飛行
図書空間を出る時、世界地図のような物を見てきた。見てきた限りでは、山を越えてそのまままっすぐ行けば人の国着けるはずだった。
「さすがに適当過ぎたな……地図、持ってきておけばよかった」
あとは方位磁針の代わりになるような道具か魔法を覚えて来るべきだった。
本来、山を越えて少し歩くと大きな湖があるはずだった。
だが、今俺がいるのは森の前だ。何故、こうなったのか……。いや、分かっている。俺が適当に歩いたからなんだよな。
どうしたものか……地図をもっと覚えておけばよかったな。森がどこら辺にあったか分かれば方角もわかるんだけどな。
「仕方ない。適当に森を迂回して歩く……いや、待てよ。空を飛べばいいか」
魔力を結構消費する上に姿勢の問題でダサいが、まぁどうせ誰にも見られないだろう。
──風魔法で飛び上がる。おそらく二百メートルくらいの高さが、多分落下しても死なないだろう。魔王スペックだからな。
高さを維持したまま森の上を進む。何かしら見つかるまで、このまま進めばいいか?道を見つけられれば辿っていくんだが……。
…………道を見つけるどころか、森の上を抜け出せないまま日が沈んだ。
この移動方法、空から色々見えるのはいいがスピードが出ない。走った方が速い。
「……まぁ、仕方ないよな。次に下に降りたらもっといい飛行方法考えるか」
下は一面森だから、とりあえずは降りられそうな場所が見つかるまでは降りられないよな……。いや、もういいか。魔法で一部破壊しよう。
しかしどの魔法でやるか……あまり魔力を消費したくないからな。風属性の魔法で上から潰すか。二メートルくらいの範囲ならそれでいいだろう。
「風の落下』」
……適当過ぎる詠唱だがちゃんとイメージ通りに発動する。
そこにあった木が押し倒されて、草も潰れている。
「よし、着地完了。この魔法も使えるな」
足場を整える魔法として使える。まぁ、実戦での使い道は多分無いだろうが。
「とりあえず今日は寝るか……明日の事は明日考えればいい」
闇の結界を作り、横になる。
飛行魔法の新しいのを考えないとな……。
硬い地面の感触を体に感じながら起きる。
……昨日、結局森を抜ける事も出来なかったんだよな。今日は抜け出せるといいけど。
「あ、そうだ飛行魔法。新しい方法を考えないとな……」
風魔法で飛ぶあの方法では遅い。それに疲れる。
……気球が思い浮かぶが、上手く作れる自信が無い。やはり風魔法を使うのが一番いいだろう。しかし、それだけだと今までと変わらない。
闇で板を作ってそれに乗って風魔法を使うか?体勢は良くなりそうだが速度が出せないな。消費魔力と魔力回復量が釣り合わないといけないからな。
…………詠唱魔法に確か重力弱化ってあったよな。
「確か……『我は理に干渉する者。干渉し、歪める者。望むままに歪め。──重転』」
試しに落ちてた木の枝に使う。
木の枝は重力を無視して浮かぶ。成功だ。
氷魔法で氷の板を作る。魔力を多めに込めて溶けないようにしておく。
そして再び重力弱化を使い、浮かぶ板を作る。その上に乗り、風魔法で高さを調整する。
「これは……いける!便利だな、詠唱魔法」
体を浮かす分の魔力を推進力に当てられる分、早く進める。
便利な飛行魔法を作れたことだし、早く森を抜けよう。
もっとも、森を抜けたところで何があるのか分からないが。
★
「師匠、深淵って何?」
「忙しいからパトラッシュちゃんに聞いて!ごめんね!」
魔王城では、深淵の者と契約出来る血飲みの者、アリアを中心に大掛かりな魔法陣を作っていた。
しかし、レスティとウェンディは普通の……魔王城の中では普通の二人だ。深淵の者と契約する為の魔法陣の書き方どころか、深淵が何かすら知らない。
「みんな、忙しそうだね……」
「そうね。私達に出来ることが何かないかしら……」
レスティはパトラッシュを探しながら隣にいたウェンディに声を掛ける。
「魔法陣は作れないし、魔力はアリアちゃんがいるから足りなくなる事はないから、私達には何も出来ないと思うよ?」
話しながらパトラッシュを探すが、どうやら魔法陣制作をしているわけでは無いようだ。
「でも、私達だけ何もしないのは気に入らないわ」
「うーん……パトラッシュさんがいないから、もしかしたら別の作業があるのかもしれないね。探してみる?」
「確かにいないわね。いいわ、探してみましょう」
二人は部屋を出てパトラッシュを探しに行く。
パトラッシュはすぐに見つかった。……部屋を出てすぐのところにいた。魔法陣を作っている部屋を囲むように結界を張っている。
「……私達には出来ないわね」
「う、うん。そうだね……」
顔を見合わせて、残念そうにする。そんな二人を見て、パトラッシュが声を掛ける。
「手が空いているのなら、全員分の食事の用意をお願い出来ますか?」
パトラッシュの言葉に二人はすぐに「やる(やるわ)!」と答えて、厨房に向かった。
パトラッシュは、そんな二人を見て複雑そうな表情をしながら少しだけ笑う。結界の外側へ出ていく、二人を見送りながら。
「作業の手を止めないで食べられる物って何かな?」
「そうね……サンドイッチなんてどうかしら?」
「そうだね。それなら片手で食べられるから、ちょうどいいよ!」
二人はいそいそと準備を始める。
棚に置いてあったエプロンを着け、ウェンディは髪を後ろで纏める。
その間にレスティは材料を出したり、包丁などの道具を並べる。
そして、準備が整うとすぐに二人は料理を始めた。
空太が見れば喜びそうなその光景は、特別誰かに見られる事は無かった。
「これくらいで十分かな?」
「私は人間以外の、初めて見た種族がどれくらい食べるのか分からないわ」
ウェンディの言葉に「私も分かんないよ……」と答えながら、手早く綺麗に見えるように食器に並べていく。
ウェンディも料理慣れしているようだったが、レスティが作ったサンドイッチの方が綺麗で、相当慣れている感じがする。だからだろう。ウェンディは何も言わずレスティが作業をするのを見ている。
「それじゃあ、持って行こう!」
「そうね。なら私が持つわよ、並べるのを任せてしまったもの」
「ありがとう。じゃあ、お願いするね」
そして、結界の中に入れない事に気付くまでにそう時間はかからなかった。




