優しく起こして欲しかった……。
「……て。起きてよ。ねぇ!……起きてよ!魔王!」
呼び声と共に頭に痛みが走る。
「っ〜!」
「おはよう。魔王、何でこんなに起きないの……?」
「起きてるだろ……!」
見ると、レスティがデコピンをした姿勢で俺を見下ろしている。
どうやら、起こしに来てくれたらしい。もう少し優しく起こして欲しかった……。
「どれだけ声掛けたと思ってるの?揺すっても起きないから少し焦ったんだよ?」
「……ああ、うん。なんかごめんな?」
どうやら、俺が起きないからデコピンをしたらしい。レスティの事だし、優しく肩を揺すって起こそうとしたんだろうな……。その時に起きてれば美少女に優しく起こされていたのか。くそ、朝から損した気分だな。
「もう次からは最初からデコピンするからね」
「優しく起こしてくれないか?」
「起きるならいいけど?」
「……なぁ、血飲みの者は?」
話題を逸らそう。なんか墓穴掘ってく気がする。
「まだ寝てるよ?」
「……起こすか」
血飲みの者とは同じ部屋なのにわざわざ違う部屋の俺を先に起こしに来たのか。これは、優先されたと喜ぶべきなのかギリギリまで寝られて血飲みの者羨ましいというべきなのか、どっちだろうか?両方だな。
「うん。師匠はすぐ起きるから楽だよ」
「起きれなくて悪かったな」
「師匠ー、起きて」
声を掛けながら肩を揺すっている。……俺もあんなに優しく起こされたかった。いや、起こそうとしたけど起きなかったんだった。
「………………ん〜、レスティ?」
「おはよう。もう朝だから起きてよ」
「うん、おはよう、レスティ……あ、魔王様もおはよう!」
「おう、おはよう」
俺を見つけた途端元気に挨拶してくれるとかなんか嬉しいな。って、俺チョロいな。これだけで喜ぶなよ俺……。
「朝ごはん、買ってくるね」
「あ、俺も付いてく」
「じゃあ、一緒に行こっか」
「私も付いてくよ!」
「師匠は買う必要無いでしょ……」
「買う必要が無い?血飲みの者は食べないのか?」
「私はレスティに血を飲ませてもらってるからね」
そういえば吸血鬼と魔族のハーフだったな。吸血鬼じゃなくてサキュバスなら俺が…………吸血鬼で良かった!いやぁ、本当に血飲みの者が吸血鬼で良かったぜ!
「じゃあ、今度こそ2人分買いに行こっか」
「おう。あ、でも俺何も食べないで平気みたいだからレスティの分だけで大丈夫だ」
「え?……魔王って、凄い低燃費なんだね」
「低燃費……まぁ、そうだな」
低燃費というか、無燃費?寝るだけで平気みたいだし。
「魔王様は付いてくのに私は付いて行っちゃダメなの?」
「師匠は美人だから目立つの。また絡まれるの嫌だからね」
「レスティも可愛いからよく絡まれてそうだけどな」
「……まぁ、絡まれる事はあるよ?でも、師匠と一緒だと男の人の目が怖くなるんだよね」
血飲みの者は絶世の美女って感じだからな。レスティみたいな可愛いとは次元が違うのか。
「あと、魔王は普通にそういう事を言っちゃうよね……」
「そういう事?」
「……はぁ」
いや、ため息で返事されても分からないんだけどな……。
「魔王様、レスティの純情で遊んじゃだめだよ?レスティより、私と遊んだ方が楽しいよ?」
「いや、遊ぶって……むしろ俺は血飲みの者に遊ばれてる気がするんだが」
「魔王、もう行くよ」
「え、何かキレ気味?レスティ、俺は遊んでなんてないぞ?」
さっさと部屋を出て行ったレスティだったが、宿の玄関で待っていてくれていた。優しい。あと、なんかちょっと可愛い。
「よし、張り切って行くぞ!」
レスティの朝食を済ませ、ダンジョン攻略に戻った。21階層からのスタートだが、昨日と大して変わらない、のどかな草原が続いている。魔物の気配は無い。
「おー!」
「ねぇ、師匠。このダンジョン、魔物いるの?」
「いるよ?でも、31階層まではほとんどいないかなぁ……スライムなら、たぶんいると思うよ?」
「……31階層まで、ダッシュでもして向かうか?」
「魔王は何でそんなに魔物に飢えてるの……?」
「借金を返すため」
「ゆっくりでいいよ?」
男としてそういう訳にはいかない。むしろ奢ってやるくらい言いたのに……!
「40階層までテレポート出来るはずだよ?」
「早く言えよ……すぐ行くぞ!」
「じゃあ、20階層に戻らないと。20階層に魔法陣があるから、そこから行けるはずだよ」
すぐに戻ってテレポートした。魔法陣を使うのに銀貨5枚取られたから、さらに借金が増える事になった。何故、早く返すために借金を増やさないといけないんだ……?
「40階層も安全な階層なのか……。もはや町だな」
「でも、ここから先の安全階層には建物も無いよ。ここから、強い魔物が出るから」
つまりこの階層から上に行けば借金を返せるということだ。早く行かないとな……。
「今更だけど、なんで師匠はそんなにルナダンジョンに詳しいの?」
「昔攻略したのよ。あの時は、結局1番上まで行けなかったんだけどね」
「そんなに強い魔物がいたのか?」
「ううん。扉に暗号が付いてて、それがどうしても解けなかったんだよ」
「暗号か……どんな暗号だ?」
今の内から考えておきたい。そんなに難しい暗号だと多分解けないけどな。
「それが、全く新しい言語が使われてて読め無いんだよね……魔王様なら、読める?」
「いや、無理だろ。俺はそこまで頭良くないからな」
新しい言語?ははは、プロに任せよう。この世界にそんなプロがいるか分からないけど。
「まぁ、とりあえず行ってみるしか無いか。見て無理そうなら、諦めればいいだろ」
理由も分からぬまま攻略しろと言われても、そこまで必死にはなれないんだよな。
「わかったよー。じゃあ、行こう!私が来たのは400年くらい前だから、道はあんまり覚えてないんだ……」
「歩いてればいつか着くだろ。ゆっくり行こうぜ」
急ぐ必要も無いからな。
「目指せ200階層!」
「え、ここそんなにあるの?」
「私が行けたのは200階層までだったよ」
「……つまりそれより高い可能性もあるのか」
想像してたよりめんどくさい気がする。まぁ、攻略するって言っちゃったしな……攻略するか。スキルも貰ったし、何とかなるだろう。




