はじまり
後々2章にするかもしれません。
レスティに声を掛けようとしたところで、スマホのような物が鳴る。
「なんでわざわざスマホのような物で……アリアじゃない?」
画面には、非通知と表示されている。アリアの方を見ると、血飲みの者と話しているようで俺のスマホのような物に通話を掛けてはいない。
……大広間を出てから通話に出る。
「もしもし、水無瀬ですが」
『初めまして、水無瀬君。私は別の世界の神をやっている者なのだけど、話を少しいいかな?』
神?……もしかして、ファフニールが最後に言ってた、「私の世界を救ってくれ」って話か?
「ああ。その話っていうのは、通話でいいんだよな?」
『いや、きちんと会って話がしたいね』
「……好きにしてくれ」
『話が早くて助かるよ』
──テレポートによって、視界が一瞬で切り替わる。
「やあ。ようこそ僕の世界へ」
「どうも。それで話っていうのは?」
「ああ、その前に一ついいかな?」
……胡散臭い笑顔を浮かべた信用出来なそうな奴だな。
「なんだ?」
「君の持っている、アリアが作った通信機器を見せてもらえないかい?」
「まぁ、それくらいなら別にいいけど……」
握っていたスマホのような物を渡す。
「……ありがとう。それじゃあ、話といこうか」
「スマホのような物を見なくていいのか?」
「──君には、消えてもらうことにしたよ」
「は?」
……やばい、久しぶりの状況が理解出来ないパターンだ。
「だが、君はどうやら……いや、そうだな。僕の世界へ案内しよう」
「おい待てよ。何普通に話を続けてるんだ?消えてもらうってのは、殺すってことか?」
「いやいや、今言った通り僕の作った世界に行ってもらおうと思ってね」
……話が読めない。こいつは俺を消したい。だが殺さずに別の世界に俺を移動させる。と、いう事だと思うが何故そうなるのか。
消したいなら殺せばいいはずだし、別の世界に行ってほしいなら消えてもらうなんて言い方はしないだろう。
「ああ、そうだ。僕からプレゼントもあげよう。さよなら、愚か者」
再び視界が変わる。どうやら、草原のようだ。
……とりあえず、アリアに連絡を入れないと。って、スマホのような物はあいつに渡した。アリアと連絡を取らせないためにあいつはスマホのような物を見せてくれなんて言ったのか?
「まぁ、とりあえず現状の把握が優先だな。場所は草原。周囲に生き物の影、無し。見えるもの、森。……まぁ、歩いていれば草原を抜けるだろう。森に入るよりは、適当に歩いた方がいいな」
あてもなく、終わりの見えない草原を歩き出す。なんだろう、この不安感は。もしかして、この草原とてつもなく広いとか無いよな?
……走ろう。早く人を見つけて色々と聞き出そう。
一時間ほど走り、草原を抜けた。結局森があり、その中に入る。
森の入り口付近はそれほど暗くなかったが、奥に進むにつれて暗くなっていく。見えないほどでは無いが、どことなく不気味だ。
「しかし、野生動物も魔物も一切いないな……」
適当に進んで遭難したとしても、魔王の俺は食べ物を食べる必要も無いから問題ない。
そう思っていたが、不気味になっていく森の中を歩いていると不安になってくる。
そもそも、何故俺は燕尾服で見知らぬ不気味な森の中をさまよってるのか……。
「くそ、もういっそ燃やし尽くしてやろうか」
おそらく自分もその炎に焼かれるだろうから、出来はしないのだが。
諦めて、無心に歩くしか無いんだろうな……。
無心で歩き続けて、かなりの時間が経って初めて森に変化が現れた。
進む先から、光が来ている。不気味な森をやっと抜けたのか……!
走って光の先へ辿り着く。
──大きく綺麗な湖があり、周りを森で囲われている。
「……騙された」
つまり、森の終わりでもなんでもなく、ただの砂漠のオアシスのような場所だ。
…………草原を走り抜け、不気味な森を長い時間歩き続けたのだ。ここで休んでいこう。
靴を脱ぎ、ズボンの裾をたくし上げて湖の中に入る。
極めて透明度の高い湖で、深いところでも底が見える。もっとも、浅い所で膝までしか入らないが。
「冷たいな……。しかし、どうしてこんなに綺麗な湖がこんな森の中にあるんだ?どこから湧いてるのか、気になるな」
せいぜい二十メートル程の湖の中を見渡す。
──穴が空いているのを見つける。
「あそこか。……行ってみよう」
燕尾服を脱ぎ、シャツとズボンだけの格好になる。
……まぁ、濡れても乾くのを待てばいいだろう。
湖の中をゆっくりと泳いで穴の所に辿り着く。途中、上空に一瞬影のようなものが見えた気がしたから、飛行性の生き物はいるのかもしれない。湖には魚どころか水草すらないけど。
「二メートルくらいか?足が地面に届かないな……まぁ、それより穴だ」
水中にもぐり、穴に近づいてみる。
「っ?!」
突然、水が穴に吸い込まれていく。
……咄嗟のことで対応出来ず、水と共に穴の中に吸い込まれる。
途中で壁に激突して、意識を失えたのは幸運だったかもしれない。
★
「レスティ、魔王様は?」
「魔王?知らないよ」
「そっか……」
「いないの?」
「うん。どこにもいないんだよ」
空太がいないことに真っ先に気がついたのは、血飲みの者だった。
「トイレじゃない?」
「そうかなぁ?……よくわかんないけど、嫌な予感がするんだよね。魔王様を見かけたら教えてね!」
「わかった。…………師匠の予感は、よく当たるからね。私も探してみよう」
それから、全員での空太捜索が始まるまでそれほどの時間はかからず、また空太がどこにもいないことが強欲の者とアリアによってわかるまでも、それほどの時間がかからなかった。
★
「…………ここは」
目が覚めると、鍾乳洞のような所にいた。
「辺りがよく見えないな……」
手元に小さな炎を作る。
「…………脱出しよう」
辺り一面、何かの骨だらけだった。中には明らかに人間の骨もある。
どうやら、あの湖はトラップだったらしい。この世界怖すぎだろ。
しばらく鍾乳洞の中を歩いたが、終わりが見えない。その上迷路のように入り組んでいて、水の中を泳がないと通れない道もある。
「これなら草原の時点で空を飛んでいればよかった……」
そしたらあんな不気味な森に近づくことも無かっただろう。
まったく、俺はいつまで迷子になり続ければいいんだ……?




