仕方ない
「お。やっと起きたか」
「……魔力は、まだあまり回復してないわね」
「まずは守ってくれてありがとうとか言ってほしいところだな」
そういえば、骨の魔物の事は知らないのか。気を失ってたからな……。
「それよりも、まだ下があったのね」
「……まぁいいか。そうだな、倒したら出てきた」
部屋の中の魔物の死体は全て魔石に変わっている。骨の魔物も当然魔石になっている。……死体が無いと説明するのめんどくさいな。いいか、言わないで。
「なら、行くわよ。……やっぱり、ここで魔力の回復を待ってもいいかしら?」
「いいけど、どれくらい必要なんだ?」
「一時間もあれば十分よ」
起きるまでに二時間くらい、起きてからも一時間か。……時間がかかるな。
「分かった。……暇だし、ウェンディの話をしてくれないか?どうやって勇者になったのか、とか」
「いいわよ。……面白い話ではないけれどいいかしら?」
「ああ」
「私はほんの少し前まで、ただの女の子だったわ。町を、竜が襲ってくるまでは……。私が住んでいた町は数分で完全に破壊されて、生き残ったのは私を含めた数人だけ。片手で足りる程度だったわ」
「酷い話だな……」
「そして、救出されて保護された先で私は勇者になった事を知ったわ。……家族が全員、生きていなかった事も知ったわ」
そこで一度呼吸をおくように間隔を作る。
……いやぁ、なんか凄く重い空気だな。話題振り、失敗したな。
「私は、あの竜に復讐する事を誓った。絶対に、絶対にあの竜は私が殺す。みんなの仇を私が討つ!」
「……それで、強くなる為に森で魔物を手当り次第に狩っていたのか」
「そうよ。……次は、魔王の話をしてもらえるかしら?何故、勇者の味方をするの?どうして魔王がこんなところにいるの?」
うーん、そうだな……闇の神アリアに聞かされた事から話していくか。
「神様に勇者を鍛えてくれって言われたんだ。なんでも、勇者は魔王と戦うと飛躍的に強くなるらしくてな」
……あれ?なんで俺はダンジョン攻略なんてしてるんだ?
「魔王と戦うと飛躍的に強く……。覚悟しなさい。魔王、行くわよ!」
「え、待って待ってまじで待てって!『闇の盾』」
襲いかかってくる勇者とそれを盾で止める魔王。正しい構図な気はするが、待って欲しい。
「俺は戦い素人なんだよ!だから待てって!」
「魔王が素人?素人にあれほどの数の魔物が倒せるはずがないでしょう!」
ついでに言うともっと強い骨の魔物も居たぞ。まぁ、ややこしくなりそうだから言わないけどな。
「事実倒せてるからな……ステータスは高いからゴリ押しただけだ。だから剣をしまってくれないか?!」
「嫌よ」
「なんでだ!!」
とっさの闇の盾を剣で切ろうとしている。……『闇の結界』で、体を覆っておく。
「強くなりたいのよ!」
「ならせめてダンジョンを出てからにしてくれよ!ウェンディ、まだ魔力も回復していないんだろ?ちょっと落ち着けよ」
剣を諦めて魔法を構えていたウェンディだったが、魔力が足りないのか魔法を撃たずに剣に戻る。
「これで強くなれるならいくらでも襲うわよ!」
「少し落ち着けよ!ウェンディ、俺はレベル1だぞ!そんなやつを勇者がこんなに一方的に殴るのってありなのか?!」
「強くなるためならなんでもありよ!私は、仇を討つのよ!」
ど、どうしようか……。
「そうだ!なぁ、ダンジョンを出たらいくらでも戦ってやるから今は落ち着けよ!な?」
「……言質は取ったわよ」
なんとか、一段落というところか?まぁ、ウェンディが復讐するために動く時は我を忘れる、と覚えておこう。仇を討つとか大声で言われても困るだけだ。
「ああ。じゃ、さっそくでるか?」
「当たり前じゃない」
そういえば、俺ってダンジョンを攻略出来ない呪いでも持ってるのかな……?
「地上だな……。なんだろう、実際はダンジョンに入ってまだ数時間程度だったのに、日光が尊く感じる」
「知らないわよ。さ、戦いましょう。私の強さの為に犠牲になりなさい、空太」
「俺よりウェンディの方が魔王、似合ってるよな……」
今のセリフなんて完全に魔王のものだろう。
俺の強さの為に犠牲になれ!
……微妙だな。かっこよくは無いけど、魔王的というか、傲慢な感じだ。機会があったら俺も使おう。
「あら、私は魔王でも勇者でも、あの竜を倒せるならどちらでもいいわよ」
「そこは勇者で満足しておけよ……町に行ってからじゃだめか?正直、さっき戦った魔物が強くて疲れているんだけど」
「強い魔物なんていたかしら」
「いたんだよ。説明はめんどくさいから今度な」
骨の、犬のような四足歩行だが、色々な生物の骨が塊になって出来たような…………めんどくさいな、やっぱり。仮に言ったとしても理解されないだろう。
「……まぁいいわ。それより、明日なら戦ってくれるかしら?」
「割とすんなり今日は諦めてくれるんだな。……明日なら、まぁ、いいか。元々勇者が強くなる事が目的だからな」
「なら、まずは町に戻りましょう。道は分かるかしら?私は分からないわ」
「空を飛んで確かめながら帰るしか無いだろうな。飛んで帰れるのは一人の時だけだ」
「……道案内、お願いしてもいいかしら」
「元からそのつもりだよ」
「…………その、ありがとう」
「はいはい。じゃあ、方向見てくる」
空を飛び方角を調整しながら歩き、森を抜けて町に着く頃には、日は既に赤く傾いていた。
「さて、実は俺は無一文無しなんだ。ウェンディ、依頼失敗はウェンディのせいだからどうにかしてくれ」
「そんな事言われても知らないわよ」
「ゴブリン、跡形も無く消しただろ」
「ゴブリンに限らず消したわ」
……ウェンディの態度が戻ってきてるな。手足を拘束したときはあんなにしゅんとしてたのに。明日、また拘束するか。
「とりあえず、ウェンディが助けてくれないと俺はまた野宿だ。……助けてください。原因はウェンディだ」
「……そうね、私は勇者だもの。困っている人は助けないといけないわね。あら、空太は魔王だったわね」
…………仕方ないか。
「じゃあ俺は一回魔王城に帰るか。次ウェンディと会うのはいつになる事だろうな?」
「私が泊まってる宿の部屋をもう一つ取ってあげるわよ!だから待ちなさい!」
「押し付けがましいなぁ?俺は別にいいんだぞ、魔王城に帰ったってな」
「ああ、もう……お願いします私と宿に泊まってください!これでいいかしら?!」
「何故か少しいやらしい風に聞こえたな。私と、泊まってください。……仕方ないな、泊まってやろう」
勇者を脅していやらしく聞こえる言葉を言わせる。魔王らしいと言ってもいいのだろうか……?何かを間違えてる気がする。
「……っ!!もう、さっさと行くわよ!」
頭を抱えて唸り声をあげてから、ちゃんと声をかけて歩き始めるウェンディ。うん、優しい。
先に行ってしまうウェンディを追って行く。明日、戦うのめんどくさいな……何か必勝の手段でも考えておくか。




