今
──血飲みの者は、竜狩りの者、強欲の者、神託の者、ウェンディに状況を話していた。
「魔王は、スマホのような物で誰かと話して、どこかに転移しちゃったってこと?」
「スマホのような物という物には転移能力がある、という事か」
「……わしの力でも、どこにいるのか分からないのぉ」
強欲の者の能力の一つ、『執着』。同じ世界にいる限り、決して見失わない。強欲というスキルの中の一つだ。
「強欲の者の力は、世界のどこにいても分かるんじゃないの?」
「この世界にいないということじゃのぉ……」
「何故レスティが強欲の者の力を知っている?」
「暇な時に色々話してただけだよ?」
「血飲みの者の娘はええ子じゃのぉ。ぜひ魔王様と恋仲になって欲しいものじゃ」
だんだんとそれていく話に、血飲みの者は怒りを覚えていた。そして、それにすぐ気づいたのは竜狩りの者だった。
「それより、今は魔王様が安全かどうか。それを調べる事が最優先だ」
「この世界にいないのに魔王が安全か分かるの?」
「その方法を探す」
「魔王は自ら行ったんだよね?なら、探さないでもいいと思うよ。自分でした事だからね」
「レスティも、強欲の者も竜狩りの者も、なんでそんなに落ち着いてるの……?魔王様が、消えちゃったんだよ?!この世界にいないんだよ?!探さないと……!」
「師匠、落ち着いて?魔王は自分からどこかに行ったんだよ?だから、そんなに焦らなくても……」
レスティの言葉に、強欲の者と竜狩りの者は賛同するように小さく頷く。
「でも、どこで何してるのかも分からないのに……!」
「血飲みの者。お前の言う事はわかる。だが、魔王様は自らの行いに責任を持てない方では無い。それくらい分かっているな?」
「……でも、魔王様は自分の命を軽く見てるところがあるから、心配なんだよ!」
ライフブースト、オーバーライフブースト。自らの命を削り力に変えるスキル。何度も何度も簡単に使う空太を見れば、血飲みの者と同じように思うだろう。──水無瀬 空太は、自分の命を軽く見ている、という事だ。
「……だが、我々は世界を超える方法どころか、別の世界を知覚することすら出来ない。どうする気だ」
「わかんないよ!だから、みんなで考えようって思って、みんなを集めたのに……!」
「血飲みの者、少し落ち着いてくれんかのぉ……。手段が無い訳では無かろう」
「方法があるの?!どうすれば魔王様のところに行けるの?!」
「神託の者が闇の神アリア様に願っておる。神託なら、何かわかるかもしれんからのぉ」
神託の者。名前の通り、スキルに『神託』を持っている。
「…………神託を授かりました。「ここに居る」という、神託です」
「「「…………」」」
電話一つで神の世界へ行く空太に、五人は言葉を失った。
★
「なんとしてもウェンディを生き返らせる。それが俺がここに来た理由だ」
「……理由は?」
「死んで欲しくないからだ。文句あるか?」
「嘘。空太は勇者を叔父である赤崎 郎と重ねているだけ」
……確かに、俺は重ねているのかもしれない。俺の見てないところで急に死んでいなくなった父さんと、あっさり死んでいなくなってしまったウェンディを。
「違う、とは言わない。けど、例えそうだとしても助けたい。生き返らせたいというこの思いは本当だ」
「なら、選んで。赤崎 郎か、アルシア・ウェンディか、どちらか一人を生き返らせる」
「……お前、何がしたいんだ?」
父さんか、ウェンディのどちらか一人を生き返らせる。……冗談にしてはタチが悪い。しかし、本当なら。
……本当なら、俺はどうするんだ?どうすればいいんだ?
「ただ知りたいだけ。空太がどうするのか」
「性格悪過ぎるぞお前」
──どうすればいいのか。そんなものは、ここに来た時に既に決めてある。
「お前じゃない。アリア」
「……アリア、本気か?」
ここに来た時に、宣言している。
「本気」
「なら、ウェンディを生き返らせろ」
「そう言うと思ってた。……けど、生き返らせるにはファフニールを倒さないといけない」
「何故だ?」
ウェンディを生き返らせる。俺はその為に来た。後悔はしない。……たぶん、生き返ったウェンディを見れば、今のこの少しだけある後悔も消えると思う。
「ウェンディの存在をファフニールは食べた。殺して、エネルギーとして取り出せばなんとか出来る」
「なら、俺が倒してくる」
「だめ。……私が空太にあげた力を使わないで倒せるなら、いい」
「だめなのかいいのかはっきりしろよ……。つまり、俺はスキルも魔法技も高いステータスも使わずに勝てと?」
「オーバーブーストだけはいい。私があげた力じゃない」
いや、無理だろ。オーバーブーストが使えたって、魔力を使えないなら意味が無い。
「つまり、諦めろってこと……いや、待てよ」
レーヴァテイン。あれがあればいけるんじゃないか?
「……倒せる?」
「ああ、倒せる!」
「なら、頑張って。空太を心配している人のところに送る。──レーヴァテインは、守る為の剣。使うなら後遺症は覚悟しておく事」
……なんだかんだいって優しいアリア、結構好きだな。
「──と、いうわけで俺はレーヴァテインを使ってファフニールを殺す。以上、説明終わり」
「魔王様……魔王様ぁ!」
血飲みの者のタックルにも似た熱い抱擁。ステータスが魔王になる前に戻ってるせいでめちゃくちゃ痛かった。アリアは、俺の力を元に戻したらしい。まぁ、使わないからいいんだけど。
「師匠、魔王苦しそうだよ?少し力を抜いてあげたら……?」
「いいんだ、レスティ……!俺は、これで死ぬなら悔いは無い!」
「魔王様、死んじゃダメだよ?!」
さらにぎゅっと抱きつかれる。身体中から骨が軋む音がする。
「いい加減にしろ」
「わっ!竜狩りの者、何するの?!」
「魔王様が死ぬ。どういう訳か、弱くなっている」
竜狩りの者は血飲みの者の抱擁だけで俺が弱くなった事に気づいたのか。凄いな。
……いや、抱擁だけで死にそうになる魔王なんていないよな、普通は。さすがに気づくか。
「さっき言った通り、俺はアリアから力を借りずに倒さないといけないからな。ステータスもスキルも全部魔王になる前に元通りだ」
「……そしてレーヴァテインで倒す、という事だったか?」
「ああ。そうだ。……これが終わったらレーヴァテインについて聞いてもいいか?竜狩りの者」
「魔王様の望みなら」
弱くても魔王として扱ってくれるとは……あ、今の俺はステータス上魔王じゃないんだよな。まぁ、言わなくていいか。
「魔王様は魔王様じゃよ。ステータスなど関係ないのぅ……」
「……心を読むな強欲の者」
「魔王様はそんなこと考えてたの?」
「……そうだ」
「魔王様、私達は魔王様の部下だよ?……ううん、空太様の部下だよ!」
これは、なんというか心にくるものがあるな……。俺は、先代魔王の変わりじゃなくて空太という魔王として認められたと思っていいのか?いいんだよな?




