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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
28/54

仕方ない

「お。やっと起きたか」

「……魔力は、まだあまり回復してないわね」

「まずは守ってくれてありがとうとか言ってほしいところだな」


 そういえば、骨の魔物の事は知らないのか。気を失ってたからな……。


「それよりも、まだ下があったのね」

「……まぁいいか。そうだな、倒したら出てきた」


 部屋の中の魔物の死体は全て魔石に変わっている。骨の魔物も当然魔石になっている。……死体が無いと説明するのめんどくさいな。いいか、言わないで。


「なら、行くわよ。……やっぱり、ここで魔力の回復を待ってもいいかしら?」

「いいけど、どれくらい必要なんだ?」

「一時間もあれば十分よ」


 起きるまでに二時間くらい、起きてからも一時間か。……時間がかかるな。


「分かった。……暇だし、ウェンディの話をしてくれないか?どうやって勇者になったのか、とか」

「いいわよ。……面白い話ではないけれどいいかしら?」

「ああ」


「私はほんの少し前まで、ただの女の子だったわ。町を、竜が襲ってくるまでは……。私が住んでいた町は数分で完全に破壊されて、生き残ったのは私を含めた数人だけ。片手で足りる程度だったわ」


「酷い話だな……」


「そして、救出されて保護された先で私は勇者になった事を知ったわ。……家族が全員、生きていなかった事も知ったわ」


 そこで一度呼吸をおくように間隔を作る。

 ……いやぁ、なんか凄く重い空気だな。話題振り、失敗したな。


「私は、あの竜に復讐する事を誓った。絶対に、絶対にあの竜は私が殺す。みんなの仇を私が討つ!」


「……それで、強くなる為に森で魔物を手当り次第に狩っていたのか」

「そうよ。……次は、魔王の話をしてもらえるかしら?何故、勇者の味方をするの?どうして魔王がこんなところにいるの?」


 うーん、そうだな……闇の神アリアに聞かされた事から話していくか。


「神様に勇者を鍛えてくれって言われたんだ。なんでも、勇者は魔王と戦うと飛躍的に強くなるらしくてな」


 ……あれ?なんで俺はダンジョン攻略なんてしてるんだ?


「魔王と戦うと飛躍的に強く……。覚悟しなさい。魔王、行くわよ!」

「え、待って待ってまじで待てって!『闇の盾』」


 襲いかかってくる勇者とそれを盾で止める魔王。正しい構図な気はするが、待って欲しい。


「俺は戦い素人なんだよ!だから待てって!」

「魔王が素人?素人にあれほどの数の魔物が倒せるはずがないでしょう!」


 ついでに言うともっと強い骨の魔物も居たぞ。まぁ、ややこしくなりそうだから言わないけどな。


「事実倒せてるからな……ステータスは高いからゴリ押しただけだ。だから剣をしまってくれないか?!」

「嫌よ」

「なんでだ!!」


 とっさの闇の盾を剣で切ろうとしている。……『闇の結界』で、体を覆っておく。


「強くなりたいのよ!」

「ならせめてダンジョンを出てからにしてくれよ!ウェンディ、まだ魔力も回復していないんだろ?ちょっと落ち着けよ」


 剣を諦めて魔法を構えていたウェンディだったが、魔力が足りないのか魔法を撃たずに剣に戻る。


「これで強くなれるならいくらでも襲うわよ!」

「少し落ち着けよ!ウェンディ、俺はレベル1だぞ!そんなやつを勇者がこんなに一方的に殴るのってありなのか?!」

「強くなるためならなんでもありよ!私は、仇を討つのよ!」


 ど、どうしようか……。


「そうだ!なぁ、ダンジョンを出たらいくらでも戦ってやるから今は落ち着けよ!な?」

「……言質は取ったわよ」


 なんとか、一段落というところか?まぁ、ウェンディが復讐するために動く時は我を忘れる、と覚えておこう。仇を討つとか大声で言われても困るだけだ。


「ああ。じゃ、さっそくでるか?」

「当たり前じゃない」




 そういえば、俺ってダンジョンを攻略出来ない呪いでも持ってるのかな……?







「地上だな……。なんだろう、実際はダンジョンに入ってまだ数時間程度だったのに、日光が尊く感じる」

「知らないわよ。さ、戦いましょう。私の強さの為に犠牲になりなさい、空太」

「俺よりウェンディの方が魔王、似合ってるよな……」


 今のセリフなんて完全に魔王のものだろう。

 俺の強さの為に犠牲になれ!

 ……微妙だな。かっこよくは無いけど、魔王的というか、傲慢な感じだ。機会があったら俺も使おう。


「あら、私は魔王でも勇者でも、あの竜を倒せるならどちらでもいいわよ」

「そこは勇者で満足しておけよ……町に行ってからじゃだめか?正直、さっき戦った魔物が強くて疲れているんだけど」


「強い魔物なんていたかしら」

「いたんだよ。説明はめんどくさいから今度な」


 骨の、犬のような四足歩行だが、色々な生物の骨が塊になって出来たような…………めんどくさいな、やっぱり。仮に言ったとしても理解されないだろう。


「……まぁいいわ。それより、明日なら戦ってくれるかしら?」

「割とすんなり今日は諦めてくれるんだな。……明日なら、まぁ、いいか。元々勇者が強くなる事が目的だからな」

「なら、まずは町に戻りましょう。道は分かるかしら?私は分からないわ」


「空を飛んで確かめながら帰るしか無いだろうな。飛んで帰れるのは一人の時だけだ」

「……道案内、お願いしてもいいかしら」

「元からそのつもりだよ」


「…………その、ありがとう」


「はいはい。じゃあ、方向見てくる」



 空を飛び方角を調整しながら歩き、森を抜けて町に着く頃には、日は既に赤く傾いていた。






「さて、実は俺は無一文無しなんだ。ウェンディ、依頼失敗はウェンディのせいだからどうにかしてくれ」

「そんな事言われても知らないわよ」

「ゴブリン、跡形も無く消しただろ」

「ゴブリンに限らず消したわ」


 ……ウェンディの態度が戻ってきてるな。手足を拘束したときはあんなにしゅんとしてたのに。明日、また拘束するか。


「とりあえず、ウェンディが助けてくれないと俺はまた野宿だ。……助けてください。原因はウェンディだ」

「……そうね、私は勇者だもの。困っている人は助けないといけないわね。あら、空太は魔王だったわね」


 …………仕方ないか。


「じゃあ俺は一回魔王城に帰るか。次ウェンディと会うのはいつになる事だろうな?」

「私が泊まってる宿の部屋をもう一つ取ってあげるわよ!だから待ちなさい!」

「押し付けがましいなぁ?俺は別にいいんだぞ、魔王城に帰ったってな」


「ああ、もう……お願いします私と宿に泊まってください!これでいいかしら?!」

「何故か少しいやらしい風に聞こえたな。私と、泊まってください。……仕方ないな、泊まってやろう」


 勇者を脅していやらしく聞こえる言葉を言わせる。魔王らしいと言ってもいいのだろうか……?何かを間違えてる気がする。


「……っ!!もう、さっさと行くわよ!」


 頭を抱えて唸り声をあげてから、ちゃんと声をかけて歩き始めるウェンディ。うん、優しい。

 先に行ってしまうウェンディを追って行く。明日、戦うのめんどくさいな……何か必勝の手段でも考えておくか。

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