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日苗市の人々  作者: きーち
第六章 誰かが消える日苗市
26/34

第一話

「ですからねぇ……電話が掛かってくるわけなんです。呻き声みたいな声で。最初は知らない声だと思っていたんですが、聞き覚えがある様に思えてくる。誰だったろうと思い出してみると、それは3年前に死んだ―――

「ひ、ひぃいい!」

 喫茶店『カニバルキャット』に姦しい声が響く。実際は、さらに喧しい事に、女性4人のはしゃぎ声であった。

 季節は夏も盛りをやや過ぎ始めた9月。秋と言うのは残暑が厳しい気もするこの季節に、彼女らはいったい何をやっているのだろうと、店主の漢条・竜太は考えていた。

「はーい。レスカ二つにメロンソーダと水が一つずつ。妙なもの何て入れてませんよ」

 何を思おうと、客には対応する。そう考える竜太は、客であるところの女性4人に、注文された飲み物を出していた。

「本当に何かおかしなことをしていらっしゃいません? 飲み物はまだマシと聞いてはいますけれど」

 レモンスカッシュが注がれたコップを最初に受け取るのは、四雨会・天香と言う少女だ。高校生であり、夏休みを満喫中らしい。と言っても、彼女は夏休み中もやる事が偶にあるらしいが。

「料理はね、色んな人から色んな評価をされてるけど、飲み物は業者から仕入れるだけ。変な事なんてできないって」

 何故か、彼女らは飲み物を頼みこそすれ、料理の方は頼んでくれない。まあ、飲み物の方が儲けが良くて助かりはするが……。

「漸くエアコンが直ったんだから、飲み物もちゃんとしてくれないと困るわよ」

 と、悪態を吐いて来るのは那姫・蘭。四雨会とセットで何時もいる、同じ年齢の少女だ。彼女らが二人して来店するのは、それほど珍しい事ではない。

 さらに残りのうち一人も、店に良く来る女性だった。

「けど、良かったですよ~。エアコンが潰れたまま、店まで閉店するんじゃないかって、心配してましたから」

 彼女は見風・妙。小柄で、四人の中では年齢が一番低く見えるが、実際は一番年上の女性だ。そもそも少女ですらなく、今も仕事帰りに店へ立ち寄ったに過ぎない。

「何時までもお客を待たせるっていうのは、喫茶店の店主としては我慢できないことだからね。空調さえなんとかなれば……何かな? お嬢さん」

 最後の一人、四雨会と同級生である緒方・秀美が冷水を受け取りながら、客席に座ったまま、しげしげとこちらを見つめて来ていた。

「あの……どこかで以前、お会いした事がありませんか?」

「そうかな。きっと気のせいだろう。君みたいなお客に出会ったら、憶えているはずだし。ヒナエツインズ改め、ヒナエトライアングルの君らなら、もしかしたら見た事があるかもだけど」

「ちょっと、あなた……!」

 席を勢いよく立ち上がる緒方。彼女に言った通り、見風を除く三人は、ヒナエトライアングルと呼ばれる魔法少女集団だ。自分達でそれを名乗っているのだから、そうなのである。

 もっとも、一般人には隠しているそうだが。

「緒方さん。この方は、以前からわたくし達の事を良くご存じの方ですわ。そうして、そこの見風さんも」

「そ、そうなの?」

 立ち上がる緒方を、四雨会が止める。このまま騒動に成りかねない可能性もあったため、大変に助かる。

「そういう事で、まあ、ここでは正体がバレるんじゃないかって怯える必要は無いよ、緒方さん」

 と、出来るだけフレンドリーに笑う事にする。緒方の方も、どうにか納得してはくれたらしく、席に再び座りなおした。

「ま、じゃあちゃんとした人間かって言えば、そうじゃ無さそうだけどねー」

「失敬だな、那姫君。喫茶店の店長の、どこが真っ当じゃあ無いって?」

 まったくもって、竜太はまともな人間である。社会に顔向け出来ない立場ではない。そのはずだ。きっと。多分。

「つまり……どの様な方……なのでしょうか?」

 と、緒方に尋ねられて、竜太自身も困ってしまう。

「さっきも言った通り、喫茶店の店長なんだけどね? 今みたいに、お客の要望なら幾らか聞き入れる、優しいタイプの店長でもあるよ」

 客の要望。具体的には、喫茶店内を薄暗くして、怖い話を続ける事も了承する店長だ。今日は他に、老人が一名客として来ているが、この程度で文句を言う人では無いので、彼女たちの要望を聞き入れていた。

「け、けどさぁ。そろそろ終わりにしない? さすがに、ここまで喫茶店を占拠するなんて……」

「いいえ、駄目ですのよ、蘭。あなたのそのオカルト嫌い。多少なりとも、ここで改善してもらわなくては」

 強気そうな那姫に対してであるが、何時だって四雨会が優位に事を進める。それが彼女らの有り方だ。今回はオカルトが大の苦手である那姫を矯正しつつ、魔法少女としては新参者の緒方の歓迎会みたいなものを、彼女らは開いているのだ。

 ちなみに見風については、面白そうだからと、急遽参加しているに過ぎない。

「しかしオカルトねぇ。なんでそこまで怖がるんだろ」

 純粋な疑問として、竜太は言葉を漏らした。話が面白いと感じたり、少し怖いと思う気持ちは理解できるものの、今の那姫の様に、体全体を震わせるほどでは無い。

「漢条さんは、幽霊否定派でしたっけ?」

 見風からの問い掛けにたいして、竜太は頷く。

「幽霊なんていないって派だよ。だからって、オカルトを馬鹿にしたりはしないね。怖がりもしないけどさ」

「ううーん。でしたら、幽霊とは関係の無い方面の怖い話をしましょうか」

「なんで? なんで僕が聞く前提になってるのかな?」

 見風の言葉に、ついツッコミを入れてしまう。というか、この怪談会において、一番いろいろと話しているのは見風だ。

 彼女は少し前まで、現代の知識に疎い状況であったはずだが、最近の噂みたいな事を良く知っている。仕事の関係で、どこからか仕入れてくるのかもしれない。

 彼女……前々から思っていたことであるが、とてもバイタリティに溢れている。

「へ、へへっ。なんだ、あんた、もしかして怖がり?」

「そうだね。怖い話をするって言葉だけで震え始める人ほどでは無いかもしれないけど」

 ガタガタと音が鳴るほどに震え始めた那姫を横目で流しつつ、話をすると言っているのに立ち去るのはどうだろうと思って、そのまま、見風の話を聞く事にする。

「その話っていうのはですねぇ。怖くもあるんですが、不思議な話なんですよ~。というのも、あるサラリーマンの方が………




 竜太は朝に目を覚ます。どうにも体が重い気がするも、夏バテのせいかなと思い、無理にでも体を動かした。

 疲労でまったく動けない……という程でも無い。もしかしたら昨日、妙な話を聞き続けたせいかも。

「馬鹿馬鹿しい。幽霊がいないんだったら、不必要に肩が重くなるなんて事も無い」

 自分にそう言い聞かせて、顔を洗いに向かう。その後は店を開ける準備だ。昨日ほどに客は来るのだろうかと不安になるものの、開店してすぐ後に、来客を告げるベルが鳴った。

「はーい、いらっしゃーい……ええっと。うちに御用ですか?」

 店に来たのだから来客……と思うのだが、つい尋ねてしまう。別に客がとても珍しいからではない。断じてない。

 扉を開いてやってきたのが、よれたスーツ姿の中年男性だったからだ。朝の喫茶店には似つかわしく無い。そんな男。

(まあ、夜勤明けとかなら、別にそうでも無いのか?)

 そうは思うものの、男性の酷く疲れた顔を見ていると、単純に客だと思えなくなってくる。

「あ、あの……すみません。ここは、確かカニバルキャットと言う喫茶店で良いんですよね?」

 中年男性は竜太の方を見ると、縋りつく様に近づいて来て、そんな事を尋ねて来た。

「はい。当店は喫茶店カニバルキャットですが……」

 一体何なのか。首を傾げていると、次に男は、安堵の表情を浮かべ始める。

「よ、良かったぁ……ここは……以前のままなのですね」

「以前のままとは……いえ、うちの店も結構長いですけども」

「そ、その……どう説明すれば良いか。とりあえず、アイスコーヒーはありますか? 注文します。そして出来れば……私の話を聞いて欲しいと言うか」

 何やら、男性は竜太に話がしたいらしい。竜太だけにと言うわけではなく、近くに居たのが竜太だからだろう。

 ただ、相手が客であると言うのならば、そんな頼みも聞いてみる。どうせ、客も目の前の男以外は来ないと思われるし。

「コーヒーですね。少々お待ちを。ミルクと砂糖はどうします?」

「み、ミルクだけでお願いします」

 注文通りに、コーヒーを用意していく竜太。下手にコーヒーミル等を使うと、むしろ不評が多いので、こっそり市販のコーヒーを使わせてもらう。

 手抜きと思われるかもしれないが、こっちの方が評判が良いのだ。何故か。

「はい、お待たせしました。アイスコーヒーとミルクです。どうぞ。それで……話と言うのは?」

 カウンター席へと座る男に対してコーヒーを差し出しながら、話を聞く事にする。男はコーヒーを一口含み、飲み込むと、話を始める事にしたらしい。

「馬鹿らしいと思われる話かもしれません。ですが、これは本当に、私の身に起こっている事でして……」

 男の話はこうだ。彼は妻と子を持つ会社員であり、何もかもが満たされているというわけでは無いが、つつがなく日々を過ごす、そんな社会人だった。

 だがある日、どうにも周囲に違和感を覚える様になった。それが一体、何が原因であったのか。それは分からないが、その違和感は日を追う毎に酷くなって行く。

 変わらぬ日々のどこに違和感を覚えているのか。それが強くなるにつれ、男には少しずつその理由が分かって来たのだと言う。

「その……周囲が本物と思えなくなって来ていたのです。何年も離れていた故郷の風景と言うか、普段暮らす街と良く似ているけど、その実、初めての街であった時の様な……そんな感覚。分かりますか?」

「分かる様な……分からない様な。ですがそれ、疲れていると言う事ではないですか? 精神的な部分の疲労がそう思わせる。門外漢ですが、そうなのではと思えてしまいますよ?」

 竜太は率直な感想を言葉にする。失礼かもと思えたが、男性側は特に傷ついた風ではない。というか、彼もそう思っていた様子だ。

「精神的なもの。私も始めはそう思い、一日、有休を取り、体と心を休ませる事にしたのです。自宅で休めば何とかなる。そう思えていたのですが……妻が。娘が」

「ご家族が……何か?」

「違うんです。人が違っているというか……」

 男の手は震えていた。本人も気を落ち着かせるためか、握ったアイスコーヒーを勢い良く飲み込んだ。

「あれらは……私の家族の様に接して来ましたが、私の家族ではなかったんです。いえ、家も、眠っているベッドも、見知った場所じゃあない。何時の間にか……入れ替わっていて」

「ええっと?」

 目の前の男性。まともでは無さそうだなと思っていたが、実際にそうらしい。ここは喫茶店であって、精神科ではないのだが……。

「街全体がそうなっているんですよ! わ、私は……いったいどうすれば。私は違う世界に来てしまった様だ……。それで、この店だけが、私の記憶に乗っているままで……違和感を覚えない」

 男が店内を見渡している。ただ、違和感を覚えないなどと言われても、目の前の男は常連客でも何でもない。恐らく、初めて来た客であるはずだ。

「うちが落ち着く感じの店だって言われたんですかね? だったら嬉しいですけど……一度、本当に休んだ方が良いんじゃありません?」

「あ、あなたに! 何が分かるって言うんだ!!」

「え!?」

 急に席を立ちあがり、両手をカウンターに叩き付ける男。こっちとしては驚く事しかできない。

「あ、ああ……す、すみません。どうにも興奮してしまったようで……いえ、あなたが悪いのではないのですが。その……頭を冷やして来ます」

 男は立ち上がり、レジへと進んできた。コーヒー一杯分代金を払ってから、そのまま肩を落として去っていく。

「……コーヒー一杯分の代金か」

 レジに小銭を入れながら、竜太はその背中を見送った。




「以前に話した、怖い話の出処ですか?」

 正午少し前の昼。何時も通り、夜勤明けに立ち寄って来た見風に対して、竜太は気になる事があったと尋ねた。その尋ねる内容とは、以前に見風が話していた怪談についてだ。

「そう。確かサラリーマンが……」

「サラリーマンが違う世界に迷い込むって話ですね。何時も通りの会社、何時も通りの家。何時も通りの道。なのに、何かが違う」

「そう、その話。オチがほら、怖かった」

「あ、そう思ってくれますか? 最初は違和感程度だったものが、どんどん酷くなる。けど、周囲の人間は、あくまでサラリーマンをその本人だと認識し続けていた。だけど最後、家で目を覚ましたサラリーマンは、家族に叫ばれてしまうんです。家に不審人物がって」

 日常が非日常へと変わり、さらには非日常からも排斥されて終わるこの話。怪談には偶にある部類の話だと、聞いた当初は思っていた。なのであるが……。

「その怪談話ってさ、どこで仕入れたのかなって」

「んー……どこでだったでしょうか。結構、あちこちで聞く噂だったんで耳に残っていたんですが、最初は……あ、思い出した。ほら、以前に紹介していただいた、白夜の夜明けって団体のお屋敷に清掃作業に行った時、そのお屋敷のお嬢様に聞いたんですよ」

「……白沢・美夜さん?」

「いいえ、もっとハイカラな名前の」

「ホワイトビョースター?」

「はい。それですそれ」

 ハイカラと表現できるかどうかは謎だが、心当たりがあっただけ上等だった。調べものをするのなら、まだ行き詰まりの状態ではない。

「何かあったんでしょうか?」

 怪談話に竜太が質問をすると言うのも珍しいのだろう。見風の方が質問をし返して来た。

「ちょっとね。変な偶然があった。だからまあ、気になりはしてるんだよ」

 ふと、レジの方に目を向ける。朝にやってきた男のコーヒー代がそこに入っている。

「あの……ま、まさか。私の怪談話が本当になったー。とかじゃないですよね?」

「どうだろうね。オカルト話は話していると、何か良く無い事が起きるって言うし」

「そ、そういうの、止めてくださいよー」

 だが、実際に奇妙な符合があった。そこまでは見風に話はしないけれど。

「最近は物騒とも聞くし、身の回りを注意して見ればどうですか、見風さん」

「もー。そういう現実に怖い話は言いっこ無しですよー」

 少しばかり膨れた様子の見風を見て、一旦はこの話を中断する。ただ、彼女が帰った後は、早々に店仕舞いをする事にも決めた。




 組織『白夜の夜明け』は、最近になって再興した日苗市にある悪の秘密結社だ。自分達で悪のなんて名乗っているところからして、変な団体であるのは確かだが、その外観はもっとおかしい。

 和風建築を基本としているが、その敷地内や門に、妙なオブジェクトがそこかしこに存在しているのである。

 奇天烈屋敷なんて言い方が一番正しい場所かもしれない。そんな屋敷に、竜太はやってきていた。

「すみませーん。誰かいらっしゃいますかー」

 門を潜り、玄関へと達してから、家の中へ声を掛ける。チャイムがあれば良いのにと思うものの、実際無いのだから、こうやって声を出すしかない。

 反応はすぐにあり、屋敷の中から玄関の方へ足音が近づいてきた。

「へーい。どなたでしょうドリィ」

 と、玄関を開いて現れるのは、上半身がインコっぽい鳥の姿で、下半身の足回りから人間らしいズボンを履いた足が見える何者か。声色からして男だが、ぶっちゃけ良くわからない。

「ええっと……以前は屋敷にいらっしゃらなかったですよね?」

「うん? 大幹部ホワイトビョースター様のお知り合いかドリィ?」

「ああ、今はそうなんだっけ。ええっと、そうです。ちなみに白沢さんって普段は言ってる感じの知り合いと言うか」

「ああ、なるほど、大幹部の以前からのお知り合いドリィね。ちょっと待っていて欲しいでドリィ」

 と、鳥怪人が屋敷の奥へとまた去って行った。残された竜太にできる事など、待つ以外には存在しない。

「驚いたりせず、普通に話したりできるって点で、僕もまあ色々と染まってるよね」

 今さらの話だろう。ここは日苗市。混沌と非日常だけが誰にでも共通しているルールなのだ。

「おーっほっほっほ! 良くぞビョースター団が支部! 白夜の夜明けへとやってきたわね! このホワイトビョースターが歓迎してさしあげ……あら、漢条さんじゃないですか。どの様なご用件ですか?」

「その……とりあえずその衣装で普通の口調に戻るのは止めて欲しかったかなぁ」

 頭痛が発生しそうな頭を手で抑えつつ、ホワイトビョースターこと白沢・美夜を見る。黒い革の水着みたいな際どい格好をした彼女こそ、この白夜の夜明けと呼ばれる団体のトップであり、今はビョースター団と呼ばれる悪の秘密結社の傘下に入っていた。

「まあまあ、誰が来ても良い様に、普段からこの格好をしてはいるんですけど、普段から大幹部口調ですと、とても疲れるのです」

「大声ですからね……いや、何って無いんですけど、単にちょっと尋ねたい事があって来たと言いますか」

 その程度で会いに来られる関係性ではあった。彼女とは以前、組織間に関するゴタゴタで関わった事があり、それを竜太が調定してからの付き合いだ。

「世間話みたいな? 何でしたら、お茶でもどうぞ」

「ついでに着替えてくれても嬉しいんですけど。無理でしょうね。こっちが訪問者ですから、文句なんて言えないんですけど……」

 未だに頭を抑えつつ、さっさと用事を済まそうと心に決めながら、竜太は案内されるままに屋敷の中へと入って行った。




「怪談話……ですか?」

「ええはい。ここに清掃の仕事に来た見風・妙って人が、白沢さんからサラリーマンの話を聞いたそうなので……」

 屋敷の居間。何度か案内された事がある普通の和室ではあれど、その実、地下室への隠し通路があったりする。ただ、今はそんな場所に用は無い。これっぽっちもだ。

「怪談話……ですけれど。単なる噂ですよ? 私も、人から聞いた程度の話で」

「やっぱりそうですか……できれば、誰から聞いたのか教えていただけません? ちょっと、その噂の元を探ってる最中なんです」

「不思議な事をしていらっしゃるんですね? 噂の元と言われましても……うちに新しく来た怪人の方から聞いたとしか」

 噂なんてそんなものだろう。誰から聞いたが繰り返されて、元が分からなくなる。だが、それでも誰かからは聞いているのだ。

 そうして面白い事に、辿ってみれば、案外簡単に辿り着けたりもする。

「その怪人にも、話を聞けたりとかはできます?」

「ええ、そのくらいでしたら。というか、先ほど、玄関にいた鳥頭怪人さんがそうですもの」

 酷い名前もあったもんだ。何がどう鳥頭なのだろうか? 三歩歩いたら忘れてしまうのか。

「では、ちょっと失礼して……こほん。おーっほっほっほ! さあ、鳥頭怪人チキンヘッド! 今ここに現れるが良い! そうしてその使命を果たすのだ!」

「ははぁ! ホワイトビョースター様のご命令により、ここに召喚仕ったドリィ! あ、お茶も持ってきたドリィ」

「……」

 いきなりこれはちょっと止めて欲しい。どんな顔をすれは良いか分からなくなる。鳥頭の怪人が自分の目の前に麦茶を置いているなんて風景だけでも手一杯なのだ。

「ありがとう鳥頭怪人。どうにも、こちらの漢条さんが、あなたの話を聞きたいそうですよ」

「あ、口調は元に戻るんだ。できれば服装も私服が良いかなって強く思うんだけど」

「俺に聞きたい話って何ドリィか?」

 机のまた違う方に鳥頭怪人が座る。空間が……空間がおかしくなっていく。

「……その。噂です。噂。人が普通に暮らしていると、周囲に違和感を覚え始めるっていう」

「ああ、その話ドリィね。俺の昔の知人の話ドリィ。一時相談されたんドリィが、どうにも俺にすら違和感を覚えるって言って、疎遠になったドリィ。けど、その後、行方も分からなくなって、もうちょっと相談に乗ってあげれば良かったと思うドリィねぇ」

 鳥頭怪人が何か言っている。鳥頭だから鳥のくちばしより囀る様な感じであるが、発音はしっかり人の声。内容については、竜太が聞きたかった―――

「ちょっと待ってください? え? つまり、この噂は、言ってみればあなたの知人の実体験だと?」

「そうだドリィ。詳しく聞きたいドリィか?」

 竜太は頷いた。妙な状況ではあるが、それでも、さらに話は進展しそうだったから。



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