オーバーライフブースト
食事の必要が無くて、汗もかかないから風呂もそんなに入らなくていい。魔王って、便利だな。まぁ、寝る必要はあるけど。
「しかし、あるのは骨と石だけか……お、これって宝石の原石か?」
壁に青い半透明の水晶のような石が埋まっている。
とりあえず、闇の槍を小さめに作って水晶の周りに刺しまくり水晶を取り出す。
軽い。それに触った感じだと硬度も高そうだ。まさかダイヤモンドか……?試しに闇の槍を打ち込んでみる。
──変化無し。今度は闇でナイフを作って表面を削ってみる。削れない。
……5センチ程度の大きさなので制服のポケットに入れておく。これだけの硬度だから、もしかしたら良い物なのかもしれないからな。
「それを置いて行け」
「ん?……あ、人?こんな場所にも人がいるとは」
異世界凄い。人がいるってことはどこかに登れる場所があるかもしれない。俺みたいに降りたのかもしれないが。
「私は魔獣王だ。まさか知らずにここにいるわけではあるまい?」
「……いや、さすがに無理あるだろ。仮にそうだとしたら魔獣女王になるだろ」
「……人間の肉体というのは便利なものでな。このように狭い場所でも自由に動ける」
「まぁそうだな。……その言い方、もしかして人間じゃない?」
「魔獣王を知らぬとは……まぁよかろう。その石を返せば見逃してやる」
ポケットに入れた水晶みたいな石は、相当価値があるみたいだ。
……何なのか気になるな。
「これ、なんなんだ?」
「それすら知らぬとは、いったい何をしにここへ来た」
「上から落とされた。来たくて来た訳じゃない」
竜狩りの者に投げ落とされた。何故こんな事をするのか。
「落とされた……?ふ、ふふふ、ふはははは!そうか、殺されたのか!なるほど、これは面白いな!」
「いや、そんなに笑うなよ……それに殺されたって、俺は生きてるぞ」
「ならば殺人未遂だろう?……人間であってるか?」
「魔王だ」
種族が魔王になっているからな。人間ではない。
「魔王が落とされたか!これは傑作!しかし今代の勇者は魔王をここに落として殺そうとしたか……」
「いや、落としたのは竜狩りの者っていう魔族だ。修行を始めるとか言って、ここに放り投げた」
「……っ!はははっ……!魔王が魔族に……!」
笑い過ぎだろ。そんなに腹を抱えて笑わなくても……
「今代の魔王は面白いな。よし、修行というなら私と戦っていくか?」
「え?いや、さすがに女性相手に戦うのはな……美人に攻撃なんてしたくない」
緑色の髪に緑色の瞳の、エルフっぽい美人。ただ、耳が猫耳だからエルフじゃないだろうな。
「美人?ああ……なら、これでいいか?」
一瞬姿がブレる。──俺と全く同じ見た目の誰かが、魔獣王のいた場所に立っている。
「……まさか、幻覚?」
「肉体変化というスキルだ。こんなの使える生物は沢山いたただろう……」
「初めて見たけど?」
「自慢げに言うとは。今代の魔王はやはり変わっている」
褒めてる?貶してる?……こういう時は、褒められてると思っておこう。精神衛生上、その方がいい。
「まぁ、俺とは声が違うからいいか……それで、戦うってことはどこか広いところがあるのか?」
「こっちに来な。勝ったらその石はやるよ」
「この石、何に使えるんだ?」
「……アダマンタイトの使い道を知らないとは言わないな?」
「知らない」
「はぁ……魔力を生産する石、それがアダマンタイト」
「つまり自動で溜まる魔力倉庫?」
「まぁ、そうだよ」
微妙だな……魔力ならライフブーストで──これ使えば風魔法だけで登れるか?!
……勝たなければ。
少し歩き、壁に空いていた穴の中に入る。
──広い地下空間だ。高さは30メートルくらいあるか?めちゃくちゃ高い。横の広さにいたっては300メートル以上ある。いったい何のためにこんな空間が……。
「私が魔獣王である理由を見せてやる。魔王よ、私を見くびると死ぬぞ?」
言葉と同時に体がブレる。……一軒家くらいの大きさはありそうな黒い狼になる。うーん、赤い瞳に黒い毛並みが綺麗だ。出来ればもう少し小さくて弱そうならな……。
「魔王よ、これが私の姿だ!」
「めちゃくちゃかっこいいぞ!撫でていいか?」
「……戦わないのか?」
「ええ……よくよく考えるとさ、俺って勝ったらアダマンタイト貰えるけど、負けても何も無くないか?フェアじゃないし、戦わないでいいかな?と、考えているんだが……」
こんな強そうな狼と戦いたくない。
「なら、負けたら魔王の全てを貰おうか。それでどうだ?」
「いや、俺の全てがアダマンタイト一欠片と同価値なのか……」
「ならば私の全てでどうだ?」
「…………くそっ!欲しいけど勝てる未来が見えねぇ!」
魔獣王の全てを貰える。つまり、人権(魔獣権?)も貰えるわけだ。そして肉体変化のスキル。……もう、分かるよな?
「……今代の魔王は、本当に面白いな」
「どうしたら勝てる……ライフブーストだけじゃ火力が足りないな……更に上……スキルオーバーブーストか?いや、でもスキルは2つだけだし……そういえば魔法技にも使えるのか」
「独り言が長い……」
「魔法技……ライフブースト?まさか、出来れば……」
「魔王、そろそろ──」
「よし!やるぞ魔獣王!お互いの全てを掛けて勝負だ!」
ライフブーストをスキルオーバーブーストして戦う。どれだけ強くなるか分からないが、相当強くなるはずだ。
「よかろう!魔王よ、すぐに戦闘を初めても構わぬか?」
「……最初に準備時間をください!どうか、ハンデとしてでも!」
使う前に倒されたらどうしようもない!という事に気づいてなかった。危なかった……。
「自らハンデが欲しいと頼むとは……今代の魔王は本当に面白い!好きに準備していいぞ!最初の一撃も魔王にやろう。好きな時にかかってくるがいい」
「ありがとう!──ライフブースト。スキルオーバーブースト、ライフブースト。」
スマホのような物を開き、ステータスを見ながら強化していく。
ライフブーストにスキルオーバーブーストをかけると、さらに新しい魔法技が出てきた。どうやら、スキルオーバーブーストのようにライフブーストをスキルオーバーブーストしないと使えない魔法技みたいだ。
「オーバーライフブースト」
スマホのような物のステータス表示に大量のスキルや魔法技が増える。ステータスも、見た事の無いような数値になっている。
……オーバーライフブースト、どれほど寿命を消費しているのだろうか?
「早く決めればいいか」
闇の槍をイメージする。サイズは長さ10メートル程。
オーバーライフブースト状態なら、魔力も足りる。
「スキルオーバーブースト、オーバーブースト。オーバーブースト」
闇の槍がさらに大きくなる。打ち出す前の時点で、この空間に収まりきらないほどに。
どれだけ強くなってるんだよ……寿命がどれほど減ってるのか気になる。
「ま、待て!私の負けだ!魔王よ、私の負けだ!」
「俺の勝ちだな?」
「そうだ!魔王の勝ちだ!」
オーバーライフブーストを解除する。闇の槍はすぐに霧のように消えてなくなる。
同時に、意識が遠のく。反動か?…………




