6話
わんわんもいるよ!
――アクオスが足湯を作って一家の団らん場所がそこになって数日
その日、アクオスはウィントに連れられて例のすぐ近くにある森へと来ていた。
「にいさま、ここにはどういうのがいるんですか?」
「そうだね……浅いところならリーフラビットをよく見かけるかな。でも、奥の方には……」
“この森の奥の方には、銀色の毛並みを持ったシルバーウルフの群れがいる”
兄であるウィントはそのことをまだ幼い弟のアクオスに伝えることができなかった。
それがよかったのか、悪かったのかは誰にもわからないけれど。
ウィントはアクオスの手を引きながら、腰に差している剣を空いてる手で確認しながら森の中を進んでいく
目的と言えば、アクオスに森の良しあしを教える為に。
「この木の実は解毒効果があるけど必ず水と一緒に摂取しないとダメだよ?」
「おみずでのむの?」
「うん、そうだよ」
生で食べると毒にかかるが乾物にすると万能薬になる果実、必ず火で炙ってからでないと食べられないキノコ、逆に加熱すると幻覚を見せる木の実
そんな感じに知っていなければどうなるかわからないものが世の中には多いからこそこの森はその勉強にちょうどよかった……以前までならば。
シルバーウルフの群れが住み着く以前はヒセント領の領民達にとっても自然の学校であり、生活の為の狩り場であり、天然の職場だった。
だが、この森に住み着いてしまったシルバーウルフの群れはとても厄介と言え
まともに討伐をすることもできずにこうして領民の方が森から足が遠のく結果となっていた。
もっとも、領主一家はそれでもある程度の環境管理が必要な為にそれでも森にたびたび足を踏み入れていたが。
兄ウィントもこうして森に足を踏み入れるのもすでに両手では数えきれないくらいにはなっていた。
そんな中で初めてアクオスを連れてきたのも一応理由がある。
それが領主一家の義務であり、責任だったから
ウィントとアクオスの兄弟が森の中を歩き進んでどのくらい経ったかわからなくなった頃
2人は森の中にある小さな泉で少しの休息を取っていた。
その時、アクオスはカサリと草が何かに擦れ揺れる音を聞き取った
「……にいさま、なにかいる……?」
「……アクオス、俺の後ろに」
その音は少しずつ近づいてきていて、その隙間から見えてきたのは汚れがなく、日光に当たってるわけではないのに輝いてるキレイな銀色の毛並みだった
つまり今、2人に近づいてきているのは……
「っ……シルバーウルフ……!」
そう、ウィントがアクオスには教えなかったあの森の住人だった。
ゆっくりとした足取りで近づいてくるシルバーウルフは17歳になったウィントよりも大きく、その視線はそれこそ触れれば切れてしまいそうなほど鋭く……
警戒する兄の背でアクオスが思ったのは
(……シルバーウルフ……キレイでかっこいいなぁ……)
まぁ、そんなことだった。
静かな睨み合いは続く、時折シルバーウルフの足元で小さな存在がうろちょろしていたがそれを気にする余裕などウィントにはなかった。
とにかく弟と……いや、アクオスだけでも無事に家へ帰すことだけを考えていて
その守るべき存在の動きにも一瞬遅れで気付くことになった。
「しるばーうるふきれー!」
「アクオスあぶな……っ」
ウィントは咄嗟に手を伸ばしてアクオスを引きもどそうとした時だった。
そのアクオスがぽすん、とぶつかったのは小さいシルバーウルフがうろついているのとは違う方のシルバーウルフの足だった。
その瞬間、緊張がはし……らなかった。
実は地域密着型な森(過去形)、とりあえず知らなかったは言い訳にならない動植物が多い世界です。
あとリーフラビットのイメージは某ポケの葉っぱぽい耳の子ですよ。