全部壊してやる
「……と、いうわけで暇なんだ。なんなら送って行くぞ?俺なら一日あれば山に辿り着く」
「不要だ」
「お前は王の護衛みたいなものじゃ無いのか?」
「私は王族直下騎士団団長だ」
王のそばには他に帯剣している人はいなかったし、唯一の護衛とかそういうのでは無かったのか。
「まぁ、ならとりあえず騎士長でいいか。……俺は早く例の本が読みたいから送っていく。どうだ?」
「…………確かに王な最も近く居られる護衛は私だ。私は王の傍に控える方がよいだろう。だが、貴様を信用していない」
「でも、お前に危害を加えたら例の本が読めなくなるだろ?」
まぁ、本音をいうと森の黒く侵食された部分が危険だから、安全の為に俺と行ってほしいだけだ。
「だが……」
「『氷の板』『重力弱化』ほら、これに乗れ。飛んでいく」
「属性魔法……っ!」
あ、そういえば使える事言ってなかったな。
「竜化出来るならこれくらい出来ても違和感ないだろ……」
「本性を現したな、異形種!」
……めんどくさいなこいつ!
「よし、もうそれでいいや。俺は異形種を狩る異形種ってことで」
「…………」
「殺す気ならとっくにお前を殺してるし、そもそとあんな街なら正面から戦っても余裕で壊せる。だが、やってないだろ?」
異形種を狩る異形種。敵の敵は味方だろ?作戦だ。どうなる……
「…………信用はしない。だが、今は敵ではないと認識しよう」
「よし。なら、さっそく乗れ。さっさと行って死体掘り返して持って帰る」
「……頼む」
「おう」
かなり大きめに、縦横五メートルはある。これなら、二人乗っても余裕が出来る。
「さて、と……『風の刃』『風』」
真上を覆っている葉を切り、風で飛ばす。これで飛び上がれる。
「よし、どうだ?空の旅は。氷の板が透明だから下が良く見えるだろ」
話しかけながら飛び上がったが、騎士長から返事がない。
「どうした?」
無言で下の流れていく景色を見ている。
「おーい……まぁ、別にいいか。──って、おい!」
下をじっと見ていた騎士長だったが、突然飛び降りる。
「何してるんだ!」
後を追い飛び降りる。
「ぜァァ!」
落下しながら剣を構え、葉を無視して突き抜けながら掛け声をあげている。
…………どうやら、真下に魔物がいたらしい。
「すまなかった」
「いや、まぁいいけどよく落下して無事だな」
「貴様は私をただの人間だと思っているのか?」
「落下して無傷で魔物を一撃で殺したのを見たから、今はさすがに思ってないけどな」
それがただの人間ならこの世界の平均戦闘力は凄いことになる。戦争したら世界が壊れるんじゃないか?
「私は人間最強だ」
「最強ね……魔法は使えるのか?」
「能力向上魔法ならば使えるが、基本近接戦闘のみだ」
能力向上……多分、ライフブーストの弱体化したやつか?命の代わりに魔力を消費する、という感じか?
「なるほど。まぁ、それなら空は飛べないな。──よし、乗れ。今度は飛び降りるなよ?」
話しながら再び氷の板に乗る。
「空を飛ぶ魔法ならば魔導師隊の副隊長が使えるが、私は使えない」
「おお、飛べる人がいるのか!今度見せて貰わないとな」
空を飛んでる人を見て、イメージを固めればきっと俺も飛べるだろう。
……変な風魔法で空を飛ぶ方法を使い続けていたから、スイスイと綺麗に飛ぶ姿がイメージ出来ない。
「好きにしろ」
「教えてくれてありがとな。……副隊長って言ってたけど、隊長は飛べないのか?」
「死んだ。隣の街で異形種に殺された。死体すら残っていなかった」
…………あの街か。廃墟になっていた、美しい夕日の街。
「悪かったな。……お前から見て、この世界っていうのはやっぱり嫌なものか?異形種に怯えて、知り合いがあっさりと死ぬこの世界だ」
「…………昔、我が国には王女が二人と王妃がいた。だが、正面から堂々と入ってきた異形種にあっさりと誘拐された。まだ幼かった王女一人だけは死守出来たが、おそらく誘拐された王妃と王女は、殺されただろう」
「……」
「さらに昔、私には愛する者がいた。将来を誓い、共に生きようと誓った者だ。誓った三日後に、彼女は人間に殺された」
…………。
「私は奪われてきた。愛する者を。守るべき方を」
「……憎いのか?」
「ああ。私は憎んでいる。私から奪っていく者達も、この世界も」
表情は暗いが、目だけは光を失っていない。
「もし俺が全部壊してやるって言ったら、どうする?」
……話の雰囲気に飲まれてつい言ってしまう。
「そんなもの、聞くまでもないだろう。──止めろ。私にはまだ守るべき方がいる。成すべき事がある。成すべきことを終えるまでは決して死なない」
「そうか。安心したよ、俺は。……さて、そんな話を聞いたら手伝いたくなるな。どうだ?別世界の魔王の力、借りてみないか?」
にこやかに笑いながら聞く。おそらく、質問の答えは──
「いらない。私だけで十分だ」
「それでこそ騎士長だな。よし、それじゃあ俺は勝手に少し助けるとするか。とりあえず、速度を上げるぞ?早く守るべき方の元に戻りたいだろ?」
「……疑ってすまなかった。貴様は……魔王はただの異形種では無いようだ」
「ああ、だって俺は異形種じゃないからな。さっきは面倒くさくてそう言っただけだ」
そう言うと、騎士長は「面倒だからと異形種を名乗る者がいるとはな」と呟き、初めて少しだけ笑った。
……いや、おっさんの笑顔なんて誰が得するんだよ。




