弁償
「……それは一体何かしら?」
ウェンディが魔物を倒し尽くした草原で戦うことになった。さすがに町の中で戦うのは難しいからな。
「何って、武器だ。他に使い道はないだろ?」
手に持っている、たった今拾った木の枝を持ち上げる。
……これは、必勝のアイテムだ。
実はこの木の枝、昨日の夜のうちに細工をして草原に来る途中の道に置いておいた物だ。
ウェンディの目の前で拾ったから、ただの木の枝だと思われているはずだが、実際は闇を枝の中に細く仕込んであって、魔法を吸収出来る。さらに、握っている少し太くなっている部分の内側には、ポケットに入ってたアダマンタイトを入れてある。もはや魔剣……魔木の枝だ。
「舐めてるのかしら?そんなもの一瞬で砕いてあげるわ!」
「うわっ!始めるなら一言言えよ……『ライフブースト』」
『ディバインプロテクションライト』
ウェンディもスキルを使ったようだ。ディバインプロテクションってなんだ?
「どんなスキルなんだ?っと、『闇の盾』」
飛んでくる氷の粒を防ぐ。……防ぐというか、吸収する。
「空太こそどんな能力なのかしら?魔法を吸収するなんて。『ディバインプロテクションアイス』」
「これは闇の特性だろ、多分。『闇の槍』」
「『光よ、穿て』。──吸収するのは上限があるみたいね?」
闇の槍にウェンディが放った光がぶつかり、光は闇の槍を打ち消して闇の盾に当たる。
なんとか吸収出来たが、闇の槍が無かったら盾を超えてきていたかもしれない。
「……上限、あるみたいだな。『闇の大盾』『闇の槍』」
イメージを薄い結界から二メートルくらいの大盾に変える。闇の槍も四メートル程の大きさで作り、飛ばす。
「『大いなる光よ』詠唱しきれないじゃない。……スピード感の無い戦いね」
「近接戦闘は本当に出来ないからな。『闇の矢、雨』」
二十本程の闇の矢をウェンディの上から降らせる。そして、無詠唱でウェンディの足にそっと闇の枷を着ける。
「『光よ、盾となれ』。この程度なら私には当たらないわよ?」
足に枷がついているのに気づいてないな……。まぁ、なら使わせてもらうか。
『闇の槍』
闇の槍を放ちながら、再び霧をイメージする。
「『光よ、穿て』同じ魔法ばかりね。そろそろ私の──霧?」
「ああ。ただの霧だ」
「私の周囲だけ……避けた方が良さそうね。って、何よこれ!いつの間に……!」
やっと枷に気づいたか。だが、もう遅い!
『凍れ』
……まぁ、詠唱って短い方が使いやすいからな。このくらい短くてもいいだろう。
「ちょ、待って、私の負け──…………」
「…………ええと、『溶けろ』」
「っ!!死ぬかと思ったわよ!」
霧は、ウェンディの全身を覆っていた。それが体に纒わり付いて氷った。当然、顔も。
「ご、ごめん……」
指先に十センチ程の火を作りウェンディに近づける。氷漬けになったから、寒さもあるだろう。
「ありがとう、助かるわ。……よく、あんな魔法が思いついたわね」
「必要に迫られてな。つい最近、昨日なんだけど」
「昨日?そういえば強い魔物が居たと言っていたわね」
「ああ。……骨だった」
説明した方がいいのだろうか?
「アンデットね。そんなのいたかしら?」
「壁壊したらいた。まぁ、とりあえずウェンディよりは強かったな」
「……へぇ、そう。いいわ。もう一度戦いましょうか、接近戦で」
……ああ、アンデットよりも弱いっていうのが嫌だったのか。勇者だもんな。事実だったとしても、言わない方がよかったな。余計な一言だった。
「『ライフブースト』『スキルオーバーブースト、闇操作』『闇の大盾』『闇の結界』『闇の小盾』『闇の小剣』さあ来い」
「ずいぶん色々使うわね……『大いなる光に象られし聖剣よ、ここに来たれ』行くわよ」
自分を覆うように結界を作り、さらにウェンディとの間に大きな壁のような盾を置く。さらに左腕には小さめの盾を括り付け、右手にはナイフを持っている。左の手には、切り札の木の枝を持っている。
さて、どうやって戦おうか。
『光よ宿れ。切り裂け』
斬撃が飛んでくるのを大盾と結界で受け止め──
「っ!まじかよ、吸収しきれない強さか」
受け止められず、咄嗟に避ける。魔王スペックが無かったら、今頃真っ二つだった。
「はぁぁぁ!」
斬撃を避けた先には既にウェンディがいた。どうやら先回りしていたらしい。
「負け!俺の負けだ!」
負けを宣言しながら、木の枝で剣を受け止めるように掲げる。
「あら、私はアンデットより弱いのでは──え?」
「ん?……ん?」
──ウェンディの聖剣が、途中で折れている。いや、刃が途中から無くなっている。
「……もしかして、聖剣って魔力で出来てる?」
「……ええ。まさか」
「ごめん、この木の枝、魔力吸収するように闇が仕込んである」
まさか聖剣を止める、いや消し去るとは思わなかったけどな。
……直るのか?
「『大いなる光に象られし聖剣よ、ここに来たれ』……剣先が、完全に無くなってるいるわ」
一度聖剣を消し、再び召喚する。だが、剣先は戻って来なかった。
「…………あ、そうだ。魔王城に凄い剣がある。それを代わりに渡すからそれで許してくれないか?」
「聖剣は勇者が代々受け継ぐ物よ。代わりになるのかしら?」
「性能は保証する。……まぁ、俺は魔王だからな。勇者の武器を壊したって仕方ないだろ?魔王だからな!」
だって魔王だもん。本来勇者の敵だから。武器破壊くらい仕方ないよな?
「開き直らないでくれるかしら」
「とりあえず魔王城で剣を見てくれ。魔王が強いって保証する剣だ。見る価値はあるだろ?」
異世転で主人公が色々強化してたから、強い事は間違いない。
「……確かに、魔王がそこまで言うなら見る価値がありそうね。それじゃあ、さっそく行きましょうか」
「ああ。……魔王城って、どこにあるんだ?」
「……自宅の場所も知らない魔王なのね」
哀れむような目で見られている。まぁ、そうだよな。魔王にとって魔王城は自宅みたいなものだし、16歳になって自宅の場所が分かりませんはさすがに……。
でも、今までテレポートで行ってたし仕方ないよな?
「まぁ、魔王城なら分かるわ。有名だもの」
「魔王城だから勇者が知らない訳無いか」
「魔王が魔王城の場所を把握していないとは思わなかったわ」
「……世界は広いって事だ。よかったな、変わった魔王が見れて」
「自虐かしら?あまり好きでは無いわ」
……早く魔王城に向かおう。




