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日苗市の人々  作者: きーち
第二章 ようこそ日苗市へ
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第三話

 爆音の原因は地面が抉られる音だった。

 碌に舗装されていない道は土煙を高く広く吹き荒らし、周辺の視界を一時的に奪う。原因についてはなんとなくそれで分かるものの、ではそもそもの経過何だったのかについては、土煙が晴れるまで判断できなかった。

「な、何が!?」

 悲鳴に近い言葉を上げたのは竜太ではない。その隣に立つ見風だ。突然に風景が変化したという事態に対応出来ていないのだろう。

 だが残酷な事に、さらに景色は変化していく。暫くは収まらないだろうと思われた土煙が、外側へ一気に広がり、周辺地帯から払われたのだ。

 土煙の周辺から強い風が発生した。結果、竜太達の方まで砂を含んだ風が押し寄せてくる。

「わぷっ……!」

 見風が目と口周辺を腕で抑えている。それは竜太も同様だし、後ろの方に立っている間上についても同じはずだ。

 ただ、驚きはしていなかった。この場所に来る以上、こういうこともあるだろうとの予想はしていたから。

「お、ありゃあはぐれ怪人のケンヤと、最近街へやってきた風使いのねーちゃんだな」

 後ろから間上の声が聞こえてくる。確かに騒動の中心には二人の人影(片方はごつい体と黒い毛の生えた上半身を持つモヒカンの筋肉男であり、もう片方はけばけばしい化粧と頬に何やら紋様らしくものを書いた20代くらいの女である)が立っていた。

 筋肉男の方は、異常な程に太い両腕に抉り取った土がこびり付いていたため、最初の爆音は筋肉男が地面を叩いたであろう事が分かる。一方、次に起こった強い風については、間上の言葉を聞く限り、けばい女が原因だろうか。

「てめぇここは俺の縄張りだっつってんだろぼけかすくそだぼがぁっ!!」

「ざっけんなよ! こちとらどこ行っても誰かの縄張りだなんてほざかれてんだ! だいたい縄張りだなんだなんて取り決め、どこの誰が決めてんのさっ!」

 異変の次にはお互いの罵声が聞こえてくる。これもまた、良くある光景だ。ここに来れば半分くらいの確率で見られる。そんな光景なのだ。

「良くある喧嘩ですね。巻き込まれる前にさっさと移動しましょう」

「おお。そうだな」

 と、喧嘩現場の近くから離れようとするのだが―――

「ちょ、ちょっと。ちょっと待ってくださいってば!」

 見風の小さな手に止められた。なんだろう。傍の迷惑からは早急に逃げるのがどんな時代においても共通理解だと思っていたのだが。

「なんです? ほら、早く逃げないと、あの厄介そうな喧嘩に巻き込まれちゃいますよ?」

「だからその話で……喧嘩? 喧嘩なんですか? あれ!?」

 喧嘩は喧嘩だろう。例えどれほど超常的で、どれほど被害が広がろうとも、非常につまらない個人的な諍いから始まり、個人間の問題に終始している限り、喧嘩として表現できる。

「風物詩みたいなもんです。いや、季節的なものじゃないから、ここの象徴的な?」

「そんな上等なもんじゃねえよ。喧嘩なんて、ゴロツキが集まりゃあ絶対に起こんだ。あんまりジロジロ見てると、こっちまで飛び火するから気を付けねえとだけどな」

 間上の発言を受けて、竜太は見風を引っ張りながら場所を移動した。とりあえず、喧嘩が無さそうな場所へと。

 そうして移動する際中に、未だ混乱している見風に説明をする事にした。この旧村の状況についてを。

「だいたい、ここがこんな風になったのは、見風さんが居た時代から暫く経ってからだと言われています」

「えっと……その、あんな喧嘩が起こる様になったのが?」

「喧嘩が多発する様になったのが……ですかね」

 見風は驚いている様子だったが、彼女が居た時代だって、おかしな力を持っている連中は居たのである。

 この星が誕生して、生命なんて良く分からないものが発生した時点から、そのおかしな力は存在していたのだから。

 そうして日苗と言う土地は、そういう力をどうにも集めたがる性質を持っていた。

「恐らくなんですけど、見風さんの時代では、まだ辛うじて力を持っている者同士の住み分けが出来ていたんでしょう」

 だが時代は移り変わる。近代になるに従って、法律の変化や技術発展により、違う土地への移動が容易になって行く。総じてみれば、住みたいところに住みたいと思う人間が住むという人の移動が行われるということだ。

 そうして、住み分けをしていた力を持った連中が、好き勝手に移動し始めた。曲がりなりにも秩序が存在していたそこに、新たな混沌が生まれたのである。

「日苗村には変な力を持った変な連中がたくさんいて、好き勝手に暮らしているぞ。なんて噂も流れちまったんだよ。当時の土地のことなんて知りもしないで噂が流れるもんだから、あっちこっちから好き勝手したい連中が集まる集まる」

 まるで実際に見たかの様に間上が語り始めた。経過を把握しやすい砕けた説明のため、文句は言わないでおく。

 兎に角そんな経過もあって、日苗村は一気におかしく混沌とした社会が出来上がったのだ。この西区は、そんな村の状況を未だに色濃く残しているから旧村と呼ばれている。

「はぁ……では、そちらの間上さんが同行する事になったのも……」

「ゴロツキ連中が集まってるって言ったろ? おたくやそこの調定役みたいな小柄で育ちも良さそうな外見してる奴だけでうろつくと、すぐにからまれちまうんだよ。だから俺の顔が必要ってわけだ」

 本当に、間上には顔を貸してもらっている形になる。他に何かをして欲しいというわけでも無く、一緒に歩くだけ。まさに深夜のナポリタンの代価として相応しい程度の頼みだろう。

「なんとなくは理解しましたけど……え? もしかして漢条さんはここで私の住居を探そうと……?」

 恐る恐ると言った様子の見風。

「もし見風さんがここで是非に住みたいと言うのなら止めませんよ? 人には好みが存在しますし、朝起きたら家が倒壊していたとかそういう状況を楽しめる人もいるでしょう。ただ、個人的にはおススメしないかな」

 ここはルールを守れそうにない人間が住む場所であり、社会と共に生きて行こうと少しでも考える人間であれば、ずっと居心地の良い場所が別にあるだろう。

「で、ですよねぇ。私も遠慮したいです」

 今回に限っては、見風自身の情緒に寄るところが理由ではないだろう。もうちょっと切実な問題であるはずだ。

「おいおい。お前の仕事は部屋探しのはずだろ。それなのにここはそれが目的じゃないってのか」

 顔を借りているだけの間上が言葉を挟んできた。顔には舌と口が付属しているので、仕方ないと言えば仕方ない。

「部屋探しはそうですけど、今はちょっと目的が違うと言うか」

「そ、そうなのですか?」

 特に説明とかはしていなかったため、見風にも驚かれてしまう。実際そうなのだ。ここで彼女の住居を見つけようなんて、そんな酷な事を考えてはいない。

 あくまでこの場所を見せるのが目的だった。だからこそ、こうやって歩いている。

「どういう理由でこの場所に来たのかについては追々説明します。ただ今は、ここらの景色を見ていてください。大切なことですから」

「景色と言うと……先ほどの喧嘩みたいな事とかもでしょうか?」

 そう言われて、苦笑いを浮かべる。なんと返せば良いのかも迷う。

「まあ、そうですね。それも含めて、全部見ていただければなと思います」

 多分、それが一番適している。竜太が選んだ調停役としてのやり方だった。




 混沌として行くというのは、即ち治安が悪化するということでもある。力を持った人間が土地に流入していったとしても、それでも力を持たない人間の方が多数なのであり、大半の人間は、力による混沌に対して、害を被っていた。

 多数派は常に社会を動かしている。そうして被害に遭う人間は常に、その害をなんとかしようとする。甘んじて受け入れる事はしない。

 結果、力による混沌は長く続かなかった。

「例えばこの一角。比較的、西区では治安が良いです。喧嘩も4回に1回くらしか出会わない」

「それは良いと言えるのですか?」

「比較的は」

 西区内を移動しつつ、旧村と呼ばれる範囲の中心地へとやってきた。先ほどまで居たところが薄汚れた長屋街であるならば、ここは寂れた田舎という風情を持つ。中心に行くに従い、あまり人がいない印象を持つのだ。

 と言うのも、長屋だらけの周囲と違って、ここは民家同士が離れているし、空いた土地も多い。だが実際に空き地かと問われれば、しっかり周囲の家の所有だったりするのである。

「喧嘩が起こるのは仕方ない。性格の不一致で喧嘩が起こる事があるのなら、それぞれが持つ力の差異に関してはもっとです。だからまあ……物理的に距離を置こうって、そういうことになったのがこの風景ですね」

 空き地に見えるのは、それぞれの許容範囲だ。ここまでなら不用心に近づいたって良いが、それ以上は何が起きても知らないぞ。そんな意思によって形作られた土地柄なのだ。

「ああいう長屋では街の外から流入してきた人が住み始め、一方、村に古くから住んでいた人だったり、安定を求める人間は、こんな風に土地を区分けし始めました。そうしてそれが、長らく、日苗村の風景になった」

「な、なるほど」

 講釈については自信が無かったものの、見風は素直に聞いてくれているらしかった。ちなみに間上に関しては、暇そうにあっちこっちをきょろきょろしている。旧村にいる間は付いて来てくれ無ければやや困るため、彼が飽きる前に事を済ましたいところである。

「結局は落ち着くところで落ち着くって事ですね。混乱だの混沌だの言ったって、変化の途上なわけで、時間さえあれば、なるべき形になる。まあ、さらに時間が経てばまた別の変化が起こるわけで、そうして街の風景は変わって行く」

 日苗という土地は、力が多く存在した結果、変化に事欠かないわけだが、それでも多数が安定する方向に進もうとしているのは変わらない。

 だから、竜太の様な調停役に仕事が回って来るのだ。

「だいたい、どれくらいの時代の話なのでしょう? その……日苗の村がこんな風景になったのは?」

「長屋街が出来たのがおたくが生きてた時代から10年くらい後か。そこから、村の一部がこんな風景になるまで、さらに2、30年後くらいだったと思う。それで暫くは変わらずだ」

 意外な事に、間上が説明してくれた。相変わらず、まるで見て来たかの様に話をしている。そっちの方がリアリティがあって良いとは思うし、竜太自身、楽に済むから文句も無い。

「暫くと言うと……どこかでまた変化した。ということでしょうか?」

「ええそうです。興味持ってきたみたいですね」

 良い傾向だと思う。住む場所を探すも、良く分からぬ情動によって拒否感を覚えるよりは、今の状態の方が余程良い。まだ前に進んでいる。発展性がある。

「興味と言うか……その……知ることが必要な気がして」

「その調子ですよ、見風さん。必要だって思えるのは重要です」

 次に進む段階に来たと言うことである。この旧村へ来た甲斐もあったわけで、さらに場所を移動する必要も出てきた。

「おー……なんとなく、お前のやろうとしてることが分かってきたな」

「そうですか? なら良かった。ここらで間上さんの仕事は終わりですから、詳しく事情を話せとか言われずに済みます」

 旧村でのやる事はここまでだ。間上の顔を借りる必要も無くなるわけで、これ以上、間上を拘束する必要も無い。

「まあ良いけどよ。じゃあ次に行くのは商店街だな? ご苦労なこった」

 一応は公共の交通機関を使っているが、歩き回って疲れはするだろう。ただ、疲れないも無い。

「商店街と言うと……漢条さんのお店があった場所でしょうか? また戻るんですか?」

「そういうことになりますね。ただ、少しばかり見る目も変わってくると思いますよ」

 それが狙いだから、そうなってくれないと困る。竜太はそんな事を考えながら、再び足を動かし始めた。




「そう言えば、あの間上さんと言う方……」

 間上と別れて暫く。市内を回るバスの座席に座っていると、隣で見風が顔を向けてきた。

「あのヤクザがどうかしましたか? 付き添わせて何ですが、見風さんは比較的一般人なんですから、ああいうのには極力関わらない方が良いですよ」

 優しい顔して近づき、刃物なり何なり突きつけてくる様なのがヤクザだ。間上がそうで有る無し関係無く、周囲はそう思う。一般人であるならば、付き合うだけ損の多い相手と言える。

「いえ……その……以前に会った様な気が」

「会ったって、見風さんの以前と言えば……ははっ、そんなわけないじゃないですか」

 百何年も前の事と言うことになる。これも一般的に考えれば、そんな前に間上に会えるわけも無い。

「そうですよね。多分、気のせいです。だって、漢条さんを見てもそう思ったりしてますし、多分、心細いんだと思います」

 きっとそうだろう。間上だけでなく、竜太まで出会った事があるなんて、何がしかの感情が勘違いを引き起こしているのだ。そうに違いない。

「そういう勘違いも、そろそろマシにはなるんじゃないかなって思いますよ」

「そうでしょうか?」

 そうなって欲しいものである。話を続けているうちに、乗っていたバスが停車した。夕明商店街前というアナウンスが聞こえ、竜太達が降りるべき駅だと教えてくる。竜太と見風は立ち上がり、竜太が二人分の乗車賃を払ってバスを降りた。

「さて、振り出しに戻ったわけですが、本当に最初と同じかってところを考えてみましょうか?」

 バス停に降りるや否や、竜太は見風に尋ねてみた。他の降りた客はいないため、邪魔にはならないはずだ。

「最初と言うのは、今朝、ここを出てからの話でしょうか? 何が変わっている……ということも無い様子ですが」

 勿論、見風の言う通り、この商店街は変わらない。変わらないで居続けたからこそ、今は近くのショッピングモールに敗北しそうなのだ。

 変化しないものは、何時かは滅んで行く。そんな世知辛い世の中らしい。うちも新しいメニューを増やしてみようか、などと竜太は考える。

「商店街は変わりません。変わってるのは見風さんの視点かもしれませんね」

「別に背が伸びてたりとかはしませんけど……ああ、けど、なんだかここも……さっきまでの旧村でしたっけ? あそこと同じ感じがする様になったというか」

「場所が旧村に近いってわけじゃないですよ。見風さんの見方が変わったってだけでしょう」

 建物だったり土地だったりがいきなり変わるわけも無い。変わるとしたら、人がどう見るかだろう。

 商店街は寂れた店が立ち並び、シャッターが下ろされているものもある。人通りも少なく、『来ていいよ夕明商店街』と言うキャッチフレーズが掲げられた商店街の門となるアーチが、“て”と“い”の一字ずつが取れて『来いよ夕明商店街』になってしまっていた。

 そんな商店街の一つに自分の店があると思うと、なんとも言えぬ気分になってしまうものの、そんな光景が、見風にとっては良いものとなるはずだ。

「なんとなく……ああ、なるほど。旧村の風景からさらに、この風景に変わったって、そういうことなんでしょうか?」

「ですね。街の歴史を紐解くと、ある程度、旧村にある様な風景になったそうですが、それが大きく変わる事が起こりました」

 戦前と戦後と人が呼ぶ区切り。そんな区切りが日苗村にも存在している。力を持った存在が集まり、混沌としていた村であったが、田舎は田舎だ。だからこそ、直近の戦争から戦火を免れた。

 そうして戦後。その状態は他の土地より有利に働く事となったのだ。他が復興に力を入れる中で、発展へと村の舵を切ることができたのだ。

 “力”の存在も大きかったと言われる。一般という観念が戦争によりズタズタにされ、国中が一時的に混乱の中に陥った。

 そんな中で、元より混沌の中にあった日苗村は、すぐに社会の中で有利な立場となる。ただある様にあるだけで人が集まり、村が発展していく。

「と言っても、周辺の他の地域よりかはマシって程度で、街として発展はしましたけど、それほどってわけでもありません。だいたい、この商店街が一番発展していた地域ってくらいで」

 地域的にも、近隣の村々と統合される形で発展していったが、いきなりすべてが変わったわけではない。日苗と区分けされる範囲がやや広がったと言った程度だろう。

 だが、その程度の違いも、戦後の混乱期の中では稀有だった。日苗村は村ではなく街へと変貌を遂げるにまで至り、ここにある夕明商店街はその最盛期の象徴なのだ。

「今はその……私から見れば、それでも華やかだなぁ、と思いますけど……あんまり人気はありませんね?」

 見風の言葉は結構残酷だ。当事者でもある竜太にとっては特に。

「ま、まあ。当時が最盛期って言うのなら、後は落ちぶれるだけと言うか……あ、でも、当時と変わらない光景だってあるんですよ? 言ってみれば商店街の賑やかし―――

「ゲーッゲッゲッゲッ! 俺さまこそはカニみそ怪人スープニマゼルンダー! 夕明商店街の者どもよ! 今日この日よりこの商店街は、我らビョースター団の傘下へと入るのだぁ!」

 商店街の奥から、香しい匂いと共に、顔面が泥みたいな色をした細長い男がやってきた。名乗りから察するに、カニみそなのかもしれない。一応、カニっぽく片手が甲殻類の鋏に似た形状になっているが。

「えっと……賑やかし?」

「ええまあ。そんな感じの片割れです」

 そう。こんな光景でもまだ完成はされていない。発展を遂げた日苗村改め日苗市は、またもや深い混沌の中に叩き落されたのだ。

 それまでは、力という混沌が、それでもある程度のバランスを持って共存してきたのであるが、街が発展していく中で、再びバランスが崩された。ひたすらに強く激しく。綯交ぜにされるかの様に、人々は交流を始めた。力を持っている者も持っていない者も、等しく関わりを持ち始めたのである。

 それらは輝かしく、発展の象徴でもある。が、それらが何の問題も持っていない、良い物ばかりとは限らない。

「カニみそ怪人! 貴様の悪行もそれまでだ! とおっ!」

 カニみそ怪人の濁声とは違う、透き通る様で、だけれども力強い男の声が商店街に響く。声の正体である男は赤いゴーグルと赤いスーツを着込んだ姿をした男は、近くの店の屋上から、カニみそ怪人の前に飛び降りた。

 その際の人影は一つではない。赤いゴーグルの男と一緒に、黄色いゴーグルをつけた男も飛び降りたのだ。

 無事に着地した二人の男。彼らはカニみそ怪人に向かいつつ、ポーズを取った。

「熱き思いを胸に秘めた炎の戦士! ヒナエファイアー!」

「早きこと疾風を越えるっ。雷の戦士……ヒナエサンダー……!」

「我ら二人! ヒナエソルジャー!」

 二人しっかり揃った声だ。きっととても練習をしたのだろう。ああいうのはアドリブだと絶対に出来ないのだから。

 そんな風に現れた、既に名物となりつつあるヒナエソルジャーだが、普段は3人で一チームのはずだ。

 もう一人、青い姿のヒナエウォーターはどうしたのだろうか? もういい加減、ヒーローとか名乗るのが嫌になって卒業したのか。

「ゲーッゲッゲッゲッ! ところで今日はあの青いヒナエウォーターはいないのか、ヒナエソルジャー!!」

 と、周囲が気にしていることをちゃんと質問してくれるカニみそ怪人。良いぞ。そういう声なき人の要望を取り込むことで、人々から共感と支持を得ることができるのだ。

「ヒナエウォーターは今! 化学の授業で補習中だっ!」

「彼は……中間テストで赤い数字を背負ってしまった……!」

「ゲーッゲッゲッゲッ! そうか。学生は大変だな」

 細かい部分はとりあえずそっとしておく。そんな優しさを持たなければ、どんな人間だって社会では生き辛い。そういうものだ。

「それはそれとして、貴様の蛮行! このヒナエファイアーが! そしてヒナエソルジャーが黙っていないぞ!」

「ゲーッゲッゲッゲッ! そう思うのならどうするつもりなのだ、ヒナエソルジャー! 言葉だけでは俺様の計画! 全市民カニみそ色化計画を止めることはできん!」

 何やら聞き捨てならない計画を口にするカニみそ怪人であるが、それもそれで捨ておく。なんやかんやで、きっとヒナエソルジャーがなんとかしてくれるだろう。そう思いたいものだ。

「まあ、顔ぶれこそ変わってますが、こういう賑やかしが、商店街が出来た頃からずっといるわけですよ。これもまた、うちの街の風景って奴ですかね?」

「ええっと?」

 どう言葉を返せば良いか分からない。見風にそんな反応をされてしまうものの、竜太だって分からないのだから仕方ない。世の中、分からないものだらけだった。



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