表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
34/54

過去と今

暗めです。

 ウェンディが何をしているのか、中継で見る。


「血飲みの者と別れてる……?なら、どうして血飲みの者は帰ってこないんだ?」


 ……もしかして、ファフニール倒すのを血飲みの者は待つのか?確かに、倒した後剣を返すなら血飲みの者は待ってる方がいいよな。中継の事も知らないはずだから。


 だが、絶対にウェンディじゃファフニールに勝てない。というか虫みたいに潰される。どれくらいの大きさか知らないが、竜だし相応に大きいだろう。

 ……そういえば宝物庫の近くの部屋に転移魔法陣あったよな?それ使って血飲みの者のところに行くか。




 少し歩き、重厚な扉の前に着く。転移魔法陣のある部屋だ。


「あれ、前より扉が軽くなってる……?ああ、エスカレーションステータスか」


 筋力が上がっているおかげで扉はあっさりと開いた。


「ええと……イメージは……中継でみた血飲みの者のところ…………」

「魔王様?どうしてここにいるの?」

「あ、もう着いてるのか……。ウェンディじゃ絶対に勝てない。今すぐ止めに行く。ほら、これでウェンディの状況が見れるからそこにテレポートして……早く頼む!」

「え?わ、分かった、そこにテレポートするね!」


 既に、ウェンディの前に竜が居た。体長十五メートルくらいの、黒い竜だ。


「魔王様、行けない……テレポート出来ないよ!?」

「何でだ?!」


 これ、やばいやつか……?焦るな、俺。冷静になれ……。


「分からないよ……どうして?!」

「走るぞ!どっちに向かったんだ?」

「あっち!」


 今いる場所は、辺りを灰で覆われた町の中の十字路だ。中心には噴水もあって、広場のようになっている。もっとも、既に噴水としての役割を果たしていないが。


「『ライフブースト』、全力で走るぞ!」

「魔王様……うん、分かった!」


 景色が流れるように遠ざかっていく。魔王スペックを駆使した全力疾走だから、当然といえる速さだ。



 ウェンディの居た場所に着くまで、二十秒もかからなかった。


 …………ファフニールは、静かに佇んでいる。まるで俺達の反応を待つように。


「魔王様……ねぇ、魔王様。魔王様ってば!」

「……っ!血飲みの者?どうした?」

「魔王様……大丈夫、なの?」

「大丈夫?それよりウェンディはどこに行ったんだ?ここにいたはずだよな?」


 中継で見た時は、この場所に、ファフニールの前にウェンディはいたはずだ。


「魔王様……」

「ウェンディのやつ、強さの差に気づいて逃げたのか?それなら、追ってくる必要も無かったな」

「魔王様……っ!私達も、逃げよう?」

「そうだな。あ、でも貸した剣を……なんで、ここに落ちてるんだ?おとしていったのか?」


 まぁ、命からがら逃げ出したなら仕方ないか。それより、なんでファフニールは何もしてこないんだ?オーバーライフブーストを使う必要は無いか?


「魔王様。手を……ううん、少し触るね?テレポートするよ」

「その前に一つ、いいか?」

「ど、どうしたの?魔王様、何かするの?」

「いや……。なぁ、ファフニール!お前はなんで襲って来ないんだ?」

「ちょ、魔王様?!」


 スキルオーバーブースト、ライフブースト。オーバーライフブースト。よし、言葉に出さなくても出来るな。


「私から手を出す事は無い」

「やっぱ喋れるのか。……なら、ウェンディはどうして逃げたんだ?」

「…………」

「魔王様、テレポートするよ!」

「ちょ、血飲みの──魔王城に戻ったか。早すぎるだろ……」


 ウェンディから攻撃したのか?まぁ、恨んでいたしありえるな。……オーバーライフブーストは解除しとかないと。


「で、なんで急にテレポートしたんだ?」

「魔王様…………」

「なんでそんな悲しそうに俺を見るんだ?」


 血飲みの者の目が、悲しそうに伏せられる。俺を見つめて、悲しそうに目を伏せた。あれ、俺何かしたか……?


「魔王様、ウェンディちゃんは……」

「ウェンディちゃんって、あの短い時間でよくそんなに仲良くなったな」

「……魔王様、ちゃんと聞いて?」

「聞いてるぞ?」


 血飲みの者の様子がおかしい。


「ウェンディちゃんは、ファフニールっていう竜に殺されたんだよ……?」

「え?いや何言ってるんだ?ちゃんと逃げたんだろ?」

「…………」

「お前も言ったよな?私達()逃げようって。血飲みの者がそう言ったよな?」


 いったい、血飲みの者は何を急に言い出すのか。


「あれは……魔王様が、あの場所で崩れ落ちちゃったら、どうなるか分からなくて……」

「だいたい、なんで殺されたって言い切るんだよ。死体でもあったのか?無かっただろ」

「……魔王様も、気づいてるんだよね?だからあの時、剣と一緒に、ウェンディちゃんの胸当ても拾ったんだよね?その、血まみれの胸当てを」


 拾った?いったい何を……

 左手にウェンディに貸した剣を握っている。そして、右手にはウェンディの胸当てを握っていた。もはや胸当てとしての機能を持たない、潰れて血まみれの、ウェンディの胸当てだ。


「え?…………え?嘘、だろ?俺はこんな物拾ってないぞ?なぁ、血飲みの者。もしかしてドッキリとかなのか?今なら許すから話してみろ」

「魔王様、それは魔王様が自分で拾ったんだよ?」


 嘘を言っているようには見えない。血飲みの者が、悲しそうに泣いている。これを見て、嘘だろ。なんて言えるはずがない。

 でも、するとウェンディはどうなったんだ?胸当てがこんなになっているところを見ると、無事だとは思えない。


 ……けど、そんなに急に、死ぬはずがないよな?


「ちゃんと、現実を見ようよ……ウェンディちゃんは、もう死んじゃったんだよ……」


 ウェンディが、死んだ。

 …………俺の体には、灰が大量に付いている。走ったから当然だが、その灰の中に、赤く変色している物が混じっている。特に、足元は酷い。赤く濡れた灰が、足に沢山付いている。


 ウェンディの血、なのだろう。胸当ての惨状から考えて、間違いない。

 血まみれになった足元。姿が見えない。俺の手元にはひしゃげて血まみれな無残な胸当てがある。


「嘘、だよな?」

「嘘じゃないよ」


 ……そうか、俺は()()、身近な人をいきなり失うのか。



「そんなの……もう嫌に決まってんだろ!ふざけんなよ!何でだ?!何で急に俺の前からいなくなるんだよ!ウェンディも、()()()も!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなよ……っ!」

「ま、魔王様?!落ち着いて?魔王様!」


 血飲みの者に抱きとめられる。


「俺が悪いのか?!俺が何かしたのか?!なんで、急にいなくなるんだよ……っ!」

「魔王様…………」


 ……なんで、俺はこんなところでキレてるんだ?俺は、魔王なんだ。魔法が使える。力がある。父さんの時とは違う。明確な相手がいる。


「血飲みの者、俺は落ち着いたから大丈夫だ」

「……本当に?本当に離しても大丈夫?」

「ああ。もう抱きとめてなくていい」


 血飲みの者が俺を離す。

 ……スマホのような物を開き、アリアに電話をかける。


『……何』

「ウェンディを生き返らせろ」

『何故?』

「しないなら俺がファフニールを殺す」

『……こっちに来て』

「俺からは行けない。お前が転移させろ」


 一瞬で、景色が変わる。魔王城の正面入口から、小さな和室に。何としても、ウェンディを生き返らせる。それが俺がここに来た理由だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ