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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
33/54

ファフニール

 血飲みの者にペンと紙を借りて(ペンは羽根ペンだった。紙もごわごわしていて書きにくい。まぁ、予想は付いていたけどボールペンとかは無いらしい)書き写したが、この剣は本当に安全なのか?俺のスキルみたいに実は命を消費しますとか無いよな……?


「試すか」


 鞘から剣を抜く。──抜けない。もしかしてこれ、鞘から抜けないようにしてあるのか?


『汝、何が為に剣を持つ?』


「…………今の、ウェンディでも血飲みの者でも無いよな?」

「何かあったの……?魔王様、ほかの剣にしたほうがいいんじゃないかな?」

「いや、でも性能がな……」

「何かあったのかしら?私には何も見えなかったわよ」


 見えなかった……?ああ、声が聞こえたって言わなかったから、俺が幻覚を見たのかと思ったのか?


『汝、何が為に剣を振る?』


「……えっと、試し斬り?」

「独り言かしら?それとも見えない誰かと話しているのかしら?」

「剣から声が聞こえるんだよ。何のために剣を持つのかとか、質問してくる」


 冷たい目で見られる。まぁ、俺も剣と話している人を見つけたらそんな目をするだろうな。


「魔王様、こっちの剣はどうかな?強いよ?」


 ……本当に、血飲みの者はどうしてここまでこの剣を嫌がるんだ?


「なぁ、どうしてこの剣……レーヴァテインを嫌がるんだ?」

「それは…………」


 言いたくなさそうだな。仕方ない、後で竜狩りの者に聞くか……。


「話したくないなら話さないでいい。とりあえず、その剣を見せてくれ」

「あ、うん!……ごめんなさい、魔王様」

「話したくない事を無理に聞き出す気は無いからな」


 嫌われたくないからな!

 ……血飲みの者が持ってきた剣は、金色が基調の派手な剣だ。とりあえず解析する。




 …………まぁ、強そうだが、レーヴァテインとは比べ物にならない。スキルが一つと、魔法技が一つだけ。しかも、どちらもレーヴァテインより弱い。


「まぁ、とりあえずこっちを持っててくれ。血飲みの者が嫌がる事は、出来ればしたくないからな」

「分かったわ。私も世界を滅ぼせる剣を使いたいとは思わないもの」

「なら良かった。血飲みの者も、これでいいか?」

「うん!ありがとう、魔王様!」


 笑顔で抱き着いてくる。もちろん、両手を広げて受け入れる。

 ふむ……柔らかくて、いい匂いがして、暖かくて、柔らかくて、いい匂いがして、暖かく──っ!危なかった……あまりの抱き心地の良さに思考がループしそうになった。


「空太。表情が溶けてて気持ち悪いわ」

「いやいや、そんなことないだろぉ……」

「……本当に、気持ち悪いわ。しばらく話しかけないでくれるかしら?吐きそうだわ」

「魔王様になんてこと言うの!?魔王様が許しても私は怒るよ?!」


 血飲みの者が俺の為に怒ってくれてる……美人が俺の為に…………──っ、やばい、表情だけじゃなくて思考まで溶けてるのか。

 美人の抱き着きは麻薬成分でも含まれてるのか?脳がハッピーな感じになった。なのに、また抱き着きたい。やばいな、中毒性まであるのか。


「空太の表情を見なさいよ。あの溶けきった表情、気持ち悪いわ」

「私が魔王様をあんなに幸せそうな表情に……えへへ」


 やばい、表情が戻ってなかったか。すぐにいつも通りのキリッとした表情にしないと。


「空太、その表情も気持ち悪いわ」

「ま、魔王様、どうしたの?体調悪いの?」


 ……キリッとした表情してたら悪いのか?!


「あ、戻った!良かった……」

「しばらく悪夢にうなされそうだわ……」

「ウェンディさっきから酷くないか?!」


 もはや暴言だろ。心に傷がついた気がする。いやまぁ、俺の心はガラスよりは頑丈だとは思うし大丈夫だけど。


「全て事実よ」


 ……ガラスよりは頑丈でも、せいぜい強化ガラスだ。一発の銃弾には耐えても、何発も狙い撃ちされれば穴は開く。

 ……なんか、ポエムみたいだな。まぁ、実際のところ、この程度の言葉で傷つく俺ではない。だが。


「なぁウェンディ。俺が聖剣を壊したのは仕方の無い事故だよな?」

「……ええ。まぁ、そうね」

「そもそも戦いを挑んできたのはウェンディだよな?」

「そうよ」

「俺は別に弁償しなくてもいいんじゃないか?」

「…………何を、して欲しいのかしら?」


 だからといって仕返しをしないわけでは無い。

 ……弱い所をついて攻撃しようとしただけだけど、何かしてくれるならしてもらおう。


「そうだな……服、脱いで見ようか?」

「最低っ……!」

「魔王様……?」


 怖っ……!血飲みの者の目から光が消えてる。ヤンデレ?ヤンデレだったのか?!


「と、言うのは冗談で!えーと、そうだ!ハグしよう!さぁ来いウェンディ!」

「っ!……やっぱり最低じゃない!」

「来ないのか?いいのか?弁償しなくてもいいんだぞ?」

「っ……分かったわよ!抱き付けばいいんでしょ!?やってあげるわよそのくらい!」


 広げた両手の中に入ってきて、抱き着いてくるウェンディ。もちろん広げた両手で抱き返す。

 ふむ、ウェンディはこういう流れで押されると弱いのか。いい事を知ったな。またやろう。


「も、もういいでしょ?離すわよ?」

「まだ」


 しかし、美少女の抱き心地は最高だな。こう、五感を刺激する幸せな感覚が凄い。何がすごいのかって、超凄いとしか言えない。


「もうだめ!おしまいよ!」

「っと。おう、ありがとな!」

「やっぱり、空太は最低だわ……まったく、本当に……」


 赤くなってて可愛いな……。自分のした事を改めて考えると凄い恥ずかしかったとか、思ってるのか?可愛いな、本当に。


「……よし!とりあえず代わりの剣は渡したから、俺はレスティ探しに行く」

「あ、それなら強欲の者のところに行くといいよ!強欲の者なら、分かるからね!」


 強欲の者?今の言い方だと、一緒に居るということではなさそうだな


「一緒に居るのか?」

「強欲の者は人探しのスキルを持ってるんだよ!」

「なるほど。……それで俺を見つけたのか?」

「そうだよ!すごいでしょ!」


 確かに凄い。けど、なんで血飲みの者が自慢げなんだ?


「なら、強欲の者はどこにいるんだ?」

「三階の奥から四番目の部屋だよ!」

「ありがとう。じゃ、ウェンディも頑張れよ」


 さて、早くレスティに会いに行くか!


「待ちなさい!」

「……まだ何かあるのか?」

「その……もし、私が勝てそうになかったら、あの剣……レーヴァテインを貸してくれないかしら?」

「本当に勝てそうになかったら、まぁ、考える」

「お願いするわ。……それじゃあ、また縁があったら会いましょう。魔王、空太」

「おう。気軽に会いに来いよ。俺は勇者の味方だからな」


 ウェンディはこのまま戦いに行くのか。剣の性能は……簡単だしすぐ分かるだろう。


「血飲みの者、灰都市アザレアまでウェンディをテレポートしてくれないか?」

「いいよ!じゃあ、手を貸してね!」

「助かるわ」


 ウェンディと血飲みの者の姿が消える。

 ……そういえば、勝てそうになかったらレーヴァテインを貸すのはまぁいいけど、勝てなかったら帰って来れなく無いか?


 スマホのような物を開き、アリアにメッセージを入れる。


『ワールドエネミーのところに勇者が行ったから、ライブ中継みたいに見れないか?』


 返信は、すぐ返ってきた。暇人かよ……。


『画面を消して、開き直して。ライブ中継を見れるようにした』


 言われた通り、画面を消して開き直す。

 ──なるほど、アプリに『勇者のライブ中継』というものが増えている。開くと、真上から見下ろすような形で、ウェンディと周辺が見える。今は血飲みの者と話しているようだ。


「音は……まぁ、贅沢は言わないでおくか」


 メッセージで感謝を伝えておかないとな。


『助かる。ありがとう』

『別にいい。……レーヴァテインが無ければ、ほぼ間違いなく勇者は死ぬ。勝てない』

『どういうことだよ』

『ワールドエネミーの能力をステータスとして表した。見て』


 邪竜ファフニール

 邪族


 魔力768248/768248

 筋力926541

 信仰284472

 耐性740563

 運41

 適性

 火B 水C 雷D 風A 氷S 光D 闇S+2

 スキル

 邪属性魔法・侵食、執着、虚弱

 闇適性+2

 魔法反射(上限700)

 衝撃拡散・収束

 破蝕の呪い

 Sエネルギー吸収


 魔法技

 虚弱化フラジール

 侵食タァークル

 執着オブセシオン


 称号

 邪に染まりし竜人 世界を喰らう者




 …………うわぁ。素でこれか。俺でもオーバーライフブーストしてステータス上はギリギリ勝てるくらいか。

 これは、ウェンディじゃ勝てないな。ただのライフブーストした俺に勝てないくらいだ。ステータスも大体予想はつく。


 さて、血飲みの者が帰ってきたら即連れ戻すように言わないとな。

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