ストーキング
ダンジョンに入る二人を追い、三人もダンジョンの中へ入る。
「魔王様、戦わないね……」
「あの女、何者だ?光属性の魔法を使った……?」
「あ、魔王様が女に攻撃したよ!」
雷を纏った手をウェンディの首へ伸ばす空太。しかし、避けられる。
…………ウェンディは両手両足を闇の枷で拘束され、戦いは終わった。
「……ご主人様の勝ちですね」
「座標指定魔法か。魔王様は素晴らしい魔法を使えるようだ」
「ご主人様ですから」
「魔王様、楽しそうだったね……」
「強大な力を振るえる機会はそれほど無い。楽しいだろう」
「私も、魔王様と戦ってみよう……!」
その後、ウェンディが魔物を狩りながら進むのを不満そうに見ていた三人だったが、ウェンディが魔力切れで空太が戦い始めると、三者三様の反応をした。
「魔王様に密着してる……あ、魔王様があの魔法使った!だめって言ったのに……!」
「血飲みの者、落ち着け」
「ご主人様、頑張ってください」
「私が代わりに戦うよ!いいよね?!」
「ダメだ。すぐに終わるだろう。見ていろ」
怒りの表情で竜狩りの者を睨むが、無視される。
「……魔王様が命を削ってるんだよ?止めないとだめだよね?」
「命を?どういうことだ?」
「魔王様がそういってたんだよ!」
悩むような仕草を見せるが、すぐに次の言葉を紡ぐ。
「魔王様はそれを考慮して使っている。ならば我々はそれを止めるのではなく、従うのみだ」
「そんな!魔王様が早く死んじゃうんだよ?!」
「落ち着いてください。ご主人様は自ら命を削る事を選んだのです。それを否定なさるのですか?」
「だって……!」
……口論している間に空太の戦いは終わっていた。
「どうやら終わったようです」
「あ……魔王様に、もう使っちゃだめって言ってもいいよね?」
「……忠告ならばいいだろう。使うか選ぶのは魔王様だ」
話しているあいだに空太はウェンディを地面に寝かせ、自分も側に座る。目覚めるのを待っているのだ。
「魔王様に大事にされてる……いいなぁ。竜狩りの者、次の修行は私も一緒にやっていい?」
「だめだ。本来ならあの女に消えて欲しいところだが、魔王様が守っている以上、我々にもあの女を守る義務がある」
魔王様の為に、空太の為に動くのが配下である三人の務めだ。空太が守るのなら、どんな相手でも守るだろう。
「ご主人様は、あの女が起きるまで動かないと思われますが、待ちますか?」
「待つ」
「かしこまりました」
終始不機嫌な血飲みの者と、感情の読めない竜狩りの者と魔獣王。三人のストーキングは、まだ続く。
「あ、起きたよ」
「何か話していますね」
「このダンジョンの最下層を目指しているのか?」
「戦い方を見ると、レベルアップを目的としているように見えました。なので──っ!?」
突然、ウェンディが空太に襲いかかる。空太は咄嗟に盾で受け止めている。
「待て、血飲みの者!」
「魔王様が襲われたんだよ?!助けないと……」
「お前はいい加減にしろ。魔王様が怪我を一つでもしてるか?」
「してないよ」
「この程度では魔王様は怪我することもない。黙って見ていろ」
魔獣王は、冷静に空太を見ている。……右手には、発動寸前の魔法が待機しているが。
「あ、あの女の動きが止まったよ!」
「ふむ、どうやら魔王様は武力ではなく言葉で抑え込んだようだ。流石魔王様だ」
「ご主人様、流石です」
ストーカー三人は、ダンジョンを出て町に向かう二人をストーキングする。
☆
「あ、戦い始めたよ!」
「あらかじめ細工しておいた木の枝を、さも今拾ったただの木の枝のように見せるとは。魔王様は素晴らしい策士のようだ」
ただの卑怯な手も、この三人にとっては知将の策略のように感じるのだろう。魔王の特権だ。
「すごい……魔王様、あっさり勝っちゃった」
「待て、まだもう一試合するようだ」
「…………接近戦は、苦手みたいだね」
「だが、あの剣はそれなりの物だ。それをあっさりと破壊するとは。流石魔王様だ」
「ご主人様も驚いているようです。……どうやら、どこかへ向かうようです」
空太とウェンディは魔王城に向かって歩き出していた。聖剣を別の剣で弁償する為だ。
「あの方向には……村がいくつかと、山が一つと魔王城がある」
「魔王様、帰ってくるのかな?!」
「ご主人様の城ですか。素晴らしい物なのですよね?」
「うん!魔王城はすごいよ!」
「……二人と合流する。魔王城が目的地ならば転移で向かう」
「やった!行ってくるね!」
「かしこまりました」
地面に降り、空太へ駆け寄る血飲みの者。ストーカー三人のストーキングが、やっと終わる。
視点を変えるだけでここまで書くのが難しいとは思いもしませんでした。遅くなり、少なくなってしまい申し訳ない。




