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日苗市の人々  作者: きーち
最終章 日苗の日々
33/34

第三話

 遠くの方で喧噪が聞こえる。恐らく事前に伝えられていた、意図的に行わせる戦いの音なのだろうが、どうにも焦燥感を覚える。

(お祭りの時とかって、こんな感じだっけ?)

 見風・妙は外から聞こえる音について思いを馳せながら、ある建屋の中で椅子に座っていた。

 建屋の中は簡素なもので、建屋自体も突貫で作られた物であり、地震などがあればすぐに倒壊してしまいそうである。

 内装は幾つかのテーブルと机。それだけだ。それらの配置については見風が指示を出した部分もあるが、何か意味があってのものではない。

「ただ、なんとなくってだけなんだけどな」

「それが重要なのじゃよ。頼りは、君に残ってるかもしれない微かな記憶でな」

「あ、お爺さん。向こうの準備は良いんですか?」

 建屋の扉を開き、外から平蔵が入ってきた。外見や年齢にそぐわず、ここ最近はずっと動き回っている老人であり、この建屋も老人が業者に無理を言って立てさせた物らしい。

 そのためのお金も老人が出したそうだが、老人にとってはどれほどの負担になっているか、見風には分からない。

「準備は順調じゃよ。皆、上手くやってくれとる。あのヒーロー達に関しては……素のところが大きいの。あれは多分、本気でやっとる。この街らしいと言えばらしいかのう」

 平蔵は感慨深そうだった。何時もの街の光景。それがそこにあると言う事が嬉しそうなのである。

 そういえばこの老人、何時も、出会う時には満足そうな表情を浮かべていた。変わり続ける日苗の街は、変化を嫌いがちな老人にとっては苦痛だろうと思っていたが、平蔵にとってはそうでも無いらしい。

「あの、私の方は、これで良いか正直不安です」

 今回、見風にも役割があるのだが、その役割を全うできているかと問われれば、容易くはいとは答えられない。

 やっている事は、この建屋で待機し、内装……と言ってもテーブル類くらいなのだが、それらを然るべき場所へ配置して欲しいと頼まれたぐらいである。

 どこを具体的にどの様に。それは伝えられていない。言われる通り、然るべき場所と聞いて思い浮かぶ場所へテーブルと椅子を運んだ。それだけだ。

 これで何かを成し遂げたと思える程に、見風は楽観的になれるはずもない。

「不安かの。まあ、不安じゃろうのう。記憶が欠損すると言うのは不安にもなる。じゃからこそ、その解決のために、無くなった記憶を呼び起こす必要がある。ここにあるのはその見立てじゃな」

 見立てと平蔵は言う。ここに建屋があるのも、見風が内装を整えたのも、それら見立てのためらしい。

「記憶に無い喫茶店の内装を再現しろと言われても、なんとなくでしか出来ませんでしたし、ちゃんと出来ているかも、本当に不安です」

「じゃが、この役割はお嬢さんが適任じゃて。お嬢さん……この時代の人間ではあるまい?」

「隠すような事でも無いので……はい。昔からたいむすりっぷでしたっけ? それでやってきてしまった様で、その際に随分と助けに……あれ……」

 頭を抑える。助けになってもらった。誰にかは思い出せないが、確かに助けてもらった。その事は思い出せた。それが不思議なのだ。

 助けられた相手を忘れている。つまり、その相手こそが今回いなくなった人なのだろう。だが、それでも助けられた事だけは覚えている。他の人は、そういう誰かの行動すらも忘れている様子だったのに。

「お嬢さんの役割について重要なのはそこじゃな」

「私の……役割」

「うむうむ。お嬢さんは時代を越えて街を、土地についてを知っとる。それも、今代の調定屋がこの街に現れる前後の時代を」

「それは……お爺さんやあの間上さんも同じでは?」

 見風だけがその点で特別だとは思えない。いやタイムスリッパーなんて特別じゃなければおかしいとは思うが、それでも、見風は自身を特別などとは思えなかった。

 しかし老人にとってはそうではないらしい。

「儂やあのヤクザはの、ずっと街を見続けておった。街が変わり続けるその様も見続け、変わっとると言うのに、日常としてそれを見ていたのじゃよ。じゃが、お嬢さんは違う」

 自分が他人とは違うところ。それはやはり、時代を飛び越えてしまったと言う点だろうか。忘れてしまった人間が現れる前と後。その狭間についてを見風だけは知らない。

 他の人間は、その変化を直接知っているか、もしくは今の時代しか知らないかのどちらかだ。

「けど、それって知識として私が中途半端ってだけの気も」

「一般的にはそうじゃろう。随分と、時代の変化へ対応するのに苦労しとったし。苦労する特徴でしかないかもの。じゃがね、お嬢さん。今、この時においては、その苦労こそが役に立つ。二つを比べ、それぞれの違いを明確に意識できるのはお嬢さんだけじゃ」

 二つの時代に生きた記憶。今はそれが重要と言う事らしい。だが、その何が重要なのかを見風自身は思い浮かばなかった。

「お嬢さんはな、儂らとは違う部分で、消えてしまった今代の調定屋を覚えとる。微かではあるが、二つの時代を違うものとして見ているため、片方が消されても、もう片方の記憶が残っておるんじゃろう。完全な記憶ではないが、その記憶は奴を呼び戻す呼び水と成り得る」

「記憶に残っているのは……お爺さんも同じでは?」

「うむうむ。じゃからして、儂もまた、この場所に来たのじゃよ。儂とて、この喫茶店に対する記憶は曖昧じゃがね。二人寄れば……それなりのものになるとは思えんか?」

 喫茶店。老人はこのがらんとした建屋を喫茶店と呼んだ。もしかして、ここには喫茶店があったのだろうか。

 丁度、見風が配置した場所にテーブルと椅子が並び、他の空いた場所にはカウンターなんかがあったかもしれない。

 あまり人が来ないから、メニューもどこか古臭かった様な気もする。定期的に掃除はしていたらしいから、埃が被って不衛生なんてことは無かったと思うが。

「あ……」

「何か、思い出せそうかの」

「えっと……その。何だか懐かしい気持ちが。あれ……なんだろ。これ、前にもあった気がする」

 胸に手を当てる。何だったろう。この気持ちは何だろうか。何故かまた、目から涙が出て来た。悲しいわけではない。酷く懐かしくて、胸が締め付けられるのだ。

「泣いてる女性は黙って隣に立つが正解なのじゃが、ここはあと一押し。お嬢さん。悪いが、その気持ちの源泉について、自身で思い出して欲しい。それこそが最後の仕上げになると思う」

 言われずとも、見風は自身の思いについて、心の中で問いかけていた。

 この感覚はどこから来ているのだろう。前にこの感覚を持った時は……そう、前はいなくなってしまった人を見て、なんとなくこの感情を抱いた気がする。

 遠く離れてしまった過去。それがどうしてだか、形を変えて、目の前に現れた。その時の懐かしさがこの感情だ。

「……そっか。昔から形は違うけどそこにあったから、私、あの人を見て懐かしいなんて思ったんだ」

 口から答えが出て来た。そうだ。きっとそうなのだ。百何年も生きてはいない相手ではあったけれど、その人はずっと前からこの街にいて、この街を、土地を調定してきた。そういう存在だったのだ。

 どうしてそれを忘れてしまったのか。いや、もう忘れてはいない。顔を思い出そうとする。思い出せる。名前を言葉にしようとする。けれどその前に、別の誰かが言葉を発した。

「ご注文は何にしましょうか?」

 顔を上げると、そこには見知った男がいた。子どもっぽい顔立ちで、背だって低く、喫茶店の店長を名乗っているその男。

「じゃあ……ナポリタンを一つお願いします」

 見風はそう言いながら、漢条・竜太に微笑んでいた。




「目当ての人間が帰ってきた以上、儂の仕事はこれで終了じゃな。あとは街の人間がなんとかしてくれんかのう」

 七南老人が、一旦『カニバル・キャット』へ集まった各々に向けて話す。

 何人かは怪我をしていたり煤けていたりしていて、何があったのかと問い掛けたくなったが、とりあえず竜太もまた話をしてみる事にする。

「いやあ、感謝感激ですね。まさかこうやって無事に戻ってこられるとは。ありがとうございましたよ、みなさん」

「軽いな、おい」

 間上から文句が来るが、こっちはこっちで、ついさっきまで消え去っていたのだ。不安に思う感情すらも無かったのだから、有り難くは思いこそすれ、それがどれだけ大事だったのかについての実感が無い。

「僕が失態を演じてしまったのは事実ですから、その点は反省してます。尻拭いをしていただいた方々への感謝の気持ちは嘘じゃありませんし、大きい貸しになるのかな……そうだ。今から料理を作らせて貰いましょうか。勿論、僕の奢りで」

「料理は別に構いませんから、貸しの返却は別の形でお願いしますわ」

 すぐさま、集まっている人間の一人、ヒナエレインに否定されてしまった。そんなに駄目だろうか、料理を奢ると言うのは。

「戻っておめでとうと言いたいところだが、まだやるべき事の途中段階でしかないのでは? そうであれば、素直に喜ぶ気にもなれんな」

 顔や体のあちこちに痣を作っているらしい大男。ビッグビョースター。聞いたところによると、ヒナエソルジャーと正面からぶつかっていたそうで、所有していた飛行船を一隻失ったそうだ。

 その代償かどうか知らないが、ヒナエソルジャーの内、ウォーターとサンダーは怪我で病院に運ばれている。命に別状はないらしいが、1カ月ほど入院する予定との事。

「敵は、自分達が消したはずの人間と店が復活している事をそろそろ知るはずでしょう? これから、またあなたを襲ってくるかもしれない。愉快な気持ちにはあなたもならないはずだ。違いますか?」

 と、同じく痣や擦り傷だらけのヒナエファイアーもまた、ビッグビョースターと同意見らしかった。それこそ、お互いが敵同士だろうに。

「敵ですか……敵……まあ、嫌がらせは受けましたし、そう考えるのも仕方ないんですが、僕はそうは思えないかな」

 絶対に反論が来るだろう事は承知で、頬を掻きながら呟く。

 自分の命に関わる事態ではあったのだが、竜太にはどうにも相手を恨む気持ちと言うのが薄かった。やり返しはしたいと思うものの。

「何故だ? 何故、敵ではないと言える? 明確にお前は襲われたのだろう?」

 とりあえず疑問の答えを聞いてからと考えたのだろう。相神会の水戸野が冷静そうな様子で尋ねてきた。

「実を言えば、消える直前に、彼らのボスまで辿り着けたんですよ。多分、油断してたんでしょうね。僕がまさか、こうやって復活するなんて思いもしていないんだ。って言う事は、つまり、また積極的に消してくるってことか。参ったな」

「参ったなじゃないでしょう? 参ったなじゃ! どう考えたって、今度はこっちから挑んでいかなきゃいけない状況よ、これ!」

 相変わらず、ヒナエクインの方は煩かった。しかし敵であるところのホワイトビョースターは見当たらず、さらに新規加入したと聞くヒナエマインの姿も無い。彼女らもまた、色々と激しい戦いをしたと言うことだろう。

「で、反撃して潰したとしよう。それで終わりとは行かないんだよね。なんてったって、あの人たち、街を正そうとしてるんだ」

「ほっ。街を正すか。それはまた……今までも結構いたの。そういう輩は」

 そうだ。これまで幾らでもいた。日苗市は昔から、一般的な感性で言えばおかしな街であるのだ。

 それを正そう。真っ当にしようと考える人間なら幾らでもいたのである。では何故、今も尚、こんな不可思議な街となっているのか。

「誰もが挑戦して、誰もが敗れてきた。結局、新しい混乱が生まれて、それが街の日常となっていった。ここはそんな街なんだ」

 今回の相手が特別なわけではない。やり口は手際の良さを感じるものの、それだけだ。だから……放っておいても敗北する相手であるとも思う。

「なら指を咥えて待ってるかい? 言っておくが、今回みたいにお前を救出なんて事はそう何度もできないだろうよ」

 間上はそう言うが、竜太自身の思いとしては、一回助けられただけでも随分と上等な状況だなと言った具合だ。つまり、竜太とて何度も救出される状況は受け入れられない。

「痛い目には合って貰いましょう。それで敵の威勢を削ぐ。後はまあ、こっちに手出ししなければある程度の事は目を瞑るって、そういう落としどころを狙いたい」

「我々の組織にそうした様にか」

 嫌そうな声で水戸野が呟いた。なるほど。確かに水戸野が所属する相神会に対して、竜太が行った調定内容に似ている。

 街はどんなものだって受け入れるのだ。そのバランスを保ちさえしていれば。そうして、バランスを保ち続ける存在こそ、調定屋であろう。

「決着はつけないって事ですか?」

「ヒーローとしては不満かな? ヒナエレッド。けど、決着なんてどこかの誰かがつければ良いのさ。決着した結果として、街が潰れたり、多くの人間が害を被ったりしない様にするのが……僕みたいな調定屋の仕事でね」

 今でも、それは曲げない。喫茶店の店長職だって曲げていないが、今は調定屋としての仕事を全うさせて貰う。というより、竜太にはそれしかできないのだ。

 ヒーローでもヤクザでも怪しげな組織の一員でも無い竜太は、自らに出来る事だけをする。

「あの……その話ですけど、漢条さんって、何かこう、凄く街にとって特別な存在だったんですよね?」

「らしいね。僕自身、そんな自覚は無いんだけど」

 見風が手を上げて、おずおずと尋ねてきた。しかし、竜太に返せる答えなんてものはたかが知れている。自分の存在がどういう類のものか。先代の調定屋である七南老人に説明は受けているが、理解できているかどうかも怪しかった。

「一度、肉を持って生まれた以上、そういうもんなんじゃろう。街にとって特別な存在ではあれど、自覚的にはそこらの人間と変わらん。存在そのものが大切で、本人の意向なんてもんは大根の葉みたいなもんじゃ」

 七南老人の言葉は酷いものだった。事実なのだからして、どう返せば良いやらも困ってしまう。

「葉だって、栄養はちゃんとあるじゃないか。食用だし……っと、そうか。僕の存在か」

「そうなんです。多分、これから相手をされる人たちは、漢条さんをそんな特別な存在だとは思っていないんじゃないかなぁと思って。その、ちゃんと理由を話せば、漢条さんを襲う事は無くなりませんか?」

「そりゃあ無理じゃねえか? こいつも不思議びっくりな存在だってことで、むしろ積極的に消してくるだろ」

 言いつつ、間上が笑いながら竜太を指さしてくる。

「そっか。そうですよね……」

「いや、もしかしたら使えるかもしれない。皆さんの力、もうちょっとだけ借りる形になりますけど、収まるべき形で収められるかも……どうです、皆さん。もう一口、乗ってみません?」

 竜太はここに集まった面々に視線を向ける。どいつもこいつも、このおかしな街が、おかしな街のままであって欲しいと考えるおかしな連中だ。竜太の方へと返ってくる視線と合わせる様に、竜太は薄らと笑みを浮かべた。




 公務員、衛青・翔也の元に一通の投書が渡されたのは、彼が昼休憩を終え、長く憂鬱な午後の仕事へと取り掛かろうとしていた時であった。

「苦情ですか?」

「ああ、と言っても、愚にもつかないものなんだが」

 上司から渡された手紙を見る。封筒入りのそれであったが、封は切られており、中の手紙は何時でも取り出せる状態だ。

「愚にもつかないなら、放っておけば良いと思いますが」

「とりあえず中を確認してくれ。放ってもおけない事が分かるはずだ」

 正直、読めば自分の仕事になるのだろうなと言う予感がしたため、読みたくも無かったが、隣に上司が立ったままである以上、手紙を見ないわけにはいかない。そうして案の定、その中身は自分にとって仕事と言えるものだった。

「日苗市警が行った不正に対する投書? その割に、内容が書かれていませんね」

「下に場所が指定されているだろう? どこぞの喫茶店だが、そこで詳しい話をするという内容らしい。警察本部に手紙を出しても揉み消される可能性があるから、直接、市長へ手紙を出してきたらしい」

「それで……うちに仕事が回ってきたと?」

「とりあえず、どんな相手かの確認をしなきゃならないからな。いたずらだったらいたずらで良いんだ」

 まったくもって総務課の仕事だと思う。ここで市長向け投書の判別係なんてものがあればそちらに仕事を回せるのだが、如何せん、時代は役所の人員削減に動いているため、都合の良い役目なんて存在しない。

(それに……俺向けの仕事ではあるんだ。)

 指定された場所。そこは衛青も良く知る喫茶店『カニバル・キャット』なのだ。




「いたずらの可能性が高いと思ったし、その確認も仕事の内だと思ってきた。というか、出したのはお前だろう。以前、モールでの活動に文句を言った仕返しか」

 仕事は早く終わらせるに限る。衛青はそう考えて、すぐさま『カニバル・キャット』へとやってきていた。珍しい事にカウンターに男の客が座っていたが、構うものかとそれを無視して、店長の漢条・竜太へ詰め寄っている。

「8割正解ですね。それ、僕が出しました。来てくれるのは多分、衛青さんだなぁとも思っていましたよ」

 こっちは真顔で尋ねているのだが、店長である漢条はヘラヘラと笑っていた。こういう時、何か良からぬ事を考えているのがこいつだろう。

「こっちがキレる前に、残りの2割はどういう意味か聞いて置こうか」

「いたずら目的じゃあないってことです。真剣な事なんですよ。ちゃんと手紙は届きましたか? 衛青さんだけがその手紙を知っているなんて事は無い?」

 目の前の男はいったい何を狙っているのか。苛立ちの感情は、警戒へと変わった。こんな態度のこの調停屋は、確実に目的があるはずだった。

「良いか? 確かに手紙は上司から回って来た。ある程度の人数に晒されてるという事だ。内容については警察が不正を働いてるという内容だったな? つまり……警察に喧嘩を売ってるということだぞ? 分かっているのか?」

「まあ、そうなりますよね。そこのところ、どう思います? 間知刑事」

 漢条はヘラヘラしたまま、カウンターに座っている客の男に話し掛けた。衛青がその男に目線を向けると、男の方も笑っている。もっとも、苦笑に近い表情であったが。

「耳が痛くて仕方ないな。不正は確かにある。もっとも厄介なのは、それがどういう類のものなのかが分からないってところだが」

「なんだ? どういうことだ? 刑事?」

 衛青は混乱していた。知らない人間を紹介されたと言うのもあるが、それ以上に、その人間がどうやら衛青の話に関係あるとの事で、話題の向かう先が分からなくなってしまった。

「何から説明すべきかって迷いどころですけど、ここに来ていただいた時点で、お二人の役目は終了してるんですよね。呼び出して申し訳ありませんが、今後も、問答無用で巻き込んだ形になります。その点はすみません」

「だからどういうことだ!?」

 嫌な予感ばかりが膨れ上がっていく。もしや自分は嵌められたのか? 説明を求めたいところであるが、説明役が目の前の漢条という男である事に不安しか覚えない。

「ああ、同じ公務員として、同情するよ。この店主曰く、我々がここでこうやって集まっている時点で、彼の役に立たされているんだとさ」

 間知と名乗る刑事も、衛青と同じ様に困惑しているのだろうか。いったい、ここにいる時点で、どの様な術中に嵌っているのか。

「具体的に言うなら、釣り餌役って感じですかね? 最初から説明すれば一番分かり易いんですけど、どうだろう。向こうが僕らを警戒し始めるって言うのなら、そろそろ引っ掛かる頃だから―――

 どうでも良いから早く話を始めろ。そう呟こうとした衛青の声は、大きな破壊音で消されてしまった。

 音の場所を振り向けば、砂埃の様なものが舞い上がり、店の壁がひび割れてる。

「あー、まいったなぁ……修理費用、七南老人が出してくれるかどうか……」

る。

「おい……いったい全体何が……」

「いや、まあ……とりあえず、カウンターの後ろにでも隠れればどうでしょう?」

 言われずともそうさせて貰う。どうやら自分は、本当に問答無用で、危険な状況に巻き込まれてしまったらしい。



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