選択
「ふむ、魔王様はウェンディの復活を祝いたい、ということですね?」
「まぁ、そうだ」
血飲みの者以外の全員で魔王城の食堂に集まった。
「師匠は呼ばなくていいの?」
「……まぁ、うん。きっと大丈夫だ」
あの時はファフニールとの戦いの事を考えてそれどころではない、という感じだったが、よくよく思い出すと凄い恥ずかしいんだよな……。
キスして、続きを約束して、今血飲みの者はお風呂に入っている。
「ご主人様、ウェンディ様を寝室へ運び終わりました」
「ありがとう。……ちなみに、復活祝いに反対の人いるか?」
「私はしてもいいよ」
「魔王様がお望みならば何でも致しましょう」
「楽しそうじゃし賛成じゃのぉ」
「ご主人様のご命令ならばこの命、差し出す覚悟もあります」
「好きにしたらいいだろう。ここは魔王様の為の場所だ、誰も反対などしない」
パトラッシュのセリフが重い。命は大事にしてくれよ……。
「まぁ、ならとりあえず復活祝いは決定だな。さっそく準備に取り掛かろうぜ!」
「では、私は食事を準備しましょう」
「じゃあ、私は飾り付けするね」
「俺も手伝おう」
「私はご主人様のお世話をさせていただきます」
「わしは倒れないようにしっかりと休んでおこうかのぉ」
「……まぁ、それでいいか。ただ、パトラッシュにはウェンディの世話を頼みたい」
「かしこまりました」
俺は……魔法で色々な飾りを作ってみるか。
「魔王様!」
「あ、血飲みの者。風呂上がったの──っぐ!」
庭で氷魔法を使って氷像を作ろうとしている所に血飲みの者が来た。
……勢いよく突進して、抱き着いてきた。痛い。変な声が出るほど痛い。
「よかった、生きててよかった……魔王様、怪我はない?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
血飲みの者の抱き着きで骨が折れそうだが、まぁいい。
「約束、覚えてる?」
「……あー、覚えてる。絶対帰ってくるって言ったやつだよな?」
「魔王様?」
「…………続き、か?」
「うん!……今夜、私の部屋に来て?初めてだけど、頑張るからね!」
……ついに、童貞とお別れか。長かったが、執着も無い。
「お、おう」
「魔王様、待ってるからね?」
可愛い……くそ、血飲みの者が可愛い!美人で可愛い!そうか、俺は今夜この人と………待て待て、今はウェンディの復活祝いの事を考えるんだ。
──突然、スマホのような物が鳴る。電話だ。
「はい」
『話がある』
「……そっちに行った方がいいか?」
『来て』
一瞬で景色が変わり、和室になる。
「それでどうした?」
「……勇者の出現、そしてワールドエネミーの撃破。魔王の仕事は全て終わった。空太はどうしたい?」
……そうか、だからワールドエネミーを倒しても魔王に戻らなかったのか。
「どういう選択肢があるのか知りたい」
「一つ目は元の世界に戻る。この場合、好きな時間に戻れる。二つ目は、この世界に残る。この場合、元の世界での空太の存在は消える」
「消える?」
「存在しなかったことになる」
…………つまり、この世界か元の世界かを選べということか。
「……元の世界を選んだら俺はこの世界にいなかったことになるか?」
「ならない」
「…………アリアは、どうして欲しい?」
「自分の事は自分で決める」
怒られたな……。
──さて、どうするか。この選択で、俺の全てが変わる。
まず、元の世界に戻る選択だが、これは好きな時間に戻れる。つまり、父さんが死ぬ前に戻る事も可能なのだろう。
そしてこの世界に残る選択をすると、元の世界に俺はいなかったことになる。
簡単な話だ。
「俺はこの世界に残る」
「それでいいの?」
「俺が居ないなら父さんは死なない。そうだろ?」
「…………わかった」
父さんは、車に轢かれて死んだ。
……俺のために買い物に行く途中で、轢かれた。つまり俺がいなければ父さんが車に轢かれる事は無い。
「あ、お願いを一つしていいか?」
「何?」
「俺と友達にならないか?神様だって聞いてるけど、アリアはいつも独りだろ?暇な時に俺と遊ばないか?」
……アリアの見た目はせいぜい小学校高学年か中学生程。なのに、この狭い和室にいつもいる。少なくとも、俺が会いにくると必ずここにいる。
それに、ほとんど動かない表情だが、笑えば絶対に可愛い。美少女だ。
「…………馬鹿にしてる?」
「いや、真剣だ。なんというか……笑ってみないか?絶対可愛いんだよ」
「………………好きにしたらいい」
ふむ……つまり友達申請受諾ってことだよな?
「あ、ごめんこれで最後だからもう一つ、質問いいか?」
前に風呂で、血飲みの者に頼まれていた事を思い出した。
「何?」
「先代魔王って今どこにいるんだ?」
「……死んだ」
「……は?」
「詳しくは、竜狩りの者に聞いて」
「わ、わかった。でも、なんで?」
「……またね」
視界がまた一瞬で変わる。テレポートで魔王城の庭に戻された。
何故、話さないんだ?何があったんだ?
「……まぁ、とりあえず今は復活祝いだな」
「ご主人様、ウェンディ様がお目覚めになられました」
「起きたか!」
準備はあと一時間もしないで終わるだろうという頃に、やっとウェンディは目覚めた。
「おはようウェンディ」
「……私は、なんで生きてるのかしら?」
「復活させた。そんなことよりほら、お前の復活祝いする為に全員で準備してるからウェンディも着替えたり準備しとけ。……体調、平気だよな?」
「平気よ。調子がいいくらいだわ」
「ならよかった」
よし、これで全員揃った。
……本当はジャン達も呼びたいけど、魔王だったこと話してないからな。そもそもどこにいるのかも分からない。
「私は着替えなんて持ってないわよ。どうすればいいのかしら?」
「血飲みの者の服……は、サイズ的に無理だな。レスティの服ならサイズ合うか?」
「ご主人様、服なら私にお任せ下さい」
「何かあるのか?」
パトラッシュはいつも同じメイド服着てるからな……。
「私は肉体変化で服まで作れます。毛を少し使って、服を作ることが出来ます」
「便利だな。よし、任せる!せっかくなら、血飲みの者とレスティ、それにパトラッシュ、お前の分も服作っておけ。ドレスみたいな綺麗なやつで頼む」
「かしこまりました」
「空太は私にドレスを着せる気かしら?」
あれ、ちょっと怒り気味か?……まぁ、大丈夫だ。あの一言で、ウェンディはドレスだろうと水着だろうと着るだろう。そう──
「どうして生き返れたと思う?」
「……分からないわよ」
「俺がファフニールを倒して、神様にお前を蘇生して欲しいと懇願したからだ」
「そう、だったのね……」
「そんな命の恩人である俺はウェンディの復活をみんなで祝おうと思っている」
「そうね。それとドレスがどう関係あるのかしら?」
「簡単な事だ。──命の恩を返したければドレスを着て俺に見せろ!」
そう、命の恩を返せ!こう言えば、大抵の事は聞くと思う。ウェンディは押されると弱いし。
「わ、分かったわ。着て行けばいいのね、着ていくわよ」
「よし。……パトラッシュ、露出多めで胸元も空いてるウェンディに似合うドレスで頼む」
「かしこまりました」
「……もう、好きにしていいわよ」
諦めたようにため息をつく。……美少女のウェンディがやるとため息すら絵になる。
ドレス姿が楽しみだ。




