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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
二章
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再生

「とりあえず、人が暮らす場所に行くためには森か地下洞窟か山を越えて行かないと出られないんだよな……」


 森と地下洞窟はおそらく通って来た道だろう。なら、山を越えて行こう。

 森と地下洞窟は通ったが、異形種に出会うことは無かった。いる感じもしなかった。

 ……だから、山にいる事を願って山を越える。




「…………高いな。上の方が見えない」


 これを登るのか……。まぁ、仕方ない。元の世界に戻るには必要な事だ。


 見上げるのを止めて、歩き出す……いや、走り出す。どれ程時間が掛かるのかは、考えない事にした。








 ──登り始めてからどれだけ時間が経ったのだろうか?魔王スペックでも疲れを感じる程走って登り続けた結果、辺り一面雪に覆われた、標高の高い場所まで辿り着いた。


「やばいな……休憩出来る場所が無い」


 さて、どうするか……。

 今は走って熱を持った体に雪が心地良いが、すぐに寒くなるだろう。指先なんかはもう寒い。

 とりあえず、火の魔法を使う。イメージはキャンプファイヤー出来るほどの大きさの炎。


『炎よ』


 短い詠唱で炎を出現させる。

 ──雪の上で、少し吹雪いているこの場所でそんな炎を簡単に維持出来るはずもなく。すぐに消える。


「魔力を持っと込めるか?……いや、待てよ」


 イメージは闇のドーム。雪の上に床のように闇を張り、そこを囲むように闇のドームを作る。

 ここなら吹雪も雪も無い。……密室になっているこの場所で火を使うのは危険だな。


 …………闇で鍋を作り、その中に水を満たし、火の魔法で火の玉を作り出し水の中に入れる。

 一瞬で火は消えるが、水は熱くなる。


 簡易足湯の完成だ。ついでに闇で椅子も作り、足湯を使う。

 半透明な闇の結界の向こうでは吹雪が強くなっていく。


「しばらくここで休むか……吹雪、止むよな?」


 当然、どこからも返事は無かった。





 二時間ほど待つと、吹雪は止んだ。


「……また、走るか」


 闇の結界を解除し、再び走り出す。

 ……動きずらい燕尾服の上は脱ぎ、シャツのボタンは半分開けてある。ズボンは裾を折り上げ、動きやすくしている。

 それでも、雪の積もった山の上は走りにくかったから、魔法を使う。

 詠唱魔法『重力軽減』だ。雪の上を跳ねるように走れる。もちろん、使っている間魔力を消費し続けるが、ライフブーストの回復量の方が多い。


 またしばらく山道を走り続け、頂上に辿り着く。

 ……正確には、抉り取られたようになくなった頂上の跡、雪もなく草も生えていない、平らで広い場所に辿り着く。


「なんで道がこんなところに続いてるのか……」


 その答えは、すぐに出た。


 ──黄ばんだ白色の大きな体。竜のように見えるが、全身に骨しかない。

 いや、骨以外にも一つだけある。胸元に赤く丸い宝石のような物がある。

 その宝石はまるで心臓のように、鼓動するように光を放っている。


「……て、あれ?これピンチだよな、俺」


 見るからに強力な魔物に続く道。おそらく過去に何人もここを通って骨の竜に戦いを挑んだのだろう。


 少し見つめ合っていたが、唐突に骨の竜が手を振り上げ、そのまま振り下ろしてくる。


「っ!」


 咄嗟に闇の結界を展開して受け止める。

 ──闇の結界に触れた部分の骨が落ちる。


「……もしかして、骨を魔力で動かしてるのか?だから魔力を吸われて落っこちた。みたいな感じか?」


 試しに闇を球体にして足に投げ当てる。

 ……ぶつかると同時に、闇は液体のように広がる。そして、足の部分の骨が役目を果たしたかのように落ちる。


「これは勝てるな」


 勝利を確信した瞬間だった。


 胸元の宝石から赤い光線が放たれる。

 赤い光線は綺麗に胸を貫いて、背後の地面を焼く音をさせる。


 口から血が溢れ、意識が途端に遠のく。


「ぅえ?」



 ──遠のいていた意識が戻ってくる。


 胸に空いたはずの穴が塞がる。喉に残っていた血が無くなっていく。落ちたはずの血が戻ってくる。


「これは…………?」


 まるで肉体が逆再生したように感じた。


「どうして再生す──……っ!」


 骨の竜の手が再び振り下ろされる。咄嗟に闇で盾を作ろうとするが、間に合わない。右に回避したが、避け切れずに左腕に当たる。


 当たった左腕は吹き飛ばされる。だが、痛みがほとんど無い。

 それに、吹き飛ばされた左腕がすぐに逆再生するように治る。


「これは、何なんだ……」


 肉体が再生する。……まぁ、それで助かったからいいか。今はこの骨の竜を倒すべきだろう。


 手を振り下ろす攻撃では倒せないと思ったのか、骨の竜は翼膜の無い翼を広げる。


「何する気か知らないけど、ごめん」


 翼を広げ終わる前に闇の槍で翼の付け根を落とす。当然、翼も落ちる。


「なんか無双してるな……『闇の霧』」


 闇を霧状にして骨の竜を覆うように展開する。念の為、魔力を多めに込めておく。



 ──十秒程で闇を消す。そこには、黄ばんだ竜の骨とくすんだ赤色の丸い宝石が落ちていた。

 念の為赤い宝石に闇の槍を撃ち込む。これで大丈夫だろう。


 この竜は異形種なのだろう。この世界で死体が動く事は無い、つまりアンデットの魔物は本来いないはずだ。

 とりあえず、割れた赤い宝石をポケットにしまう。四つに割れているから、一つをポケットにしまう。

 残りの骨と宝石の破片は……埋めておくか。

 闇の槍を何度も地面に撃ち込み、穴を開ける。そして開けた穴に骨と宝石の破片を全て入れて、上から土をかける。




 ……竜の骨のサイズの問題で結構時間がかかった。


「よし、まぁこれでいいだろう。異形種の討伐、達成だ。後は人の国に行くだけだ」


 上手く行けばそこでアリアの世界に帰る方法がわかる。



 …………早く魔王城に戻りたいとは思うけど、それ以上に俺がいない状況になって魔王城はどうなっているのか気になるな。

 パトラッシュと神託の者と血飲みの者は暴走してそうだし、なんだかんだウェンディも俺を助ける為に色々しそうだな。レスティは……暴走する血飲みの者を抑えるのが大変だろうな。


 考えれば考えるほど、魔王城に戻りたくなる。…………よし!無事帰れたらアリアとウェンディも連れてまたあの混浴風呂に行こう。

 多分、文句を言いながらも一緒に入ってくれるだろうな。楽しみだ。

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