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日苗市の人々  作者: きーち
第二章 ようこそ日苗市へ
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第二話

 面倒な仕事の面倒臭さはどこにあるか。それは解決が見えぬ状況にこそあると思われる。

 現在、竜太は過去よりのタイムスリッパーである見風に、適当な賃貸アパートの部屋を紹介して回っていた。

 が、どうにも見風は部屋を決めかねている様子。

「ここなんて良いんじゃないですか。手狭ですが、一人暮らしならこれくらいの広さが丁度良い」

 場所はワンルームマンションの一室。小奇麗で一応、風呂とトイレとキッチンも存在している。その分、住居スペースは狭いが、見風自身の体格が小さいので釣りあいが取れているとは思われる。

「ええ……そうなのでしょうが……」

 現在で8つ目の部屋であり、不動産賃貸の紹介屋に最初は頼っていたのだが、すぐに部屋だけ紹介するから、勝手に回ってくれと言われる様になった。つまり、客として見られなくなったということなのだろう。

「探せばまだあるんでしょうが、それでも選択肢は無くなっていきますよ。それでも、ここもピンと来ない?」

「……その。申し訳ないのですが」

 問題が一向に解決しない理由は見風本人にこそあった。彼女はどんな住居を紹介しようとも首を縦に振らないのである。

 本人が納得しない以上、仕事は終わらず、ただひたすらに部屋を探すという行為のみが回数を重ねて行く。

「何度も確認しますが、ワンルームだから駄目とか、風呂とトイレが別々じゃないから不満とか、そういう理由じゃあないんですよね?」

「はい。むしろ、どの部屋も、私の様な者には立派過ぎるというか……あの……金銭面については問題ないのでしょうか?」

「日苗市には、あなたみたいに、良く分からない問題に巻き込まれた住民に対する助成制度があります。住居の確保なんかは、賃貸契約を見せれば一発で通りますから、そこは問題になりません」

 問題があるのならば、やはりどうすれば見風が納得するかの部分にこそあった。彼女自身が、納得しないことを申し訳なく思っているのがさらに悩ましい。

「はぁ……じょせい……せいど?」

「立場の弱い人を守らなきゃ、強い人の足場だってガタガタになるから助けましょうって、そういう考えの制度です。それよりもですね、部屋、どこらへんが駄目かって言えます?」

「それがどうにも……しっくり来ないと言いますか……」

「そのしっくりについてが知りたいんですけどねぇ」

 内装や間取りなどについては、見風が不満を述べることは無い。どんな場所を紹介しても、とても良い場所という言葉が返って来るのみだ。

 考えてみれば、100年以上前の住宅事情と比べれば、現代のそれは大分上等なのだろう。が、だからこそ、しっくり来ないという言葉に困ってしまう。

「明確な不満点があるのならそれを潰せば良いんですけどね。どうにもそうじゃない。困ったもんです」

「はい。大変に困りました……」

 頬に手を当てて、ため息でも吐きそうな見風。竜太にしても、そんな仕草をしてしまいそうになる。

「私がはっきりと何かを言えれば良いのですが……」

 まったくもってその通りなのだが、だからと言って苛立ったり、匙を投げたりはしない。そういう態度は調定役として三流の行いである。

 困った事態があり、どうにもならぬ感情があるところを、まあ、ある程度は良しとできる状態に整えるのが竜太の仕事なのだ。面倒かつ困った状態で諦めていたら、何も始まらない。

(他人の尻拭いは誰もしたがらない。だからする人間には報酬が与えられるって、そういう事だ)

 竜太に仕事を頼んだ衛青にしても、自らがすれば幾つも段階を踏まなければならないところを、竜太ならば率直に行動できるだろうとの展望があって報酬を約束しているのだ。そっちが無理だからこっちも無理ですなんて理屈で行動すれば、誰が竜太に仕事を持ってくるというのか。

「どうかされたのですか?」

 少しばかり考え事をしていたせいか、見風に顔を覗き込まれてしまう。今の状態が非常に厄介だなと考えていたなんて答えるわけにも行かず、何がしか良い返しができないものかと顎に手を置いた。

「発想をちょっと変えてみようかなと」

「発想? 何の?」

 何のだろうか。咄嗟に言った事であるため、自分にも分からなかった。

 が、考える切っ掛けにはなるだろう。今のやり方がどうにも上手く行かないのなら、そもそもそれは解決への道筋では無いのだ。ならば選択肢を多く持つべきである。

 住居を探す人間が、どうにも住居に対して満足できない。ならば満足できるまで部屋を探すのが真っ先の方法ではない。何をもって満足するのかを考えるのが先のはずだ。

「場所を移動しましょう。見風さん」

「え? ええ? ここはもう良いのですか?」

「見風さん自身、しっくり来ないんでしょう? なら、さっさと次に向かうのが時間の上手い使い方ですよ」

 今回の件に関しては、時間はそれほど有限では無いだろう。急ぐ必要は無いはずだ。だが、それでも、彼女を早めに安心させなければ、仕事人としてのプライドに関わってくるのだった。




 日が沈み、夜がやってきた。辺りはすっかり暗く……とは行かない。再開発の進んでいる日苗市は、都市部においては電灯の輝きに満ちていた。その光をけばけばしいと思う人間がいれば、人がいる証明として心を落ち着かせる人間もいるだろう。

 竜太の場合であれば、何故か知らないが寂しさを覚える。変わった街。これからも変わっていく街。その変わる前の残像が、光と共に残っている様に思えるからかもしれない。

「あの……お部屋はもう探さないのですか?」

 背後から見風の声が聞こえてくる。実際に背後に立っているからだ。竜太がいるのは日苗市の中心街からやや外れた場所にある大型公園である。

 日苗緑地と呼ばれ、それなりの大きさの池とそれを囲む遊歩道。その隣には野球なりサッカーなりバーベキューなりができる広場があった。

 池の近くからは、中心街の高層建築が遠くに見えて、夜になればそれが輝いている。そんな場所だ。

「まず探すべきものを決めましょう。それには、こんな風に街を広く見れる場所が、多分良いはずです」

 発想を変えてみる。部屋を探すのはその変えた発想がどう行き着くかを判断してからだ。

「それってつまり……も、もしかして、私みたいなのは、こんな場所で野宿するのがお似合いだと、そういう……」

「あー、いや、違います。違いますけど、もしかして、こんな場所で住むと落ち着くとか、そういうのじゃありません? そうだったら……ちょっと拍子抜けだなぁ。あ、もしかして、当時はこういう場所で寝泊りする人が一般的だったり?」

 そうだったら楽ではある。新たに出会った人物がホームレス志望者だったという切ない出来事が思い出として残るのみであるから、心へのダメージも少なくて済むはずだ。

「た、確かに河川敷なんかにはそういう人もいましたが、別に私がそういう場所を好んでいるというわけでは……」

「じゃあ、ここにある景色の中で、どこが一番、気に入りました?」

「ええ!? だからその、外で住むのは遠慮したいなと……」

「うーん。そう言う事じゃなくてですね」

 どう伝えたものだろうかと頬を掻く。この公園へやって来た理由は、見風の趣向を知ることだった。

 部屋を無暗に探したところで、彼女が納得できる場所を見つけるのは難しい。そう考えて、もっと大雑把な部分から詰めてみることにしたわけだ。

 その部分からして、上手く見風に通じない様子であったものの。

「なんて言えば良いんだろう……そうだ。この街について、どう思います?」

「この日苗……市に、関すること事でしょうか?」

「そうです。まずはそこから始めましょう。あなたがこれから住むことになる日苗市を、どう思ってるか」

 本当に、最初の最初から初めてみるのだ。事、感情面に関することならば、そこから始めるのが近道かもしれない。

「……どう思うかと言われましても、その……まったく違う世界に来たような」

「時代が変われば風景も変わりますからね。あなたにとってはひたすらに重い話だ。生まれ変わったみたいなもんですよ。あなたが住居に対して決めかねているのはそれが理由?」

 それが答え……という可能性は低いだろう。ただ、考える切っ掛けを与えられるとは思う。結局、見風自身の感情面での話なのだから、どれだけ自分に向き合わせるかが調停の鍵となるはず。

「確かに……街への拒否感がそうさせて……いえ、それも違います……ね」

 と、否定から入るものの、何かを考え始める見風。こういう思考に至れたならば、まずはこの場所に来て正解だ。

 この公園からは、色んな街の風景が見える。自然が多い場所。遠くの街。どこか懐かしさと寂しさを覚える輝き。それらが見風の心にも何かを発生させてくれるかも。

「多分……どこにも私の場所が無いって、そう思ってしまうから、住む場所を決められないんだと思います。ここは昔、私が住んでいた場所なのに、私の場所だって言える場所がどこにも無い」

「なるほど。どことなく理解できます。自分がかつて住んでいた場所だって知識で知っているから、尚、違う景色に違和感を覚える」

 スタートラインが分かった様な気がした。単純に部屋を探すだけでは駄目だ。無論、そんな感傷を我慢して、普通の部屋で暮らせと言えはするだろう。

 だが、そんな事は誰にでもできる。他人にできない事をするから、竜太は今の行動を仕事だと言えるのだ。

「私は、どうすれば良いのでしょう? ここで住む場所を見つけられなければ、それこそ、どこかに消え去りそうになります」

 見風の顔が歪むのを見た。多分、放っておけばその頬に涙が伝うことになるだろう。今でさえ、その目筋には潤みが見え始めている。

 だから竜太は、そんな顔を見て笑う事にした。今はまだ、泣く時ではきっと無い。そう思うからだ。

「そうですね。とりあえず、うちの喫茶店に戻りましょう。夜も深くなってきましたし、部屋を探す時間じゃあない。部屋の一つくらいなら、今ならなんと無料で貸せますよ」

 自分の店は優良な喫茶店だ。それくらいのサービスなら出来てしまう。とりあえず見風にはそう伝える事にした。




(さて、どうしたもんかね。やるべき事は見つかったけど、次の仕事もやや労力が必要だぞ?)

 さらに夜は深くなっていく。部屋の一室を見風に貸した竜太だが、自分は一人、喫茶店の客用テーブルに肘を付けていた。

 こんな時間に客は来ない。普通の時間ですら、客は殆ど来ないのだ。なら、店主の好きに使わせてもらっている。

 見風はそろそろ寝た頃だろうか。今日だけで随分と歩き回ったから疲れているはずだが、慣れぬ場所での寝泊まりとなれば、寝苦しいかもしれない。

(寝苦しさで言うなら、どこに行ってもそうなんだろうけど)

 今回の問題の根本はそこにあるのだ。時間を飛び越えるというのは階段を何段も飛ばして移動する様なものだ。見える景色が徐々に変わるのならば、自分の足で移動したと言う実感や達成感もあるが、急に移動すれば本当に自分は同じ階段を上っているのかと不安にもなる。元に戻れないとなればより一層だ。

(一番の解決は既に奪われている。彼女は元の時代には戻れない。少なくとも、元に戻す方法を僕は知らない)

 もしかしたら世界のどこかにそういう技術が力があるのかもしれないが、今、目に見える範囲には無いのだ。無いものは無いのだから、その選択は除外して考えなければなるまい。

(僕は次に選ぶべき選択肢は―――

 チリンチリンと店の玄関に備え付けられたベルが鳴った。鍵は開けたままだったが、閉店中の看板は出していたはずだ。一体誰だろうと視線を向けて見ると、そこにはヤクザがいた。

「よう、漢条。店やってるか?」

「やってません。目が見えないんですか、間上さんは」

 間上・大。ヤクザだ。ヤクザみたいなヤクザでヤクザらしいヤクザな仕事をしている。今日は閉店の店に無理やり押し入ってきた。もしや地上げだろうか?

「いちいちしげしげと玄関を見る店じゃねえだろ。店の前のメニュー。何時まで今日のおすすめが鍋焼きうどんになってんだよ。もう春も過ぎる頃だってのに」

「不思議ですよね。タイムスリップでもしたんじゃないですか? そのメニュー」

 実際はメニューを変える気分では無いだけだが、面倒なのでそういう事にしておこう。人間がタイムスリップするのだから、喫茶店のメニューだって時を超えることもある。

「ま、この店のメニューなんてそう見るもんじゃねえけどよ……。またナポリタン一つ作ってくれや」

「やですよ。時間を見てくださいって、もう深夜じゃないですか。それに今日は疲れてるんです。僕」

 本当に他人の事を気にしない奴だ。この街って、どうにもそんな連中が集まっている気がする。おかしな事件やおかしな力に関わる事など、その状態に比べれば些細な問題かもしれない。

「おいおい。良いのか? 俺はせっかくの客だぞ? この店の料理を食おうなんて考える珍しい客だ。そいつを無下にしちゃあ、この店も遂に終わりだな。あ、すまん。もう随分前から終わってたな」

「あー、はいはい。ったく、作れば良いんでしょ。作れば」

 椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう。大方、どこぞの店で飲んだ後、小腹が空いたので立ち寄ったと言ったところか。良く見れば薄らと顔が赤い。つまりは、まあ、今回に限っては普通の客だ。

「せめて食えるくらいの味に作ってくれよ~」

 なんて人だろう。食えない料理を出す喫茶店なんてありはしない。絶対にありはしないのだ。ところで、ナポリタンに塩をさらに多めに投入したくなるのはどういう衝動だろうか。

 実際にそんな行動を始めかけたところで、別の案が浮かんだので止めておくことにする。

「深夜にやってきて料理を頼むなんてヤクザに、ちょっとばかりの罪悪感があるなら、頼みたいことがあるんですけど」

「あん? 何だよ、お前から俺に頼みなんてのは珍しいな」

 実際、間上は竜太に頼みを持ってくる方だ。店の売り上げが芳しく無いことを利用して、副業をさせようとするのである。

 そういう手口も実にヤクザであるが、今回に限っては、こちらから頼み事をすることになる。もっとも、ナポリタンを作る礼程度の頼みでしかないが。

「明日、時間があるなら旧村(きゅうそん)の方を案内して欲しいんですよ」

「あ? 案内なんて無くても、お前なら知るところまで知ってるだろ」

「まあそうなんですけどね。ただ、今回はちょっと別の人を連れて行きたいというか……あそこはまあ、あんな感じの場所なので、初めての人が顔を出す場合は、強面の人が一緒の方が良いでしょう?」

 明日になって竜太が向かう場所は、つまり、強面の人間がいなければ不安な場所ということでもある。

 行く事そのものは決めていたものの、そこで起こり得る問題についてどうしようかと考えていたところに、間上の登場は渡りに船だった。

「ま、お前さんの姿だと、むしろ舐められるからな、あそこは」

「悪かったですね、子どもみたいな外見で」

 こんな姿なのは仕方ない。目の前の現実は受け止めなければならない。受け止めた後に、ちょっとした工夫を加えなければならないからだ。




 旧村。正式名称は日苗市西区と呼ばれる地域であるが、もともとはここに日苗市の元となった日苗村が存在していた。

 戦後まもなく再開発が進み、人口を伸ばしていく中で、幾つかの自治体とも合併を進ませながら日苗市となって行ったわけであるが、元であった日苗村の土地が無くなったわけも無い。

 丁度、日苗という街の混沌性が始まった土地と言うだけあって、中々に“濃い”部分がそこに残っているのだ。そういう土地を指して日苗の住民は旧村と呼んでおり、正確な範囲で言うなら、西区と区切られる土地とはやや違う区切りとなるだろう。

 ただ、大凡、日苗市西区と言われれば旧村を指すし、その逆もまた然りである。

「あー、失敗だったよな。安請け合いするんじゃあなかった」

 ヤクザの暗い声が聞こえる。その暗さに反して空は快晴であり、一日も始まったばかりの時刻だった。そんな時間に、竜太は間上と見風を連れて、旧村こと日苗市西区へとやってきていた。

「その……なんでしょう。懐か……しい? 何か違うような」

 隣に立った見風が、西区の光景を見て首を傾げていた。彼女の違和感についてはだいたい想像が付く。竜太の視界に映る景色は、安普請の、まさに長屋と呼べる木造建築が所狭しと並んでいる。

 そのどれもが薄汚れた雰囲気を持っていて、実際に汚れを特に清掃されずにいた。行き交う人々もまたそんな雰囲気に見合った人物ばかりであるが、時々、空を浮いていたり、常人離れした速度で走り過ぎて行ったり、人間3人分くらいの巨体だったりもする。

 兎に角、そんな場所だ。

「懐かしいとはちょっと違うでしょうね。ここは古い景色が残っている場所ですが、あくまで僕らの時代から見てであって、見風さんから見れば、むしろ新しめなんじゃないでしょうか」

「ああ、言われてみれば……人が増えればこんな感じになるだろうなと想像した通りの景色と言うか」

 納得した様子の見風。この旧村は戦前の村の景色がまだ残っている場所であるが、さらにその前からはさすがに変化をしている。そう、見風が暮らしていた頃から、少し時代が進んだ光景が、この場所にあるということなのだ。

「おい」

 ここを懐かしいと思うのは、見風にとってはやや間違いだろう。あの頃から少し変わった。そんな言い方と感情が適しているのだと思われる。

「おいったら」

「なんです? 無駄に気分を落ち込ませてると、怖い顔が不気味な顔になっちゃいますよ」

 ヤクザな顔は無駄に馬鹿っぽいからヤクザなのだ。一端に頭を働かせたり悩ませたりしていたら、それはホラーになってしまうではないか。

「あのな、さっきから俺が何でこんな事してるんだって嘆いてるんだから、どうしたんですか? とか、何か事情がありそうですね? とか聞くもんだろ? 何でしないんだ」

「あはは。そんな事聞いたって、一銭の特にもならなそうだからですよ。だいたい、考えてる事も分かりますし」

「あ? お前に俺の何が分かるってんだ」

 思春期の少年みたいな事を言うヤクザである。心の中では若いつもりなのだろうか? 痛々しい。

「だいたい、今回の依頼が公務員の衛青さんからの仕事だってんで、ヤクザなりに嫌な気分なんでしょう? 昔っから相性悪いですからね、間上さんと衛青さんって」

「……」

 大当たりだ。だからヤクザが無駄に頭を悩ますのは駄目なのである。そもそも、今回の頼みだって、何も考えず横を付いてきてくれれば済む話なのだから。

「その……お二人は仲が良いのでしょうか?」

 間上との会話に見風も参加してきた。というか、そもそも竜太は見風と話をしていたのだ。途中で割って入って来たのは間上の方だろう。

「全然ですね。有名喫茶店の店長がこんなヤクザな人と仲良しなんて、不健全でしょう?」

「てめえがどう思おうが勝手だが、仲が良くないってのは同感だな。俺はこいつを利用してんだ。雇用主と雇用者って関係性じゃね?」

「はぁ……何にせよ、仲が宜しいんですね」

 何故その様な結論になるのか。甚だ理解できないものの、あれこれ反論したって仕方ないというものもある。相手の目にそう見えるというのなら、そう見せておけば良いのだ。

 重要でないことについて会話を進めるより、今はやるべきことをやらなければ。

「とりあえず見風さんにはこの旧村を見て回って貰います。勿論、僕が案内しますから、僕と、このヤクザからは絶対に離れないでいてください」

「えっと……はい。分かりました。分かりましたけど、どうしてそちらの……間上さんでしたか? 彼の付き添いが必要なのですか?」

 確かに案内だけなら竜太でも出来る。実際、昨夜、間上と会わなければそうするつもりだったが、その場合、少しばかり厄介な事態になりかねないのだ。

 どう説明したものかと頭を掻き始めたところで、都合よく事態が発生した。

「あ、始まったみたいですね」

 竜太は人差し指を向けて、その光景を示す。ただ、そんな行為をしなくても問題なかっただろう。

 爆音がその方向から聞こえれば、誰だって顔を向けるのだから。



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