異形種
サブタイトルが下書きのままになっていたので変えました。(八月二十七日)
詠唱魔法というのは、昔の才能ある数人の人間が作り出した魔法だ。
……数人によって作り出されたからか、口調や言い回しが結構違う。
詠唱魔法の本を数冊読んだが、一人称が「我」の本と「私」の本がある。他にも違うところは細かくあった。
「まぁ、詠唱するだけで使えるから強くて便利だな。……実戦でどのくらい使えるのか、試してみたいな」
図書空間に数日篭って、色々な本を読んでみたが、詠唱魔法が一番面白い。他にも面白そうな魔法もあったけど、まぁそれは後回しでいい。
魔法関係以外の本も色々と読んだ。
この世界の歴史書も読んだが、なかなかハードだった。
……そして今は人類滅亡の危機、という感じだった。
歴史書ではなく、別の本によるとどうやら魔物ではない生物が暴れているらしい。
その魔物ではない生物の総称を異形種と呼び、それらは生命を喰らい生き続ける。らしい。
それほど数は多くないが一体一体が強くて、倒しても別の場所に別の異形種が現れ続けるから対処出来ない。また、森の深奥や海の底、高高度を飛び続ける種や標高の高い山の頂上に巣食ったりと、場所的に討伐が難しい異形種も多い。
つまり、倒そうにも手が届かず、守るには街は広すぎて敵は強すぎると。
……霊体の世界を救って欲しいは、多分異形種を全て討伐して欲しいという意味だろう。
俺は魔王だから確かに強いし、食事もいらないし魔法で体温調節も出来る。過酷な環境にも普通よりは適応出来る自信はある。
何より、この世界には無い属性魔法を使える。
「まぁ、とりあえずこの世界の誰かに会って話してみたい気持ちはあるしな……。出来ればこの図書空間のどこにどんな本があるのか知ってる人を見つけたい」
俺がいた世界に帰る方法が載ってる本を探したいのだが、本が多すぎて見つけ出すのは難しい。
霊体にはあれ以来会えてないし、誰か分かる人を探し出して教えてもらうしかない。
「……そしてこの世界の人に好印象を与えるには、異形種を一体くらい倒して持って行けば歓待されるだろう。俺なら出来そうだし」
過去に討伐された異形種に関する本を読んだが、読んだ限りではファフニールより圧倒的に弱い。
つまり、オーバーライフブーストをつかった俺よりも圧倒的に弱いだろう。
つまり、オーバーライフブーストを使えば勝てる。
それに、おそらくだが俺は異形種にとって天敵のようなものだ。
「──と、言うわけで城を出たのはいいけど、どこに異形種がいるんだ?」
現在地と人の国の場所は調べたが、異形種の居場所は調べていなかった。
さて、どうするか……
「まぁ、適当に森の中を歩いたり山を越えたりすればいるだろう」
道よりもそういう所を歩いて国に行けば、多分途中で会えるだろう。
★
ゼクシャと呼ばれた男は、悲しそうな表情でアリアに話す。
「僕は止めたんだ。だけど、彼は「こんな世界にいたくない」と言って、スマートフォンを僕に渡して来たんだ」
一度話を止めて、空太のスマホのような物を取り出し見せる。
「だから、僕の世界に連れて行ってあげたんだ。あそこなら、空太君も気に入るはずだよ」
アリアの表情に影が差す。それは、友人に裏切られた、空太がアリアに何も言わず行ってしまったからだろう。
「……あの、そのゼクシャって人は誰なの?」
「僕は別の世界で神をやっている者だよ」
レスティの問い掛けに対する答えに、魔王城のメンバーの表情に驚きが走る。アリアと面識があったことや、アリアという神の反応から、その言葉を信じない者はいなかった。
「魔王様は自らの意思で行ったということか?」
「うん、そうだった。僕も止めてみたけど聞いてくれなかったんだ」
「あの魔王様がのぉ…………」
暗くなる雰囲気の中、血飲みの者が地面にへたり込む。空太が自らいなくなった事が、頭の中で処理しきれないのだろう。
「師匠、大丈夫?!」
「魔王様が、いなくなっちゃったの……?」
呆然としながら地面にへたり込む血飲みの者を、レスティがどうにか正気を取り戻させようと話しかける。だが、一向に正気に戻らず、涙を流し始める。
「アリア、僕はそれだけを伝えに来たんだ。これはアリアに返しておくよ」
空太のスマホのような物をアリアに渡し、ゼクシャの姿が消え去る。
「……今の者、嘘をついているような雰囲気じゃったのぉ」
重い空気の中、声を発したのは強欲の者だった。
「嘘?」
「そうじゃ。わしは色々な者が嘘をつくところを見てきたから、心が読めなくても雰囲気でわかるようになってのぉ」
心を読む力を持つ強欲の者に嘘は通用しない。どんな嘘もバレる。
嘘をつくところを数え切れぬ程見てきた強欲の者の、経験からなる直感という所だ。
「魔王様は、いなくなりたいんじゃないの?」
「違う、ようだな」
全員の表情が明るくなる。
「──俺に考えがある、聞いてもらえるか?」
今まで無言だった神託の者が声を出す。
「…………──と、いう方法だ。どうだろうか?」
「難しいな」
「出来るかのぉ……」
「私はやってもいいよ」
「私もやってあげていいわ」
「手伝う」
「絶対にやる!魔王様の為なら、なんでもするよ!」
血飲みの者の、魔王様の為という一言で竜狩りの者と強欲の者が首肯する。
「では、私はどうすればよろしいでしょうか?」
パトラッシュは、話をしている途中から既に準備を始めていた。賛成か反対家など、聞くまでもないだろう。
「出来るだけ強力な深淵なる者の何かと契約をはじめろ」
神託の者は、次々と指示を出していく。
──深淵という、全ての世界と繋がっている場所を通り、空太を取り返す。
言葉にすれば簡単だが、深淵は極めて危険だ。アリアの神としての力は深淵では発揮できない。
そして深淵は広い。
「私の深淵を歩く者を召喚すればいいんだよね?」
「出来るだけ他にも契約している者を出せ」
「今から契約する!」
広いなら、危険ならそこに住まう者に案内させればいい。
危険な空太救出作戦が始まった。だが、空太はそれほど深く考えず楽しもうとしていた。
…………深淵への道は、順調に作られていた。




