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日苗市の人々  作者: きーち
第六章 誰かが消える日苗市
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第二話

「というわけで、遡ればあなた方に辿り着けました。話なんかを聞かせてはもらえませんか?」

「どういうわけなのだ?」

 街の奥と言える場所にある廃ビル。誰も近づかないような荒れ果てたその場所で、竜太は目の前の怪しげな男……水戸野・晃生と相対していた。

 机や椅子なんてお洒落なものなどここには存在しないため、コンクリート片が散らばる床に、お互いの両の足を立てながらの会話だ。

「いや、だから例の噂ですよ。普通に暮らしている人が、どうしてだか周囲に違和感を覚え始める。それはどんどん酷くなっていき、最終的には、周囲からも拒絶されて……ってオチが付いてくるあれです。結構、街中で広まってるみたいなんですよね。この噂」

「……我々、相神会には何も関係無さそうに思えるが?」

 水戸野が所属している相神会は、日苗市に最近になってやってきた組織だ。相神流などと言うある種の力を使い、特異的な現象を起こす集団。

 先ほど立ち寄った、白夜の夜明けと同類の組織……と言っても良いかもしれない。

 現在は日苗市でその組織としての勢力を伸ばすということを目指しており、日苗市内にある支部(と言っても、今いる廃ビルがそこなのだが)を統率しているのが、目の前の水戸野だ。

「ちょっとね。噂の発生源について調べてまして、当事者の知り合いだって人まで辿り着けたんですよ。鳥でしたけど」

「鳥……?」

「まあそこは良いじゃないですか。で、発生源の一つの犠牲者って言えば良いのかな。その人……聞いてみると、出身地に聞き覚えがあったんですよね。以前に多分、ある組織について調べてみたからかと」

 鳥頭怪人から、詳しく話を聞く事が出来たのが幸いだった。その後の行動も決定しやすい。街で何が起きようとしているのかの把握もだ。

「で? その出身地に相神会の関連組織があったとそう言うのだろう? だから何だと言う話ではないか。偶然、その土地でそういう事があった。それだけの話になる」

「ま、そうなんですよね」

「うん?」

 水戸野は拍子抜けしたと言った仕草をする。どうやら竜太が、さらなる追求をしてくると踏んでいたらしい。

 だが、竜太は別に、水戸野に喧嘩を売りに来たわけでは無いのである。

 ましてや、調停仕事として来てはいない。だからこそ、悪辣な事などするつもりなど無かった。

「いや、単純な興味からこっちから始まってるんですよ。偶然だって言うのなら、それで話は終わって良いです。ただ、偶然じゃない場合が問題かなって。とりあえず、僕の話だけ、聞くだけ聞いてくださいよ。それで、後はそちらで判断してくれて構いませんから」

「また……妙な事を言うな?」

 妙な事は承知だ。そもそも、妙な事件が発端になっているのである。その事件が何を意味するか、竜太自身にも結論は出せていない。

「このどこかの地方で起こった事件。仮に相神会関係の事件だったとしましょう」

「違うがな」

「まあ、仮にです。仮に相神会関係の事件で被害者が出て、噂が出来上がったとして。それが日苗市に広まるって言うのは、どういうタイミングの事か」

「ふん? 偶然……とは考えていないわけだな?」

「結局、噂の発生源は過去にあった事件からだったわけですけど、噂が広まるのがちょっと早い気もするんですよね。発生源だった人を見つけてから、幾らか他に聞き込みをしてみたんですけど、聞いた限りでは、だいたい3人に1人くらい」

 これはほぼ、日苗市全域に広がっていると見て良いくらいの人数だ。たった一人から始まった噂が、ここまでになるだろうか。

 噂はそういうものだと言えばそれまでだが、それにしたって早いと思った。

「……あえて、噂を流している人間がいると?」

「もっと根本的な部分として、新たに似た事件を起こしている人間と、害を受けた人間が出てるんじゃないですか? だから、以前起こった事件に関する噂も反応する様に出て来たってだけで」

「ありえない……」

 そう否定する水戸野だったが、語気は弱い。完全に否定しきれない部分があるのだろう。

「ありえないって言葉が、自分たちはやってないって意味だとすればですよ? 別の人間が、何かしようとしているって事だ。けど、相神会が起こす事件と同類と言うことなら、あなた方は無関係ではいられない」

 ここに来たのは、ある種の助言だ。何か起こっているのではないか。そうしてそれは、そちらに関わる事かもしれないぞ。そんな助言を相手に与える。

 その対価として何がしかの情報が得られれば、まだマシだろうと竜太は考える。

「仮にと言う話なら……相違の法という法術がある」

「相違?」

「そうだ。我々が空間に作用する力を操る術を持つのは知っているな?」

「ええ。知り合いは神様みたいな力って言ってましたけど」

「古くは崇められて恐れられた力だ。そして力を及ぼせるのは場所だけでなく、個人の場合もある」

「人間相手?」

 聞き返すものの、意外な事ではない。実際、破壊的な力を竜太自身が向けられた事があった。

「そっちが想像する様な、派手なものじゃあない。元来、我々が扱う力は、もっとおごそかな物だ。悪い言い方をするなら陰湿なものであり、そっちの言葉の方が想像しやすい」

 呪い……みたいなものだろうか。物理的に縛られたり爆発させたりと言った力は見た事があるが、そういう生々しい力については竜太も知らない。

「強い結果には力が必要だ。だが、弱い結果であれば、少し修行すれば扱えるようになる。相違の法もその一つでな。我々の中でも下位の者が、組織の命令で行わせる類の法なのだよ」

 ヤクザの地上げみたいなものであるらしい。地道な嫌がらせで、自らの組織に利益をもたらす。

「やる事は単純で、個人に対して力を使う。生きている空間の位相をズラすという事だな」

「すみません。良くわかんないです」

「あー、つまりだな、我々が生きているのは今、この場所だが、力によって、ほんの少しだけズラす。あまり大それた事はできないので、目に見えた変化はないが、むしろ本人の感覚が原因で、違和感を覚える」

「なんていうか、ほんと、嫌がらせみたいな効果があるってことですね」

 普段、親しみを感じるはずの環境が、どこか初めての場所みたいに感じてしまう。そういう力なのだろう。実際、何かが大きく変わったわけでも無く、しかして長く続ければ相手へストレスを与える。

「それくらいが丁度良い力ということだ。言う通りヤクザだよ。追い込まれた側としては堪ったものではないが……それだけだ。致命的なところまでは向かわない」

 人の命を奪ったりまではしないと言う事らしい。嫌がらせをして、その解消を交渉材料にする。くらいだろうか。

 鳥頭怪人の知人についても、周囲の人間から徐々に疎遠になった程度であり、噂話にある、ついには周囲からも認識されなくなるという事も無いとのこと。

 と、ここまで聞いた竜太は、新たな考えが頭に浮かぶ。

「やっぱり……きな臭いですよ。今のこの状況」

「どういう事だ?」

「実は……その被害者らしき人間と会いました。うちの客としてふらっと現れて……」

「待て。なんだと? さっきも言っていたが、被害に遭っている人間が実際にいるのか?」

「そうですよ。そう言ったじゃないですか。ただ、それだけじゃあない。あのですね? その人、家族から自分が認識されなくなったとまで言ってましたよ?」

 水戸野から聞いていた力よりも、もっと酷い結果になっている。個人がその社会から完全に外されている。関係性が深いはずの家族からすらも。

 第一、水戸野が説明した相違の法は、本人の認識だけが変わるだけの代物では無かったのか。

「……調停屋」

「今はそれじゃないですけど」

「いや、できれば今からはそうであってくれ。依頼が発生したかもしれない」

「……僕に巻き込まれろと?」

「今回に限っては、自分から巻き込まれている様に見えるが?」

「……」

 反論はできない。こうやって水戸野に話を持ってきている時点で、自らの意思での行動が大半を占めているのだから。

 いや、言い訳もできない。これは完全に竜太の意思だ。

「分かりました。受けますよ。どうにもこう……今回は、僕も気になって仕方がないんです」

「それはまた……どうして?」

「どうしてでしょうね。ただ、今回は街に喧嘩を売られてる感じがするから……ですかね」




 とりあえず、コーヒー代以外に依頼料を貰えるというのはありがたい。

「あー、聞いた事ありますけど、誰からだったかな……何か、大変な事があるんでしょうか?」

 水戸野の依頼を受け入れた竜太であるが、やる事は噂についてを聞き続けるという事くらいである。

 今も、喫茶店へやってきた知り合いの男子高校生から例の噂について知っているかと尋ねていた。

「大変っていうか、大変になりそうかもだから、こうやって聞きまわってるんだけどさ」

「もしかして、例の件と関わりが? だったら俺、何だって手伝いますよ?」

 火比・徹也という男子学生。最近は良く店へとやってくる様になっているが、常連客ではない。というか、料理を注文する事が殆ど無い相手を常連客とは呼べない。

「今のところは何とも言えない。だから迂闊に動いて状況が悪化する場合もあるってわけだ。いざという時は頼るけど、そうでない時までは、僕が動くよ。今は話を聞かせてくれるだけで十分」

 火比はヒーローとしての正義感を持っており。それは冗談ではなく、彼はヒナエファイアーというヒーローなのだ。

 そんな彼は、今、街に渦巻く何かしらの陰謀と戦おうとしていた。これもまた冗談ではなく、それに類する事がこの街で行われている事は確かなのだ。竜太も巻き込まれた。

 では、今回の件もその類なのかと聞かれれば、まだ結論を出せないというのが竜太の意見である。

「噂の元を一々辿る。そうして全体の動きを探るんだ。それが僕の噂への対処法……みたいな感じかな?」

「それが調停ってことですか」

「そう。ちゃんとした調査や事件の解決は他の人の仕事。僕はね、全体の動きを、まあこれならマシかって程度に落ち着かせる事しかできないんだよ」

 個人が出来る事なんてその程度だ。人は一人で生きていないし、街は多数の、様々な思想を持つ人間達の集合体だ。

 ある程度で線引きできなければ、何も行動することができない。

「けど、俺だって、噂を学校で聞いたって事くらいしか答えられませんよ。その程度です」

「うん。それで十分さ。ツテとかを当たるのはこっちの……はい、いらっしゃーい」

 店のベルが鳴る。最近は、比較的、良く客が来ている気がする。しかし顔を出したのは客では無くヤクザだ。

「うーす。よう、元気してるか?」

 手を上げて軽い挨拶をしてくるヤクザ。間上・大だ。今日とてヤクザらしい顔して、火比みたいな学生を驚かせている。

「ええっと、お知り合いですか?」

 現れたヤクザにどうしたものかと戸惑っている様子。さすがと言うか、怯えてはいない様だ。

「知り合いではあるけど、良い知り合いじゃあないかな。ヤクザだよヤクザ。ヤクザだってお茶する時代なんだ」

「おう、呼び出されたから来てやったのに、随分な態度じゃねえか」

 額に青筋でも立てそうな表情になっている間上に笑い返し、とりあえず呼び出した側としての応対をする。

「いやですねえ。ヤクザである事には違い無いでしょう? ほら、いたいけな高校生もいるんです。ドスの効いた声は止めておきましょうよ」

「ったく……何となく、何で呼び出されたかは分かるけどよ。最近、街の様子が妙な件か?」

「なっ……知ってるんですか!? 何かを!」

 飛び出す様に、火比が間上へと近寄る。ヤクザに怯えないどころか、好奇心まで湧いたらしい。

「お、おお……元気だな、兄ちゃん。えっと、誰だ?」

「学生ですよ。高校生です。正義感が強い方ですね。将来は警察とか向いてるんじゃないですか?」

「ふうん。あ、ちなみに言っとくけど、この調停屋の言う事なんざ無視しろよ、兄ちゃん。俺がヤクザだなんてのも出鱈目だ」

「は、はい。では、いったい、何をしている人なんですか?」

「そりゃあお前……そりゃあ……」

 答えられないだろう。神様してますなんて言葉が素で出せる程、世の中は怪しげではない。だが、間上は神様なのである。狼の姿で、かつては人々に崇められていた神様なのだ。

 今に至っては、ヤクザとそう変わらない仕事をしているものの……。

「で、間上さん。そっちが気づいた事とかってありますかって、呼び出してみたんですけど」

「おいおい。剣呑な話になるぞ? この兄ちゃんがいても良いのかよ」

 無関係の人間は巻き込まない。それくらいの善意がこのヤクザにもある。もっとも、火比が無関係な人間かと問われれば、そうも言えない立場なのだ。

「彼、詳しくは言えませんが、今回の街の様子に関わりがあるかもしれません。そう言えるくらいには、堅気じゃありません」

「堅気って、お前がそういう言い方をするかよ、調停屋」

 一般的な人間ではないと言いたかっただけだ。調停屋とか喫茶店の店主だとかは関係ない。

 ただ、一般的ではない時点で堅気では無くなるとすれば、日苗市に住む3分の1くらいの人間は堅気では無いのかもしれない。

「とりあえず、別に街の様子を話したって良い。それで迷惑を被ったって、一人で何とかできるくらいの人間ではあるってことです」

「と、とりあえずは……そんな感じです」

 さすがはヒナエファイアー。腕っぷしの自信は正体を隠していたってあるらしい。今はそう言ってくれなければ話が進まないというのもあるが。

「へえ、若いのに、何か苦労してんだな。んでまあ、街の話だがね。妙な噂が飛び交ってるのは知ってるな?」

「サラリーマンが、自分の生きる世界に違和感を覚えるってあれですよね」

 噂どころか、被害者らしき人間に出会ってしまっている。そう言えば、最初に店に来た彼はいったいどうしているのだろうか。

「実際に妙な感覚に襲われている人間がいるんだよ。俺も何人か接触した」

「ちょっと……本当ですか?」

 その情報が驚きだった。既に何人も犠牲者が出ているということである。しかも、言うなれば堅気の人間に。

「俺も聞き捨てなりませんよ!? 何ですか? 何かこの街で……泣いている人間がいるってことですか!?」

「お、おう。兄ちゃん。どうした急に。そりゃあ世の中広いから、泣いてる奴だっているだろうけどよ……まあ、兎に角、誰かしらが悪さしてるってわけだ」

 それは間上の発言で確証が取れた。では問題は、誰が、何とために悪さをしているかだ。

「実は、やり口が相神会のそれと似ているんじゃあないかと、独自で接触してみました」

「……へえ。動きが早いじゃねえか。で? 何か掴めたかい?」

「相神会ではありませんが、相神会と無関係ではないって事は分かりましたよ。そうして、仕事も依頼されました」

「仕事ってなぁ、調停屋の仕事か」

 それ以外には無い。カニバルキャットは出張販売を始めてはいないのだから。

「仕事内容は、もし、相神会がこの件で内輪揉めの様な様相を呈して来た場合、あくまで今回、事件を起こした側に責任の所在をすべて置く様に事態を調停して欲しい。と言うものです。それを受けてくれたら、相神会も事態の解決に全力を注ぐと」

「なんだそりゃあ。つまり……事件の当事者だって言ってるようなもんじゃねえか」

 まさにそうだと思う。今回の事件のは相神会が大きく関わっているのだ。だが、その一方で、相神会自体が始めた事でも無さそうだった。

「多分、相神会側は何か……行動を起こされてる側ってことなんだと思いますよ。それに反応して相神会側も動くって、そういう事なんだと」

「なるほどね。組織間の抗争ってあたりか?」

「あのー」

 少し黙っていた火比が手を上げる。良く分からないからと話を聞き続けていたらしいが、疑問点が浮かんだらしい。

「その相神会っていうんですか? 多分、妙な力を使う集団なんですけど、具体的にはどんな力なのです? 俺、とても気になります」

「なんで一般人の兄ちゃんがそんなのが気になる」

「一般人じゃないからでしょうね。何でしたっけ? 僕は以前、神様の力だとか聞かされてましたけど」

 詳しいところは分からない。聞いた憶えがないわけではないが、力の事なんて、使う側でなければ深く憶えられないものだ。

「人間ってのは、思いと精神力とか、そういうのに、本当に力があるんだよ。実際、そういう力なんて、この街には溢れてるだろ?」

 不可思議な力と思われるかもしれないが、余計な事を考えれば余計な事態になってしまうなんてことは、日苗市以外でもあることだろう。

 思えば、良かれ悪かれ何がしかの結果で帰って来る。それがこの世界だ。

「で、神様の力ってのは、他人のそういう思いの力を集めて、デカい事をしでかせる力のことさ。相神会なんかは、そういう力を現実の空間に干渉させるって言えば良いのか? 限られた場所に、好きな結果を起こせるって力だったはずだ。勿論、集められる思いの量によって、出来る事と出来ない事があるらしいが……」

 結局、信仰だとか畏れだとかの思いが集まったとしても、人間そのものが全知全能で無い以上、出来る事も限られているという事らしい。

 そうして、人間が集まれば大半の事が出来るのと同じ様に、その力も集めさえすれば強い結果を引き起こせるのも同様だ。

「……その力、例えば離れた場所を、瞬時に行ったり来たりとかはできたりは? 本人だけじゃなく、他人を運んだりも?」

「随分具体的に聞くんだな。そりゃ、地点と地点。二つの空間を操るってんなら、出来なくも無いわな。他人の思いなんかを借りてる形になるんだから、そもそも本人か他人かは関係も無いだろ。二人分、移動できる力が集まってるかどうかだ」

「そう……ですか」

 そこまでを聞いて、火比は黙り込んでしまった。聞きたい事を聞いたが、次に何を考えるべきか分からない。そんなところだろう。

「何か……相神会の扱う力に、心当たりでもあるのかな?」

 黙っていては何も始まらないため、竜太が話の先を促す。恐らく、火比はその相神会の力か、それに類するものと既に出会っているのだろう。そうして今、それを結び付けようとしている。

「以前、漢条さんが警察に捕まった事があるでしょう?」

「おお、あの笑える話な」

「ちっとも笑えませんが」

 間上を睨みつけてみるものの、どこ吹く風だ。竜太にとってはとても辛い経験だったのだが、他人から見ると笑い話程度になってしまうらしい。

「その時、俺達の方でもちょっと、妙な奴らと遭遇したんですよ。こう片方の奴は芋虫って呼ばれてました」

「例の神谷・卓って男と、何か手を組んでる雰囲気の男……だったっけ?」

 先日の事だ。竜太が警察に取り調べを受け、さらに火比が活動しているヒナエソルジャーという3人組が嵌められかけたその事件で、黒幕であった神谷・卓と言う男を、最後、助けにやってきた誰か。それが芋虫である。

「っていうか、兄ちゃん。やっぱり、あんたも色々と危ない橋渡ってる立場みたいだな? あんまりお勧めしないぜ? 若いうちからそんな道を通るなんてのはな」

「え、ええ。まあ……自分でも最近はそう思うんですが、結構、手遅れかなと」

 確かに、ヒナエソルジャーなんて名乗り活動を続けている以上、もう後戻りもできないのだろうなと竜太も思う。実際、既にヒナエソルジャーとしての火比は狙われていたのだ。それが以前の事件なのである。

「で、兄ちゃんは思うわけだ。その芋虫って呼ばれてた奴が、俺達が話す相神会の関係者だと」

「こじ付けじゃないかとも思うのですが、なんというか……どうにもここ最近の事件は別個の物だとは思えなくて」

 火比は疑い深くなっていると竜太は思う。だが、そういう疑問も大切だとも考えはした。

「まだ、何も分かっちゃあいない現時点で、そこまで考えるのは早いかもしれない。けど、そんな風に考える人間が、今の時点で居たって構わないとも思う。色々考えて、問題に対処できる人間は多い方が良いんだ」

「そういうお前も、何か思うところがある感じだな? だから何時もは消極的な調定屋の仕事も、自分で買って出てやがる」

「……」

 行動的になっている理由は何なのだと問われれば、そういう類の懸念があるからなのは確かだ。これから先、もっと事件は発展しそうな、そんな危機意識だけがあった。だからこそ、早めに動いた方が事をまだ小さい問題の段階で納められるのではないかと思った。

 例のサラリーマンが店に訪れた段階から、妙な胸騒ぎがずっと続いているのだ。

「間上さんだってそうでしょう? そっちだって、自分から無関係の問題に首を突っ込む様な人間じゃあない」

「無関係じゃあ無さそうだからな? 今はまだ、不穏な雰囲気ってだけだが……」

 次に変化が起これば、否応なく、自分達も当事者となるのではないか。そういう思いが根本にあればこそ、竜太達は動き始めたのだった。





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