その3
閑静な住宅街を歩く恋詠。家々の向こうには、住宅街に似つかわしくない大きな樹が見えてきました。
(ふんふふんふふーん、ひとりでもー、だいじょうぶー、寂しくないもーん)
『もー、また遅刻して怒られちゃう~!』
(えーと、ここの角を曲がって……あれ? アパートないなあ……通り過ぎちゃったかな)
『お……起きなさーーい!!』
『うるへー! もう起きてるわーー!!』
(大きい声……。あれれ、地図だとここにあるはずなんだけどなあ……なんでおっきな木が生えてるんだろ……)
「ああもう、行ってきます!」
「ひゃあ!? 木の中から人が!?」
「ん?」
(ひえええ睨まれてるよおお)
(な、なぜかめっちゃ怯えられてる気がする……)
「あ、あのー……」
「なに?」
「ひいっ!」
(な、何も言ってないんだけど……)
(な、何もしてないです許してくださいいい)
「……えーと、迷子か何か?」
「あのその、実は……」
「あ! 忘れてた!」
「ぴゃあっ!?」
「ごめんごめん、あたし急いでたんだった! 道分かんないんだったら、ここの家の人にでも聞いて。それじゃ!」
「す、しゅみませんでしたっ」
(……行っちゃった。こ、この木みたいなお家がアパートってこと……? 今の人もお隣さんかなあ……すごい美人さんだったけど。うう、いきなり不安が)