8話
最初のフラグです。
――アクオスがシルバーウルフのシウやギンと契約を交わしてから1年と数カ月……
その間にあったことと言えば、毎日行われる家族で足湯に入り、その日あったことを話すこと。
それからシウとギンを家族に紹介したり、魔法の練習をしたり。
そしてアクオスが7歳になったことくらいだろう。
そのくらいにそれまではとても平和だった。
その時がくるまでは……
「兄様が結婚……ですか?」
「えぇ、まだ予定として……だけどね。今度その相手が来ることになってるわ」
すでに兄であるウィントも19歳。
それまで浮いた話ひとつなく、それこそ女性に興味がないのではとまで言われていたからこそ父である現領主はウィントに見合い話を持ってきたのがほんの数日前のことだった。
――それが、全ての始まりになることに誰も気づかずに……――
「でも母様、どうしてその人がこの家で生活することに?」
「その家を知るにはその家で生活をしてみること、らしいわよ?」
「……シウとギンは大丈夫でしょうか」
「あの子達はこの辺りから動くこともないから大丈夫だと思うわ」
それは母親なりにアクオスやシウ達を気遣ってのこと。
そしてまた、その長子の嫁としてくる相手をこの足湯団欒に参加させる気がないという意志の表れでもあった。
「よかった」
ところで、シルバーウルフのシウとギンはアクオスと契約を行ってから契約済みの獣である証を身につけるようになっていた。
シウの方は銀製で赤い宝石と青い宝石が合わさってひとつになっている感じのものが埋め込まれているリングを右前足に装着して
ギンは深緑のバンダナを首元に巻いていた。
ただし、そのバンダナもリングもアクオスしか外せない仕掛けが付与されていたりする。
その付与もアクオス自身が魔道書を読みながらつけたものだが。
その日はそんな会話で1日が終わった。
そもそもアクオスの場合、他の家族よりも話の種が少なく、ほとんど聞き専に徹することがホントのとこだったけど。
そんな感じで日々が過ぎていき、話題の方も今度来ることになっている人物のことが多くなってきていた。
そして、アクオスの言葉数も減っていってることには両親は気づいなかったが。
アクオスがウィントが結婚する、という話を母親から聞かされた時から2週間弱
ついにウィントの結婚相手となる予定の女性がこの家にやってくる日となった。
家の中はいつも以上に綺麗にされ、客間の用意もされ、あとは到着を待つだけの頃
アクオスは1人……いや、シウとギンと裏庭の足湯にいた。
もっともアクオスは足をそこに入れてはいないけど。
(兄の結婚……おめでたいことのはずなのになんでこんなにも嫌な予感がとまらないんだろ……)
そのアクオスの嫌な予感は話を聞いた日からずっと続いていた。
もっとも、そのことを家族の誰にも言っていなかったが。
「シウ、兄様のお相手はどんな人なんだろうね……」
少しだけなんとも言えない表情を浮かべているアクオスに対してシウは小さく一鳴きをして頭をすり寄せていた。
おそらくは“気にするな”とか“大丈夫か”とかそのあたりを言っているであろうが。
「アクオス、ここにいたのか。彼女が来たからこっちにおいで」
「はい、兄様」
運命の針はすでに動き出している。
表に回って、兄弟の目に入ってきたのは両親と話をしている1人の女性。
わずかに止まりかけた足を無理やり動かすアクオスの様子に気付いたのはどのくらいいたのか……
「あぁ、来たか。この子がウィントの弟のアクオスです」
「まぁ……はじめまして、アクオス君?」
傍から見ればとても綺麗な笑みを浮かべたウィントより年上であるだろう女性。
だが、アクオスの目にはその笑顔さえ歪んで見え……
(どうして……どうして彼女達を思い出すんだろ……)
アクオスは、カチリと、また運命の針がひとつ進んだ……ような気がしていた……
正直、予約投稿間に合わないんじゃないかと思ってました。
仕上げだーってもそもそしてたら某ダブルコンボがきまして……泣くかと思った。
さて、フラグが完全に立つのは何話目になることやら