言質は取った。
アルティアダンジョンと違い、ルナダンジョンの中は空があった。
「建物の中に空があるのか……」
「夜には星が綺麗に見えるらしいよ」
「ルナダンジョンは10階層まで魔物が出ないから、観光地になってるんだよー」
今は、夕方だから夕日が綺麗だけどな。しかし凄いな……このダンジョンは草原に一本道があって、歩いていくと2階層に続いてるらしい。
「観光地なのか……入場料が取られた理由が分かった」
「銀貨11枚、ちゃんと返してね?」
「もちろん。今回のダンジョン攻略で返す」
「分かった。待ってるよ」
「私が返してあげてもいいよ?魔王様は、私にとって大切な人だからね!」
一瞬舞い上がりそうになったが、これってただ自分達の王が銀貨11枚を借金してるのが恥ずかしいだけだよな。大切な人(王)だからな。
「早く返すために魔物がいる階層まで行くぞ」
「つれないなぁ……」
名残惜しそうに景色を眺めるレスティを連れて階層を上がっていく。
「11階層も、景色は変わらないのか」
1時間程で魔物が出る11階層に着いたが、景色は下の階層と変わらず草原だ。ただし、既に夕日は無くなり、星空が綺麗になっている。レスティは嬉しそうに星空を眺めている。うん、美少女のレスティが楽しそうだと、何かいい事をした気分になる。何もしてないけど。
「魔王様、そんなにじっとレスティを見つめたらだめだよ?私なら、いいけどね?」
「……魔王?」
「いや、そんなにじっと見てはいなかったが……」
「見、て、た、よ、ね?」
「……はい」
「えっと、別に見られるくらいならいいけど……」
言質は取った。
「む、ダメだよ。魔王様には私が見て欲しいんだから!」
最高の殺し文句じゃないか。全く血飲みの者はさらっとこういうことを言えるから凄い。つい惚れそうになる。
「師匠は魔王にこだわるね……」
「魔王様だからね」
そんな会話をしている2人に付いていけず、周りに魔物がいないか見渡す。
ーー何も、いないなぁ……。草原だから見通しいいんだけど、生き物が見当たらない。仕方が無いので空に輝く星を見ながら歩く。なるほど、観光地というだけあって、本当に綺麗だ。
「ね、魔王様は私に迫られるの嫌?」
「いや?むしろウェルカム、いつでもどこでも来い!て感じだが」
「魔王……?」
「あ、いや、その、ちょっとは自重しろよ?レスティに嫌われる事は無しで」
「なんで魔王様はレスティを大事にするの?」
「美少女だし?」
「魔王……少し、話いいかな?」
あ、レスティがキレた。事実だし、キレることは無いと思うんだけどな……。
「レスティは可愛いから嫌われたくないのは、割と当たり前の考えだと思うけど」
「そういう事を私に言っちゃうのがダメなんだよ……」
「魔王様、私はレスティより可愛くないの?」
「もろタイプだけど?」
「魔王。こっち来て」
「え、なんでレスティそんなにキレてるんだ……待て、その構えはーー」
『風よ!魔法強化・二重』
一瞬で吹き飛ばされる。ああ、地面が柔らかい草原で良かった……。
背中に走る鈍い痛み。それほど痛くないのは、草原だった事と魔王スペックだろう。10メートルぐらい吹き飛ばされてこれしか痛くないのは凄いな。魔王スペック万歳。
「ひどいなレスティ……おい、なんで俺を置いていくんだ!待て!」
俺を無視して2人は先へ進んでいた。血飲みの者も酷くないか?まぁ、魔王スペックダッシュで一瞬で追い付いたけど。
「師匠、今夜はどうやって寝るの?何も持ってきてないよ?」
「このダンジョンは10階層ごとに安全な階層が1つあって、20階層に小さい町もあるからそこに泊まろうよ」
「ルナダンジョン、凄いね……」
追い付いた時には2人は既に別の話をしていて、会話に参加出来なかった。まぁ、今夜泊まる場所は勝手に聞いて分かったけど。
「じゃあ、宿は2部屋取れたから、魔王は個室ね」
「ありがとう。……借金が、増えてくな」
「銀貨22枚、ちゃんと返してね?」
「魔物さえ出れば、すぐに返す!」
「ねぇ、私と魔王様で2人部屋はダメかな?」
「師匠、いい加減にしてね?」
「……ごめんね?」
20階層まで1度も魔物に会わないまま着いてしまい、仕方なく再び借金をして宿を取った。このままではレスティのヒモにしかなれない。魔王なんて嫌だな……。
「じゃあ、また明日の朝」
「うん、また明日の朝!」
「魔王様、また後でね!」
さて、部屋に入ってさっさと寝よう。食べ物も必要無いしな。
部屋について服を洗い、風魔法を使って乾かしていると、スマホみたいな物が鳴る。
「ええと……」
メッセージが来ているので、開く。
『約束の、強くなれる武器とスキルをあげたから、見て』
……自己ステータスのアプリを開く。
水無瀬 空太
魔王Lv1
魔力3/100
筋力50
信仰0
耐性100
運10
適性
火A 水A 雷A 風A 氷A 光F 闇S
スキル
闇操作ー変質
能力定期上昇
魔法技
魔力過剰供給Lv1
寿命過剰消費Lv1
(能力過剰強化Lv1)
称号
闇の子 転移者
ふむ、なんか増えてるな。
「能力過剰強化の括弧はなんですか、っと」
メッセージを送る。
すぐに返信は帰ってきた。
『特定条件下で使用可能。詳しくは自分で見て』
自分で見る?試しに能力過剰強化をタップしてみる。
能力過剰強化Lv1
スキル、魔法技を強化する。寿命過剰消費使用時のみ、使用可能。
ほほう。こんな機能まであったか。
メッセージで「武器は?」と送ってみる。最初に武器とスキルをあげたと言っていたからな。
『闇で剣を作ればそれが魔力吸収を持った武器になる』
すぐに返って来る返信。
試しに何度も出したナイフを出してみる。
……見た目にも重さにも変化は無いな。
とりあえず、明日魔物相手に試してみよう。
「ありがとう。これで攻略が楽になる、っと」
返信して、それ以降何もメッセージは来なかったのでほとんど乾いた制服を着て、布団に入る。もう、寝よう…………
「ーーおうさま、魔王様。起きて?おーい?ねぇ、魔王様?」
誰かに起こされる。もう朝か?
「あ、起きたね。魔王様、夜這いに来たよ!」
「……血飲みの者、レスティは知ってるのか?」
夜這いに来た血飲みの者だった。外はまだ暗い。
「内緒だよ?魔王様は、レスティと私と3人が良かった?」
「確かに理想的ではあるが違う。バレたらレスティに嫌われるだろ、これは」
「内緒にするよ?」
「……血飲みの者は、なんで俺にそこまでするんだ?」
「魔王様だからね」
「…………もう、部屋に戻れ。今日は疲れてるんだ。寝かせてくれ」
「んー……分かった。また明日来るね!」
「おう。おやすみ」
言質というのはあとで証拠となる(約束の)言葉。(Google調べ)です。念の為。




