ラグナロク
『汝、何が為に剣を持つ?』
「守るため」
『ならば剣を抜け。この力をもって守って見せよ』
「……あ、抜けた」
レーヴァテインは守るための剣、とアリアが言っていたのは、問い掛けに守るためと答えればいい、ということだった。
……レーヴァテインって世界滅ぼした炎じゃなかったっけ?まぁ、いいか。
「じゃ、ファフニールのところに行ってくる」
「いってらっしゃい」
「魔王様、頑張ってね!……死なないでね?」
「魔王様なら、大丈夫じゃろう。じゃが、なるべく早く帰ってきてくれると嬉しいのぉ」
「魔王様、帰りをお待ちしております」
「もしご主人様が死ぬことがありましたら、すぐに後を追わせていただきます」
「パトラッシュ、重いな。それは止めてくれ。……じゃあな!」
魔王城の正面口から出て、数歩歩く。
…………魔王城に戻り、血飲みの者に話しかける。
「テレポートで、送ってくれ。場所が分からない……」
「「「…………」」」
「う、うん。魔王様、今はすっごく弱いからね!はい、手を貸して?」
…………視線が、視線が痛い。なんか、ごめん。いい雰囲気で出発したからな。数歩で帰ってきてごめん。なんか、ごめん。
「着いたよ?じゃあ、魔王様、頑張ってね?死んじゃいやだよ?」
「任せろ!レーヴァテインで焼き払って帰ってくる」
「うん……魔王様!」
「ん?……っん?!」
焼き払う宣言をしてファフニールに向かおうとすると、血飲みの者に呼び止められた。
──顔、近?!え、唇当たってる?柔らかい、これ唇だよね?!
……よし、落ち着いて考えよう。今どういう状況?血飲みの者にキスされてる。
こ、殺す気なのか?血飲みの者は……て、あれ?鼻血が出ないな。
「魔王様、絶対帰ってきてね?続きも、あるからね?」
「…………楽しみにしておく。シャワー浴びて待ってろ!」
「うん!待ってるね!」
帰らないと行けない理由が増えた。というか、童貞のまま死にたく無い。
さっさとファフニールを倒そう。魔王城に戻ればみんなが待ってる。ウェンディも入れて、みんなで宴会でもしよう。
しばらく歩いて、ファフニールの前に着く。
「何をしに戻った、神の子よ」
「…………『ラグナロク』よし、焼き払え」
「神の子が私に攻撃するだと?!正気か貴様!」
質問を無視して炎を当てていく。ファフニールは飛び上がるとこで炎の中から脱出する。
「そのまま真上に登れ、火柱を作れ」
「グゥ?!」
「お、竜らしい声だな。追尾式の火の玉を百個、全てファフニールを狙い当たったら爆発しろ」
レーヴァテインの中にも俺にも魔力は残ってないのに、どこからこの炎は来ているのだろうか?
少し思考を逸らしている間に、ファフニールに火の玉が全て当たり、爆発を起こす。
翼がボロボロに焼けたせいか、落下してくる。
「落下地点に向けて特大の炎の槍を放て。ファフニールを貫通し地面に触れた時、槍の形を失い辺りを焦土に変えろ」
命令通りに炎は動く。……これ、剣である必要性ないだろ。
「グルゥァガァァ!!」
「向こうで吠えてるな。当たったか」
建物が多くあるから見えないが、声から察するにちゃんと当たったようだ。
「見に行くか」
レーヴァテイン、強すぎる。これは副作用が怖いな……使う事に躊躇いはないが。
「これは……酷いな」
灰をかぶった町だったであろう場所が、今は地面も何もかも黒く焼けた、焦土と化している。
命令したのは俺だが、本当に恐ろしいなレーヴァテイン。
「神の、子よ……何故、攻撃する?」
「……生きてる、のか」
槍に貫かれた胴体の半分より後ろは無く、前半分も既に黒く焼けている。
「お前が殺した女の子を生き返らせるため。お前には悪い事をしたと思う。だが、まぁ多分お前は殺されていたから、諦めてくれ」
「…………私の、世界、を、救って……く……」
「……私の世界を救ってく?救ってくれ、か?」
ファフニールは、何も言わなかった。そして、灰になり、さらさらと崩れ壊れていった。
「そんな意味深な捨て台詞やめろよ……。仕方ない。とりあえずはアリアに報告して、ウェンディを生き返らせてもらわないとな」
突然、スマホのような物が震える
『既に終わった。来る?』
「……盗聴か?行く。聞こえてるか?」
「聞こえてる」
「……テレポートって、本当に一瞬だよな」
来るのは三度目の和室。アリアのいる場所だ。
「ここに寝てる」
「…………生きてる。傷もない。目、覚めるよな?」
「当たり前」
言葉に出来ない喜びが身体中を駆け抜ける。
「……何の踊り?」
「そうだな、あえて言うなら喜びの舞だ!」
「……やらない方がいい。気持ち悪い」
気持ち悪いと言われた程度じゃこの喜びは消えないな!何せ、ウェンディが帰ってきたんだから!いや、本当に良かった。良かった……!
「落ち着いた?」
「ああ。それで、魔王城に連れていきたいんだけどいいか?」
「なら送る」
「助かる。ありがとう!」
──視界が変わり、魔王城の正面入口の前に着く。
「よっし。生きて帰ってきたな。……命の危機なんて一度も無かったけど」
ウェンディを抱えて、魔王城の中に入る。
さぁ、宴だ。宴会をしよう!俺まだ酒飲めないし、七人しかいないけど、騒げれば多分楽しいだろう。
「あ、魔王。無事だったんだね!」
「お、レスティ!久しぶりだな!」
「久しぶり、かな?みんなも呼んでくるね!」
「魔王様!おかえりなさいませ!ご帰還、お待ちしておりました!」
「お、神託の者。ただいま。ウェンディも連れてきたぞ!」
抱えているウェンディを見せる。これが、俺が守った人だ。失わずに済んだ、大切な人だ。……まぁ、レスティも血飲みの者も強欲の者も神託の者も、竜狩りの者も全員大切な人、なのだが。
「魔王様、早い帰りじゃのぉ」
「早く帰ってきて欲しいって言ってただろ。ほら、完璧にこなして帰ってきた!」
「ご主人様、おかえりなさいませ」
「ただいま、パトラッシュ。なんか、全然心配してなかったみたいな表情だな」
「ご主人様なら、絶対大丈夫だと知っていますので」
知っています。なんて言われてもな……根拠の無いその自信はどこから来るんだ?
「あとは血飲みの者……がいない、のか?」
「師匠なら帰ってくるとすぐにお風呂に行ったよ?」
「……本当に行ったのかよ?!てか、風呂長いな」
全員との再開は、少しだけ先になるか。




