ファフニール
血飲みの者にペンと紙を借りて(ペンは羽根ペンだった。紙もごわごわしていて書きにくい。まぁ、予想は付いていたけどボールペンとかは無いらしい)書き写したが、この剣は本当に安全なのか?俺のスキルみたいに実は命を消費しますとか無いよな……?
「試すか」
鞘から剣を抜く。──抜けない。もしかしてこれ、鞘から抜けないようにしてあるのか?
『汝、何が為に剣を持つ?』
「…………今の、ウェンディでも血飲みの者でも無いよな?」
「何かあったの……?魔王様、ほかの剣にしたほうがいいんじゃないかな?」
「いや、でも性能がな……」
「何かあったのかしら?私には何も見えなかったわよ」
見えなかった……?ああ、声が聞こえたって言わなかったから、俺が幻覚を見たのかと思ったのか?
『汝、何が為に剣を振る?』
「……えっと、試し斬り?」
「独り言かしら?それとも見えない誰かと話しているのかしら?」
「剣から声が聞こえるんだよ。何のために剣を持つのかとか、質問してくる」
冷たい目で見られる。まぁ、俺も剣と話している人を見つけたらそんな目をするだろうな。
「魔王様、こっちの剣はどうかな?強いよ?」
……本当に、血飲みの者はどうしてここまでこの剣を嫌がるんだ?
「なぁ、どうしてこの剣……レーヴァテインを嫌がるんだ?」
「それは…………」
言いたくなさそうだな。仕方ない、後で竜狩りの者に聞くか……。
「話したくないなら話さないでいい。とりあえず、その剣を見せてくれ」
「あ、うん!……ごめんなさい、魔王様」
「話したくない事を無理に聞き出す気は無いからな」
嫌われたくないからな!
……血飲みの者が持ってきた剣は、金色が基調の派手な剣だ。とりあえず解析する。
…………まぁ、強そうだが、レーヴァテインとは比べ物にならない。スキルが一つと、魔法技が一つだけ。しかも、どちらもレーヴァテインより弱い。
「まぁ、とりあえずこっちを持っててくれ。血飲みの者が嫌がる事は、出来ればしたくないからな」
「分かったわ。私も世界を滅ぼせる剣を使いたいとは思わないもの」
「なら良かった。血飲みの者も、これでいいか?」
「うん!ありがとう、魔王様!」
笑顔で抱き着いてくる。もちろん、両手を広げて受け入れる。
ふむ……柔らかくて、いい匂いがして、暖かくて、柔らかくて、いい匂いがして、暖かく──っ!危なかった……あまりの抱き心地の良さに思考がループしそうになった。
「空太。表情が溶けてて気持ち悪いわ」
「いやいや、そんなことないだろぉ……」
「……本当に、気持ち悪いわ。しばらく話しかけないでくれるかしら?吐きそうだわ」
「魔王様になんてこと言うの!?魔王様が許しても私は怒るよ?!」
血飲みの者が俺の為に怒ってくれてる……美人が俺の為に…………──っ、やばい、表情だけじゃなくて思考まで溶けてるのか。
美人の抱き着きは麻薬成分でも含まれてるのか?脳がハッピーな感じになった。なのに、また抱き着きたい。やばいな、中毒性まであるのか。
「空太の表情を見なさいよ。あの溶けきった表情、気持ち悪いわ」
「私が魔王様をあんなに幸せそうな表情に……えへへ」
やばい、表情が戻ってなかったか。すぐにいつも通りのキリッとした表情にしないと。
「空太、その表情も気持ち悪いわ」
「ま、魔王様、どうしたの?体調悪いの?」
……キリッとした表情してたら悪いのか?!
「あ、戻った!良かった……」
「しばらく悪夢にうなされそうだわ……」
「ウェンディさっきから酷くないか?!」
もはや暴言だろ。心に傷がついた気がする。いやまぁ、俺の心はガラスよりは頑丈だとは思うし大丈夫だけど。
「全て事実よ」
……ガラスよりは頑丈でも、せいぜい強化ガラスだ。一発の銃弾には耐えても、何発も狙い撃ちされれば穴は開く。
……なんか、ポエムみたいだな。まぁ、実際のところ、この程度の言葉で傷つく俺ではない。だが。
「なぁウェンディ。俺が聖剣を壊したのは仕方の無い事故だよな?」
「……ええ。まぁ、そうね」
「そもそも戦いを挑んできたのはウェンディだよな?」
「そうよ」
「俺は別に弁償しなくてもいいんじゃないか?」
「…………何を、して欲しいのかしら?」
だからといって仕返しをしないわけでは無い。
……弱い所をついて攻撃しようとしただけだけど、何かしてくれるならしてもらおう。
「そうだな……服、脱いで見ようか?」
「最低っ……!」
「魔王様……?」
怖っ……!血飲みの者の目から光が消えてる。ヤンデレ?ヤンデレだったのか?!
「と、言うのは冗談で!えーと、そうだ!ハグしよう!さぁ来いウェンディ!」
「っ!……やっぱり最低じゃない!」
「来ないのか?いいのか?弁償しなくてもいいんだぞ?」
「っ……分かったわよ!抱き付けばいいんでしょ!?やってあげるわよそのくらい!」
広げた両手の中に入ってきて、抱き着いてくるウェンディ。もちろん広げた両手で抱き返す。
ふむ、ウェンディはこういう流れで押されると弱いのか。いい事を知ったな。またやろう。
「も、もういいでしょ?離すわよ?」
「まだ」
しかし、美少女の抱き心地は最高だな。こう、五感を刺激する幸せな感覚が凄い。何がすごいのかって、超凄いとしか言えない。
「もうだめ!おしまいよ!」
「っと。おう、ありがとな!」
「やっぱり、空太は最低だわ……まったく、本当に……」
赤くなってて可愛いな……。自分のした事を改めて考えると凄い恥ずかしかったとか、思ってるのか?可愛いな、本当に。
「……よし!とりあえず代わりの剣は渡したから、俺はレスティ探しに行く」
「あ、それなら強欲の者のところに行くといいよ!強欲の者なら、分かるからね!」
強欲の者?今の言い方だと、一緒に居るということではなさそうだな
「一緒に居るのか?」
「強欲の者は人探しのスキルを持ってるんだよ!」
「なるほど。……それで俺を見つけたのか?」
「そうだよ!すごいでしょ!」
確かに凄い。けど、なんで血飲みの者が自慢げなんだ?
「なら、強欲の者はどこにいるんだ?」
「三階の奥から四番目の部屋だよ!」
「ありがとう。じゃ、ウェンディも頑張れよ」
さて、早くレスティに会いに行くか!
「待ちなさい!」
「……まだ何かあるのか?」
「その……もし、私が勝てそうになかったら、あの剣……レーヴァテインを貸してくれないかしら?」
「本当に勝てそうになかったら、まぁ、考える」
「お願いするわ。……それじゃあ、また縁があったら会いましょう。魔王、空太」
「おう。気軽に会いに来いよ。俺は勇者の味方だからな」
ウェンディはこのまま戦いに行くのか。剣の性能は……簡単だしすぐ分かるだろう。
「血飲みの者、灰都市アザレアまでウェンディをテレポートしてくれないか?」
「いいよ!じゃあ、手を貸してね!」
「助かるわ」
ウェンディと血飲みの者の姿が消える。
……そういえば、勝てそうになかったらレーヴァテインを貸すのはまぁいいけど、勝てなかったら帰って来れなく無いか?
スマホのような物を開き、アリアにメッセージを入れる。
『ワールドエネミーのところに勇者が行ったから、ライブ中継みたいに見れないか?』
返信は、すぐ返ってきた。暇人かよ……。
『画面を消して、開き直して。ライブ中継を見れるようにした』
言われた通り、画面を消して開き直す。
──なるほど、アプリに『勇者のライブ中継』というものが増えている。開くと、真上から見下ろすような形で、ウェンディと周辺が見える。今は血飲みの者と話しているようだ。
「音は……まぁ、贅沢は言わないでおくか」
メッセージで感謝を伝えておかないとな。
『助かる。ありがとう』
『別にいい。……レーヴァテインが無ければ、ほぼ間違いなく勇者は死ぬ。勝てない』
『どういうことだよ』
『ワールドエネミーの能力をステータスとして表した。見て』
邪竜ファフニール
邪族
魔力768248/768248
筋力926541
信仰284472
耐性740563
運41
適性
火B 水C 雷D 風A 氷S 光D 闇S+2
スキル
邪属性魔法・侵食、執着、虚弱
闇適性+2
魔法反射(上限700)
衝撃拡散・収束
破蝕の呪い
Sエネルギー吸収
魔法技
虚弱化
侵食
執着
称号
邪に染まりし竜人 世界を喰らう者
…………うわぁ。素でこれか。俺でもオーバーライフブーストしてステータス上はギリギリ勝てるくらいか。
これは、ウェンディじゃ勝てないな。ただのライフブーストした俺に勝てないくらいだ。ステータスも大体予想はつく。
さて、血飲みの者が帰ってきたら即連れ戻すように言わないとな。




