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3.森の埋れ家

 街外れのその先、森に半分埋もれている場所にトルクの家はある。ひときわ大きな樹が目印。組合の建物より小さく、つば広の三角帽子のひとつ屋根の家はその樹の傍らにある。家の前は畑のようだが、なにやら見慣れない花や草が生い茂っている。家は森に埋もれているといっても空は開けているので昼間の日当りは良さそうだ。今も空に星が輝いている。

 家の前に着くとトルクは腰に下げていたランタンを外し、家の入り口の支柱に引っ掛けた。背負っていた弓を手に持つと弓の下部表面の水晶らしき細工をひと撫でする。ポウ(・・)と弓が光り出すと扉の似たような細工に光を当てた。弓の光は次第に家側の細工に吸い込まれていきカチャリと音がする。そして徐々に家の灯りが広がっていった。



「これでよし、と。ただいま帰りました」


 家の中からは誰の返事もないが、暖かな光がトルクとヴォルクを迎えた。


 中に入ると月ホタル石の球ランプがあちこちに吊り下げられている。色々な大きさでぼんやりと揺れて灯る光は幻想的に、木で作られた家具や本棚、作業机などを照らしていた。家の左壁から中央の屋根近くに向かっては隣の樹木の枝が突き出しており、家の中を通って再び外に伸びている。

 そんな暖かな我が家に帰り、トルクはほっと息をつく。


「お茶でも飲もう。ヴォルは帰りに買った山羊のミルクね。飲み終わったらお風呂だよ」


 入り口近くにある大きめの敷物の上に身体を横たえていた黒い犬のヴォルクは、その言葉を聞き、フンと鼻息をついて顎を地に付ける。


「ミルクは後の方がいいのかな」


 少し意地悪するようにトルクが言うと、渋々といったようにヴォルクは立ち上がり、トルクの腕の中に首を突っ込んだ。


「外ではかっこいいのに、家では甘えん坊だねヴォルは」


 首は突っ込んだまま、しっぽは揺れている。


「僕よりお兄さんなんだから、お風呂は逃げずに入らないと駄目だよ」


 そうトルクが言うと、ヴォルクはしゅんとした表情でうなだれて上目遣いでトルクを見つめた。


「そんな顔しても決定事項です。今日は短い探索だったとは言え、水辺の移動で汚れたんだから」


 皿に小鍋で温めた山羊ミルクを移しながら、トルクは黒犬の頭を優しく撫でる。ヴォルクは気持ち良さそうに目を閉じると、鼻を突き出すようにトルクの手に触れペロリと舐めた。


「ふふ、じゃあミルク飲んでいいよ」


 トルクの許しと同時に、ヴォルクはミルクを飲み始める。しばらくその様子を眺めた後、お茶の用意と黒犬を洗う準備をするためにトルクは家の奥に入っていった。



 その後、お茶を楽しむ暇もなく、トルクは今日一番の仕事、ヴォルクの手洗いという難敵に挑んでいた。

 腕が回らないほどの胴回り。泡立たない石けん。隙あらば身体を震わせて水滴を飛ばしてくる黒犬。

 お湯は近くの温泉から引いてあるので湧かす手間はないものの、汲み上げる術具の調子が悪く、手桶で汲んで汚れを流すという重労働に小一時間、面倒だからついでに自分の身体も洗ったり、ヴォルクの毛を乾かしたりとまた一時間ほど費やした。

 終わる頃にはくたくたに疲れ果て倒れ込むようにベッドに入ったが、隣に寝る毛布〈ヴォルク〉のふわふわに包まれ、至福の表情で眠りについたのであった。



 月も高く上り、トルクが消し忘れた家の温かな光がひとつ、またひとつ消えていく。

 球ランプに籠めた魔力が空に抜けていき、やがて全ての灯りが落ちた。

 凛とした空気に包まれる部屋に窓から月明かりが差し、屋内にある枝に光が当たる。するとぼんやりを木全体が青白く輝きはじめた。枝先からは小さな光の粒子が溢れ出し弾けて散っていく。

 トルクの頬を優しく滑る光に、耳を立てて様子伺っていたヴォルクが顔を上げる。小さく返事をするように鳴くと、光は瞬くようにそしてゆっくりと消えていき静寂の闇が訪れた。黒犬は丸くなり、小さなぬくもりの横でやがて眠る。そうして夜は更けていく。

 朝、ふわふわの毛がトルクをくすぐる。


「おはよう、ヴォル」


 ヴォルクが鼻先を舐めるとくすぐったそうにトルクは笑い、一緒に階段を下りていく。

 新しい一日が始まる。


追記・2018/6/4

上記の文章がどうしても収まり悪く感じて気になっていたので、後書きに移しました。


短くてすみません。ここまでプロローグ。

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