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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
二章
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詠唱魔法

 図書空間。……大きな図書館、という感じだ。

 いや、大きなという次元では無い。果てしなく広い。歩いても歩いても壁に辿り着かない。本が並べられた本棚がずっと続いている。


「本の内容は……これは神話か?見た事ある話だな」


 適当に手に取った一冊は、どうやら神話の本だった。

 ──少し離れた本棚の本を手に取る。内容は魔法に関する物だった。

 詠唱魔法と言うらしく、基礎編のようなページには呪文が載っていた。


「…………『我は理に干渉する者。干渉し、歪める者。望みのままに歪め。──重転』」


 本が浮き上がる。

 ……読み上げたのは『重力弱化』という魔法。効果は重力を弱める、だろう。


 俺の知っている属性の付いた魔法では出来なそうな事だ。面白い。

 もっと色々と見てみるか。詠唱魔法、使えるようだし覚えよう。





 使えそうな詠唱魔法を探してぱらぱらとページを捲っていたが、あるページで手が止まる。


「竜化の魔法か…………面白そうだな」


 竜化、魔王に似合いそうな魔法だ。使えるようになりたい。


 長めの呪文に一度目を通して、詠唱する。

 ……詠唱する直前に、竜化したらここ、本棚の間に体が収まりきらない可能性がある事に気づく。


「一度外に出て使うか……」


 詠唱魔法の本を持ち、城の外に向かう事にする。森と城に繋がる橋の間に開けた場所があったから、そこを使おう。






「さて……長いな、やっぱり。ええと、『我が身は天を駆けず、地を割らず。されど我は力を望む。大いなる竜達よ、その系譜に連なる全ての者よ。どうか我が身をその末席に、我が倒せし竜達と共に。我が身に宿るは偉大なる竜の系譜に連なる魂。数多の竜と共にある魂。おお、竜神よ!どうか竜化の力を我に!我は望み、喰らいし竜達の魂を纏う!──完全なる竜化・魂の吸収』」



 体の感覚が無くなる。

 ……五感の全てを感じなくなり、思考が鈍っていく。眠りに落ちるように意識をそのまま失う。


 ──目を覚ますと、体はドラゴンになっていた。

 黒く大きな体を持ち、強力な力を持つ、()()()()()()の姿に。


「…………なんで?俺のイメージの竜がファフニールだからか?ウェンディと会ったら襲われそうだな」


 ファフニール。レーヴァテインで俺が殺した竜の姿に俺がなるとは。

 自ら殺した相手の姿になる、という妖怪がいた気がする。確かドッペルゲンガーだったか?俺は今、ドッペルゲンガーになっているよな……。


「と、とりあえず人に戻ろう。いや、魔王か。……て、本が開けない。この手じゃ無理だな。どうするんだよこれ……」


 後のことを一切考えて無かった。さて、本当にどうしよう……。




 とりあえず橋を渡り、城の庭のような所に辿り着く。


「あの霊体になんとかしてもらうしか無いな……出てくるのを待つか」


 探しても出てこない事は分かっている。一晩中歩き回っても見つからなかったくらいだからな。


 向こうから出てくるのを気長に待つか。







「──い、おおい、どうしてここに竜がいるんだい?」

「…………ああ、あの時の霊体。やっぱり待ってたら出てくるのか?」

「この声は、水無瀬君かい?」

「よくわかるな」


 声、と言ったが俺の今の声はファフニールの声になっている。分かる訳無いと思うけど……まぁ、いいか。


「それで、どうしてそんな姿になっているんだい?」

「ちょっとした好奇心のせいでな。治せないか?」

「もちろん治せるさ。無料という訳には行かないけどね」


「……何を払えばいい?」

「少し頼み事をしてくれればいいよ。僕も大した事をする訳じゃないからね」


 頼み事か……大した事じゃないなら、受けてもいいのか?


「まぁ、いいか。とりあえず治してくれ」

「簡単だよ。僕に続いて復唱してくれればいい。『我が肉体は正しき姿に返る。妨げる者全てを許さず、我が肉体は正常へと至る。──肉体返質にくたいへんしつ』」

「『我が肉体は正しき姿に返る。妨げる者全てを許さず、我が肉体は正常へと至る。──肉体返質』」


 竜化したときと同じように感覚が無くなり、眠るように意識が途絶える。




「…………あ、っとと、体が戻ってるな」


 竜化した時の感覚が抜けて無く、転ぶ。


「それじゃあ、僕の頼み事を聞いてくれるかい?」

「そういう約束だからな。何をすればいいんだ?」

「簡単だよ。──この世界の人という種を救って欲しい」


 …………世界中の人間を救えと?


「無理だろ。簡単どころか不可能だろそれ」

「ああ、少し言い方を間違えたかな。──この世界を救ってくれないかい?」

「いや、結局難易度は変わってないだろ」


 人を救えの代わりに世界を救えって、むしろ難易度は上がっている気もする。


「水無瀬君はまだこの世界の事をよく知らないだろう?この世界を知れば、きっと君は世界を救おうとしてくれる。図書空間には知識が無限とも言える量ある。活用してくれれば幸いだ」

「いや、やるなんて言ってないぞ?」

「なら、せめて図書空間で少しこの世界の事を知って欲しい。それでどうだろうか?」

「それならまぁ、いいが……」


 知るだけで助けたくなるって、どんなものか気になっていたからちょうどいいくらいだ。


「なら、お願いするよ。それじゃあ、僕はそろそろ消える時間だ。また会おう、水無瀬君」

「消える時間?……霊体って大変だな」


 姿が薄くなり、消えていく姿を見ていると、少し可哀想に見えてくる。まぁ、言い方からしてまた普通に現れそうだが。




 ★




「魔王様はどこに行ったの?!」

「し、師匠落ち着いて?」

「ご主人様は自らの意思で行かれたのでしょうか?」

「問題はそこじゃのぉ……」


 空太が消えた事が発覚してすぐ、パーティは中止になり、魔王城のメンバーとアリアは集まって話し合いを始めた。


「魔王様が我々に何も言わず出ていくとは思えない」

「魔王様が誘拐されるとは思えないだろう、自ら行った可能性が高いと思われる」

「……落ち着いて聞いて欲しい」


 神託の者の言葉に一同が賛同しかけたところで、アリアが声を出す。暗く落ち込んでいるような、不安になる声を。


「空太は、別世界の神に連れて行かれた。そうでなければ私の世界から空太は出られない」


 別世界の神。その単語によって、空気が変わる。

 空太ならなんとかするだろうというような、少しだけ安心感も孕んだ緊張から、どうしようもない可能性が高い事への絶望に、空気が変わる。


「ま、魔王様を助けられないの……?」

「助けられる。私も、神」


 絶望の中に差す救いの光、とでも言おうか。アリアの一言で、空気が軽くなる。


「今から私の知り合いの神に話を聞く。呼び出すから──」「それには及ばないよ、アリア」


「…………ゼクシャ、なんでここにいるの?」


 アリアの背後に現れたのは、空太を別世界へと飛ばした神だった。

詠唱魔法がなかなか難しかった。

やはり私は三人称視点が苦手。

……色々言い訳してごめんなさい。

──投稿が遅れに遅れて本当にごめんなさい!

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