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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
二章
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全部壊してやる

「……と、いうわけで暇なんだ。なんなら送って行くぞ?俺なら一日あれば山に辿り着く」

「不要だ」

「お前は王の護衛みたいなものじゃ無いのか?」

「私は王族直下騎士団団長だ」


 王のそばには他に帯剣している人はいなかったし、唯一の護衛とかそういうのでは無かったのか。


「まぁ、ならとりあえず騎士長でいいか。……俺は早く例の本が読みたいから送っていく。どうだ?」

「…………確かに王な最も近く居られる護衛は私だ。私は王の傍に控える方がよいだろう。だが、貴様を信用していない」

「でも、お前に危害を加えたら例の本が読めなくなるだろ?」


 まぁ、本音をいうと森の黒く侵食された部分が危険だから、安全の為に俺と行ってほしいだけだ。


「だが……」

「『氷の板』『重力弱化』ほら、これに乗れ。飛んでいく」

「属性魔法……っ!」


 あ、そういえば使える事言ってなかったな。


「竜化出来るならこれくらい出来ても違和感ないだろ……」

「本性を現したな、異形種!」


 ……めんどくさいなこいつ!


「よし、もうそれでいいや。俺は()()()()()()()()()ってことで」

「…………」

「殺す気ならとっくにお前を殺してるし、そもそとあんな街なら正面から戦っても余裕で壊せる。だが、やってないだろ?」


 異形種を狩る異形種。敵の敵は味方だろ?作戦だ。どうなる……


「…………信用はしない。だが、今は敵ではないと認識しよう」

「よし。なら、さっそく乗れ。さっさと行って死体掘り返して持って帰る」

「……頼む」

「おう」


 かなり大きめに、縦横五メートルはある。これなら、二人乗っても余裕が出来る。


「さて、と……『風の刃』『風』」


 真上を覆っている葉を切り、風で飛ばす。これで飛び上がれる。


「よし、どうだ?空の旅は。氷の板が透明だから下が良く見えるだろ」


 話しかけながら飛び上がったが、騎士長から返事がない。


「どうした?」


 無言で下の流れていく景色を見ている。


「おーい……まぁ、別にいいか。──って、おい!」


 下をじっと見ていた騎士長だったが、突然飛び降りる。


「何してるんだ!」


 後を追い飛び降りる。


「ぜァァ!」


 落下しながら剣を構え、葉を無視して突き抜けながら掛け声をあげている。

 …………どうやら、真下に魔物がいたらしい。


「すまなかった」

「いや、まぁいいけどよく落下して無事だな」

「貴様は私をただの人間だと思っているのか?」

「落下して無傷で魔物を一撃で殺したのを見たから、今はさすがに思ってないけどな」


 それがただの人間ならこの世界の平均戦闘力は凄いことになる。戦争したら世界が壊れるんじゃないか?


「私は人間最強だ」

「最強ね……魔法は使えるのか?」

「能力向上魔法ならば使えるが、基本近接戦闘のみだ」


 能力向上……多分、ライフブーストの弱体化したやつか?命の代わりに魔力を消費する、という感じか?


「なるほど。まぁ、それなら空は飛べないな。──よし、乗れ。今度は飛び降りるなよ?」


 話しながら再び氷の板に乗る。


「空を飛ぶ魔法ならば魔導師隊の副隊長が使えるが、私は使えない」

「おお、飛べる人がいるのか!今度見せて貰わないとな」


 空を飛んでる人を見て、イメージを固めればきっと俺も飛べるだろう。

 ……変な風魔法で空を飛ぶ方法を使い続けていたから、スイスイと綺麗に飛ぶ姿がイメージ出来ない。


「好きにしろ」

「教えてくれてありがとな。……副隊長って言ってたけど、隊長は飛べないのか?」

「死んだ。隣の街で異形種に殺された。死体すら残っていなかった」


 …………あの街か。廃墟になっていた、美しい夕日の街。


「悪かったな。……お前から見て、この世界っていうのはやっぱり嫌なものか?異形種に怯えて、知り合いがあっさりと死ぬこの世界だ」

「…………昔、我が国には王女が二人と王妃がいた。だが、正面から堂々と入ってきた異形種にあっさりと誘拐された。まだ幼かった王女一人だけは死守出来たが、おそらく誘拐された王妃と王女は、殺されただろう」


「……」


「さらに昔、私には愛する者がいた。将来を誓い、共に生きようと誓った者だ。誓った三日後に、彼女は人間に殺された」


 …………。


「私は奪われてきた。愛する者を。守るべき方を」

「……憎いのか?」

「ああ。私は憎んでいる。私から奪っていく者達も、この世界も」


 表情は暗いが、目だけは光を失っていない。


「もし俺が全部壊してやるって言ったら、どうする?」


 ……話の雰囲気に飲まれてつい言ってしまう。


「そんなもの、聞くまでもないだろう。──止めろ。私にはまだ守るべき方がいる。成すべき事がある。成すべきことを終えるまでは決して死なない」

「そうか。安心したよ、俺は。……さて、そんな話を聞いたら手伝いたくなるな。どうだ?別世界の魔王の力、借りてみないか?」


 にこやかに笑いながら聞く。おそらく、質問の答えは──


「いらない。私だけで十分だ」

「それでこそ騎士長だな。よし、それじゃあ俺は勝手に少し助けるとするか。とりあえず、速度を上げるぞ?早く守るべき方の元に戻りたいだろ?」

「……疑ってすまなかった。貴様は……魔王はただの異形種では無いようだ」


「ああ、だって俺は異形種じゃないからな。さっきは面倒くさくてそう言っただけだ」


 そう言うと、騎士長は「面倒だからと異形種を名乗る者がいるとはな」と呟き、初めて少しだけ笑った。

 ……いや、おっさんの笑顔なんて誰が得するんだよ。

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