第四話
「本当の理由だって? そりゃあ何のことだ」
「恍けたって、既に間上さんが関わってる以上、そんなに意味が無いと思いますけどね」
ヤクザは親切心と少しばかりの報酬だけで動くとは思えない。ましてや、今回の様に、人間関係やそれぞれ違う立場が関わったややこしい話については。
「……どこまで聞きたい?」
間上も言い訳はすぐに諦めたらしく、むしろ竜太がどれだけの判断ができるか、試す方向に話を進めるつもりの様だ。
「正式に、間上さんへ悩みを相談した人を知りたいってところですかね? まさかあのビックビョースターなんて人が、わざわざ間上さんに直接頼み込んできたなんて事無いでしょう?」
ビックビョースター氏と直接会った印象は、それなりに常識的な考え方をする人間だと言う事だ。
自分たちの行動を放っておいて喧嘩を始める正義の味方をどうにかして欲しい。こんな悩みを持っていたとして、わざわざ自分からヤクザな人間に頼みを持って行くタイプの人間ではない。
ならば、間上の方が彼に仕事を売り込んだと見るべきだろう。そうして間上自身はと言えば、何も無ければそんな問題に首を突っ込まない。そんな人種のはずである。
誰かがいるのだ。もっと前の段階に。
「できりゃあ、名前は出さないで欲しいって話だったんだがな」
目を瞑り、頬を掻き始める間上。痛いところ突いた感触があった。最初から最後まで隠しておこうと考えた部分を、竜太が掘り起こしたのだ。
「守秘義務は守ります。だいたい、僕に関してはビックビョースター氏から報酬を貰う予定なんですから、そこからさらに別の人間を、積極的に喧伝しようなんて思わない」
「なら、なんで聞きたがるね」
「仕事を上手くやるためですよ。報酬を貰うためには上等な仕事をしなきゃならない。今回は人間関係に手を入れる仕事でしょう? まだ知らない関係性があるって言うなら、知っておかなきゃ足元を掬われかねない」
こちらの返答を聞いた後、間上は腕を組み、考える仕草を始めた。ただ、この様な仕草をした時点で、話すつもりになったであろうことは分かる。
間上が本気で拒否するならば、そもそも考えもせず拒否してくるだろうから。
「……『白夜の夜明け』って団体は知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。なるほど、そこ関係でしたか」
『白夜の夜明け』とは、悪の秘密結社的組織である。ビョースター団と同類と考えてほぼ間違いは無い。
そんな組織であったが、今から4か月程前に、ヒナエツインズと敵対した結果、敗北してしまった。今は組織としては崩壊したと見做されている。
「そもそも、二つの正義の味方がかち合う様になったのも、そっちが潰れたからでしたね。そういえば」
「ああ。ヒナエ……ツインズの方だったか。彼女らが元々相手にしてた組織ってのが白夜の夜明けって団体だったんだよ。ま、なんやかんやと決戦して、ヒナエツインズが勝ったそうだけどな」
戦っている以上、何時かは決着がつく。ビョースター団と他の正義の味方達の戦いだってそうだろうし、それが早いか遅いかという問題はあるだろうが、何にしたって決着がついた戦いは存在するのである。
「結局、ヒナエツインズが組織の本部にカチコミかけて組織体はボロボロになったわけなんだが、それでも構成員が全員、液体みたいに蒸発してくれるってわけでもねぇ。攻め込む側が正義の味方だってんなら尚更さ」
まさか正義の味方が敗れた側の人間を、物理的に消滅させるわけにもいくまい。残った構成員は今だって残っているし、物を考えたりもするだろう。
「それにしても、カチコミやら構成員やらって、その表現はどうなんでしょう?」
「ん? 何か変な事言ったか?」
本当に分からない様子の間上。相変わらずのヤクザらしさだ。
それはさておき、間上に仕事を頼んだ組織が白夜の夜明けである事は判明したわけであるが、具体的にはその残党の誰が、どの様な仕事を頼まれているかを聞きたいところでもある。
(けど、それをそこまで聞くっていうのも、なんか妙だね。僕の仕事はあくまでビョースター団からの依頼なんだしさ)
深入りはしない。いや、深く入るとしても、それは自分の足が届く範囲であり、それ以上は考えなしの行いだ。
もっと言えば、自分の生活のための仕事であって、それを蔑ろにしてまでやる事でも無い。無いのであるが……。
「一度、白夜の夜明けの残党さんにも会ってみたいですね」
「会って……どうするんだ?」
間上の目筋がやや歪む。危ない橋でも渡るつもりかと言った視線だ。つまり、単なる喧嘩の仲裁染みた依頼の裏には、危険な話も埋もれているということ。
本当なら、そんな事に関わりたくないし、そんな話をこれまでしなかったのは、間上の親切心からだろう。
が、それでもやらなければならないだろうなと思う。これは義務感からと言うより、報酬を貰う過程でそれをしなければならないという仕方のなさだ。
「擦り合わせです。僕はこうするつもりですけど、どう思いますかって言う……やらなきゃ駄目でしょ。こればっかりは」
「ってことは、お前さんが今回の仕事を達成するための方法。既に何個か浮かんでるわけか?」
「ええまあ。無ければ擦り合わせなんてできないでしょ」
危険に踏み込むのはやる事をやってから。仕方なさという感情が浮かんでからが得策だ。そうして今はそのタイミングであった。
正義の味方と悪の秘密結社。こう呼ばれる二つの集団がいったいどんな存在かと言えば、異質な力を社会に対し、表立ってぶつける存在のことだ。
一般的に安定した社会があるとして、力とはその安定に否応なく影響を与える。つまりは変化の力だ。
正義と悪を分けるのは、現状の社会に対してどの様な変化をもたらすかによって区分けされる。
正義とは即ち、社会の維持や発展に貢献するものであり、悪とは社会の弱体化や破壊をもたらすものである。
前者の方向で力を扱うのが正義の味方であり、後者が悪の秘密結社だ。つまり、両者にはその程度の違いしかなかった。
ほんの少し視点が変われば立場は入れ替わるのだろうし、正義側が悪になったり、悪側が正義になったりすることは何時だって有り得た。
「今はそんな正義側になったのが白夜の夜明けの残党さんたちってところかな? いや、正義ってわけでも無いから……一般人?」
竜太は目の前に映る、神社の鳥居みたいなものを見ていた、くぐった先には石畳の道があり、さらにその先には和風かつ古風な建築物があるところなど、実に神社染みていた。
ただ、肝心の鳥居は歪だった。いや、その表現方法も正しくは無いだろう。それを鳥居と表現したのは、単に下側をくぐれる門みたいな物だったからだ。それ以外は鳥居と類似する部分は存在しない。
(あえて形を表現するなら……デフォルメされた肥満気味の虎ってところかな……うん。我ながら凄い例えだ)
ただ、それ以外で表現する語彙を持たない。これは竜太のせいではなく、鳥居もどきのデザインのせいだろう。
竜太はそんな鳥居もどきをくぐり、奥にある建築物を目指す。間にある道はそれなりに長く、それはつまり、予想以上に建築物が大きいということでもあった。
「昔は一組織の根拠地だったそうだけど、組織が潰れた後も住人が変わらず利用してるってどうなんだ?」
この場所こそ、白夜の夜明けの本拠地であり、今は元本拠地となった場所であった。が、今でもそこには、元白夜の夜明けの構成員がまだ住んでいるらしい。
建築物を見上げながら、竜太が暫し立ったままになっていると、玄関らしき扉が開き、中から人が出て来た。
腰が曲がった、相当な年齢になるであろう老人だ。あんまりに年を取り過ぎて、男性か女性かすらも判断できない、そんな老人である。
「おやぁ……何か用ですかいのぉ?」
老人は腰が曲がっている必然性から、こちらを見上げながら話し掛けて来た。
「ええーっと、お爺さん。ここの人?」
老人に視線を合わせるために、竜太は腰を曲げながら話をするも、老人の表情は一切変わらず、どこを見ているか分からない。
「はぁ? なんですかいの?」
つまり聞こえてないらしい。
「だーかーらー、お爺さんは、こ・こ・の・ひ・と?」
しっかり聞こえる様に、ゆっくりはっきり口を大きく開けて尋ねる。はて、自分はいったい、ここへ何しに来たのやら。
「ええぇ。ここで居候しとります、佐魔・伝言郎と申しますのぉ」
老人の名を聞くに、男性の様だ。変わった名前の女性である可能性もあるが、そんな事までは分からないから男性だと思おう。
それにしてもこの老人、気になる事を言った。
「居候ってことは、家主さんは別にいるのかな?」
「……なんとぉ?」
ああ駄目だ。ちょっと早くしゃべり過ぎた。お年寄りと話をするときは、もっとゆっくりと発音良くしなければ伝わらない。
本業が接客業(喫茶店の店主は間違いなく本業のはずだ)であるからして、相手との会話はちゃんと相手を考えて行わなければ能力不足を疑われてしまう。
「だからね、お爺さん。家主さんは―――
「ああもう、伝言郎ったら。お客さんなら私が相手をしますと言っているでしょう?」
と、伝言郎を名乗る老人の後ろから、玄関をくぐって新たな人影が現れる。女性であり、長い白髪がなんともインパクトがあるものの、その他の部分については落ち着いた美人と言う印象で、服装等については白いエプロンに安物っぽいセーターとズボンという出で立ちが、なんとも所帯染みている。
年齢は20代後半くらいだろうか。もしかしたらもう少し若いかもしれない。
「これはこれは、いやあ、ご老人の後にこんな御嬢さんが現れるとは驚きました。突然の訪問申し訳ありませんが、どうですか? ここで会ったが何かの縁。少しばかりお互いの自己紹介でも」
相手が若い美人とあれば否応無く気分は向上する。仕事についてはさて置いて、この後、どこぞの喫茶店でお茶でもしたいところであった。
「え? ええっと……その……どなたでしょうか?」
「おおっと、これは失礼。私、漢条・竜太と申します。夕明商店街で『カニバル・キャット』と言う喫茶店を営んでいるのですが、ご存じですか?」
「その……失礼ながら……」
どうやらご存じでないらしい。仕方ない。隠れた名店みたいな位置づけの店として扱われているだろうから。きっとそうだ。
「では間上・大と言うヤクザな人については?」
「……!」
驚いた顔をされる。驚愕という程では無いが、それでも目の前の男からその名前が出てくるとは、思ってもみなかった顔だ。
「詳しく話でもしません? ほら、家の中に案内してもらって、お茶なんか出してくれるとすごく有り難いです」
立ち話はあまりしたくない。それなりに時間を要する話がしたいから。
外観に違わず、『白夜の夜明け』の元アジトは和室ばかりが存在していた。幾つかある部屋は、それぞれに用途があるのだろうが、竜太にはそれぞれの違いが良く分からない。
ただ、自分の様な不躾な客が案内されるであろう場所は、客間か、もしくは座敷牢のどちらかだろうと当たりを付ける。
「ああ良かった、座敷牢では無かった」
「何故に座敷牢?」
無事、客間まで案内してくれた家主の女性。彼女が挙動不審な様子でこちらを見ている。どうにも怪しい人物を見る目線を向けられていた。
実際に怪しい人間なのだから仕方ないかもしれない。
「ええ、座敷牢じゃなければそれで良いんですよ。座敷牢は駄目です。寒そうだしジメジメして不潔そうだ。ここがまあ畳の上の机の周りに座布団を敷いて座る客間だって言うんなら僕は満足です。早く座りましょうよ」
竜太は図々しくもそんな事を言ってみる。こういうのは手早く主導権を握るのが一番なのだ。
仕事の話し合いにおいても、美人の女性との接触においても。
「ええっと……それでは、お茶を入れてきますね?」
「はい、待ってます」
と、恐らくお茶を入れて行ったであろう女性を見送って、竜太は座布団に座る。最初に出会った老人は、既にどこかへと行ってしまった。
見た感じ、完全にボケている風だったので、もしかしたら家の中を彷徨い続けているのかもしれない。
「それにしても……思ったより普通だな」
ここは元々、悪の秘密結社のアジトであったはずであり、種類で言えば、先日に出向いたビョースター団のアジトと同種類のはずである。
しかしここはあまりにも普通だ。門の形こそ特殊だったかもしれないが、中にある建築物。素直に屋敷と呼んでも良いそこは、民家と言うほど小さく無かったが、それでも中にある部屋も普通の和室。
あまりにも普通過ぎて、自分は本当に悪の秘密結社へ会いに来たのかと疑いたくなる。
「例えばほら、机の下に隠しスイッチがあったりして」
ついつい、そう言いながら机の下に手を突っ込んでしまう。勿論、そんなスイッチなどありはしな―――
「あはは。おかしいなぁ。何か、妙な感触がした様な……」
きっと気のせいだろうと自分に言い聞かせるも、まるで地震かの様に部屋全体が揺れている現象が、竜太に現実というものを突き付けてくる。
いつだって現実が正解だ。どんな事が起こっても、なんだそんな馬鹿な事はと叫んでも、現実は非情に、だからどうした。こんな景色がお前の生きている場所だぞ。と伝えてくるのだ。
「降りろってことかな?」
さしあたって、竜太の目の前に現れた現実は、机の下に現れた階段というものであった。机の下にある畳が両側に開き、机そのものはまるで扉であるかのように片側が上がっている。このまま、階段を下りることができるらしい。
「……このまま、なんか畳が開いて地下への階段が現れたんですけどって、やってくるだろう家主さんに尋ねるっていうのも手ではあるよね」
ただ、竜太はその手を使わず、自分の足を動かすことにした。好奇心に駆られて地下への階段を降り始めたのである。
階段は予想より深いが、壁に等間隔で埋め込まれた光源があるためか、暗い印象は無い。ただ、階段も壁もコンクリートで固められており、冷たい印象はある。実際、靴は脱いでいる状態のため、足が冷えていた。
悪の秘密結社のアジトっぽい雰囲気と言えば良いのだろうか。
「よーし。俄然、帰りたくなってきたぞ」
すぐにでも引き返したいという衝動があるものの、それ以上に、ここまで降りたのだから最後まで行ってしまえという感情があった。好奇心は猫をどうにかしてしまいがちだが、人間だってそうなのだろう。殺されなければ良いなとは思うものの。
そうこうしている内に、階段は地下の廊下部分へと辿り着く。長く感じた階段に反して、廊下の方は短い。すぐに広い地下空間へと繋がっていた。
「……悪趣味だよなぁ」
階段部分と同じく、すべてコンクリートの灰色で出来上がった地下空間。そこにも光源はあったが、壁への埋め込み式では無く、なんと松明だ。
(いや、良く見たら松明っぽい形をした電灯かな? 光の度合い的にLEDっぽい)
松明は広く高い地下空間の上部部分に設置されているので、交換の頻度を極力減らすためだろう。デザイン性と機能性の兼ね合いという奴か。
「アジトって言うより質の悪いお化け屋敷か何かだよ。これじゃあ……」
地下空間の奥には低めの台座があり、台座の中心には椅子があった。椅子は異常に棘々しい獣の骨で飾られていた。ただ、近づいて見れば、骨の材質はプラスチックであることが判明する。機能性とデザイン性と、資金面での兼ね合い……。
地下空間の飾りっけと言えばそれくらいだ。お化け屋敷どころか、駐車場と言う雰囲気を醸し出している。
そんな場所を眺めている竜太であったが、突如、後方に気配を感じた。近づいて来る足音と、階段の灯りを遮る影がその正体だろう。
人が降りてくる。一体誰が? 身構える竜太に、階段からの足音が一歩、また一歩と近づいて来る。そうして―――
「おーっほっほっほっ! 白夜の夜明けが秘密会議室へ良くぞ参ったな! 妾の名はホワイトナイト! 白夜の夜明けの大首領である!」
さっき出会った女性が、肌の露出面積が多い黒い革を服装に、顔は一応、どこぞの舞踏会でセレブ染みた女が付けているであろう刺々しい仮面を付けている。
ただ、隠せているのは目の周辺のみであるため、素の顔を知っているならば誰だかすぐに分かってしまった。
「え?」
そんな言葉を漏らす以外、いったい竜太に何が出来たと言うのか。
「はい……やっぱり、大首領って言う以上は、こういう格好をするものかと……えっと、本名は白沢・美夜と言う名前です。白で始まって夜で終わりますから、団体の名前も白夜で良いかなって」
場所を変えず相変わらず悪趣味な地下室で、それでも、この地下室に現れた時の態度とは打って変わった様子の白沢……いや、今の格好ならホワイトナイトと言ってあげた方がきっと良いだろう。そのホワイトナイトが、所在無さげに立っていた。
竜太も立っているため、どこにでもある立ち話の途中なのである。場所と格好は余所に置いておくとして。
「もう普段からはそんな格好はしていないんですか? 先ほどの挨拶は礼儀的な意味なので?」
「ええっと……その……勘弁していただけませんか? この様な格好、余程に気分が高揚しなければ恥ずかしいだけなのです」
なら、そんな格好をしてやって来なくても良いのにと思う。それとも、何らかのプライドがあったのだろうか。そうであるならば、あえて見て見ぬフリができなくも無い。
「こちらとしては、あなたが間違いなく白夜の夜明けの元大首領であったことが分かって良かったですよ。あなたと話したくて、ここに尋ねて来たんですから」
幾らかの混乱があったものの、当初予定していた光景とあまり変わらぬ状態に帰結した。やはり元悪の秘密結社なのだし、こういう光景の方がらしいだろう?
「その事なのですが……漢条さんは、間上さんとお知り合いの方……ということでよろしいのでしょうか?」
「ええ、その通り。こんな外見してますが、ああいうヤクザとも顔見知りでしてね。それで、間上さんから依頼も受けています。多分、あなた方とも無関係では無い頼み事を」
「……」
どう答えて良いか分からない。そんなホワイトナイトはそんな顔をしている。が、何とのことか分からないという顔はしていなかった。
だから話を進ませてもらう。
「ヒナエツインズはご存じですよね? 他ならない、あなた方の組織を潰した女子たちです。正義の魔法少女を名乗ってる彼女らは、確か……最後はここに乗り込んで来たと聞いていますが」
「ヒナエツインズ!? ええ、ええ。あれはもう、記憶から無くなることは無いでしょう。夜、夢を見ることもあります。彼女たちの勝利の笑い声を聞いたことはありますか? あの声で、夜に目を覚ますのです。真っ暗な中で、あの声だけがまだ響いている気がして耳を閉じるのですが、それでも頭の中にあの声が! ああ!!」
「いや、その、お、落ち着いて?」
いけない記憶を呼び覚ましてしまったらしい。頭を両手で抱えるも、大きく振り続けているホワイトナイト。
どうするべきかと考えた結果、見て見ぬフリをする事にした。竜太はここにカウンセリングに来ているのではない。
「とりあえずですねぇ、現状、組織を失って、元のアジトで一般人として暮らしていると考えて構いませんか?」
「はい。暮らしております。今はただの一般市民として、静かな余生を暮らしております。あの最終決戦さえなければ、きっと伝言郎も、ここまで痴呆が酷くならなかったのではと後悔もしております。ああ、あの決戦さえ無ければ」
「あのお爺さん、一応は秘密結社の一員だったのか……さすがに当時はボケもそれほどじゃなかったんだ」
今にもご臨終召されそうなあの姿からは想像し難い。ここにはいない様子だが、今も屋敷の中を彷徨っているのだろうか。
「そのう……それでですね? そんな潰れたはずの組織が、今さら、何でか知らないけれど、ヒナエツインズの動向について気になってるって事で良いんですかね? あ、難しいことを話せない精神状態なら、聞いて肯定か否定してくれるだけで良いです」
「いえ……とりあえず、重要なお話をしにいらっしゃったという事は理解できましたので……」
動揺や混乱を続けながらも、話は続ける姿勢を取ってくれるらしい。なんやかんやで有り難い。
「では、さっそく本題に入りたいんですが……あなた方は、ヒナエツインズに今後、どうあって欲しいんです?」