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日苗市の人々  作者: きーち
最終章 日苗の日々
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第二話

 混沌とした街があった。いや、当時はまだ街とすら言えない規模の土地であり、日苗と呼ばれていたその土地は、他の土地とは比較にならぬ程に異界であり、ある種の秘境と同じ様な扱いを受けていたそうだ。

 人がいなかったわけでは無い。だが、そこに住む人々は、大なり小なり、周囲の環境に影響を与える“力”を持ってしまっていた。

 そんなある日、土地を含む国に大きな波がやってくる。戦争が起こったのだ。国どころか世界も巻き込む戦争は、土地へ大きな影響を与えた。

 統括してしまえば、土地は発展の方向へと舵を切る事になったのであるが、その過程において、一つの事件があった。

「戦争云々については教科書でも読んでくれんかね。街にとって重要な部分は、一度、土地のタガが外れかけたと言う点じゃ」

「土地のタガ……ですかな?」

 大男。一つの組織の管理者をやっているだけのカリスマを持つ男であるが、その男が平蔵へ尋ねてくる。彼を含む組織は、最近に街へとやってきた比較的街を知らぬ人間だからこそ、興味深いのだろう。

 もっとも、街に親しみ深い人間でも、この事件を知る者は少ない。

「皆は不思議に思った事は無いかの? この街……いや、日苗と言う土地は、厄介な火種が多い割に、それが大規模な爆発には至っておらん事を」

「お爺様の様な方の努力に寄るもの……というわけでは無いのでしょうか?」

 大男の隣の女性……確か彼女は大男と似た様な立場だったと思うが、一方で、街に長く住んでいる人間だろう。そんな彼女も、やはりある種の裏側は知らないらしい。

「儂か? 儂みたいなのは……またタガが外れん様に走り回るだけの役割でな。タガそのものは……土地の意思みたいなもんなのじゃろうな。土地の神様すらも、そのタガの下に位置しとったかもしれんのう」

「はっ……そりゃあしたかねえ。あれはそういうもんだ」

 間上が悪態を吐いていた。土地の守りというか、原始的な部分から生まれる治安というのは、神が担当するものだろう。だが、間上ですら、日苗という土地は制御出来かねないものだったのだ。

「いったい、そのタガとは……?」

 誰かが言葉にした。それは誰だろうか。もしかしたら複数人が漏らしたのかもしれない。だからそれを答える。

「混沌そのものじゃよ。土地が抱えていた混沌。それが何時しか、意思の様なものを持ち始めていた」

 さらに昔の日苗は、さらに厄介な土地であった。火薬があちこちに詰められ、それらが何時だって、切っ掛けすら無しに爆発する。そう表現できてしまう土地。

 だが、何時しか土地にあるその混沌が、僅かな方向性を持ち始める。それがタガであり、混沌の中にある微か秩序でもあった。その秩序の中で、日苗という土地は辛うじて人が住める場所となっていたのだ。

 その存在に平蔵が気付いたのは、まさに戦争の影響により街のタガが外れかけた時である。

「調停屋だけでなく、土地は土地に住む人間の関係によりバランスは成り立つもんじゃ。だが、人の流れが多くなった。出て行く者、入って来る者。そのどちらもが多くなり、バランスは崩れ、タガが消え去り始め、遂には、何もかもの秩序が崩壊しようとしておったよ」

 誰かの仕業ではない。土地の空気そのものがそうなり始めていた。

 思えば、今の状況と良く似ているかもしれない。今にしても、街の大規模化が、混沌の拡大を招いている。

 だが、当時はもっとである。その時、既に調停屋の真似事を始めていた平蔵であったが、変わり壊れ始めた土地の調停はどうあがいても行えないと、そう諦めかけていた。

「その時じゃな、この男に助言を貰った。このヤクザな男じゃが、こう見えても酷く長く生き、土地の事は良く知ってる」

「あー、紹介に預かり光栄だが、そういう事だ。もう知ってる奴もいるだろうが、俺はこの街で長い。くそが付くほどにな。だからこそ気づけるってもんがあるのさ。長い流れの中で、確かに土地には意思があった。方向性って呼んでも良いかもしれねえけどな」

 それを間上より助言を受けた平蔵は、外れかけたタガをもう一度嵌め直す方法について模索する事にした。

 結果、方法の一つして思いついた物があった。それは、そのタガをもっと具体化すると言うやり方。

「具体化……ルール作りということですか?」

 3人いる青年のうちの1人が手を上げて質問してくる。平蔵の言葉だけを聞くなら、確かにそういう事になるのだろうが、平蔵が行った事は、もっとオカルトに近い事だった。

「意思の様な物があると言ったじゃろう? つまりはまあ……それを強めれば、本当に意思疎通ができるのではと思っての」

 ある種の調停をした。混沌の方向性をなぞり、それを明確化する方法だ。協力者を募り、あやふやだったルールを厳守させたのである。

 こうする事で、土地の意思の様なものがはっきりとし、外れかけたタガを嵌め直そうとしたわけだ。

「結果はと言えば……想定外じゃったな」

「どの様な事が起こったのです? 何かこう……嫌な予感がしますけど」 

 別の青年が不安そうな声を発した。まさかそうなるまい。いや、しかし。自身の想像をそんな風に考えている、そんな顔だ。

「なんともまあ、驚くべき事に、子どもが一人、忽然と現れおった。意思が明確になった以上、体も用意されると、そういう仕組みだったのかもしれんの。何にせよ、この土地はそもそも、そんな突拍子も無い土地だと、諸君らも知っているのではないかね?」

 視線を一通り向けてみると、全員から、納得し難いが、あり得ないとも言えないみたいな感情が見て取れた。

「実際、そこにいない人間が、急に現れるということは……ありましたよね」

 見風が意味深に呟く。彼女の場合は、それを良く理解できているのかもしれない。彼女もまた、事情は違えど、本来は現在に存在しないはずの人間だ。

「さて、もうそろそろ気づいておるかもしれんが、わしが取り返そうとしておる今代の調定屋、漢条・竜太は、土地のタガが人の形で現れた存在じゃ。そうして今、敵は知ってか知らずか、タガを消し去ってしまった」

 平蔵は当時の事を思い出す。突如として現れた子ども。その子どもはまさに自らを街の混沌が意識を持った存在だと名乗り、また、肉体を持った以上、徐々に単なる人間に近い存在に成っていくとも名乗った。

 記憶に関してもきっとそうだろう。つい最近の漢条・竜太は、自分をそんな特別な存在とすら意識していなかったかもしれない。超常的な部分は現れたその瞬間のみであり、その後は、肉体化した土地の意識として、本人も無意識のうちに、土地に方向性を持たせていた。

「わしは奴に調定屋としての仕事を教え込んだ。ついでに、喫茶店の店主としての腕も仕込もうとしたが、そっちの才能は無かったの。ナポリタンくらいじゃったか……」

 本当に、現れて暫くしした後の漢条・竜太は子どもでしかなかった。知識も殆ど無く、また、何事にも未熟だった。土地のタガなんてものが、本当にあやふやな物だったのだと言う事を思い知らされる。

「土地の混沌を抑える存在に、調定役をやらせるのが一番じゃと思っての事じゃったが、まあ、何時の間にかわしの後継者みたいな形になった」

「ちょっと待ってくれ……その話が本当か嘘かは後で詳しく聞くとして……漢条・竜太か? 私の記憶からも消えてしまったその彼が……また消え去ってしまったとするなら、街はどうなる?」

 相神会を代表して来ている男が、鋭いところを尋ねてくる。これまで平蔵が長々と話したのも、その事に気付かせるためだったのだ。

「タガが消えた以上、後は抑え込まれていた物が噴出する。それは土地に潜む混沌そのものじゃからして、どうなるかは予想なんて出来んがね。今の不穏な空気を、何十倍に凝縮した様な状況になるかもしれんな。何にせよ、碌な結果にはなるまい」

 だからこそ、もう一度、タガとなる漢条・竜太を取り戻さなければならないのだ。一度消えた以上、手遅れかもしれないが、それでも、日苗の街の辛うじてある秩序を取り戻すのが、調定屋の仕事であろうから。




 街に夜がやってくる。日苗市の中心街は明かるいと感じる程であるが、それでも、夜闇は明かりの隙間を通す様に、景色を黒く染めて行く。

 そんな夜の黒を彩る場所に、幾つか立ち並ぶビルの屋上部分があった。屋上から見れば、下側は明かりに包まれた街があり、上を見れば、明かりの届かない夜空があった。

 そんな光と闇の間に立つのは、ヒナエソルジャーの3人である。その内、ヒナエファイアーが口を開いた。

「なあ、どう思う?」

「……」

 他の二人からは沈黙が返ってきた。何がとは尋ね返しては来ない。ファイアーが何を聞いているか。他の二人には分かっているのだ。分かった上で、どう返せば良いか分からない。そんなところだろう。

「昼間に聞いた話は本当かどうか。多分、そういう話じゃあなく、受け入れる事ができるかどうか。その類の話だと俺は思っている」

 話を続けて行く。大切な事だとファイアーは思うからだ。

 記憶から消し去られた誰か。漢条・竜太という名前については、あの老人から再度教えられたが、その男をまた現実の物とするために、ヒナエソルジャーは老人に協力する事にした。だが、話をすべて受け入れらたかと言えば、まだその途上にあると言える。

「街のルールが意思を持ってそこに存在していたって事なんですよね……記憶には無いけれど、僕らはその存在と、喋ったり、行動を共にしたりしていた。何かこう……妙な気分になります」

 サンダーの方が漸く話に参加してくれた。彼の言う通り、なんだか心のどこかが妙な気分になる話だろう。

 世間話をする様な相手が、実は世界有数の大富豪だったり、国家を揺るがすテロリストだったりする。そんな話を聞かされた時は、こんな気分になるだろうか。

「俺は……深く考えるべき話でも無いと思ったぞ」

 ウォーターはまた違う意見を持っていた様子だ。彼の目線には、戸惑いの感情が薄かった。

「どうしてです? その……街の意思がですよ? 実際にそこにあって……」

「老人の話を聞いただろう? 肉体化した存在は、肉体化した段階で、もう特別な存在では無くなったんだ。街の混沌を抑え付けていた存在だったかもしれないが、それでも、俺達が会っていたであろう彼は……街の住人だった」

「そうか……そうかもしれない」

 ウォーターの話を聞く内に、ファイアーは自分の中に納得の気持ちが生まれるのを感じた。

 難しく考える必要はない。ヒナエソルジャーとしては当たり前の事をすれば良い。

「街の人間が消えて、それを助ける方法が提示された……そうですね。僕らにとってはそれだけの話だ」

「ああ、そうだ。そうだったんだ。ヒナエソルジャーは街の平和を守る。人々を助ける。そういう誓いの元に集まったヒーローだ」

 ヒナエファイアーは呟き、前を見た。ビルの屋上から見る景色は、光と闇の間を明確に分けた物である。

 その間……混沌とした空間をファイアーは見据える。

「やるべき事をしよう。馬鹿げた方法かもしれないが、それで誰かが助かると言うのなら、動くのがヒーローって存在だ」

 ファイアーは笑い、そうして次の瞬間、街で発生した事柄をしっかり見つめた。

『はーっはっはっはっ! 日苗市の諸君。私の名はビックビョースター! 今宵、日苗市全土は、我らビョースター団の支配下に置かれるのだ!』

 街に響き渡るビックビョースターの声。そうして現れるのは一つの巨大な飛行船であった。ビルと同じくらいの高さで飛ぶその飛行船は、スピーカーから、ビックビョースターの言葉を大音量で垂れ流していた。

 悪の秘密結社が総力を出して街を襲い始めたのだ。とすれば、ヒナエソルジャーがする事は決まっている。

「サンダー、ウォーター! 立ち上がるぞ! 俺達、ヒナエソルジャーの決戦の場だ!」

 ファイアーは宣言するや否や、ビルの屋上から、フェンスを乗り越えて、日苗の街へと躍り出る。街の平和を守るために、ヒナエソルジャーが出撃した。




 地上においては、ヒナエトライアングルがビョースター団傘下、白夜の夜明けが幹部ホワイトビョースターとぶつかっていた。

「おーっほっほっほ! 一度は敗れたが、ビョースター団の力を借り受け、さらに強くなった妾の力を見るが良い!」

 ホワイトビョースターが振るう鞭の猛攻が、ヒナエレインを襲う。

 衣装である桃色の服装の一部が破け、次に頬を掠めたそれが、一線の赤い跡になった。

「本当に、どういう理屈か以前よりもやるようになっていますわね」

 呆れ半分驚愕半分と言った感情を混ぜながら呟く。ホワイトビョースターは、一度は滅ぼした組織のボスであった。その時はヒナエクインとの二人掛かりで何とか倒せたのだが……。

「ちょっとレイン! 迂闊に近寄れないけど、どうする?」

 どうすると言われても、近寄れないのはこちらも同じである。明らかにホワイトビョースターは強くなっており、それはかつてのヒナエツインズを凌駕していた。ならばどうすれば良いか。答えは出ている。かつてはヒナエツインズなれど、今はヒナエトライアングルなのだ。

「マイン! 出番ですわっ。その新たな力をもって、ホワイトビョースターへ手を届かせましょう」

 新メンバーであるところのヒナエマインへと顔を向ける。そこには緑色のウィッグを被り、青い色を基調とした服装に、フリルがこれでもかと増し増しにされた姿の少女が立っていた。高校生はギリギリ少女だろう。自分だって少女だ。

「えっ……ええぇ……出番だって言われましても……」

「恥は捨ててマイン! 私達はそうやって強くなっていく!」

 ホワイトビョースターの猛攻に耐えているクインが、珍しくマインを励ましている。きっと思うところがあるのだろう。

 レインとて、服装云々には最近キツくなって来ているのではないかと悩み始めているのだ。けれど、きっと、仲間が増えたのだからなんとかなるはずだ。

「おーっほっほっほ! 何を頼りにするかと思えば、戦場で縮こまる事しかできない憐れな弱兵か! そのような仲間をどれほど連れてきたところで、このホワイトビョースターに敵う事は―――ああ! 痛いっ。頭がっ。あ、ちょっと」

 突如として頭を抱えて悶え始めたホワイトビョースター。別に、普段からの衣装について、急に恥が湧いて来たわけではないだろう。こっちだって頑張ってるのだから、そちらだって耐えて欲しいとレインは常々思っている。

「あ、本当に効いた……」

 手をホワイトビョースターに向けたマインが呟く。マインの力は遠距離用の力である。レインやクインの様な身体能力こそ無いものの、精神波を狙った対象にぶつける事ができるのだ。

 鍛えれば受信や物理的な効果まで発揮できるとレインは予想しているが、今の段階でも、距離が離れた相手の脳内に自分の精神波をぶつけて頭痛を起こさせるくらいの事は出来るのだ。

「油断しましたわね、ホワイトビョースター! あなたが強くなった様に、わたくし達もまた絆の力によって強くなる!」

 仲間が増える事はとても良い事だ。手段も増えるし、恥も分散できる。恥については上乗せしているだけではなどと言わないで欲しい。

「ぐぐぐ……お、おのれぇ……ヒナエトライアングルぅうう……あら」

 苦痛に悶えるホワイトビョースターが、ふと空を見上げた。素に戻ったのかと思えるくらいの動作だったので、釣られてレインも空を見上げた。

 そこにあったのは大きな影である。丸々とした、とても大きな影。

「おのれぇ!! ヒナエソルジャーどもめぇええええ!!」

 ビックビョースターの大きな声が響く中、声ごと飛行船が落ちてきた。ヒナエトライアングルやホワイトビョースター目掛けて。

「み、みなさん! 逃げますわよ!!」

 こちらも大声で指示を出した。クインなどはマインを担いで既に走り始めている最中であり、自分はどうしようかとレインは周囲を見渡すも、未だに悶えるホワイトビョースターしかいない。

「避難させるべき一般人はいらっしゃらないみたいですわね」

「あ、あの……ちょっと……」

 ホワイトビョースターの声が聞こえたかもしれないが、悪の怪人を助ける義理なんてこれっぽっちも無い。飛行船が落ちてくる前に、レインもまた走り始めた。背後から女性の悲鳴らしきものが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。




「愉快そうだよな、あっちは」

 ヒーロー達の戦いから少し離れた場所にて、間上は日苗市の中心街の方を見つめながら呟いた。答えるのは、一緒に隣で立っている七南・平蔵である。

「あっち側が良かったかの?」

「いやあ、大人は子どものはしゃいでる姿を見守るのが吉ってもんさ」

 だいたいからして、正義の味方や悪の怪人と言ったノリには付いて行けないのだ。ただ、日苗市はそんなものもきっちり受け入れるそうだが。

「で、言われた通りにしているが、これで良いのかね?」

 次に言葉を発したのは間上で無く、相神会の水戸野・晃生であった。彼もまた、この空き地班である。

 間上を含むこの3人は、はしゃいでいるヒーロー達とはまた違った役割を担っているのだ。

「今代の調定屋の存在を消しているのは、相神会系の術に寄るものじゃからしてな。それを少しでも弱めて欲しい」

「と言っても、力量も技術もあちらが上だ。気休め程度にしかならんと思うが……」

 水戸野は随分と弱気の様子だ。実際、術を仕掛けて来た魁峰はかなり強力な存在となっていたので、その差に怖気づいているのだろう。

「術者本人が襲ってくるってんなら、俺が何とかしてやるさ。だから俺がここにいる」

「お前が? 前は随分と追い詰められていた様子だったが」

 元気づけてやるつもりだったのだが、嘲りで返される。とことん、根本が合わない相手だ。

「言いたきゃ言っとけ。こっちにだって、まだ奥の手はある」

 それを使う機会があればまだマシな状況だったのだろうが、敵となる相手は雲隠れしているままだ。

「それで? 平蔵。次はどうする?」

「今のところ、ヒーローや怪人諸君は何時も通り、上手く戦ってくれとる。つまり……何時もの日苗市の景色を再現してくれておる様じゃし、そろそろじゃろうて」

 今、ヒーロー達が戦っている理由とは、彼らに街のルールを守らせているからに他ならない。

 タガがしっかりと存在していた日苗市において、正義の味方と悪の秘密結社の戦いは日常茶飯事な光景だった。それをさらに派手に行わせる事で、消えてしまっているタガを無理矢理に呼び戻していると言う事らしい。

 この様な調整について、間上は良く分からない。平蔵の様な調定役のバランス感覚によって行える物らしく、以前、タガが人になった時も、似た様な事をしていた記憶がある。

「街の住人にルールを自覚的に厳守させる事で、タガそのものに余裕ができる。余裕が出来た部分は、何らかの方向性を持って、何がしかの結果を生む。と、当時のわしは考えたわけじゃ。その結果とやらは以前に説明した通り」

「となると、私が術の効力を弱めてやれば、消え去ったタガ……今代の調定屋と言うのはそのまま戻ってくると、そういうことか?」

「いやあ、まだ足りんじゃろうな。当時より街の規模が大きく複雑になっておるからして、そう目に見える変化は起こせんよ。まだ手を加えねばな」

「加えるってのが……例のあれか」

 間上には思い浮かぶものがあった。今回の調定には、もう一つ、動きがあるのだ。

「隠居した身じゃが、昔取った杵柄は手元にあるからの。具体的には金ならある。使う時にそれを使わんと、損極まり無かろう?」

 そう言いつつ、平蔵がこの場を離れて行く。恐らく、最後の仕上げへと向かうつもりなのだろう。

「後は頼みますぞ、水戸野殿。お前も、きっちり護衛役を務めるんじゃぞ」

「はっ。まあ出来るだけやってやるよ。なあ?」

 水戸野へと話し掛けると、彼は溜息を吐いた様子だ。

「私はただ、街が落ち着けばそれで良い」

 それはきっと、大半の人間が望んでいる事だろう。ならば、きっとその望みは実現する。何せ調定屋が動いているのだ。大多数が落ち着ける状況を作り出す事こそ、調定屋の本領のはずだった。



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