に帰るわ。それまでなら、死なない程度なら力を貸してもいいわよ」
「私も魔王が帰る時に一緒に帰りたいから、それまでならいいかな」
「感謝する。……空太よ」
「なんだ?」
「元の世界に戻るのを、少し待っては貰えないか?ただこの城でくつろいでくれればいい。必要な物があれば何でもすぐに揃えよう」
……俺を物で釣って、レスティとウェンディにいてもらおうって事か。わかりやすいな。
「俺は元の世界に帰りたい。でも、血飲みの者達がこの世界に来てくれるらしいから、来るまではここに置いてもらえると助かる」
まぁ、こんなところだろう。別に何かを欲しがらないけど、とりあえず居させてください、という意味だ。
「……感謝する」
「される程の事か?」
「勇者召喚した事に対してもだ。これで希望が見えた。人類が生き残る為の希望だ」
スケール大きくないか?何、もしかしてこの世界は人類滅亡の危機だったのか?
……考えてみれば、近くの国が一つ滅ぼされたのにこの国には普通に人が住んでいるな。
普通、怖くて遠くの国に逃げたりするだろう。でも、しないという事は既にどこに逃げても同じという事か。
「私達よりも空太の方が強いわよ?空太は既に一つ、世界を救っているもの」
「え?……そういえば、そうか。ウェンディを助ける事しか考えてなかったな」
「あら、口説いてるのかしら?無理よ、私は勇者だもの。セクハラ魔王の空太」
辛辣!?俺はウェンディにセクハラした覚えなんて……なんて…………したなぁ。宿に泊まる時とか。
「私もそれほど強くないよ?確かに普通よりは強いけど、魔王の足元にも及ばない程度だよ」
「そうだったのか?」
「うん。でも魔王より強い人はほとんど居ないよ。だから魔王と比べるのは間違えてるかも」
そんなにか?……言われてみればそうかもしれない。何せ魔王だからな。魔王は相応に強いはずだ。
話の隙間に入り込むように、王が話し始める。
「いつまでも地下に居ることは無いだろう。勇者よ、私の国を見て欲しい。その上で、我々を守るか否か、決めては貰えないか」
「そうね、動き始めましょう」
「魔王、この世界でしたらいけない事とかある?」
「そうだな……とりあえず、人を殺すのはダメだろうな」
「それは私達の世界でもダメだよね……」
したらいけない事なんて、特別に思い付かないんだよな……後は街を壊したらダメとか、犯罪全般ダメくらいか?いや、人殺しも器物損害も犯罪だな。
「犯罪、ダメ絶対。まぁ、これさえ分かれば平気だろう」
「うん、犯罪はダメだよね。魔王が犯罪を犯さないか心配になってきたよ?」
「大丈夫だ。問題無い。……まぁ、いざとなれば逃げるから平気だ」
「王の前で言うとはさすが空太というところかの……」
「ヴィドル王だったかしら?空太に常識を求めてはダメよ。ただし、罪を犯したら私達が責任を持って対処するわ」
「対処って、俺より弱いんだろ?」
「主にアリアがするわ」
なるほど……罪を犯す気なんて元から無いから別に気にしなくてもいいか。




