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日苗市の人々  作者: きーち
最終章 日苗の日々
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第四話

「なあなあで収めろって話だがよぉ! いい加減、てめえとは決着させときたいところでねえ!」

「やはり待っていたか、狂犬め! 一体何を狙っている!」

 喫茶店『カニバル・キャット』近くの路上にて、間上は現れた魁峰・陶生と戦っていた。

 隠れ潜んでいた側であるはずの魁峰が姿を現したのは、やはりカニバル・キャットとその店主を狙っての事であろう。そうなる事が分かっていたから、間上は待ち伏せをしていたのだ。

「狙いなんざなあ、ありゃあてめえなんぞに話すもんかっての!」

 間上は既に狼男の姿となっており、魁峰が繰出してくる黒い布の様な攻撃を掻い潜っていた。以前と同じ状況であり、時間が経つにつれ、黒い布が間上の動きを阻害してくる。

「犬にしては物覚えが悪いな! 今度は良く憶えておける様、死ぬ寸前の記憶として刻んでやろうか!」

 魁峰の言葉に従う様に、広がる布が形を変えて間上の手足を縛る。その状態から、布は間上の手足を四方へと広げる様に引っ張ってきた。

「はっ、ここで決着すれば、てめえの記憶なんざ明後日あたりにゃあ消えてるよ。幸運に思え? 一日くらいは憶えてやる」

「ふんっ。死ねば記憶なんぞ残るまい。ここで……ぐっ―――

「その隙だ」

 一瞬だけ、動作が止まる魁峰。その瞬間に、間上の視線は一気に魁峰へと近づいた。次には口元に鉄の味が広がり、その後、地面へと四肢を付ける頃には、魁峰は背後にする位置へと移動していた。

「き、貴様……その姿は……」

 振り向き、倒れている魁峰を、似た様な目の高さで間上は睨んでいた。背は縮んではいないが、目線の高さが低くなったのだ。だが、今の方が余程身軽。何せ狼男の姿から、完全な狼のそれへと変わったのだから。

 一方で、倒れた魁峰は地面を血で濡らし始めた。致命傷には届かないだろうが、脇腹の一部を間上は食い千切ったのである。

 さっさと対処しなければ、届かないはずの命に届くかもしれない。その程度の傷でもあった。

「それが……あんたの奥の手か」

 物陰に隠れていた相神会の水戸野が出て来た。間上が狼へと変じるその少し前に、魁峰の動きを抑制し、隙を作らせるのがこの男の役目であったのだ。

『こっちが本当の姿ってわけだ。世の中で暮らす分にゃあ、動き辛い姿だから、人の姿をしてるけどよ』

 人の姿で無くなったため、返す言葉は喉からではなく、相手の頭に直接伝えている。神としての力であり、狼体の神こそが間上の存在の真実である。

 本来の姿である以上、その動きは狼男の時よりさらに俊敏になり、顎の力は人間の体を容易く千切る。

 まさに奥の手であり、普段は隠している姿でもあった。知っている人間は知っているものの。

『で、どうする? 俺としちゃあ、これで勝利だ。意趣返しってんならこの程度で良いかと考えてやるさ。だが、そっちは事情も違うだろう?』

 倒れたままの魁峰を見た。先ほどまでの威勢は無くなり、地面に転がるだけの四肢の無い男。虫と呼ばれていた様だが、今ではその言葉を向けるのはやや抵抗がある。

 憐憫の情が浮かんできそうだからだ。

「ぐっ……ふっ……」

 魁峰の呻き声が響く。それがしっかりと聞こえるくらいには沈黙していた。魁峰自身が人払いの術でも使ったのだろう路地では、他に物音が聞こえないため、より痛々しい気がした。

「とりあえずは手当をする。恨みこそあれ、結局どうするかは本部に任せる必要があるからな」

『あんたとしちゃあ、その本部から、正式に日苗市の支部長に任ぜられるのを狙ってるってわけかい?』

「既に実質そうなっている。この男を引き渡す事で、名目も立つと言うだけだ……あっちも終わった様だな」

 手当用の術を使うらしく、魁峰へと近づく水戸野だが、視線が『カニバル・キャット』がある方向を見た。あちらは派手にやっているらしく、爆音みたいなものも聞こえていたが、今はそれも止んでいた。

「とりあえず、暫く続いたひと騒動もそろそろ終わりってわけだ。そうして街の日常がやってくるんだ。嬉しいかい?」

 人の姿に戻った間上が、水戸野へ尋ねてみる。すると水戸野は首を横に振った。

「この街は日常の方が怖い。厄介事なんて言うが、荒れ事なら片づければ済む話だからな。なあヤクザ。あんたはこんな街の神様なんかして楽しいのか?」

「どうだろうねえ。好き嫌いじゃなく、ここでしか生きられねえってのもあるからな。俺は」

 案外、街が混沌としている原因は、そういう切実さから来ているのかもしれない。そう思うと、間上とて溜息を吐きたくなる。それはつまり、街の混沌の解決なんて事は到底無理と言う事であるからだ。




 喫茶店『カニバル・キャット』前。客寄せの看板と、ヒビが入った窓ガラスを見て、竜太は頭が痛くなってきた。せっかく復活したと言うのに、待っていた光景がこれかと思うと、うんざりしてくる。

「経費っていうのは出るんだろうか。請求できるならしたいんだけど、そこのところどう思います? ヒナエ・ゴッドさん?」

 竜太は視線を落とし、地面に組み伏せられているヒナエ・ゴッドと自称していた男、神谷・卓を見た。ちなみに組み伏せているのはヒナエファイアーであり、周囲をサンダーとウォーター。さらにはヒナエトライアングルの3人までもが囲んでいる。

「ヒーロー同盟全員相手は中々に辛いものがあってね。仲間の援護も無し。いやはや参ったよ」

 神谷はこちらを見て笑ってくる。それくらいの余裕はあるらしい。

「まったく反省していないみたいだな……!」

 神谷が軽口を叩く様に返答してくる。怒りを感じたのは竜太では無く、組み伏せているヒナエファイアーである。

「おっと、ヒーロー……ヒーローらしくない態度じゃあない……かはっ」

 ファイアーは神谷を組み伏せる力を、さらに強めている様子である。

 竜太の方はと言えば、力をさらに込めようとしているファイアーを止める立場だった。

「待った待った。こういう人種はね、感情を昂ぶらせちゃ駄目だよ。本人は軽い様でいて、実際は冷静に周囲を観察してるんだ。こっちも同じくらい……軽い態度で行こうよ」

「でもこいつ、見れば見るほどムカついてくるわよ」

 ヒナエファイアーくらいに苛立っているらしいヒナエクイン。気の強さは同じくらいなのに、どうしてお互い仲が悪いのだろう。

「ムカつく人間ってのは、そのムカつきを利用してくるもんさ。僕だってそういう部分がある。似た者同士だね」

 実際、この神谷にはどこかしらのシンパシーを感じる。同じ立場になりたいとはまったく思わないが。

「以前に会ったが、不思議な人間だな、君は。今の状況では……もうちょっと偉そうにしても良く思えるが?」

 顔を上げて、神谷はじっとこちらを観察してくる。だが、視線を向けられるのは綺麗な女性からの方が良いので、大して嬉しくも無い。

「あなたを捕まえているのはヒーロー達だ。あなたが捕まっているのは、あなた達の焦りからだ。となると、僕が偉そうにする理由っていうのは……無いよね」

「我々の焦り……となると、この状況が罠だったか」

「そりゃあそうですよ。じゃなきゃ、こんな都合良くは行かない。警察関係者と事情通の公務員。呼べばかならずそちらは焦るってわけだ。何せ僕がこうやって復活している事からして、あなた方の想定外でしょうし」

 竜太はとりあえず、敵方の勢いを削ぐため、自分と、さらには自分の知り合いを二人ほど囮にしたのだ。まず前提として、消失したはずの竜太が復活したという事がある。

 ここに来ての復活は、絶対に敵は予想していなかったろう。警戒して竜太を観察している事は簡単に想像できる。そこで竜太は、さらに敵の警戒が強まる行動を取ったのだった。

 敵の大ボスは警察署の署長だ。その大ボスに対して、人間関係を通して追い詰めようとしている……と、相手に思わせたわけである。

「それが俺達を呼び出した理由か。まったく……」

 公務員の衛青が店から顔を出して来た。警察関係者であるところの間知刑事も一緒だ。囮になってくれと頼んでなってくれる相手でも無いため、二人には事情をまったく話していないが、囮役となっていた事は理解したらしい。

「お二人には個人的な貸しが幾らかあったと思いますから、それを返して貰おうかなと。いえ、詳しい事情なら後でじっくり話ますよ?」

「そう言われると、反論できないから辛いね」

 間知刑事は以前、竜太を無実の罪で尋問した事があり、その借りがあった。一方で衛青の方は……

「おい、俺はお前に借りを作った覚え何て無いぞ」

「そうでしたっけ……あ、ほら、モールの反対活動を注意されたあれは」

「あんたものが借りになるか!」

 そう言われると辛いところがある。竜太は無関係の人間を巻き込んでしまっているわけだから。

 まあ、怪我が無い様子なので、それでも良しとする。自分の中で。

「さて、こんな感じですよ、ヒナエ・ゴッドさん。あ、間知刑事。この人です。例の真犯人」

「ああ、確かに神谷・卓だね。何やら目筋に黒い隈があって判断が難しいが、顔形は写真で見たそれだ」

 今度は間知が神谷をじろじろと見始めていた。警察がここにいるなら、警察に引き渡す手間を省けると言うものだ。

「はっ……はは。我々の敗北と言うことかな?」

「勝ち負けなんてこの街で気にしている時点で、そんな姿になるのは当たり前でしょう。そんな二つに分けられるほど、簡単な街じゃあない。それを理解できないから、街を潰せるなんて勘違いするんだ」

 竜太はそれを告げて、神谷から視線を外した。次に見るのは、その周囲の人間。今回の手伝いをしてもらっているヒーロー、ヒロイン達である。

「これからどうしますの? わたくし達にやって欲しい事は、これで終わりということらしいですけれど」

 尋ねてくるのはヒナエレインであったが、だいたいこの場にいる全員の問い掛けらしい。神谷もそうである。どうやら竜太の次の行動に対して、興味を向けられていた。

「と言ってもね、次にやるべきことは決まっているというか……」

「それは?」

「黒幕にもう一度会わないと。調停の仕上げは、当事者の納得を引き出す事だからね」

 向かう先は日苗市警察署。その署長室であった。




 組織で上位の人間に会うには、アポイントメントが必要だと竜太は思っていた。だからこそ、署長に会いたいと案内係に話してみれば、すぐに通してくれたのは驚きだった。

 本当に驚いたのだ。何か反応はあるだろうとは想像していたが、すぐに自分の近くまで案内してくれるという展開。何か作戦があるのか、それとも、手が無くなった以上、足掻いても無駄だと考えているのか。

「どちらにせよ、大物には違いないかな」

 署長室の扉を前にして、そんな事を呟いている。ここにいるのは竜太一人だ。扉の向こうに待つ人間を含めれば二人である。

 さて、どうなるものかと扉を開いてみれば、何事も無いかの様に机に向かう署長の姿。

「……あれ、僕が来る話とか通ってませんでしたか?」

「通っている。手足をもがれて悩んでもいるな。良くやってくれたと言ったところだ。まったく、君を恨む前に、自分の至らなさが悲しくなってくる」

「そりゃあそうでしょうね。何せ僕は一度敗れてるってのに、やり返されてるのはそっちの責任だ」

 軽く言い合いつつ、竜太は部屋の中へ入っていく。警戒をするべきかなとも思えたが、ここに来た以上、話し合いで決着できなければ竜太に出来る事など何もないので、気にしない事にした。

「で、……トドメでも刺しに来たか?」

 机に肘を突いたまま、こちらを睨んでくる署長。漸く、それらしい話をする状況になってきてくれた。

「トドメを刺したところで、どうなります? そりゃあね、一応、手足として動いていた連中は捕まえましたが、あなたは健在だ。それに……健在なのはあなただけじゃないかもしれない」

 街を破壊するなどと豪語する男だ。まさか自分の命令通りに動く人間が、たった二人だけのはずもあるまい。目立ち、力を持つのが、竜太達が対処した二人だけであり、他にもいる事は想像できる。

「……では、何が目的だ」

 できればベラベラと自分達の内情を話してくれれば良かったと思うのだが、その願いが叶わないというなら仕方ない。

「調停にやってきました。あなたに、街を潰すなと言いに来たんじゃない。ただ、今は準備不足じゃありませんか? しっかり準備したつもりだったんですけど、ほら、この通り。僕は無事です。つまるところ……望み通りに事は進まない」

 もうちょっと慎重に動けという助言。そうして、こちらを得体の知れない存在だと思わせる脅し。それらを持って、この署長と調停を行おうと竜太はやってきた。

 街を潰そうなんて連中は、街に幾らでもいるし、彼らもその一種になってくれと頼みに来たのである。

「諦めないぞ。私は」

「はい?」

「諦めんと言ったのだ。必ず街を正す。そのために動き続ける。お前達は諦観者だ。だと言うのに、街がこんな……こんな無様な姿になっている状況を保とうとだけ努力する。悪はお前達だ。その事に気が付く人間は幾らでもいる。私の味方は幾らでも―――

「参ったなぁ……」

 話は続いている様だが、それよりもまず頬を描いた。どうにも虫か何かがいる様な、くすぐったい感触があったのである。

 それが実際の頬ではなく、心的なものだと気づいたため、すぐに掻くのを止めたが……。

「それで?」

「何だと?」

「いえ、続けてみては。やる気満々って事ですよね? この街を潰す。この日苗市を絶対に潰すと、あなたは意地でもそう思っているわけだ。僕らの調停も受け入れず、もっと過激に」

 竜太は署長へと近づく。正確には、彼の仕事机に。

「小僧が、調停屋か何か知らないが、正しいと信じる思いは、どの様な障害をも越えて見せる。街が混沌としようと、その斜に構えた態度が街を増長させようと―――

「やってみろよ」

 顔を近づけた。ちゃんと、こちらの言葉を伝えるために。漸く、署長も表情を変えてくれる。竜太の存在をここに来て、何かが違うと思いなおしてくれたらしい。

「なんだ……何だ。お前は」

「やってみろと言ったんだ。諦めないだと? 諦観者だって? 良いんじゃないか? そう周囲を下げて自分を持ち上げていろよ。随分と正しい世界観を持っているらしいが、良いさ。それだって受け入れてやる」

 何時だって、この街はそうしてきた。竜太はそうしてきたのだ。

 これからも、街はそうしていく。この街は混沌の坩堝だ。魔女だって裸足で逃げ出す黒多色の汁が満たされた釜だ。

 そんな街こそが竜太が生きる場所であり、竜太そのものである。

「全力だ。まさかこれまでが全力だなんて言うなよ? これまでの行動で街が正せたか? 混沌を広げかけただけだろう? こっちが調停してやらなければ、それがどれほど酷くなっていたかも知らないで、自分は正しい事をしていたとでも言うんじゃないぞ?」

「何だ。何だと言うんだ。お前は……いったい……」

 署長の顔に汗が流れている。年齢は恐らく50代くらいであろう男の表情が、幽霊でも見た子どもの様に恐怖に染まっていく。

「小僧と言ったか、若造。お前がどれほどこの街を知ってると言うんだ。僕がこの街で……どれだけ長いこと、この街を知って来たと思ってる? 関わって来たと思ってる? 僕は受け入れる事をとっくに選んだ。で、あんたは戦う事を漸く選ぼうとしているんだろ? だったら祝福してやるよ」

 幾らかまくし立てた後、竜太は机から後ずさる様に離れた。表情は元に戻す。他人を脅す表情なんて、何時までも浮かべていられる程に面の皮は厚くない。

「話の続きを……と、そんな状況じゃあ無さそうだ。この街の不可思議の一端くらい、理解してもらったって事かな?」

 署長の目は、既に竜太を見ていなかった。良く分からない類の恐怖。その感情を整理するために、何とか心を落ち着けようとしている。そんなところだろうか。

「最後に一つだけ、伝えておこうかな。今後も幾らか関わる事になるかもしれないけど……穏便にしてくれるのなら、僕からは文句は無いよ。あくまで穏便と言える状態であればだけど」

 それだけ言葉を残し、竜太は署長室を去って行った。これで調停は終わったと思いたいが、そうで無かったとしても、街は受け入れるだろう。幾らかの混乱もまた、この街ではありふれた光景だったのだから。




 喫茶店『カニバル・キャット』が今日も開店する。客は相変わらず少ないが、それでも最近は、多少なりとも改善されて来たところだ。

 出される料理についても……多少はマシになってきていると言える。

「いい加減、ナポリタン以外も上手く作れる様になれですって。おっかしいよねぇ。真面目に作ってたつもりなんだけどな」

 竜太は頭を掻きながら料理を運ぶ。今日は珍しくナポリタン以外の注文があったのだ。皿に乗るのはミートスパゲッティ。カウンターの上に置かれたその皿をフォークでそれを食べようとしているのは見風・妙。既に常連客となっている女性である。

「あはは。店の修理代金なんかは貸しになっちゃいましたからねぇ。利子とかは無しですから、いっぱい儲けないといけませんね。料理の練習をしろっていうのも、そのためなんじゃないですか?」

 見風はそう言って笑った後、スパゲッティを食べ始めた。特段、美味しそうと言った風では無いが、目をしかめている様子は無いため、不味くも無いらしかった。

「店の売り上げが良くなるためって言うなら、努力は惜しまないんだけどさ。七南老人、別口の方の営業も始めてるみたいで参るよ」

 カウンターの席。その一つを見る。何時もは老人が座っている席であったが、今はいない。珍しくも、街の面倒ごとについて見回りに行ってくるとのことで、きっと面倒ごとに調停が必要だと判断すれば、その仕事を持ってくるに違いない。

「危ないことも多いですけれど、調停は街に必要だと思います、私。最近は平和ですけど」

「例の事件から1週間くらいしか経ってないと思うけど、平和かなぁ……」

 自分が消えるなんて事件だったせいで、未だに慌ただしかったという印象がある。

「平和ですよ。だって、まだ1週間しか経ってないんですから?」

「……大分、街に染まって来たね、見風さん」

 けれども、確かに1週間くらい何も無い気がしたし、それはそれで平和な街とも言える。

「この街で一番困ったことは、これで今後もまったく何事も無いって思えないところですよね」

「まったくだ。きっと、そろそろまた事件が起こるはず。願うところは、調停が必要ない事件であるところかな」

 竜太はそう言葉にしてみたものの、願いは叶いそうにないなと思った。店の扉が開く音がしたのだ。

 そこには憂鬱そうな顔をした男が一人。きっと、店の客だろう。仕事か何かで最近、嫌な事があったに違いないと思う。そうであって欲しい。

(けど、おかしな事件の調停だって、この街の日常さ。こうやって街の日々は続いていくんだ)

 それは誰かが言っていた諦観者としての考え方かもしれない。けど、何時だって日々は続いていくのだ。それが日苗市の日々である限りは。



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