10話
フラグ回収回
――彼女が最初に感じたのは静電気の様な鋭い痛み……
そして次の瞬間その細い身体は壁のような何かに弾き飛ばされ、アクオスのベッドとは反対側にある壁に強い衝撃と共に衝突していた……
その瞬間、屋敷中に聞こえるくらいの大きな音が鳴り響いていたのは言うまでもなく……――
「アクオス!」
明かりもなく真っ暗だった部屋の中に廊下からの明かりが扉から入ってきたことによってその室内の様子が誰の目にもわかるようになったのと同時にウィント達は絶句していた
自身のベッドの上で自分を守るように縮こまっているアクオスとそれを守るように彼を囲む光を帯びた壁、それからベッドから一番遠い壁に背を預けるようにぐったりしながらも部屋の主であるアクオスをなんとも言えない表情で見つめるウィントの嫁になる為に滞在していたサティ……
それだけでアクオスの身に何かがあったということがその場にいる誰もが理解をした。
「……アクオス、大丈夫かい?」
最初に動き出したのは兄であるウィントで、少しだけおそるおそると言った感じにその壁に手を伸ばし
その壁に触れ……ることなくウィントの手はそのままアクオスに到着して
そのことに彼はどこか一息をつき、そのまま縮こまりながら震えるまだ幼い弟を抱き寄せた。
そんな行動をしてもなお、アクオスを囲む壁はウィントを弾き出すということもなかった……
「兄、様……」
「もう大丈夫だよ、アクオス」
兄はその小さな背中を軽く慰めるように叩き、それから鋭い眼差しを壁際にいるサティへと向けた。
「……どういうことかな?」
「わ……私は悪くないわ……っそう、そうよ! その子が誘って来たのよ!!」
アクオスを指差しながら喚くサティにその場にいる他の人達の視線はとても冷たいものへと変わってく……
もっとも、この家に彼女の味方となる者など端からいないが。
「何よ……その目! お父様に言えばこんな田舎……ひっ……」
サティが何に驚き言葉を詰まらせたのかと言えばそこには裏庭にいるはずの2匹。
シウは扉から顔をねじ込んでサティを睨み、ギンはいそいそとアクオス達兄弟に近づき心配そうに顔を覗き込んでいた。
「……すまないが、そのまま彼女を見張っていてもらえないかな? ディスタ家……彼女の実家に連絡をいれてくるからな」
領主であるアクオス達の父の言葉にシウは一度悩んだ素振りを見せてから肯定するように軽く一鳴きしていた。
――それからが早かった。
父親がサティの実家であるディスタ家に連絡を入れればサティを連れてきた一行がまだ途中にある街にいることがわかり、そのままヒセントまで戻ってきてもらうことになり到着はおそらく翌日になるとのことだった。
そしてまた、シウに見張られていたサティはこの家の執事達によって別室へと連れて行かれた
「……アクオス、もう大丈夫だからね」
「うん……」
彼女が部屋から出された時点でアクオスを囲っていた光を帯びた壁は消え失せていて、それだけでアレはアクオスを守るものなのだということをウィントはなんとなく理解していた。
ただ、なんとなく理解していてもそれがどういう存在のものなのかは検討もついていなかったが……
もちろん彼とて結界というものを知っている。
それでもわからなかった。なんという種類に該当するものだったのかは……
部屋の中には部屋の主であるアクオスと兄のウィント、それからシルバーウルフのギンだけ。
シウはまだ彼女を見張っていたからこの場にはいない。
そのまま、2人と1匹は共に寝て、朝を迎えた。
――アクオスがサティに触れられた瞬間に発動させた壁……それはもちろん結界の一種ではあった。
しかしそれはほとんど忘れられていたと言っても過言ではないほど早々に作りだすことができないはずのもの……名称は【絶対結界】その効果は発動者が心から信頼する者のみを通すことができ、それ以外は何人たりとも、どんな術式であっても通すことは“絶対”にあり得ないと言えるほどに強力な結界。
ただ、その結界を発動するにはある対価を払うことになる……そのことにアクオス自身もまだ、気付いてはいなかった……
一応兄嫁予定の彼女にはとある裏設定もあるわけだが、それは多分来週触れることになる気がするので今回は書かないです。
まぁ、簡単に言えば『彼女は年下好き』ってことです。
ついでにアクオスの結界魔法に関してはいろいろあるのでお楽しみに?




