かっこよく決めて前に進む
「ダンジョンって、下に続くのもあるんだな」
「上に登るダンジョンは神々の創造物よ。下に進むダンジョンは、人か何かが作った物よ」
短い空の旅は終わり、今はダンジョンの中にいる。地下に続くダンジョンだからだろう、ジメジメしている。まだ虫や魔物を見ていないが、魔物サイズのゴキが出そうだ。
……で、人か何かって、適当過ぎる。何かって何だよ。
「……言いたい事は分かるわよ。でも、何かとしか伝えられて無いのよ。諦めなさい」
「ウェンディは、気にならないのか?」
「気になるわよ。でも、人が作ったのか何か別のものが作ったのかなんて、見分けがつかないわ」
確かに。そもそも、俺はダンジョンと鍾乳洞の見分けすらつかないが。
「そういえば、ダンジョンの定義って何だ?」
「定義?誰かが作った、かしら?」
「なるほど。……壁が不思議に光ってるから、誰かが作ったって分かったのか?」
「あんな場所に自然に入口が出来る訳ないわ」
そういえばそうだな。明らかに自然に出来たものじゃなかった。
「待って、何かいるわ。……『氷よ、敵を穿て』」
「今の小さいのは魔物か?それに今の詠唱はなんだ?」
「ネズミみたいな魔物よ」
「魔物か。で、詠唱は?」
「……魔王を名乗るのならせめて魔法の常識くらい身につけなさい。魔法を発動する時は、魔法をイメージながら魔法を唱えるのよ」
魔法をイメージしながら魔法を唱える、か。
ごめん意味が分からない。魔法を唱えるってところが全く分からない。魔法技か?
「魔法なら、イメージだけで出来るだろ?それじゃダメなのか?」
「……適性が高いならイメージだけでも発動するわ。けれど、魔力を無駄に消費するだけよ」
「詠唱すると魔力の消費を抑えられるのか?」
「ええ。半分程かしら」
なんだと……!それなら、いくらでも空を飛んでいられるな。
「その詠唱する言葉はどうやって分かるんだ?」
「自分が撃ちたい魔法をイメージ出来る言葉なら何でもいいのよ」
「なるほど……『闇の槍』」
多分1番よく使う魔法、闇を槍の形にして飛ばす魔法を使う。
……放ってから気づいたが、ちゃんとスマホのような物で自分のステータスを見ておかないと無駄だな。
「……闇、魔法?まさか、あなたが闇魔法を使えるなんて」
「空太でいいぞ。……確か俺が張った結界みたいなやつ、見たよな?明らかに闇で出来てたと思うんだけど」
「魔法道具で作った結界だと思っていたのよ」
「俺は魔法道具なんて1つも……あ、これ魔法道具か?」
スマホのような物を取り出し、ウェンディに見せる。
「これはどういう物なのかしら?」
「ステータスを見たり魔力の流れを見たりできる道具だ」
「珍しい魔道具ね。聞いたこともないわ」
神様から貰ったからな。
「ステータスを見る魔道具は冒険家ギルドに個人使用は禁止されているはずよ。空太は冒険者かしら?」
「禁止なんて聞いて無いんだけど……」
「普通は手に入らないもの。よほどの高位冒険者でないと話されないと思うわ」
……まぁ、言わなかったギルドの責任という事にしておこう。
「なら、これは見なかった事にしてくれ」
「仕方ないわね……っ!『光よ!』」
突然光の魔法を放つ。
──放たれた先には、ボロ布と黄ばんだ白い破片が落ちている。これは……?
「アンデットよ。おそらく、透明化の魔道具を持った人型の骨よ」
「骨……これって人骨なのか?」
「ええ。私の目が正しければそれは人骨ね」
そうか……異世界だもんな。人が死んだら骨だけで動きまわるんだな。
確か異世転でも主人公がアンデットと戦う時があったな。確かあれは山奥の廃屋敷の中だっけか。
「もしかして、人の死体が怖いのかしら?」
「まぁ、好きでは無いな。見ないでいいなら見ないで居たい」
「……どうしても無理なら空太は後ろに下がってなさい。元々、戦力として期待はして無いわ」
……情けないな、俺は。女の子の後ろに下がってダンジョン攻略なんて情けない。
──俺は、そうななりたくない。
「いや、俺が前に出る。ウェンディは後ろで見物してろ」
かっこよく決めて前に進む。
──2歩進んだところで突然体を下に引かれる。……どうやら落下しているようだ。落とし罠だろうか?
「俺、かっこ悪過ぎるだろ!くそっ」
両手を下に向けて風を放つ。空を飛ぶ魔法だ。いい加減飛行魔法覚えたいな。
……落下の勢いを殺し、そのまま上へ上がる。
登る途中、壁に横穴を見つける。隠し通路感が凄い。きっと宝とかあるんだろうな。
「おかえり、空太。無事そうで良かったわ」
「全然心配してなかったという雰囲気が伝わってくるんだけど……まぁいいか。それより、登る途中に横穴を見つけた。多分隠し通路だ」
「隠し通路……なるほど、仕留め損ねたアンデットはそこから逃げたようね」
「なら、追うか?」
「もちろんよ。あの雰囲気、きっとレベル高いわよ。倒せば私のレベルが上がるはずだわ!」
レベル……そういえばそういう制度あったな。エスカレーションステータスがあるからレベルが上がらなくてもステータスが上がってくからな。
今、俺はレベル何だろうか。確認しておくか。
水無瀬 空太
魔王Lv1
魔力680/712
筋力652
信仰0
耐性692
運10
適性
火A 水A 雷A 風A 氷A 光F 闇S
スキル
闇操作ー変質
能力定期上昇
魔法技
魔力過剰供給Lv1
寿命過剰消費Lv1
(能力過剰強化Lv1)
称号
闇の子 転移者
Lv1……まぁ、ほとんど戦ってないからな。しかし、Lv1でこのステータスか。
「ウェンディは今何レベルだ?」
「34よ。空太は?」
「…………1」
「1?!嘘でしょ?レベル1で空を飛ぶような魔法が使える訳無いわ!」
いや、本当なんだよな……しかしウェンディは34レベルか。勇者にまだそれほど経っていないのに凄いな。俺とは大違いだ。
「でも事実飛べてたろ?」
「……なら、さっきの魔道具で空太のステータスを見せて」
「いいけど、読めないと思うぞ」
日本語だからな。
とりあえず、スマホのような物を開いて自己ステータスを見せる。
「これ、どこの国の言葉よ。見たことないわ」
「俺の生まれ故郷の言葉だ。ステータスの上のところにはちゃんと魔王って書いてあるぞ」
「へぇーそう。良かったわねー」
まぁ信じないよな。信じないだろうとは思ってたけどな、最後の反応腹立つな……いや、俺はこの程度でイラつくほど心は狭くないはずだ!
「魔王様なら私を倒して姫様を誘拐するくらいして欲しいなー!まぁ、無理よね。本物の魔王じゃないものね!」
「……今すぐウェンディを倒して魔王城に連れ去ってやろうか」
なんでここまで煽って来るんだ?……勇者相手に魔王を名乗ってるからだろうな。天敵を名乗ってる奴だもんな俺は。
「出来るものならやってみなさいよ!」
──イメージはあの時と同じ、手に雷を纏う。ただし、今回はあの時よりも強めに。
雷を纏った手をウェンディの首に伸ばす。
「甘いわよ!」
横にステップして避けられる。
避けた方に向けて纏った雷を撃ち出す。……氷の魔法で阻まれる。
「ならこれでどうだ!」
イメージは闇の手錠。発生場所をウェンディの背後に、まずは下ろしている左手に付ける。
「なっ!座標指定魔法……!くっ、外れないわ」
次いで左足に闇の手錠を掛ける。そのまま操作して引っ張り、右足と繋げる。
「何よこの闇魔法!『切り裂け!光よ!』」
光魔法が足に掛けられた闇の手錠に触れ──闇の手錠が大きくなる。魔法吸収だ。
「何で光魔法が闇魔法に吸収されるのよ!」
「それは正直俺も思った」
「空太は黙ってなさい!」
その闇の手錠かけたの俺なんだけど……まぁいいや。今の内に左手に掛けてある闇の手錠操作して右手と繋げる。
これで両手両足を拘束出来た。
「さて、じゃあ望み通り魔王城に……」
「ま、待って!私が悪かったわ!本物の魔王だとは思わなかったのよ!」
「……俺って、命の恩人だよな?」
「そうよ」
「ウェンディは命の恩人を煽ったよな?」
「……そ、そうよ」
「魔王だとは思わなかったの一言で許されると思うか?」
「…………ご、ごめんなさい。私は反省しています。空太様、どうか許してください」
「そこまで悲痛そうな顔をしないでも……もういいから、確かに俺は命の恩人だけどだからって全面的に信用されても困るしな」
闇の手錠を解除する。
「ありがとう。……本物に魔王なのね」
「ああ。だけど味方だから安心していいぞ」
「それは分かってるわ。命を救われたんだもの……」
ウェンディが、弱々しい……。そこまで思い詰められても困るんだけどな。
「よし!じゃあレベル上げしようぜ!ウェンディ、早く強くなってくれよ!」
「が、頑張るわ!」




