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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
36/54

ラグナロク

『汝、何が為に剣を持つ?』

「守るため」

『ならば剣を抜け。この力をもって守って見せよ』


「……あ、抜けた」


 レーヴァテインは守るための剣、とアリアが言っていたのは、問い掛けに守るためと答えればいい、ということだった。

 ……レーヴァテインって世界滅ぼした炎じゃなかったっけ?まぁ、いいか。


「じゃ、ファフニールのところに行ってくる」

「いってらっしゃい」

「魔王様、頑張ってね!……死なないでね?」

「魔王様なら、大丈夫じゃろう。じゃが、なるべく早く帰ってきてくれると嬉しいのぉ」

「魔王様、帰りをお待ちしております」

「もしご主人様が死ぬことがありましたら、すぐに後を追わせていただきます」


「パトラッシュ、重いな。それは止めてくれ。……じゃあな!」


 魔王城の正面口から出て、数歩歩く。

 …………魔王城に戻り、血飲みの者に話しかける。


「テレポートで、送ってくれ。場所が分からない……」


「「「…………」」」


「う、うん。魔王様、今はすっごく弱いからね!はい、手を貸して?」


 …………視線が、視線が痛い。なんか、ごめん。いい雰囲気で出発したからな。数歩で帰ってきてごめん。なんか、ごめん。


「着いたよ?じゃあ、魔王様、頑張ってね?死んじゃいやだよ?」

「任せろ!レーヴァテインで焼き払って帰ってくる」

「うん……魔王様!」

「ん?……っん?!」


 焼き払う宣言をしてファフニールに向かおうとすると、血飲みの者に呼び止められた。

 ──顔、近?!え、唇当たってる?柔らかい、これ唇だよね?!

 ……よし、落ち着いて考えよう。今どういう状況?血飲みの者にキスされてる。

 こ、殺す気なのか?血飲みの者は……て、あれ?鼻血が出ないな。


「魔王様、絶対帰ってきてね?続きも、あるからね?」

「…………楽しみにしておく。シャワー浴びて待ってろ!」

「うん!待ってるね!」


 帰らないと行けない理由が増えた。というか、童貞のまま死にたく無い。


 さっさとファフニールを倒そう。魔王城に戻ればみんなが待ってる。ウェンディも入れて、みんなで宴会でもしよう。





 しばらく歩いて、ファフニールの前に着く。


「何をしに戻った、神の子よ」

「…………『ラグナロク』よし、焼き払え」

「神の子が私に攻撃するだと?!正気か貴様!」


 質問を無視して炎を当てていく。ファフニールは飛び上がるとこで炎の中から脱出する。


「そのまま真上に登れ、火柱を作れ」

「グゥ?!」

「お、竜らしい声だな。追尾式の火の玉を百個、全てファフニールを狙い当たったら爆発しろ」


 レーヴァテインの中にも俺にも魔力は残ってないのに、どこからこの炎は来ているのだろうか?

 少し思考を逸らしている間に、ファフニールに火の玉が全て当たり、爆発を起こす。

 翼がボロボロに焼けたせいか、落下してくる。


「落下地点に向けて特大の炎の槍を放て。ファフニールを貫通し地面に触れた時、槍の形を失い辺りを焦土に変えろ」


 命令通りに炎は動く。……これ、剣である必要性ないだろ。


「グルゥァガァァ!!」


「向こうで吠えてるな。当たったか」


 建物が多くあるから見えないが、声から察するにちゃんと当たったようだ。


「見に行くか」


 レーヴァテイン、強すぎる。これは副作用が怖いな……使う事に躊躇いはないが。




「これは……酷いな」


 灰をかぶった町だったであろう場所が、今は地面も何もかも黒く焼けた、焦土と化している。

 命令したのは俺だが、本当に恐ろしいなレーヴァテイン。


「神の、子よ……何故、攻撃する?」

「……生きてる、のか」


 槍に貫かれた胴体の半分より後ろは無く、前半分も既に黒く焼けている。


「お前が殺した女の子を生き返らせるため。お前には悪い事をしたと思う。だが、まぁ多分お前は殺されていたから、諦めてくれ」


「…………私の、世界、を、救って……く……」

「……私の世界を救ってく?救ってくれ、か?」


 ファフニールは、何も言わなかった。そして、灰になり、さらさらと崩れ壊れていった。


「そんな意味深な捨て台詞やめろよ……。仕方ない。とりあえずはアリアに報告して、ウェンディを生き返らせてもらわないとな」


 突然、スマホのような物が震える


『既に終わった。来る?』


「……盗聴か?行く。聞こえてるか?」

「聞こえてる」

「……テレポートって、本当に一瞬だよな」


 来るのは三度目の和室。アリアのいる場所だ。


「ここに寝てる」

「…………生きてる。傷もない。目、覚めるよな?」

「当たり前」


 言葉に出来ない喜びが身体中を駆け抜ける。


「……何の踊り?」

「そうだな、あえて言うなら喜びの舞だ!」

「……やらない方がいい。気持ち悪い」


 気持ち悪いと言われた程度じゃこの喜びは消えないな!何せ、ウェンディが帰ってきたんだから!いや、本当に良かった。良かった……!





「落ち着いた?」

「ああ。それで、魔王城に連れていきたいんだけどいいか?」

「なら送る」

「助かる。ありがとう!」


 ──視界が変わり、魔王城の正面入口の前に着く。


「よっし。生きて帰ってきたな。……命の危機なんて一度も無かったけど」


 ウェンディを抱えて、魔王城の中に入る。

 さぁ、宴だ。宴会をしよう!俺まだ酒飲めないし、七人しかいないけど、騒げれば多分楽しいだろう。


「あ、魔王。無事だったんだね!」

「お、レスティ!久しぶりだな!」

「久しぶり、かな?みんなも呼んでくるね!」

「魔王様!おかえりなさいませ!ご帰還、お待ちしておりました!」

「お、神託の者。ただいま。ウェンディも連れてきたぞ!」


 抱えているウェンディを見せる。これが、俺が守った人だ。失わずに済んだ、大切な人だ。……まぁ、レスティも血飲みの者も強欲の者も神託の者も、竜狩りの者も全員大切な人、なのだが。


「魔王様、早い帰りじゃのぉ」

「早く帰ってきて欲しいって言ってただろ。ほら、完璧にこなして帰ってきた!」


「ご主人様、おかえりなさいませ」

「ただいま、パトラッシュ。なんか、全然心配してなかったみたいな表情だな」

「ご主人様なら、絶対大丈夫だと知っていますので」


 知っています。なんて言われてもな……根拠の無いその自信はどこから来るんだ?


「あとは血飲みの者……がいない、のか?」

「師匠なら帰ってくるとすぐにお風呂に行ったよ?」

「……本当に行ったのかよ?!てか、風呂長いな」


 全員との再開は、少しだけ先になるか。

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