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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
二章
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人の街

 空から森の中を見ていると、所々真っ黒に変色している。木が葉も幹も黒く変色していて、それが数本固まっている場所が所々にある、という感じだ。


 ……少し、気になるし見てみるか。


 重力弱化の魔法を切り、風魔法でゆっくりと黒くなった木の元に降りる。



「これは……腐ってるのか?いや、でも何か違うな」


 腐ってるにしては、綺麗に形を保っている。

 病気か何かだろうか。


「どうせ分からないから考えても無駄だな」


 考えても分からない事は考えない。



 ──見なかった事にして、空の旅を続けるか。


 再び空に飛び上がり、空の旅に戻る。


 なんとなく黒い場所が増えてきている気がする。この森は病気が流行っているのか?






 日が真上に見えてきた頃、やっと森が終わった。

 空を飛んでいたのに森を抜けるのにほぼ一日かかった。空を飛んでよかった……。


 森の隣は草原になっていて、草原と森のあいだには整備された道がある。

 そう、道がある。


 空から降りて道を辿るように歩き始める。この道を辿れば国に辿り着けるだろう。何も無いところに向けて道を引くはずは無いしな。



 ……歩いている道に魔法がかけられているのか、植物が道に侵入していなかった。

 そのおかげで道は分かりやすかったが、そのせいで最近道が使われた形跡が無いことに気付かなかった。





 太陽が綺麗な夕日に変わる頃、道はある場所に辿り着いた。


 既に廃墟と化した、大きな街に。


 風魔法のみで飛び、上空から確かめたが人は居なさそうだ。もしかして人類って滅びてるのか?いや、さすがに滅びてないよな。多分、大丈夫だよな……。


 しかし、夕日と滅んで廃れた街。絵になると思ってしまうのは、仕方ない事だ。それほどまでに、退廃的で美しい景色なのだから。

 それが、元々誰かが暮らしていた場所の残骸だとしても。



「……何をポエムってるんだ、俺は」


 綺麗な景色だが、屋根が残っていて寝られそうな建物を探すのが先だな。寝る時には屋根があった方が安心する。




 地上に降り、少し歩く。

 屋根の残っている建物は結構見つかったから、適当に歩いてよさげな所に入るつもりだ。


 ……しかし、荒れ方が酷い。大量の魔物が出て、暴れ回ったのだろうか?扉や窓が残っている建物はほとんどなく、さらに大半の建物が壁すら壊れている。

 地上で魔物が暴れて、空からは隕石でも降ってきていたのかと思うほどにぼろぼろに壊されている。


「まぁ、寝泊まり出来るくらいでいいからここでも問題無いな」


 適当に壁と屋根が残っている建物に入る。普通の家だ。扉は壊れているが。


 まだ、寝るには早い。明日は道を逆に辿っていくとしても、もう少し早い移動手段を考えよう。出来れば疲れない移動方法で。


 ……飛行魔法を地表すれすれで使ってもいいが、魔力がかなり消費される。

 なら、いっそスノーボードみたいに滑るか?

 いや、すると余計に魔力を使うことになりそうだな。やはり、走るのが一番か?魔力を消費しないし、速い。

 ただ、疲れるんだよな。スペックが高くても体重が減る訳ではないから足に負担が掛かるし……って、そうだ!


 建物を出て、適当なサイズの石を二つ拾う。

 そして、石に重力弱化をかけて両手に握り、走る。

 ……手だけが軽くなるな。だが、これを全身に仕込めば自分が軽くなる。

 これなら、楽に走れるようになるはずだ!




 服に魔法でくっつけ、全身を軽くした所で初めて気付く。


 ──これ、服だけ浮いて走りにくい。しかも邪魔。



 結局、走っていくことにした。






 ★





「どうして?!なんで通れないの?!」

「……私達は邪魔、という事かしら?」


 結界の中に入れない二人は、結界を攻撃したりと、中に入ろうとしたが入れなかった。

 パトラッシュは魔獣王と呼ばれる程強力な存在だ。ライフブーストした程度の空太では敵わない程に強い。

 そんなパトラッシュが張った結界を、レスティとウェンディでは壊せないのは当たり前の事だった。


「なんで、こんなことするの……?」


 レスティの言葉に、ウェンディは「私達では邪魔になるわ」と言おうとしたところで言葉に詰まる。

 レスティの表情に、悲しみや怒りだけでなく焦りのような感情も見えたからだ。普通を装っていたレスティだが、実際は空太の事が心配なのだろう。

 なのに、何も出来なくなってしまった。何かしなきゃという感情と、何も出来なくなってしまったという事実が、焦りを生んでいる。


「……レスティ、私達は私達で方法を探すわよ!」

「ウェンディちゃん?私達だけじゃ、無理だよ!」

「いいから付いて来なさい。このままだと何も出来ないわよ」


 何も出来ない、という言葉を聞いて、レスティの表情が少し変わる。


「まずは、これを食べるわ」


 そして、ウェンディが少し笑いながら手に持ったサンドイッチを持ち上げると、レスティも少し笑う。

 結界に入れなくて焦ったレスティの表情は、普段通りの明るい表情に戻っていた。







 ★







 久しぶりに屋根のある場所で寝れた。

 だけどまぁ、地面は硬いし、結局野宿とあまり変わりが無かったな。


 建物を出て、飛行魔法で街の外に出る。

 そして、昨日辿った道を走って逆走する。もう、何も考えずに無心で走り続ける。

 この世界に来てから、移動してばかりだ。いい加減、疲れてきた。








 無心で走り続け、足が重く感じる頃にやっと別の街に辿り着く。

 横には既に森は無く、日も沈みかけている。

 朝起きてすぐに走り出し、ふと気づいたら日が沈みかけている。なんというか、悲しい一日だな……。



 そんな事を考えながら、歩いて街の入口に向かう。

 行列していることもなく、門で待っている兵士の元に辿り着く。


「人だ……!」

「……入国希望ですか?」


「はい」と答えながら、この世界で初めてちゃんと人と話した事に軽く感動する。

 霊体は、何かが違うと思う。


「では、何か身分を証明する物を提示してください」


 …………っあ。どうしよう、あの赤い宝石の破片見せたらいいか?いや、力の証明にはなってもそれだけだな。


「何も所持していませんか?」

「…………申し訳ありません。荷物を魔物に奪われてしまったもので」

「かしこまりました。では、入国料として銀貨十枚いただきます」


 ……金も無いんだよな。だが、それを言ったら入れなくなる。

 仕方ない。


「あいにく、所持金も全て奪われてしまいまして。ただ、これだけはあるので代わりにしていただけませんか?」


 赤い宝石の破片を取り出す。破片と言っても、それなりのサイズがあるし宝石としても価値があるはず。多分。


「こ、これは…………かしこまりました。入国を許可します!」


 おおう、満面の笑みだな……まぁ、宝石としての価値があるなら銀貨十枚以上は間違いないだろうからな。


 まぁいい。とりあえず、金を手に入れて宿を取ろう。服も血塗れ穴だらけ汚れ塗れの白シャツにズボンだから、買い替えないとな。


 とりあえず、冒険家ギルドに行こう。

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