ルクセントリアの森の異形種
「すみません、冒険家ギルドってどこにありますか?」
「冒険家ギルド、ですか?申し訳ありません。この街にはそのような場所はございません」
無い……名前が違うのか?
「魔物の討伐の依頼を受けたり出来る場所はどこにありますか?」
「それでしたら、城下に掲示板が設置されておりますが……」
「何か問題があるのか?」
「はい。この周辺にある森に異形種がいますので、魔物討伐に行くのは大変危険です」
なるほど……つまり森に行けば異形種を狩れるのか。
「情報ありがとう。とりあえず城下に行って掲示されている依頼を見てみるよ」
「お気を付けて」
「ありがとう」
宝石をあげたからだろうけど、凄い対応よかったな……。
大通りをまっすぐ歩いていくと、大きな城が見える。図書空間があった城よりは小さいが。
城の門の横に大きな掲示板があり、四枚の紙が貼られている。
『ルクセントリアの森の異形種の討伐』
『森の賢狼の退治、討伐』
『白銀の巨鳥の退治、討伐』
『古老の黒亀の退治、討伐』
……これは、どれも強そうだな。まぁ、異形種を狩ればいい。
掲示板を眺める俺をじっと見ている、城の門番に声をかける。
「依頼を受けたいんだけど、どうすればいい?」
「……どの依頼だ?」
「異形種の討伐」
「なら、二日後に討伐隊が出る。そこに加われ」
「どうしたら加われる?」
「討伐隊の隊長が門番の詰め所にいる。依頼を見たといえばいい」
「助かった。ありがとう」
門番の詰め所ということは、来た道を戻るのか……まぁいい。さっきの入口の門番に詰め所の場所を聞こう。
「門番の詰め所ですか?かしこまりました、案内致します」
宝石を渡した門番の所へ戻り、場所を聞く。
「ああ、場所を教えてくれれば大丈夫だ」
「いえ、私もそろそろ交代の時間なので案内致します」
「なら、頼む。……あの宝石、そんなに価値が高いのか?」
「……入国料の、百倍は確実です」
百倍……入国料は銀貨で十枚だったから、銀貨千枚か。
…………もう一つくらい破片持ってくればよかった。いや、いっそ全部持ってくればよかった。
「ま、まぁそれはもう俺の物じゃないから好きにしていい。それより、道案内頼む」
「もちろんです。何かありましたら私にご相談ください。では、こちらへ」
知らない世界に力を貸してくれる人が一人出来たと考えれば安いものだ。銀貨千枚くらい。……安い、よな?
「こちらになります」
徒歩一分……まぁ、門番の詰め所だから門から近いはずだけどな?これ、道案内必要無いだろ。
「では、こちらへどうぞ。応接室へ案内致します」
応接室……門番の詰め所ってそんな場所があるのか。
「あれ、隊長。まだ交代の時間では──」「今夜酒を奢るから代われ」「はいっ!」
詰め所にいた別の兵士と話しているが、今隊長って呼ばれていた気がする。
「隊長!俺も奢ってください!」
「今夜は全員奢ってやる!予定空けとけ!」
「「「ウォォオオオ!!!」」」
テンション高いな……。
それに、どうやら宝石をあげた門番が隊長だったらしい。いや、隊長が一人で門番なんてするなよ……。
「隊長だったのか」
「はい。私は第三隊及び討伐隊で隊長を務めております、セラ・アルシと申します。お気軽にセラとお呼びください」
「俺は水無瀬 空太だ。空太でいい。それより、討伐隊の隊長なら話があるんだけどいいか?」
討伐隊の隊長に、異形種の討伐依頼を見てきた事を伝えて参加するのが目的だからな。
「もちろんです。ですが、まずは応接室へ。冷たい飲み物もお出し出来ますから」
「そうか。なら、応接室に着いてから話すか」
「ええ。……おい、聞いてたな!誰か冷たい飲み物買ってこい!酒じゃねぇぞ!」
「ウッス!今夜はちゃんと奢ってくださいよ?!」
「当たり前だ!」
……なるほど、なかなか楽しそうなノリだな。じゃなくて、冷たい飲み物は買いに行かせるのか。
「なんか悪いな」
「いえいえ。──こちらが応接室になります」
辿り着いた部屋は、テーブル一つに椅子が二つ、扉は頑丈で壁も厚そうだ。窓は小さく、格子がかかっている。
……尋問部屋、だよね?
「ここは普段は尋問用に使われている部屋です。ですが、ここなら誰にも聞かれずに話す事が出来ます」
窓がある時点で無理じゃないか?って、そもそも聞かれてもいいんだが……。
「まぁ、色々ツッコミどころはあるけど、とりあえず話をしよう。俺は異形種討伐の依頼を見てここに来た。討伐隊に加えてくれないか?」
「……なるほど、聞かれてまずい話では無かったのですね」
「まずいならそれとなく匂わせるからな?」
……でもまぁ、身分証も荷物も無くいきなり来て、ポケットから高価な宝石を出して渡したんだよな俺は。怪しい話だと思われても当然か。
「そうでしたか。……それで、討伐隊に加わるという話ですが、止めた方が良いかと思います」
「俺は強いぞ?」
まぁ、人前では属性魔法は使わないけど。
「……今回の討伐作戦はおそらく、いえ間違いなく失敗します」
「それは、どうしてだ?」
失敗するならそもそも討伐隊を出さないだろう。
「我々は、討伐隊という名の生贄です。ルクセントリアの森の異形種はあまりにも強大で、人間に勝ち目はありませんから」
「生贄を捧げてこの街に来ないようにか?」
「はい。その通りです」
つまり、死にに行くのか……。
「討伐隊は二日後に出立で間違い無いな?」
「はい。ですが……」
「ルクセントリアの森の異形種の情報を少しでも多く教えろ」
「……くれぐれも、依頼を受けることはしないでください」
「依頼は受けない。だから教えろ」
「…………わかりました。ルクセントリアの森の異形種は植物系です。噂では黒い巨木で、蔦を縦横無尽に振るいます。居場所は森の深奥、神木の近くで森の中にある黒く変色した所を辿るといるそうです」
黒い変色……確か森の上を飛んでる時に大量に見たな。でも、あれは確か深奥というより街に近かったような……。
「ありがとう。じゃあな」
さて、異形種狩りに行くか。異形種の死体をあの城の前に持って行って、生贄なんて必要無いと思わせてやらないとな。
門番の詰め所を出る足で、そのまま街を出た。
街から少し離れてから氷魔法で板を作り、詠唱魔法で浮かせる。風魔法で調整しながら氷の板に乗り空を飛ぶ。
森の上まで飛んで行き、黒くなっている地点を探す。
──すぐに見つかった。黒くなっている場所はほぼ直線的に街に向かっている。これは、もう少しで街に到達しそうだな。
生贄が行くのは二日後だったよな?これ、多分二日後には街に着いているな……まぁ、俺がここで狩るから問題は無いが。
黒い地点の最も街に近い所に降り立ち、周囲を見回す。
「何もいないな……それに地面に何かが通った跡も無い。どういう事だ?」
何故かはすぐにわかった。
というのも、黒く変色していた木が襲いかかって来た。迫り来る蔦を闇の盾で受け止める。闇に触れた部分が灰のようにサラサラと崩れていく。
「なるほど、こいつも魔力で操っているのか」
あの骨の竜のように、この蔦も魔力で操られている。だから魔力吸収によって崩れる。
「つまり……『闇の霧』」
闇の霧を放つと、黒くなっている部分が全て灰のように崩れる。
「でも、これは本体じゃないよな。本体だとしたら森の中に点在する黒い部分を全て潰す必要がある。めんどくさいから違くてあってくれよ……」
半ば祈りのような気分でそんな事を考えながら再び空を飛ぶ。今度は、木の上すれすれで飛び、異変を探す。というか、今黒くなっていく場所を探す。
本体があるのなら、黒いのは侵食されたみたいなものだろう。なら、侵食している所を見つけて殺せばいい。
…………黒く変色していく場所は、既に森ではなく草原になっていた。街が見えるほど近い、草原に。




