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異世界で魔王になったけど、観光したい。  作者: かしあ あお
一章
13/54

原因は俺だけどな

「スライムってゼリーみたいだな」

「ゼリー?」

「こんな食べ物があるんだ」


 41階層には、魔物が結構いる。相変わらず草原ではあるが。

 魔物も数はいるのだが、全て青色のスライムだ。丸いゼリーが重力で楕円になっている、という説明で思い浮かぶ物そのままの姿形をしている。


「美味しく無さそうだね」

「結構美味しいぞ?風邪引いたときなんかよく食べるな」

「病人食なんだ……」


 別にそういう訳では無いが、まぁどうせこの世界には無いしそういう事でいいか。俺も風邪引いた時くらいしか食べなかったし。


「そういえば、まだ血飲みの者の魔法をテレポートしか見た事ないんだけど、見せてくれないか?」


 レスティの師匠ということは、レスティの魔法より凄いのだろう。

 さっきから出てくるスライムは、全部レスティが小さい火の玉を投げて倒している。


「いいよ。……じゃあ、あそこのスライムを倒すね?」


 血飲みの者は10m程離れているスライムを指差す。そして、俺が使ったような黒い、闇を指先から放出する。

 黒い光線のように直進した闇がスライムの体を一瞬で貫く。


「おお……それなら俺にも出来るかもしれないな」

「魔王様は闇を使うのが得意だもんね!」

「むしろ、俺は魔法も闇なんだよな……」


 そう言いながら、草原の中にいるスライムに向けて指先を向ける。

 20m程だろうか?まぁ、何とかなるだろう。

 ーー意識を指先に集中して、血飲みの者と同じように闇を光線のように集中して飛ばす。

 指先から打ち出された闇はスライムを貫通した。……イメージが甘かったのか、貫通というよりは消し飛ばした。光線が太すぎたのだ。


「……ま、まぁ、これなら実戦でも使えるな」

「魔王様、魔力は足りる?」

「多分。足りなかったら闇でナイフでも作って魔物に刺すから大丈夫だ。それで回復する」


 そういう能力を貰ったからな。


「便利だね……闇って私には使えないからなぁ……」

「レスティは闇属性に適性が無いのか?」

「うん、Fだよ」

「まぁ、他の属性を色々使えるなら大丈夫だろ?」


「……魔王は闇も他の属性も使えるよね」

「ああ、光以外全部使えるな」

「羨ましい……」


 そんなことを言われてもな……適性では使えても、まだ実際に使ってない属性もあるし。


「レスティ、私なんて闇属性しか使えないんだよ?」

「師匠は充分強いから……私ももっと強くならないと!」


「なんで強くなる必要があるんだ?」

「え?義賊をするためだよ?」

「……義賊は動詞だったのか」


 知らなかった……。まぁ、意味は分かるけどな。



 どうでもいい会話をしながらダンジョンを進んでいく。スライムしか出ないまま、50階層に着いた。このダンジョン簡単過ぎるだろ……このまま200階層まで辿り着いたら、面白く無いな。


「なぁ、血飲みの者。このダンジョンって、ずっと簡単なのか?今のところスライムしか魔物がいないんだけど……」

「51階層から狼が出るはずだよ?」

「狼……よし、行こう。早く魔物と戦いたい」


「魔王、戦闘狂だったの……?」

「いや、違うぞ?平和大国日本で育ったからな」


 日本で育って戦闘狂になることはそうないだろうな。むしろ戦いは得意じゃないだろう。日本で戦いが得意という人はどれだけいるのか……。


「平和大国……魔王はこの世界に転移してきたんだっけ?」

「ああ。まだ来て数日しか経ってない」

「その強さでまだ数日なんだよね……」

「まぁ、魔王スペックだな。俺はまだろくに戦った事も無いからな」


「それで戦いたいの?」

「そういう事だ。単純に自分の強さが知りたい」


「2人とも、もう51階層に着くよ?……私も会話に参加したいなぁ。レスティばっかりずるいよ、魔王様」

「ええ……。よし、血飲みの者。何か俺の知らない事を話してくれ。面白い話を頼むぞ」

「魔王、それ無茶振りだよね?」


 いや、血飲みの者なら話せそうだと思ったんだけどな。


「んー、じゃあ竜狩りの者の武勇伝はどうかな?」

「竜狩りの者?誰だ?」

「魔王様のまだ会ってない配下だよ」

「美少女か?美人か?」

「男だよ?ずっと鎧を着てる、変な人だけど、先代魔王様と仲が良かったよ!」


 先代魔王か……。なんというか、アルティアダンジョンといい、魔王城といい、配下といい、全部先代魔王の残した物なんだよな。

 ルナダンジョンは、違うといいんだが……。


「魔王様?」

「え?あ、何でもない。少し考えてただけだから」

「何を考えてたの?」

「大した事じゃない」

「悩み事があるなら私に相談してね?何でもしてあげるから!」


「……本当に困ったらレスティに相談するから大丈夫だ。ほら、血飲みの者に相談するより人間のレスティに相談した方が何事も平和に終わらせられそうだからな」

「むぅ……レスティ。これ以上私から魔王様を奪おうとしたら怒るよ?」


「私は何もしてないよ?!」

「レスティは話してて安心感があるからな」

「そんな事言われても……」

「レスティ、修行は厳しい方がいいよね?」

「師匠?!」


 レスティ、可哀想に。まぁ、そうなった原因は俺だけどな。


「あ、狼いたよ」

「どこだ?」

「100mくらい先に2匹いるよ。寝っ転がってるよ」

「いや、見えねぇよ……」


 草原といっても、綺麗に平坦ではない。少しは盛り上がっている場所もあり、100m先にいる狼など見えない。


「まぁ、行くか。俺がやっていいか?」

「うん。いいよー!」

「手伝わないで平気?」

「ピンチになったら頼む」

「うん、わかった」


 狼がいるという方向に入る。なだらかな丘を越えると、確かに2匹の薄灰色の狼がいる。血飲みの者、凄いな……。


「よし、とりあえずスキル使ってみるか」


 スマホみたいな物で自身のステータスを見ながら使っていく。


『ライフブースト。スキルオーバーブースト。……スキルオーバーブーストエスカレーションステータス』


 スキルオーバーブーストはどのスキルをオーバーブーストするのかまで指定する必要があるらしい。言い直したので、ちゃんと発動した。

 ……というか、エスカレーションステータスのおかげでステータスが少し上がっていた。

 さらにスキルオーバーブーストでオーバーブーストした今では、5秒に1くらいステータスが上がっている。ここまでの効果が出るということは、ライフブーストは相当の量の寿命を消費しているのかもしれない。

 すぐに狼を仕留めて解除しよう。


「イメージは……雷。2匹いるから、感電して広がるイメージで……」


 ついでに『オーバーブースト』と唱えておく。


 ーーまるで落雷のような、いや、それ以上の轟音が鳴り響き、目の前が真っ白になる。


 そして、一瞬で光と音は収まり、残ったのは黒く焦げた跡が直線に伸びる草原のみだった。

 魔石も吹き飛ばして、消してしまったらしい。いや、あそこまで威力があるなんて想像してなかった。ライフブースト、恐ろしいな。雷を撃つと同時に解除して正解だった。


「魔王、今の何?!」

「ええと、雷の魔法をフル強化して撃ってみたんだが、予想以上だった」

「……魔王、恐ろしいほどに強いね」

「ただの固定砲台なら任せろ」


「魔王様、魔力は残ってるの?」

「え?あ、3しか残って無いな……」


 オーバーブースト、消費多いなぁ……。

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