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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
30/54

三人の傍観

 時間は戻り、空太が闇の神アリアにテレポートで飛ばされた少し後、血飲みの者が迎えに来たところまで遡る。



「魔王様が消えたの……?早くさがさなきゃ!」

「落ち着け。強欲の者に会えばすぐに場所はわかるはずだ。魔王城にテレポートしろ」

「あ、そっか!早く手を繋いで!……このメイドは誰?」


 テレポート出来ない竜狩りの者と魔獣王は、血飲みの者が来るのを待っていた。

 ……空太が突然消えた事で焦り、走って探しに行こうとする魔獣王を止めて説得したりと、竜狩りの者は結構苦労していた。


「魔獣王、今はパトラッシュといいます。それであなたがご主人様……空太様を助ける事の出来る方ですね?今すぐお願いします」

「えっと……私はテレポートするだけで、見つけるのは別の人だよ?」

「では早くその人に会わせて下さい」

「ねぇ竜狩りの者、このメイドさんは誰?」


 血飲みの者の瞳から光が少し消えている。

 空太が見たら、間違いなく「ヤンデレ化してる……」と言うだろう。


「言っていただろう。魔獣王だ。魔王様が従えただけだ。早くテレポートしろ」

「じゃあ、そっちのメイドさんも手を貸してね。テレポートするから」


 差し出された手を血飲みの者は握る。

 ──骨が軋みを上げるほど強く握る。



「はい、着いたよ」

「ありがとうございます。それで見つけてくれる方というのはどちらにいますか」

「こっちだよ。付いてきてね」

「あれだけ軋んでいたのに何も無かったかのようだ。やはり魔獣王、強いな……」


 何事も無かったかのように動く二人を見て、竜狩りの者は恐れるように独り言を呟いた。




「すぐに探すから、少しだけ待っていてほしいのぉ」

「急いでね?魔王様がピンチかもしれないから!」

「早く頼む」

「よろしくお願いします」

「ふむ…………どうやら、鉱山都市ルドガルフにいるようじゃの」

「見てくるね!」

「俺も連れていけ。向こうの状況が不確定な今、念には念を入れておくべきだろう」

「私もお願いします」


 魔王の強さを全員が知っているから、物凄く慌てる事は無いが、それでも焦燥を覚えていた。

 大抵の事なら大丈夫だろうが、ただ事では無い。もしかしたら、本当にもしかしたら何かあるかもしれない。という事だ。


「手に掴まってね。──もういいよ」


 一瞬にして三人は鉱山都市ルドガルフの中に着く。誰もいないところに着いたから、目撃者もいない。


「ここからは私にお任せ下さい」


 魔獣王が大型犬程度の大きさの狼に姿を変える。


「匂いか。なるほど、魔獣王の名に恥じぬ、魔獣じみた探し方だ」


 竜狩りの者の言葉に、魔獣王が少しイラついたのには二人とも気づかなかった。狼に表情はないから仕方ないのだが。


(私は魔獣では無いというのに……)


「……見つけました。こちらです」


 姿をメイドに戻し、走り出す。二人もそれに付いていく。




「くっ、素早いな少年!」

「え?……ああ、そうかもなー」


 ちょうど、戦っているところを見つけた。


「魔王さ──っ!」

「待て、戦っているようだ。少し様子を見る」


 竜狩りの者が血飲みの者の口を抑え、魔獣王が空太の元へ行かないように服を掴む。



「はい。じゃあな」


 雷を纏った手で相手の木刀を掴み、感電させることで戦いを終わらせる。


「ふむ……魔獣王、周りに敵となりえる者は存在するか?テレポートを魔王様に向かって使った人物がいる可能性もある」


 魔獣王が鳥の姿になる。探知系に優れた鳥だ。

 ……三人は今、人混みを避けて空太を見るために上空にいる。竜狩りの者が飛行魔法を使ったのだ。


「…………この町にはいません。ですが向こうの森に一人、暴れている者がいます」

「もう魔王様のところに行ってもいいよね?」

「まだ待て。ふむ、森に一人だけ……。もう少し様子を見る。これも修行になる」


「もし魔王様が危険な目に会ったらどうするの?!」

「その為に透明化して魔王様の近くで待機する。問題は無いな?」

「むぅ……何かあったらすぐに助けるよ?」

「それでいい。魔獣王はどうだ?」

「……はい。ご主人様の為ならば問題ありません」


 三人の傍観が決まった。







「森の王か……。魔王様に襲いかかったら殺す。血飲みの者、魔法を撃てるようにして待機しろ」

「うん!深淵に住まう者を召喚していいよね?」

「この森が消えるだろう……却下だ。重力操作にしろ」

「それじゃあ殺せないよ?」


「魔獣王がいる。攻撃を頼めるな?」

「お任せ下さい。ザ・ロストでよろしいですか?」

「それでいい。失敗したら下がれ。俺が崩雷を使う」

「わかった!」

「了解しました」


 ……深淵に住まう者は血飲みの者のスキル、闇の召喚で召喚出来る最高位の魔物だ。ライフブーストした空太より強い。重力操作は闇魔法の一つで、名前の通り重力を操作する。弱くする。無くす。力を逆向きに働かせる魔法。

 ザ・ロストは同じく闇魔法だ。対象を消失させる。極めて強力だが、完全に消失させる為レベルが上がらない。また、魔力も莫大な量消費する。

 崩雷は、竜狩りの者のスキルだ。雷に崩壊のスキルを乗せる事で出来る。感電した対象を塵になるまで崩壊させる。


 全て、明らかにやり過ぎな魔法だ。そもそも三人ならば、魔法を使わず殴りあっても勝てる。



 空太がウェンディを背負い、歩き始めると森の王は姿を消した。空から見ていた三人は、戦いにならなかった事を察した。


「ふむ……魔王様は交渉が得意か?」

「さすが魔王様!話しただけで森の王に勝つなんてすごいね!」

「さすがです、ご主人様」


 三人は空太の上、上空で三者三様の反応をしていた。

 ……実際には、荷物のようにウェンディを押し付けられただけなのだが。





「野宿を選択したか。正しい判断だ。それに闇で結界を作り覆うか。判断力もある」

「ま、魔王様が女の子とあんなに密着して個室に篭ってるよ……ねぇ、魔王様を助けてきていいよね?」

「落ち着け。魔王城に戻ってから魔王様と一緒に寝ればいいだろう」


「……その時は私もご一緒させていただきます」

「むぅ……あの闇の結界の中を見たいから近づいてもいいかな?」

「バレないように近づけ。……強度なども見てきてくれ」

「わかった!」



「どうだった?」

「魔力を吸収する結界だったよ!魔王様はすごいね……」

「ふむ、魔力吸収か……。俺達はこのまま上空で魔王様が起きるのを待つ」

「わかったよー」

「了解しました」


 三人は上空で一晩を明かすことになるが、問題は無い。ステータスの高さや種族の関係もあるが、空太の為ならば何でもしそうだ。







「あ、魔王様が出てきた!」

「ふむ。何やら言い争っているようだが……」


「いえ、ご主人様は冷静です。女が一方的に怒っている様子に見えます。──女を殺してもよろしいでしょうか?」

「落ち着け。もう終わったようだ。……っ!」


 空太が空を飛ぶ魔法を使う。上空にいた三人は、血飲みの者のテレポートで十メートルほど離れたところに移動する。


「魔王様が空飛んでるよ?!すごい、さすが魔王様だね!」

「なるほど、あれを使い谷で落下死を防いだか」

「さすがご主人様です」


 三人の傍観は、まだ続く。

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