ライ・ディテクター
「……それがライ・ディテクターか?」
「他に何に見える」
「俺には大斧にしか見えない」
尋問員が持ってきた物は、人の首どころか木だって切れそうな大斧だった。
ライ・ディテクターって、嘘発見器じゃないのか……?騙されたのか?
「安心しろ。ちゃんとライ・ディテクターの機能を持っている」
「素直に安心出来ると思うか?」
「恐怖を与える為にわざわざこのライ・ディテクターを持ってきた。安心されては困る」
「それを聞いて安心した」
ライ・ディテクターは全てが大斧というわけではないらしい。よかった。多分俺のイメージするような小さいのもあるだろう。
「……では始める。嘘をついたならその斧はお前の首を狩る」
話しながらライ・ディテクターを空中に離す。
魔法が掛けられているからだろう。空中で話されたライ・ディテクターはそのまま空中に浮く。
「なぁ、もしかして重力弱化の魔法って普通に使えるのか?」
「これは元々掛けられている魔法だ。神代道具も知らんのか……」
話している間に、首元までゆっくりと飛んでくる。結構怖いなこれ……
「準備は出来た。嘘をつくと本当に首が飛ぶから気を付けろ」
「わざわざそれを持ってきた奴がいうかな、そのセリフ……」
「貴様は異形種か?」
「違うって言ってるだろ……」
「はいかいいえだけで答えろ」
「はいはい」
さて、どうしたものか……。
「貴様は異形種か?」
「いいえ」
「……では、貴様は何者だ」
「…………」
はいかいいえだけだと無理な質問するなよ……
「答えろ!」
「…………はいでもいいえでもないんだがいいか?」
「……話せ」
「なら、俺は異世界から来た魔王だ」
適当言っても騙し通せる自信は無いし、何より本当に死ぬ。
「……何故異形種を狩った」
「異形種の首を取って国に恩を売りたかったから」
「何故恩を売る」
「探して欲しい本、魔法があるから」
世界を渡れる魔法。もしくはそれが乗っている本。それが欲しくてここに来ている。
「……貴様は何故強い」
「何故って……魔王だからだろうな」
「…………では、最後に質問だ。貴様は他の異形種を狩る予定はあるか?」
「必要に応じて。俺が望む魔法を授けてくれるなら異形種くらい狩ってやるって上に伝えろ」
これでいい。異形種を狩ると約束してやれば、俺を殺すことは出来ないだろう。救世主みたいなものだからな。
尋問員は無言でライ・ディテクターを持ち、そのまま部屋を出ていく。
「…………帰ってきてくれるよな?俺、縛られたままなんだか」
もう届かないと分かっていながら、独り言のように話しかける。当然、返事は無い。
…………日が変わっても帰ってこなかったら、引きちぎって逃げるか。
窓から見える太陽は黄昏時の綺麗なオレンジ色をしている。空は既に紫に近い色になっているし、もうすぐ夜になるだろう。
一晩だけ、待つことにしよう。縛られたまま。
★
ルクセントリア城、王の間
「ふむ、あの話は全て本当だったか……」
城の中の奥の一室。王や王の認めた者しか入れないその部屋では、王と一人の騎士が話していた。
……いや、その騎士はただの騎士では無い。
王の前で帯剣を認められ、王を守護する騎士団、王族直下騎士団の団長だ。
そして、空太を尋問していたあの尋問員でもある。
「第三隊の隊長にもライ・ディテクターを使い尋問致しますか?」
ライ・ディテクターは本来、簡単に使える物ではない。
神代道具というだけでも希少な上に、ライ・ディテクターは数が少ない。空太には他にもある風に言っていたが、実際のところ大斧型のライ・ディテクターを一つしかこの国は保持していない。
「いらぬ。それよりその魔王が望んだ魔法とは何だ?」
「何も申しておりませんでした」
「……私が直接会おう」
「いけません。危険です」
「異形種をあっさりと殺す存在なのだろう?怒りを買えばどの道危険。ならば私が自ら出て敬意でも見せておく方がよい」
★
日が沈んでからだいぶ時間が経った頃、おそらく深夜の二時くらいだろうか?
部屋に人が来た。さっきの尋問員だ。しかし、服装が違う。さっきまでは制服というか、軍服という感じだったのに今は鎧を着けている。
「王は貴様に直接会うそうだ。来い」
「その鎧、かっこいいな。もしかしてお前、身分高いのか?」
「黙ってついて来い」
拘束していた縄が解かれる。
「王に会うってことはあの城の中に入るのか?」
「……そうだ。分かったら黙っていろ」
「はいはい」
まったく、何時間も拘束して放置しておいて、戻ってきたらいきなりこれか。待たされた時間の中で何回拘束を引きちぎってやろうと考えたことか。
ここは王に一言がつんと言ってやろう。
「よく来た、魔王よ。まずは礼を言おう。この街を救ってもらった事、感謝する」
城の中を歩かされ、やっと辿り着いた部屋の中に入ると同時にこれだ。とりあえず、あなたが誰なのかだけでも教えてもらえないかな……?
王っぽいけど、王じゃなかったら王に無礼だろうし。
「……どうも。それで、その恩人を拘束して尋問して放置した事について聞きたいんだが?」
とりあえず、キレておく。まぁ、これで無礼とか言われて襲われたら逃げればいい。
異形種を殺せない時点で強さは分かる。問題無く逃げられる程度だ。
「大変申し訳ない。だが、我々も竜となり異形種を簡単に殺せる者をあっさりと信用は出来ん」
「……まぁそうだよな。ならもうこの件はいい。それで、ここまで呼び出したなら魔法の件については期待していいのか?」
「まずはその魔法がどのようなものか教えていただきたい」
……そういえば言ってないな。
「異なる世界へ渡る魔法だ」
「異なる世界…………異なる世界に関する本が一冊、あったはずだ。それを見る権利と引き換えでどうだろうか」
「よし、問題無い。じゃあさくっと異形種狩るからどこにいるか教えてくれるか?」
異なる世界に関する本。まぁ、期待しても良さそうだ。
「……ルクセントリア大森林の奥の雪山、そこにいる正体不明の異形種を討伐して欲しい」
…………それってあの骨の竜だよな?森を越えたところの雪山にいる異形種。うん、間違いないな。
「すでに倒した。証拠となる胸元にあった赤い宝石の破片を入国の為の金として払った」
「…………すぐに確認させよう。行け」
「ハッ!」
尋問員……騎士隊隊長が走っていく。護衛というより、パシリか?
「さて、待つ間に夜食でもどうだろうか」
「夜食……ああ、食べる」
多分、ずっと拘束されてて何も食べてないからだろうな。気が利くじゃないか。俺には必要ないけど。
……でも、王の城の食べ物って絶対美味しいよな。食べておいても損は無いはずだ。




